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Adobe MAX 2019で作品を発表。2人のクリエイターが考える、世界で通用するキャリアの描き方

Adobe Creative Residency

BAUSが活動の様子をレポートしているAdobe Creative Residency。2019年はイラストレーターの福田愛子さん、リアルタイムグラフィックデザイナー中田拓馬さん、2人の日本人アーティストが参加しています。 プログラムの折り返し地点となる11月、2人はロサンゼルスで開催されたAdobe MAX 2019に作品を出展。大きな反響を得ました。また2人はメンターとの出会い、現地で出会ったクリエイターのスタジオ訪問や同期メンバーとのロードトリップなど、この半年間での体験は「今後の活動に影響を与えるような大きなものだった」と振り返ります。 11月13日14時(日本時間)、次回の展示制作のためインドへ訪れた中田さんとNYに向かった福田さんとテレフォンカンファレンスを繋ぎ、取材を行いました。Adobe Creative Residencyのプログラムを通して2人の中に生まれた変化、そして今後のキャリアについて、対話の様子をお届けします。

Adobe MAX 2019への出展を終えた2人のクリエイターが考えていること

ーー前回のインタビューから、約5ヶ月が経過しました。本日は、Adobe MAX 2019への出展を終え、折り返し地点を過ぎた現在、お2人の中で景色がどう変わってきたのかを伺いたいと思ってます。

福田愛子さん・中田拓馬さん:よろしくお願いします。

ーー福田さんは以前のインタビューでは「AR技術を掛け合わせたポップアップブック」の制作を進めたいと話していましたね。

福田さん:実は、以前のインタビュー直後のブリーフィングで、ポップアップブックの制作は一旦保留することに決めたんです。

ーーそうだったんですね。なぜそのような方向転換を?

福田さん:もちろん今もつくりたい思いはあるのですが、実際形にしていくためにはペーパーエンジニアリングやプログラミングといった専門性・技術が必要になります。1人でつくることは難しいので、共作をすることになります。そうすると、複数のスタッフをアサインしなければいけない。

この期限付きの1年の中でそれを行うのがキャリアにとって最もいい選択なのか考えると、そうではないと思ったんですね。私の中では作りたい作品のうちの一つ、One of themだなって。重要な作品ではあっても、これからの作品作りの軸になるわけではない。

イラストレーター福田愛子さん

福田さん:そもそもイラストをARで表現したいと考えたのも、自分のイラストの中に入り込んでいける空間をつくりたい、という思いからでした。今回のAdobe MAX 2019では、ブースのデザイン、壁紙の制作、家具のコーディネートに加えスタッフユニフォームデザインを行ったのですが、空間の中にイラストレーションを展開することで、世界の中に入っていく感覚を作り出せるんじゃないのかなと。

Adobe MAX 2019で展示されたAdobe Creative Residencyブース。「DRAWN ROOM(描かれたお部屋)」というコンセプトで、レジデントメンバーが住む架空の家をイラストレーションで表現している。

ーーARを用いない形で自分のやりたかったことが実現できると思えたんですね

福田さん:そうですね。テキスタイルや空間のように色んなフォーマットに表現を拡張していくことに興味があるのだと気付かされました。ブースの中にカメラをかざすとモーションがARを通じて立ち上がる仕掛けがあるのですが、ここはポップアップブックのアイデアからヒントを得てつくりました。

Adobe MAX 2019 公式Hoodieのデザイン

福田さん:プログラムの前半では「大作を作らなきゃ」と、少し力が入っていたところがあるのですが、今はもう少しリラックスした状態で制作に向き合っています。日々の生活や友人との会話といった身近なものからインスピレーションを得ることが増えたのも変化の1つですね。他には来場者に配るポストカードのデザインや、アメリカのヒューレット・パッカード、BLURBにスポンサーしていただきアートブックも制作しました。

中田さん:僕も愛子さん同様Adobe MAX 2019では大型の作品で参加させてもらいました。MAX Bash (バッシュ)というナイトパーティーの中で行ったインスタレーションや、Project Glasswingという、Adobeの開発した透過型ディスプレイ用の映像作品も展示しました。

ナイトパーティーMAX Bashで展示されたインスタレーション作品「the BOUNDARY」。

ーー40m超というかなり大型の作品です。制作にはどれぐらいの時間がかかったのですか?

