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シリコンバレーからハリウッドへ──クリエイター・水口哲也が辿り着いた「量子的」な働き方のすすめ【後編】

水口哲也

これまで革新的なゲームを数多く生み出してきたクリエイター、水口哲也さんは「量子的」な働き方を提唱している。中央集権的なシステムが崩壊し個人もお金も量子化していく世界において、これからの働き方はどう変わってゆくのか。水口さんはいま世界を支配している「シリコンバレー」型の仕組みよりも「ハリウッド」型の仕組みに可能性を見出しているのだという。

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「クリエイター」と「プロデューサー」

——水口さんは『Rez Infinite』でも、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科とRhizomatiksと共同で、共感覚体験を生み出す「シナスタジア・スーツ」を開発されたり、様々なメンバーと一緒に仕事をされています。『Tetris® Effect』ではどういう布陣で開発に臨まれているんでしょうか?

Tetris® Effect』はふたつのスタジオが集まって開発チームをつくっています。ひとつはぼくがセガにいたころから一緒に仕事をしている小寺(攻)くんというエンジニアが代表を務めている株式会社Monstars。このチームは昔からの仲間で、プログラマーやエンジニアが中心なんです。もうひとつはぼくが代表を務めているResonair。こっちはどちらかというとサウンドアーティストやデザイナーを中心としている会社です。

ぼくはResonairEnhanceの代表をやっていて、前者は純粋なスタジオです。後者は、プロデューサーやマーケターの集団なんです。ぼくはクリエイターとプロデューサーを行き来するんですが、同じ会社の中でそれをやっていると境目がすごく曖昧になってきます。しかもビジネス系の人とクリエイティブ系の人はよくぶつかる。現場とプロデューサーがぶつかったり、マーケティングと開発がぶつかったり。お互いにリスペクトできないことが続いていて。だから別会社にしてみようと。そうすると、リスペクトしあうようになるんです。これが同じ会社の部署が違うだけだとうまくいきません。

——面白いですね。出版社などのメディア企業の場合は、編集部門と広告部門がぶつかるみたいなことがありますけど、ゲーム会社でも同じようなことはあるんですね。

うまく意見が合わないというか、相性がよくないことがあって。ゲームをつくるのに、いい発想をResonairが考えたとする。でもつくるにはお金が必要です、と。いままでは同じ会社のなかでプレゼンしていましたけど、代わりにEnhanceで資金調達をして、さらには、プロデュースをしてパブリッシングもするようにしました。そのためにはマーケティングも必要になります。Resonairは現場でモノをつくって、Enhanceは次の準備をしながらできあがってきたものをどう広めていくか考えていく。だから大変なんですけどね(笑)。

 

——水口さんの役回りがかなり大変そうです。

ぼくだけじゃないですけどね。アメリカにもスタッフが二人います。Enhance5人がコアスタッフで世界中を全部見ています。

 

——その方々も社員では——

ない。全員インディペンデント。それぞれが個人事業主のように働いていて、Enhanceに対してどれだけコミットするか決めているんです。そのなかでどういうミッションを担うのか話し合って決めています。だからマネージャーがいないんです。金額も自分で決めるくらい。

 

量子的な働き方

——金額もですか!? どうやって金額を決めるのでしょうか?

基本的にはぼくと話して決めるんだけど、逆にヘルシーな議論になりますね。1カ月150万円も払うの!?ってなったら、なんで150万円なのか話し合うし、お互いに納得できるためにはそれを証明する必要がありますよね。納得できなければ次はないわけで。Uberの評価システムみたいな感じです(笑)。問題があればお互いに言い合うし、そういう話し合いを丁寧にやっていくと全然少ない人数でも回していけるんです。

 

——会社勤めしていると既に報酬体系が定められています。「君の価値はいくらなのか」と聞かれる機会はほとんどないわけですから、自分の価値について考えざる得ない。以前に「量子的な働き方」という話を水口さんはされていますが、どんどん量子的な活動にシフトしている気がしています。

恐らく全体的な時代の流れだと思います。世界は中央集権的ではなくなっていくでしょう。いままでの会社のあり方って完全に中央集権的でピラミッド型の人事組織があります。ぼくも大きい会社にいたとき、人事組織はこうなんだけどクリエイティブな組織はそれとは別の形であって、人事組織と噛み合ってないことが多いと感じていました。結局クリエイティブは会社のツリー状組織とは相性が悪いとずっと思ってたんですよ。

そのあと、自分がいくつか仲間と一緒に起業してやった会社も、最初の思いとは裏腹にファンドからお金が入ったりするとクリエイティブなあり方が崩れてしまいました。それはどこまでいってもぼくの考え方と合わなかった。どうしたらよくなるのか自分なりに考えたときに、会社的な人事組織はいらないという結論に至ったんです。個人がエンパワーされていればよくて、コミュニケーションがとれていれば物事はきちんと進むわけですから。

インターネットが登場して30年近く経って、世の中が量子化してきているわけじゃないですか。お金も気持ちも。いままで繋がれなかったものが繋がれるようになっているし。その量子化はどんどん進むし、ブロックチェーンみたいなものが一般化してくるとこの発想はどんどんやりやすくなるはずだと思います。だから自分の頭の中ではいつブロックチェーンが来てもいいように考えてますけどね。510年後はもっと楽になるだろうなと思いながらいまは手動で契約のことを入力したりしています。そう思えていれば楽というか、思考だけは少し先に照準を当てておくといまは面倒くさいけど気分的には楽になれますね。

