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混迷の社会をサバイブする日野市、そのポスト・ベッドタウン戦略の次の一手「メーカーズキャラバン」

日野市×ReBITA

ライフスタイルが多様化した現代。都市部への人口集中などの動きもあり、かつてのベッドタウンは、人口減少や企業誘致などの問題に直面している。そこで各地域では、ポスト・ベッドタウンとしての理想像を考えながら、街の在り方を大きく見直している。東京都多摩地域・南多摩ブロックに位置する日野市もそのひとつ。この街では、JR中央線・豊田駅を降りてすぐの多摩平エリアを「仕事」「学び」「生活」が集まる場所へと変えようとしている。その取り組みのひとつとして「メーカーズキャラバン」という新たなプロジェクトが始まる。一体どのような狙いがあるのだろうか。日野市・地域戦略室副主幹の中平健二朗さん(写真・左)と、リビタ・コミュニケーションマネージャーの力丸朋子さん(同・中央)、増田亜斗夢さん(同・右)に話を聞いた。

日野市の「ものづくり都市」としての歩みと衰退

日野市の工業都市化・ベッドタウン化の歩みは、戦時下の日本が終戦後、高度経済成長のピークを迎える流れとぴったり重なる。時は遡り1930年。アメリカから広がった世界恐慌の波は、日本にも影響を与え、昭和恐慌が起こった。その対策として、当時の日野町長は農村だった日野市に企業を誘致。いくつかの大手メーカーが市内に工場を設置した。この立地に注目した東京都は、日野市近隣地域を軍需産業の拠点に位置付け、これが工業都市化に向かうきっかけとなった。

中平さん:1945年に終戦を迎えた日本は戦後復興を目指します。その10年後には、人口と産業が東京都に一極集中する対処として、政治・経済・文化の中心地にふさわしい首都圏整備の必要性が高まるように。第1次首都圏基本計画が策定され、日野市は八王子市とともに衛星都市第1号の指定を受けました。その当時目指した都市像は、工場周辺に住宅が隣接する「自立都市」でした。そうして工業団地が集積した日野市は、それを基点として本格的な都市化の時代を迎えます。

時代は、その後20年間続く高度経済成長を迎える。日本は人口増加に伴い、経済の中心が大量生産・大量消費に移り、産業の中心を担う首都圏は都市機能の細分化を必要とした。そのため、日野市は都心部で働く人々のベッドタウンとしての機能を担うようになる。その一方で企業が日野市を離れていくことも増えていった。

中平さん:我々は、「良質な住環境を謳い、住宅に特化した都市を目指す」ということに疑問を持ちませんでした。その結果、2000年に日本の人口がピークを迎える中で、日野市では工場の撤退・移転が始まり、2008年のリーマンショックでそれが加速。現在、市内に残るメーカーの多くは最終製品を日野市で製造していない状況になっています。具体的にどのような業態で何をしているのかさえ知らないほど、我々は企業とのつながりを失ってしまった。そうした状況に危機感を覚え、まだ市内に残るメーカーを1社ずつ周って対話を始めました。すると、市内の企業に務める人々は、たまたま市内に会社があるから日野市に通勤しているだけで、街や行政との接点を持つ機会もほとんどないことがわかったのです。それと同時に、多くの企業が社会環境の変化に関して非常に関心が高いことも感じました。

 

街のサードプレイスとしての役割を果たすPlanT

パラダイムシフトによって、人々が街に求めるものにも変化が訪れた。これからの日野市の街の在り方について考えたとき、住まいでも職場でもない、誰でも訪れることができる場所が必要ではないか。そう考えた日野市は、「産業創造を軸とした街のサードプレイス」の基本構想を策定。その後の公募手続きを経て、至近の「りえんと多摩平(UR多摩平団地をリノベーションしたシェア型賃貸住宅)」の運営及び地域連携活動で実績のあるリビタを企画・運営会社として選定した。そして2015年10月に誕生したのが、多摩平の森産業連携センター「PlanT」だった。

中平さん:今日、さまざまな企業や行政で「職住近接」が謳われています。そこで、我々もかつての田園都市の構想であった「自立都市」の意義を見直し、高度経済成長に伴って予期せぬ形で分岐してしまった工場(働く場)と住まいを再結合し、あらためて職住近接を実現しようと考えました。ちょうど、1958年に整備された団地も60年が経ち、団地再生の一環として再整備が進められているエリアでPlanTの計画も立ち上がりました。これからの社会にあった企業(働く場)と地域の在り方を考えていきたいと思ったのです。

増田さん:PlanTは、「共創が生まれる場所」「イノベーションが生まれる場所」をコンセプトにした場です。起業家から学生まで、老若男女問わず、いろんな人たちがフラットな関係性で交流できるオープンなしつらえになっていることが特徴です。この場ならではの講座やイベントなど、使って欲しい人に訴求できるコンテンツ企画を通じてPlanTという場の価値を高めてきました。

力丸さん:開設してからの2年間で、さまざまな企画を実施してきました。例えば、PlanT labという産業の種を見つけて育てていくためにさまざまな地域・分野で活躍する方を講師としてお招きし、レクチャーやワークショップを通じて学びを得るセミナーも開催してきました。日常的な施設管理はもちろんですが、PlanTを知らない人に認知してもらうことや、日野市に今までなかったつながりを外から引っ張ってくることを意識しながらPlanTの運営を行っています。

増田さん:これまでの活動によって、開設当初より多くの人にPlanTを利用してもらう状態に育ったと思っています。一方で、10月で3年目に入る今、「産業連携センター」としてこの場の価値をより高めていくため、市内産業との連携を強化していきたいと感じるようになりました。