中田さん:約3ヶ月ですね。これまでは他のクリエイターとコラボレーションをして制作を行うことが多かったのですが、「the BOUNDARY」はほとんどの工程を1人でつくり上げる必要がありました。展示してみるまで、これがおもしろいのか本当にわからないという孤独な状態で制作していましたね。

ーー会場のお客さんやSNS上でかなり多くの反応があったように見受けました。

中田さん会場では、展示中の4時間にわたり約1200人のお客さんが踊って楽しんでくれたのでほっとしました。あと、お客さんのリアクションの中で面白かったのはお客さんがインタラクションを勘違いしていたことです。

ーーどういうことでしょう?

中田さん:今回ドイツのレジデントのAmelie Satzgerにステージをデザインしてもらったのですが、その一環でジャケットとハットを用意しました。お客さんはそのジャケットを着用することがカメラを反応させるセンサーだと勘違いしたようなんですが、実際はカメラの前に立つだけで自身の像がスクリーンに投影されるんです。偶然ですが、想像もしてなかった反応が得られました。

正直、この3ヶ月間は他のことが考えられないぐらい全力を傾けていたんです。自分1人で作り込んで作品のクオリティを上げていくことができると実感できたのは大きかったです。自分で悩んで解決したことで、結果的にスキルも上がった実感があります。

リアルタイムグラフィックデザイナー・中田拓馬さん。

ーー前回のインタビューでは、ビジュアルデザインにもより力を入れたいと話されてましたね。

中田さん:今回の作品ではビジュアルを作り込んだという感覚はありませんが、技術的な視点からお客さんが喜ぶ方法を考えた結果、結果的にビジュアル的にも強度が上がってきた、という感覚ですね。

作家だからこそ伝えられるもの。先輩クリエイターであるメンターから受けた影響

ーー前回のインタビュー後、2人にはキャリアのあるクリエイターがメンターに着任してくれたと聞いています。中田さんは制作段階ではメンターとどんなコミュニケーションを取っていましたか?

中田さん:ニューヨークのSchool of Visual Artsで教鞭をとり、作家としても豊富なキャリアを持つエリック・フォーマンにメンターを依頼しました。インタラクションデザインの分野では有名な方なのですが、彼の言葉は参考になりました。

ーーどんな言葉でしょう。

中田さん:作品をインタラクションデザインの観点から分析し、重要なフィードバックをくれたんです。例えば「この作品はこういった構成になっている。5つの要素に分解し、それぞれにトリガーとなる仕掛けを与えれば、より自然にストーリーに没入できるのではないか」といったものでした。

Adobe MAX 2019「the BOUNDARY」の様子。
スクリーンの向かいに設置されたフォトブースに入り込むとセンサーが反応。参加者たちの像が40m超の巨大テントに映し出されれるインタラクティブな作品。

中田さん:また、これは僕の悪い癖なのですが、一度「違うな」と思ったものを即座に切り捨てるのではなく、忍耐強く同じソフトウェアを改良して積み上げていくべきだとも。これは彼自身が作家としてキャリアが長いからこそ導き出される言葉なのかなと思いますね。

メンターのEric FormanとAdobe Creative Residencyブースにて。

ーー今後の作家活動の指針となるような重要な言葉ですね。福田さんはメンターの方とはどんなコミュニケーションを取っていましたか?

福田さん:私は主にビジネス面や今後のキャリアに関するメンタリングを行っていただきました。IC4Designのイラストレーター神垣博文さんという方なのですが、広島を拠点に国内外で幅広く活躍されています。私自身もアトリエを千葉に構えているので、広島からダイレクトに海外と繋がって仕事をしていることに共感したんですね。

聞くと、神垣さんは日本でもすごくキャリアのある方なのですが、海外案件獲得のために1,000件ものメールを送って自分のポートフォリオを見せていったそうです。

ーーすごい数ですね。

福田さん:どうやって仕事を広げていったのか、海外の商習慣の中でどのように振舞うべきかなど、すごく具体的なアドバイスをいただいてます。海外の仕事はBehance経由での依頼が多いと教えてもらったので、私もすぐに更新をしたんですね。そうしたらロンドンとロシアのエージェンシーから大きい仕事の依頼が頂けて。

彼の経験からのアドバイスなので適切なんですよね。この他にもNY在住のコスチュームデザイナーを紹介して頂いたりして、本当に良い出会いになりました。

インスピレーションを受けたロードトリップと、有名作家の制作背景を知ったスタジオ訪問

ーー福田さんは「海外での活動の軸足をつくること」をプログラム期間の目標だと仰ってましたね。具体的にどんなアクションを取っていくのでしょうか?

