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フラットで非効率なクリエイティブ集団、「nor」って何者?【前編】

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2017年に発足したばかりのクリエイティブレーベル「nor」(ノア)。3331αが主催した「Art Hack Day2016」でチームを組んだことがきっかけとなり、同名義で活動をスタートした彼ら7人は、“人工生命”や“共感覚”など世の中が定義しきれていない領域へアプローチし、テクノロジーやサイエンスによる拡張表現をテーマに作品を発表。毎作、デジタルとアナログを柔軟に横断しながら、新しい視点を提示する。聞けば作品のテーマを決める時は、みなが納得するまで話すそう。「何でも話せるフラットな関係性です。仕事では、こうはいかないですね」と全員が口を揃える。(写真左から、板垣和宏さん、小野寺唯さん、福地諒さん、林重義さん、松山周平さん、カワマタさとしさん、中根智史さん)。現在、norの作品は「ICC」(NTTインターコミュニケーション・センター)に展示され、次の舞台は六本木アートナイト。新作を発表する予定だ。座談会の前半では、多様なバックグラウンドをもつメンバーのこと、norという集団の成り立ちについて聞いた。

ーーまずは、みなさんの自己紹介をお願いします。

中根さん:もともとメーカーでPCのハードウェアの開発をしていたのですが、去年から「TechShop Tokyo」という、色んな工作機械でアイデアを形にすることができるメイカースペースで働いています。僕自身そこでものづくりもやりつつ、ワークショップやイベントのコーディネーターをやっています。norには、ハードウェアエンジニアとして参加しています。

カワマタさん:「Goodpatch」というUI・UXのデザイン会社にいて、デザイナーとして働いています。norでの役割は2つあって、1つはデザイナー。作品に関わるデザイン周り、ビジュアライズを中心にやっています。例えば、実際のアイデアを出すときに、みんなが言うアイデアをどんどん絵にしていったり、作品のロゴデザインやトンマナを策定したりする役割ですね。もう1つは、norを盛り上げていくモチベーターです。自らどんどん動いて、チームメンバーが議論しやすい土台を作ったり、くだらないことを言う役割です。

福地さん:僕は普段、「dot by dot」という広告の制作会社でアシスタント・プロデューサーをやっています。いま25歳で、norではいちばんの若手です。以前、プライベートでクリエイティブチームを立ち上げ、大阪府のアートプロモーションとして道頓堀川に巨大な回転寿司を流す「ローリングスシー」っていうイベントをやったことがあって、この時の経験が自分の中で原体験的に大きくて、norでも、世の中の課題に対してアイデアや言葉で考えて解決していく部分を生かしたいと思い、積極参戦中です!

松山さん:自分はソフトウェアエンジニアで、普段は会社員。「株式会社ティーアンドエス」でR&D部、研究開発部の部長をやっています。広告の特殊な映像システムや演出のパフォーマンス、音をリアルタイムにビジュアルで表現するシステム、デジタルサイネージの広告など、ビジュアルに特化したインタラクティブなシステム開発が得意です。norではソフトウェア部分のシステム構築を主にやっていて、ビジュアルが出る部分に関してはそのデザインも担当してます。

板垣さん:バックボーンは建築で、設計事務所勤務を経て、10年くらい前からは自分で仕事をしています。普段は建築もやっていますが、それ以外に空間体験や演出的なデザインをすることも多いです。norでは、空間のデザインや空間に絡むエンジニアリングの部分の検証をしたり、作品を設置する時に床組んだり壁立てたりするようなこともあります(笑)

小野寺さん:norではサウンドプロデュースのような、音周りのシステムに関わっています。主に国内外の広告メディアのサウンド制作や、インタラクティブコンテンツのためのマルチチャンネルサウンドデザイン、プロダクトや車の中のナビゲーションシステムなど、居心地も含めて日常的に僕らが接する音環境のデザインをしています。フリーランスですが「Invisible Designs Lab」という音を中心とした制作会社でサウンドプロデューサーとしても参画しています。さて、最後は林さん!

林さん:「PARTY」というクリエイティブ・ラボで働いていまして、役職はテクニカル・ディレクターとプロジェクト・マネージャーです。クライアントワークでは、企業の内部から改革を行いプロダクト開発やサービスをつくり、その他にも、自社でキャラクターを作って売るというセルフブランディングや、クリエイターの方々がちゃんと自分たちの作ったものを世に発信できる、Demo Dayという場づくりもしています。norでの役割はプロデューサーとして、さらに新しいモノを作るために今まで出会ったことの無い人や場所に、アート文脈・アカデミック文脈・ビジネス文脈と複合視点でアプローチし、norの活動をどんどん広げていっています。

——皆さんが出会ったきっかけは、3331αが主催するアートに特化したハッカソン「Art Hack Day 2016」。アーティストとエンジニアが一堂に会し、3日間で即興的に作品を制作するイベントです。このチームを組むに至った経緯について、聞かせください。