 

日野市×ものづくり企業×PlanTの新プロジェクト「メーカーズキャラバン」

そこで次のステップとして新たにスタートするのが、日野市ものづくり企業掘り起こしプロジェクト「メーカーズキャラバン」だ。日野市とゆかりの深い企業の製品や仕事について学ぶと共に、企業とPlanTを利用する人々や近隣大学、行政などを結びつけ、PlanTが新たな価値を生む場になることを目指していく。

力丸さん:メーカーズキャラバンは日野市にある企業の技術やサービスを発見し、みんなで行って・見て・学んで・触れて・考えていくプロジェクトです。半期に一回の開催を目安に、さまざまな企業とコラボレーションしていきたいと考えています。ものづくり企業がどこで何をしているかわからないなら実際に見に行こうということで、このプロジェクトでは集まっていただいた方と一緒に工場へ行くことも予定しています。自分の目で見ていただくきっかけになれば、と。また初回では、コニカミノルタの「ナッセンジャー」というテキスタイルプリンターを題材に、新しい可能性を考えるアイデアソンや実際に製品に触れる機会としてワークショップを行いながら、やわらかく企業と参加者をつなぐことができるイベントにしたいと思っています。

中平さん:このようなテーマで取り組むプロジェクトを、日野市が市内の企業と一緒になってスタートするのは今回が初めてのこと。新しいチームビルディングの在り方を含めて、プロジェクトを進めながら試行錯誤して、内容に磨きをかけていきたいと思っています。行政と企業が連携していく中で、やりやすさを感じる場面があれば、やりにくさを感じる場面もきっと出てくるでしょう。進め方のスピード感に差を感じる状況があれば、企業が正しい、行政が正しいということではなく、お互いに学び合って最適解を見つけていけるように、模索しながらプロジェクトを進めていきたいです。

では、具体的にどのような人に参加してほしいのだろうか。それについて3人は次のように話す。

増田さん:「メーカーズキャラバン」には、日野市や企業、そしてPlanT利用者だけでなく、いろんな立場の方々に参加してもらいたいと考えています。違う枠組みの中で活動してきた人たちと新鮮なつながりを得る機会になるんじゃないでしょうか。

力丸さん:もしも、クリエイターの方で「メーカーズキャラバン」に興味を示してくれる方がいるなら、そのような違いから気づきを得るプロジェクトに面白がって参加できる方や、異なる視点によって自分のアイデアを活性化させることに魅力を感じる人だと、より満足してもらえると思います。

中平さん:「ナッセンジャー」が題材だからといって、必ずしもアパレル系のクリエイターに参加してほしい、ということではないんです。だから、いろんな人に参加してほしいと思っています。予定調和の中ではイノベーションの種は生まれないはず。さまざまな人が集まるからこその、良い意味での化学反応が起きることを期待しています。

日野市、PlanT、メーカーズキャラバンの将来像

日野市には、社会課題と直結したヘルスケアやエネルギーの分野で企業活動をするメーカーが多い。だからこそ、誰かに教わるのではない、自分たちで見つけていく、これからの社会に合った形を模索していける街を目指していきたいという。

中平さん:もともと、「ものづくり=工業製品」というイメージが色濃く残っていますが、これからの社会に必要とされていることは、ものづくりを通じて生み出される社会的意味や価値だと思うんです。日野市は地方創生のテーマとして「生活価値共創都市」を掲げているのですが、企業・大学の方も地域の子育て中の方やお年寄りとも対話できる環境を生み、生活者の視点から新しい学びや気づきを得ることができる地域にしていけたらと思います。

増田さん:多摩平エリアには、一般的な郊外に揃うショッピングモールやスポーツセンターは整っています。その中でPlanTというサードプレイスを育てていき、この街の特異なポイントとなることで、まだまだ僕らが知らない日野市内の面白い人や意欲的な人がより集まる場になってほしい。そのための第一歩として、これから「メーカーズキャラバン」を盛り上げていきたいと思っています。

力丸さん:「メーカーズキャラバン」を通じて、新しいアイデアだけでなく、今まで見えなかったことにも気づけるといいですよね。現在は、市内の企業がどんな活動をしているのか、見えにくいように感じています。だから、PlanTや「メーカーズキャラバン」をきっかけに、日野市にはこんな企業・仕事があるんだということを市内に住む人にも知ってほしい。そこから、さまざまなクリエイターや意欲的な方々が企業と繋がって、新しい活動が生まれることにも期待したいです。

PROFILE

日野市

約10年前まで東京都で工業生産出荷額等が第1位だった「ものづくり都市」。現在も医療やエネルギーなどの社会課題に直結する分野で活躍する大手メーカーが研究所や工場を置いている。日野市近隣には、大学も多く、産官学連携にも積極的に取り組んでいる。ものづくりのほか、古くから育まれた地域コミュニティや生涯学習の歴史もあり、社会福祉が充実している一面も持つ。

PROFILE

株式会社リビタ

「くらし、生活をリノベーションする」をコンセプトに、既存建物の改修・再生を手がける会社として設立。UR団地を再生した多世代交流・地域連携が盛んなシェア型賃貸住宅「りえんと多摩平」の他、印刷工場をオフィス商業複合施設にコンバージョンした港区海岸「TABLOID」や大人の部活がうまれる街のシェアスペース「BUKATSUDO」、主に地方の中心市街地の活性化を目的としたシェア型複合ホテル「THE SHARE HOTELS」を全国に展開する。

写真・佐々木康太 文・新井作文店 編集・村上広大

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