福田さん:まずはNYで仕事を広げていきたいです。イラストのエージェンシーも多く、アートのレベルも高い。その中で私自身のコンセプトや世界観をもっと表現出来るようになりたいので。そのために作品の独創性を高めていくこと、ポートフォリオを充実させることも、残り半年でのやるべきことですね。

今後の活動といえば、Adobe MAX 2019の直後にレジデントメンバーのみんなとロードトリップに出たんですよ。拓馬さんは残念ながら参加できなかったんですけど、そこでレジデントのメンバーとも意見を交換できたのも今後の糧になりましたね。

中田さん:インドの展示に向かったため僕だけ参加できなかったやつですね。それだけが心残りでした。

ーーそれは残念でしたね。そこではどんな時間を過ごしたのですか?

福田さん:メンバーとは年に数回しか会う機会がなかったんですよ。ですが、ロードトリップではジョシュアツリー国立公園という場所を訪れ、AirBnBで砂漠の真ん中に家を丸ごと借り、まるでそこに住んでいるかのように旅をしました。その時彼らと初めてゆっくりと話すことができました。これからの時間の使い方や、作家としてのクリエイションへの向き合い方など、お互いにフィードバックを出し合いましたね。拓馬さんは他国のメンバーとコラボレーションしてますが、私は基本的に全部を1人で作っているのでとても貴重な時間でした。

レジデンスメンバーとのロードトリップの様子。
「大地や岩といった自然が生み出すシェイプからインスピレーションを受けた」と福田さんは話す。

ーー作家との出会いや交流の時間もAdobe Creative Residencyのメリットですね。

福田さん:メンバー以外にも、私はAdobe MAX 2019のブースに来てくれた人とは意識的に話すようにしていました。すると、そこから出会いが広がっていくんですよね。幸運なことにザック・リバーマン(※)やペーパークラフトアーティストのローライン・ナム(※)のスタジオに訪れる機会や、NYを拠点に活動するイラストレーターの清水裕子さん(※)にお会いする機会を得ることが出来ました。

※ザック・リバーマン:コードの詩的表現の可能性を学ぶSchool for Poetic Computation主宰するアーティスト、リサーチャー、ハッカー。Ars electronicaのインタラクティブアート部門Golden Nica(金賞)など受賞多数。Fast Company誌の「ビジネス界でもっともクリエイティブな100人」に選出された。作品を制作の傍らopenframeworksを開発。

※ローライン・ナム:ブルックリンを拠点に活動するペーパークラフトアーティスト/イラストレーター。エディトリアルのほか、立体的なペーパープロダクトやストップモーションアニメなど、様々な表現方法で作品を発表している。

※清水裕子:ニューヨーク在住のイラストレーター。商社勤務後、渡米。SVA(School of Visual Arts)で修士号を獲得後活動を始める。受賞暦はSociety of Illustratorsゴールドメダル、Association of Illustrators、シルバーメダルなど。NYを拠点に「ニューヨークタイムズ」「ニューヨークマガジン」「ローリングストーン」「タイム」など多くのメディアで活躍を続けている。

中田さん:スタジオ訪問は刺激になりますよね。僕はYesYesNoというクリエイティブチームの「night lights」と いう作品をきっかけにインタラクションデザインに興味を持ったのですが、レジデント期間中に10年前その作品に携わっていたライゾマティクスの真鍋大度さん、ザック・リバーマンとカイル・マクドナルド(※)の3人に会うことができました。他にも、訪れたいと思っていた作家のスタジオはほぼ回ることができました。

※カイル・マクドナルド:メディアアーティスト。機会学習のパイオニアとして知られ、YesYesNo「night lights」制作にも参加している。

ーースタジオに訪れる動機ってどのようなものでしょうか?モチベーションの向上、という意味合いですか?

中田さん:僕の場合は作品の制作環境を知れることですね。例えば、レフィック・アナドルは少人数でLA郊外にスタジオを構えているのですが、スタジオを訪れて作品を生み出すための規模感やスタッフの属性を知ることができました。リアルタイムグラフィックスにスタッフを全振りしているかと思いきや、実は映像作家がいて、彼女の重要度が高いなど。

一方VT Pro Designというスタジオではロボットアームを16台も所有していて、プロダクションというよりも工場のような雰囲気なんですよね。映像制作と、作品に用いるプロダクトの溶接が一つの空間で並行して行われている。こういうスタジオを見ると、作品に対してどんな設備やチームが必要なんだということを知ることが出来る。それは自分が作りたい作品が浮かんだ時、そのまま知識として役に立ちます。

LA郊外に構えられたレフィック・アナドルのスタジオ

福田さん:私の場合は作家がインスピレーションを受けているものに興味があります。作家のスタジオに行くと、なんとなく性格やバックグラウンド、生き方が見えてきます。それは作品に反映されるものですし、作家の哲学とも結びついている。活躍しているアーティストの生き方に触れられるのは、自身を省みるきっかけになります。

また、拓馬さんの言うように制作環境を知れるのはおもしろいですね。プロトタイプが置いてあったりすると、どんな思考でアウトプットに至ったのかもわかりますよね。この人はこの順番で作っていくんだなとか。制作について話を聞いたり、逆に自分の作品を観てもらってフィードバックも頂くこともありますよ。

アーティスト ローライン・ナムのアトリエにて。

クリエイティブを日常的に伝えていく重要性

ーーレジデントの期間は残り約6ヶ月ですが、今後どのような活動に力を入れていくのでしょうか?