林さん:テーマは「生命体としてのテクノロジー」。最初ワークショップで、参加者同士でディスカッションする機会があったんです。その時にそれぞれ少しずつ話をしていって、いままで作った作品やクリエイティブに対する思想を確認していきました。その後、制作する作品のアイデア出しをした時、興味関心の領域が近かった(norの)メンバーとチームを組むことになって。

福地さん:割とアイデアが近かったですよね。例えば皆、デジタルだけの表現には飽きていて、アナログのものを使いたいよねっていうところなんかが、全員一致していて。何となく波長が合うし、このチームでいったん作りはじめてみようかという感じでスタートしました。

林さん:ベースの価値観として、普段みんな広告業界の第一線で働いているので、同じようなことはしたくないという思いはあったよね?  広告みたいにド派手ではなくても、「人の欲望や本質にきちんと刺さるようなものを作るにはどうしたらいいか」というのが皆の根底にあり、そこがいちばん共感しあえるポイントだったと思います。

小野寺さん:テーマに対して、本質に迫れるようなアプローチで作品制作に臨みたいっていう。

——最終的に「3331α Art Hack Day 2016」で最優秀賞を受賞した「SHOES OR」。同作品では、靴を用い、による人工生命への実験的なアプローチをしているたそう。どんなプロセスで生まれたのでしょうか。

松山さん:まず、無機質のものを動かしたら、生きている感じが出るんじゃないかという仮説を作り、いろいろなものを動かしてみようという話になったんです。

板垣さん:無作為の動力で動かせば、そのもの自体の特性が動きに表れて、生命っぽさが出てくるんじゃないかと思って。初めは椅子を動かしたかったんですけれど、椅子を動かすための機構をどうやって隠すか考えてる時にカワマタくんが「椅子に靴はかせてその中に入れよう」みたいな話になったんだけど、重くて全然動かなくて。無理だと思った時に、「じゃあ靴だけを動かそうか」という話になって(笑)

カワマタさん:みんなでスニーカーを脱いで並べてみたら、「意外と面白いんじゃない?」と思ったんです。これを最初から作ろうっていうわけじゃなくて、いろいろと試す過程の中で、「このアイデア、形にしたら面白い!」というのが見つかる感じです。

ーー話して、実際に手を動かして、やってみる。この繰り返しの中で、答えが見つかるわけですね。

林さん:毎回、そのアプローチの仕方ですね。実際にモノをつくって、体験して、面白いポイントを自分達で体験できるところまでトライアンドエラーを繰り返していきます。実験を繰り返すことでしか辿り着けない領域があると思います。

板垣さん:リーダーがいないので、コンセプトレベルから集まってブレストをどんどん重ね、少しずつ形にして、そこから出てくるアイデアを形にするという進め方でやっています。

福地さん:会社みたいにリーダーを決めて、トップダウン的に合理的にプロセスを進めようとすると、結構溢れ落ちちゃうものが多いんじゃないかなって思っていて。

小野寺さん:だから、一般的に不合理的なまでに長時間をかけてアイデアを捻りだそうとすることも僕らにとっては重要で、またできるだけそれが許容されうる環境でありたいとも思っています。norって強烈なアイデンティティがあるというよりは、みんなで何かに対して考えていくプロセス自体に期待とモチベーションを持って取組んでいるように感じています。

松山さん:圧倒的に、何をやるか考えるところにしか時間をかけていないですよね。何となくやりたいことがあっても、全員のバックグラウンドが違うので、実際に作る段階では、全く表現が被らないんです。

小野寺さん:全員分野の違うスペシャリストなんですけれど、そういう、専門領域の境界を超えて一緒に手を動かしながら考え、創造するなかでしか得られない知見や発見が僕らにとっては作品と同等、あるいはそれ以上に重要なのだと思っています。

カワマタさん:納得するまで話し合います。そういう粘り強さや忍耐強さに関しては、常人を超えるものを全員が持っていると思います(笑)

PROFILE

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建築家、デザイナー、音楽家、エンジニアなど様々なバックグラウンドのメンバーで構成されるクリエイティブレーベル。メンバーは普段会社員やフリーランスとして働く傍ら、norではプライベートワークとして活動している。「nor」という名前の由来は、数学のn進数とorを合わせた「n + or」、論理演算子で定義されていない集合を表すnor、そしてノアの箱船のノアと3つの意味がある。

プランナー/クリエイティブ・ディレクター:福地諒
ハードウェア・エンジニア:中根智史
ソフトウェア・エンジニア:松山周平
サウンド・プロデューサー:小野寺唯
アーキテクト/エクスペリエンス・デザイナー:板垣和宏
デザイナー・モチベーター:カワマタさとし
プロデューサー/プロジェクト・マネージャー:林重義

関連記事:フラットで非効率なクリエイティブ集団、「nor」って何者?【後編】

 

写真・三宅祐介 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

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