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個の集合体で、これからのクリエイションを切り拓く。【後編】

co-lab 企画運営代表・田中陽明

「co-labは、能力の高い人たちがお互いに高めあってアウトプットしていく、ピア効果が生まれる場所なんです」。こう話すのは、クリエイターのためのシェアオフィス「co-lab」を運営する田中陽明さん。シェアオフィスがまだ一般的ではなかった2003年に森ビルの一角からスタートし、現在の拠点は都内6ヵ所。また、2017年4月にオープンし、大きな話題を呼んだ複合施設「SHIBUYA CAST.」にはコンペティション段階から関わり、多くのクリエイターを巻き込んで空間を作り上げていった。インタビュー後編では、「SHIBUYA CAST.」のプロジェクト秘話について聞いた。

ーーco-labの運営をしていると、多方面からプロジェクトの話が舞い込みそうな印象です。実際にはいかがですか?

田中さん: co-labにはデザイナーや建築家、社会起業家や研究者など、オールジャンルのクリエイターやクリエイティブワーカーが在籍しています。その数は400人以上。そんな人的ネットワーク環境も手伝って、企業さんから仕事の話をいただく機会も増えてきています。特殊で複雑な案件などもあるのですが、そんな時、「できますよ!」と言えるのは強みかもしれません。求められているスキルをもつ人を思いついたり、データベースから探し出して声をかけられる環境にあるんです。「SHIBUYA CAST.」(今年4月にオープンした大型複合施設)の構想段階で声をかけていただいた時も、co-labのメンバーの顔がはじめに頭に浮かびました。

 

ーー「SHIBUYA CAST.」の“cast”の由来は、“casting”からきていると伺いました。プロジェクト始動にあたり、どのようにチームづくり(=キャスティング)をしましたか?

田中さん:キャスティングって映画でよく使われる言葉だと思うんですけど、キャスティングがうまくいくと映画ってヒットするものです。今から6年ほど前、東急電鉄(東京急行電鉄株式会社)さんから開発の件で声をかけていただいた時も、初期のコンセプト立案、建設段階など、さまざまなフェーズで建築家やデザイナーなどのクリエイターを、co-labのメンバーを中心にキャスティングしました。

 

ーー具体的なプロセスをお聞かせください。

田中さん:建物の設計の大枠は決まっていたのですが、そこにいろいろな建築家にパッチワーク的にジョインしてもらいました。建築設計のデザインコンセプトは「不揃いの調和」。多様性を受容し、さまざまな要素が混然・干渉しあいながらも調和しているイメージです。このキーコンセプトはCMFのデザイナーさんに出してもらいました。また、建築物のキービジュアルとして、いろんな素材を掛け合わせたCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)のマテリアルボックスを一つ作ることにし、そこからインスピレーションを受けた建築家たちがそれぞれの担当部分であるファサードや庭、インテリアなどを作っていきました。そして段階を踏みながら、話し合いを重ね、キービジュアルのマテリアルボックスを少しずつアップデートしていきました。メンバーはみな、言語よりも視覚能力に優れている傾向があるので、見た目で吸収して、また次の回にディベロップして持っていく。この繰り返しでした。

ーー話を聞くにつけ、「共同の研究室」のような印象を受けます。

田中さん:これまでの集大成ともいえる、co-labらしいプロジェクトでしたね。みな出自は別々なんだけれど、場を介して話し、実装しながらプロセスを共有していく感じといいましょうか。つまり、お互いの得意技をアウトプットしながらコラボレーション。有名建築家に発注し、トップダウンによって決まる20世紀型の建築手法ではなく、ネット社会を体現するような集合知で作り上げていきました。

 

ーー実験的ともいえる「集合知的な開発プロセス」。しかも、大掛かりなプロジェクト。どんなところにやりがいを感じましたか?

田中さん:個の集合体でクリエイションを切り拓いていくことは簡単ではありません。ただこのプロジェクトは、事業者さんの理解が深くご協力いただけたので、フラットな関係でディスカッションに参加していただけ、集合知的に進めていけたので、アウトプットは高いクオリティーにたどり着けたのではないかと思っています。

 

ーーそして「SHIBUYA CAST.」が完成。現在、同ビルの1階・2階に入居する「co-lab 渋谷キャスト」には、どんなメンバーがいますか?

田中さん:クリエイティブ事業のプロデューサーやディレクターなど、仕事をつくる人たちが多いところが特徴かもしれません。また渋谷という場所柄、IT/WEB系やグラフィック系、アパレル系のクリエイターなど、多彩なメンバーが集っています。クリエイティブ・ビジネスの新領域を開拓しやすい環境を目指し、クリエイターの活動に賛同する投資家をはじめ、知財管理などの法務支援をする法律事務所との連携もはじまっているんですよ。

 

ーー最後に、クリエイティブ プラットフォームという共通項をもつBAUSの印象をお聞かせください。

田中さん:ネットネイティブな人たち、とくに若手クリエイターにとって、抵抗なく入れる仕組みであることは確かだと思います。ただし全てをIT化せず、曖昧な部分をわざと残しておくことも大事なはず。人と人とのコミュニケーションの初源的なかたちである「アナログとしての場」、直接会って話せる仕組みが必須だと思います。クリエイションは最もAI化しにくい分野ですからね。

PROFILE

春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役 / co-lab 企画運営代表 田中陽明

1970年生まれ、福井県福井市出身。武蔵野美術大学建築学科を卒業後、大手ゼネコン設計部を経て、慶應義塾大学大学院SFC政策メディア研究家(メディアアート専攻)終了。大学院時代にメディアアートユニットflowを設立。2003年より、デザイナーや建築家、アーティストなど多種多様な領域のクリエイターが入居するシェアード・コラボレーション・スタジオ「co-lab」をスタート。2005年、春蒔プロジェクト株式会社を設立。クリエイティブ・ファシリテーターという立場で、制作環境を整える基盤整備から、クリエイティブ・ディレクターとして、co-labという集合体のポテンシャルを生かした企画、アウトプット監修まで行う。

写真・池本史彦 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

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