福田さん:日常生活からインスパイアされた作品を形にしたいなと思いますね。また、Adobe MAX 2019を含め制作の時間が長かったので、今後の時間はポートフォリオを作り込んでいくことに集中したいですね。レジデント卒業のタイミングで海外にポートフォリオを持ち込み始め、海外エージェントと契約を結べたらいいなと。

ーー来年の活動への土台づくりですね。

中田さん:僕もほとんどの時間を制作に当てていたので、しっかりと作品をアーカイブしポートフォリオを充実させたいというのが一つ。

そのためにも作品をもう一つだけ作りたい。自分の作品と呼べるものを継続して作ることができれば作家としてのプレゼンスも上がっていくかなと。Adobe MAX 2019の展示で得た手応えを確かなものにしたいですね。既存の作品に関しては、展示の機会があれば積極的に出品したいと思います。

ーーこれまでの活動のまとめに移っていくということですね。

中田さん:学ぶことや作品の制作に必死で、ポートフォリオまで手が回っていないというのが正直なところです。レジデント期間中はインプットが多いので、僕たちの得たものもシェアしていきたいんですよね。

福田さん:活動のシェアという意味では、レジデント同期メンバーのパトリシアは素晴らしいよね。彼女はドイツ在住のUXデザイナーなのですが、制作の中で得たインサイトをinstagramに掲載しているんです。

ドイツ在住のUXデザイナー、パトリシア・ライナーズ (Patricia Reiners)のインスタグラムアカウント。日々の活動の中で得たTipsやデザインのノウハウがわかりやすく紹介されている。

ーー1つの専門性に特化したメディアのようですね。

中田さん:実際内容も濃くて、フォロワーも半年前は800人ほどでしたが、今は11,000人(2019年11月13日現在)を超えています。

福田さん:積極的に発信しているメンバーを見習っていかなければと思いますね。

ーー以前、「制作のプロセスをSNSで公開していきたい」とおっしゃってましたね。

福田さん:作品制作のプロセスなどはコンフィデンシャルもあってAdobe MAX 2019が終わるまでは発信できない部分もあったのですが、今後はInstagramなどで更新いけたらと思います。

ーー残り半年間の活動、楽しみにしています。


Information

2019年12月3日にはAdobe MAX JAPANが開催。一部セッションはライブストリーミング配信を予定しています。福田さんが登壇するセッションもありますので、お見逃しなく。また、Adobe Creatibe Residencyでは2020年度のプログラム参加者を募集中です。メンターも同時に募集していますので、興味のあるクリエイターの方は是非チェックしてください。


 

PROFILE

福田 愛子

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。企業でアートディレクター/デザイナーとして働いた後、2014年よりイラストレーターとして活動を本格化。ペン画を軸とした繊細なタッチを特徴とし、どこか懐かしさと時代を超えた美しさを感じさせるそのイラストは、ファッション領域を中心に多くのクライアントから支持を集めている。現在は東京を拠点としつつも、2018年にはニューヨークにて個展を開催、今年からは日本人初となる「Adobe Creative Residency 2019」に選出されるなど、海外へも活動の幅を広げつつある。

PROFILE

中田 拓馬

京都造形芸術大学アートプロデュース学科卒業。幼少期に南半球を転々と育ち、現在は京都を拠点にフリーランスの映像演出家/インタラクションデザイナーとして活動する。体験型の映像インスタレーションを得意とし、手探りでハードウェアやソフトウェアを試作することで日々作品のヒントを得る。日本人初となる「Adobe Creative Residency 2019」に選出され、「STEP into the SCREEN」というテーマの作品を制作、アメリカで行われたAdobe MAX Bashでのインスタレーションやインドでも大型の展示を行い多くの人がその作品を体験した。

<CREDIT>
IntervieweeAiko Fukuda, Takuma Nakata
Coordinator:Ryota Kawanishi(Adobe)
Editor / Writer / InterviewerNaoki Takahashi
PhotographerJessica Zollman
Producer / Account ExecutiveYuki Yoshida (BAUS)

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