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才能ある学生クリエイターを支援する、クマ財団の正体

クマ財団

クリエイティブを探求する学びは代償を伴う。たとえば、お金。美術大学では高額な学費のほか、課題や作品の制作費も捻出し続けなければならない。そして、創作物をマーケットに問うアクションも必須。制作費をアルバイトで補いながら、創作・普及施策を展開できる学生が、一体どれだけいるだろう。クマ財団は、そんなクリエイター志望の学生をサポートする。用意された活動支援・助成は手厚い。返済義務を負わない給付型奨学金を毎月10万円支給、社会で活躍するクリエイター・企業・メンターの紹介、スキルアップ支援、活動スペースと情報の提供、奨学生同士の交流やコラボレーションのサポートなど。なぜ無償で、これだけ充実したサポートを提供するのか。理事長の馬場功淳さん(写真・左中)、事務局長の緒方仁暁さん(同・右中)、運営事務局の石井麻子さん(同・右)、小川大介さん(同・左)に聞いた。すると、クリエイター志望の学生支援の先に、あるビジョンが見えてきた。

ーークマ財団が設立して約1年半。世の財団には様々な取り組みがありますが、どうして若手クリエイターへの支援を始めたのでしょうか。

馬場さん:実のところ、初めは若手クリエイターへの奨学金制度だけではなく、社会貢献活動へのプロジェクトファイナンスも候補のひとつにありました。しかし「なにかに投資するなら若者に投資したい」という想いが強く、奨学金という形態が浮かんできたんです。学力が優秀な人向けの奨学金はすでにたくさんありますが、クリエイター向けというものは少ない。才能を持った人に「いいもの」を作って欲しい、そのためのクリエイター向けの奨学金があったらと思い、若手クリエイターへの奨学金制度設立に至りました。

緒方さん:まず世の中にある奨学金を全部調べました。その多くは、純粋に「お金」を給付するものでした。そして、実際学生にヒアリングしてみると、学生が一番欲しいものも、やはり「お金」だということがわかりました。最新の機材を購入したり、苦手分野を得意な人に外注したりすれば制作効率をあげることができ、「お金」は間接的に「時間」も生む。求めていたのは、「お金」であり「時間」だったんです。加えて、学生が次に求めていたのは「機会」でした。クリエイターが集まる機会、他世代の話を聞いたり大人に作品を見てもらう機会、そういう「機会」を得たいという学生が多くいました。そこで、「お金」と「機会」を提供することで、クマ財団として役目を果たしていこうと決めたんです。

 

ーー馬場さんご自身も、学生の頃は創作活動をなさっていたそうですね。

馬場さん:プログラミング好きの学生でした。中学生の頃にプログラミングを覚え、高校2年生のときにはじめてコンテストに応募しました。夏休みをかけ、等高線を入力すると立体的に見える地図をつくりましたよ。スケジューラーとポケットベルを連動させた通知機能をつくって高専向けのコンテストで賞を受賞したこともあります。僕の大学時代は、ちょうどインターネットが出てきた頃。はじめてUNIXに触れて感動しました。当時コンピュータビジョンの研究をしていて、学祭に人の動きで操作できるブロック崩しゲームを出展したら好評でした。そのゲームは北九州にあるスペースワールドというテーマパークに展示されて、子どもたちが楽しんでいました。

ーープログラミングに興じていたんですね。クマ財団を立ち上げた動機も、ご自身の過去と関係ありますか?

馬場さん:まったく無関係ではありません。僕は独学でプログラミングを学び、創作活動をしていました。才能のある学生さんのなかには、何も支援がなくとも自分で力を付けて、ものづくりできてしまう人も少なくないと思うんです。クマ財団は、奨学金として毎月お金を支給しますが、本質的には、同じような立場のクリエイターに出会えることにも魅力があると思います。ぼく自身、学生の頃に優秀な人と会えていたら、もっと成長できたのではないかと思うんですよ。活躍している人と会うことはインセンティブになりますよね。

緒方さん:クマ財団の1期生には、さまざまなジャンルのクリエイターが集まっています。一堂に会したとき、そこに何かおもしろい発想が生まれることにぼくは期待しています。自分の専門領域とは異なる活動をしている同世代のクリエイターから新しいスパイスを得ると、自分の制作範囲は広がるし、コラボレーションして新しいクリエイティブを生むこともできるかもしれません。

小川さん:ぼくは学生たちとコミュニケーションを取る機会が多いのですが、さっそく1期生たちの間では、水面下でコラボレーションの創作活動が始まっています。絵を描いている人が建築を勉強している人と組んだり、場所を超えてコラボレーションが生まれたり。

 

——さまざまなジャンルのクリエイターが集う奨学金制度はあまり類を見ませんね。具体的にはどのような学生さんが1期生に選ばれましたか。

石井さん:映像分野のクリエイターが多いです。

馬場さん:映像は今の流行だよね。昔と比べて敷居が下がっているので、才能の発揮がしやすい。そういう時代の傾向を表しているかもしれませんね。

石井さん:あとは絵画をやっている学生も多いですね。絵画分野はコンクールもあることなどから、作品や実績が見えやすく、選考しやすいんです。

馬場さん:逆に、戯曲を書いているような学生もいます。時代の流れに左右されずにものづくりをしていて素敵だなと思います。そういう学生にも、ぜひ応募してほしいです。

緒方さん:あと、SNSやYouTubeで発信しているクリエイターが多いですよね。自分で発信していると、クマ財団の目にも届きやすくなります。

石井さん: SNSは絶対にやらないというクリエイターもいるんですよ。

馬場さん:そういうのもいいよね。

 