 

依存せずに生きてゆく

——個人がどんどんエンパワーメントされて組織の壁が壊れていったとき、社会ってどうなると思いますか? 健全な状態が保たれるのか、企業や銀行、政府はどうなってしまうのか…そういう不安が出てきて、あまりにも混沌としていて見透しにくい世界だなと感じます。水口さんはどういう心持ちで働かれているのでしょうか。

最近はほとんど不安がないですね。どんどん楽になっていってます。なんとかなんないのかなみたいなストレスは減ってきている気がするんですよね。自分が依存型じゃなくなってきたというのもある。何かがないと自分が成立しない状態をなるべく減らしてきたんです。会社がないと自分が成立しないと思うと、会社がなくなったらどうしようと思うでしょう?でも中心が自分に移れば会社がなくなっても生きていけますよね。

あとはお金をもらわなきゃいけないっていう依存もなくせないか考えていて。昔は自分たちで資金調達することに消極的だったんですよ。資金調達はクリエイティブと遠いところにある気がしていました。でもそれは違うことに気づいたんです。自分たちに強い思いがあればそれを実現するための資金調達は自分ですればいい。そうすれば人に依存せずに自分たちの責任とリスクでできる。それは一見怖いことの様に見えますけど、実はすごくヘルシーだと思います。

——会社に金額を提示されて働いている感覚ではなくて、自分たちの価値がどれだけあるかをマーケットに問うわけですね。

そういうことです。

 

——そうじゃないとヘルシーではない、と。

その方法論自体はたくさん増えてきたじゃないですか。クラウドファンディングとか、最近ではICOもある。コンセプチュアルにいえば、そういうものがどんどん大きくなっていくと思います。そこには信用が生まれてきていて、それが実現すればするほどみんなもっと動きやすくなってくると思いますよ。

 

シリコンバレー型とハリウッド型

——水口さんのお話を伺っていると、“信頼や“信用の新しいカタチを体現されているように感じています。個人同士でつながって働くことは、信用という基盤がないと成り立たない仕組みだと思うのですが

人によってかなり違いますけどね。長い時間をかけて人との繋がりをつくっていくところは共通しているかもしれません。突然現れた人とじゃあ仕事をしましょうというやり方はほとんど採用していなくて、どちらかというとその前に友人関係だったり何らかの関係性があって、その上で機が熟したらやることがほとんどですね。仕事をしているとき以外の関係性がすごくあって、それが重要なんです。

無理しないというかね。ただ、相当先のことまで考えておく必要はあります。1年半後には絶対これをやるって思っていれば自然に準備が始まるでしょう?だからぼくも先のことまで考えるようになっていて、2025年くらいまでのことは考えています。Enhanceとしてはこういうことをやっていくというビジョンを描いていて、そのビジョンづくりはぼくの仕事だなと思っています。

——なるほど。都度都度にして、「どこかにいい人いないかな?」と探すのがいまの会社の採用システムじゃないですか。それってなかなかうまくいかなくて、ロングスパンで信用を重ねていくことが結局いいものをつくっていくことに繋がるのかなと感じました。

そうそう。シリコンバレー型とハリウッド型があると思うんですよ。シリコンバレー型ってテクノロジーはどんどん進化するけど人材の入れ替わりが激しいし人間的にも疲弊してきます。ハリウッド型の場合はいい人が残っていきながらそこを中心に色々なクリエイティブが生まれていく。

Enhanceもシリコンバレー型というよりハリウッド型だよねと話しています。一つひとつの意図をはっきりもってやっていこう、と。パッションやエナジーのある人を囲んで、その人を中心に一丸となる。今年オープンさせたゲームチェンジャースタジオ「EDGEof」も、WeWorkとはまた違った方向性で進めていくつもりです。

やりたいことにあった形ってものがあると思います。自分たちでゆっくり続けていくパターンもあるし、資金調達をして勝負に出るパターンもある。もちろん、シリコンバレー型でやりたい人はやればいいと思うし、どちらをとるかという話だと思うんですよね。でも、いまのところ、シリコンバレー型は自分たちのやり方ではないんだなと。一発勝負で巨額の富を手にしたけど、その後悲惨な状態になってしまった人もたくさん見てきました。だからぼくらはもうちょっと幸せにいきたいというか(笑)。結局、その選択の連続が人生みたいなものだと思いますから。

PROFILE

水口哲也

米国法人エンハンス代表 / レゾネア代表 プロデュース作として、『セガラリー』(1994)、『スペースチャンネル5』(1999)、『Rez』(2001)、『ルミネス』(2004)、『Child of Eden』(2010)など。2016年には『Rez Infinite』をリリースし、米国The Game AwardのベストVRアワード(2016)を受賞。同年『Rez Infinite』の共感覚体験を全身に振動拡張する『シナスタジア・スーツ』を発表。 文化庁メディア芸術祭特別賞(2002)、欧州Ars Electoronicaインタラクティブアート部門名誉賞(2002)、2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。

取材・横石崇、市村光治良 写真/文・石神俊大

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