——SNSでの発信にも表れていますが、社会に自分がどう受け入れられるのか強く意識している学生が多いですね。クマ財団に合っている学生は、「クリエイティブ×○○」の○○を意識している人かもしれませんね。

石井さん:そうですね、自分の肩書きを意識しているクリエイターも多く、「○○クリエイター」の○○部分をどうするかにこだわっていますよね。

小川さん:そう、自らのブランディングへの意識が強いですよね。

馬場さん:確かに、クマ財団にはそうやって自分をどう見せるか、社会にどう受け入れてもらうか考えている学生に合っているかもしれません。クリエイティブだけに注目すると、ジャン・ミシェル・バスキアやフィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのように、常軌を逸したアーティストが歴史に名を残す傾向がありますよね。そして、消費者も常識的なクリエイティブを求めていない状況があります。でもクマ財団では、「社会を壊す」だけでなく「社会をつくる」クリエイターも同様に支援していきたいです。社会をつくるような仕事をする場合、社会性は大変重要です。自分の能力を伸ばして、世界各国の多ジャンルに散らばっていって、いいポジションで活躍していってくれるクリエイターを輩出するクマ財団になれたら、社会貢献にもなると思っています。

緒方さん:ぼくも、奨学生のなかから、数名でも世界で活躍できるクリエイターが輩出されたらいいなと思っています。でも同時に、結局クリエイターの本質は「自由」ですよね。

馬場さん:そう、クマ財団の奨学金をもらったからって、何かしなきゃいけないわけではないんです。クリエイターそれぞれの人生ですから、クマ財団の活動支援・助成が終わったあと、活動を続けていく人もいれば、いつかクリエイターをやめてしまう人もいていいと思っています。

 

ーーでは選考で何を見ますか?

小川さん:作品を見ていますね。昨年は約2740人の作品をすべて見ました。

馬場さん:審査基準として、もちろん社会からの評価=実績を残しているかどうかも、評価基準になります。そのためクマ財団の選考委員に情報分野や芸術分野の有識者を入れて担保しようとしています。それくらい選抜する私たちにとっても隠れた才能を発掘するのは難しいことなんです。まずは、クリエイター奨学金で活動支援・助成をしようという気持ちで動いています。

緒方さん:受かることよりもまずは自分で一歩踏み出そうとすること、自分でチャンスをつかみ取ろうとすることが大事ですよね。

石井さん:応募の際には、熱を持って落選歴を書いてくれる学生もいます。私も人間なので、これだけ行動している人なら会いたくなります。

馬場さん:やっぱり、実績と熱意がポイントだね。

 

ーー最後に、2期生募集に向け、応募を考えている学生へのメッセージをください。

馬場さん:クマ財団は、はじまったばかりです。クリエイター奨学金なので、クリエイター志望の学生に気持ちよくお金を支払って、使ってもらう。それは将来に役立つと思っていますし、延いては優秀なクリエイターが輩出されるという明確なゴールを見ています。

小川さん:一人ひとりの奨学生からフィードバックをもらって、この制度をよりよくつくり上げていきたいと思っています。支援の中身は固定せず、年々学生と話してよりよくしながら続けていきたいです。

緒方さん:そういう意味で、奨学金制度ですが、提供する価値は「お金」と「時間」だけじゃありません。「機会」を求めるクリエイター志望の学生にぜひ会いたいです。

石井さん:「機会」のひとつかもしれませんが、選考通過者には、いい出会いを約束します。同期生との出会いだけでなく、来期2期生は、1期生との縦のつながりも得られますよ。

2017年夏、コロプラの研修施設「COLONY箱根」で開催された『Kuma Camp in SUMMER』。馬場さんも駆けつけ、1人1人の学生クリエイターと交流した。
第1期生が集結。2泊3日のプログラムの中では、事前課題の発表やディスカッション、4名のゲスト講師による講義、講演などが行われた。

PROFILE

公益財団法人 クマ財団

クリエイターを目指す25歳以下の「学生」を対象に、返還義務を負わない「クリエイター奨学金」と年間カリキュラムを通じて、クリエイティブサイクルである「INPUT/学び OUTPUT/創作活動 OUTCOME/成果発表」の機会を総合的にサポートする。対象は、主に「エンジニア」と「アーティスト」の2分野で、ロボット、言語、サイエンス、工学、バイオ、宇宙工学、AI、音声認識、IoT、インターネット、VR/ AR、ゲーム、ドローン、モビリティー、アプリ、センサー、映画、アニメ、作曲、漫画、プロダクト、建築、写真、絵画、彫刻、グラフィック、フィクション、メディアアート、工芸、小説、パフォーマンス、書道、戯曲など、さまざまな専門領域で活動するクリエイターが集う。

クマ財団第2期生募集
現在第2期生を募集中。後期日程は4月3日まで。
詳しくは、クマ財団の応募要項ページをご覧ください。

 

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#5 株式会社DAN NAKAMURA代表 中村暖
「3人の自分がそれぞれクリエイター」22歳が挑戦するウィークリーキャリア

 

「KUMA EXHIBITION 2018」
クマ財団の今年度カリキュラムの集大成として、本連載で紹介している学生クリエイターをはじめとする、財団1期生50名による展覧会が開催されます。詳細は、公式サイトにてご確認ください。

会期:2018年3月24日(土) – 25日(日)
会場:青山スパイラルガーデン・スパイラルホール(東京都港区)
詳細:KUMA EXHIBITION 2018 Webサイト

写真・今井駿介 文・新井作文店 編集・上野なつみ

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