MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

絶妙な距離感があってこそ、クリエイティブは加速する。【前編】

co-lab 企画運営代表・田中陽明

「co-labは、能力の高い人たちがお互いに高めあってアウトプットしていく、ピア効果が生まれる場所なんです」。こう話すのは、クリエイターのためのシェアオフィス「co-lab」を運営する田中陽明さん。シェアオフィスがまだ一般的ではなかった2003年に森ビル支援でその一角からスタートし、現在の拠点は都内6ヵ所。また、2017年4月にオープンし、大きな話題を呼んだ複合施設「SHIBUYA CAST.」では敷地を借りるコンペティション段階から関わり、施設コンセプトの提案やデザインのディレクション等を行いながら、多くのクリエイターを巻き込んで空間を作り上げていった。インタビュー前編では、新しいクリエイションを起こしていくアプローチの手法について聞いた。

ーーまず、「co-lab」のコンセプトについてお聞かせください。

田中さん:co-labの設立は2003年。インディペンデントに活動するデザイナーやアーティスト、建築家など、異業種のクリエイターのためのシェアード・コラボレーション・スタジオとしてオープンしました。企業組織型でもフリーランス形態でもない、その中間的な領域である「集合型」のプラットフォームを目指しています。BAUSさんがウェブ上のプラットフォームだとすれば、私たちco-labは「場」を介したプラットフォーム。コラボレーション誘発型のシェアオフィスと表現すると、分かりやすいかもしれませんね。

 

ーーco-labを始めて14年目。この10年間、特にインターネット上で、クリエイターを取り巻く環境の変化が大きかったように思います。

田中さん:スタートした時はまだ、人と人とのコミュニケーションの延長線上に「アナログとしての場」がある時代でした。そんな中、2000年代後半から“日本でのコワーキングスペース元年”と呼ばれた2010年にかけ、この状況に変化が生じはじめます。インターネットを介し、地理的な条件で実際に会うことが難しい人同士が容易につながれるようになったことで、例えばウェブ上でプロジェクトを進めることも難しい話ではなくなりました。

ーーco-lab自体の変化はどうですか。

田中さん:co-labの設立時は「一人の能力でできないことをみんなで集まってやろう」という考え方でしたが、今のコワーキングスペースの概念はもう全然違いますね。当初は、建築家やグラフィックデザイナーなどの中でも、アーティスト寄りの思考性をもったクリエイターが集まるコミューンのような感じでした。そこから何拠点か場所を持つようになり、またco-labと運営委託提携していただける事業主さんや時代の求めていることや立地特性等を取り込み、拠点ごとのコンセプトを打ち出していきました。一つ大きな変化としては、個人と個人だけでなく、企業で働く人たちもco-labを利用しはじめたことで、フリーランスのクリエイターと企業がつながる場としても機能しはじめたことでしょうか。他方、ちょっとエッジが効いていて、面白い仕掛けを作っているような人に使ってもらっているという雰囲気は、昔から変わっていません。

 

ーーco-labにいるクリエイターにはどんなタイプの人が多いですか?

田中さん:大人といいましょうか、いい意味で付かず離れずなタイプの人が多いように感じます。co-labについて、「絶妙な距離感がいい」と言ってくれる方が多いです。僕自身も距離感はとても大事だと思っていて。常に距離が近いと、会わない期間が続いた時にかえって居心地が悪くなってしまうものです。そんな理由もあり、フリースペースを共有するという形態ではなく、自分の専有区画を持って共有スペースと使い分けることができる、そんな空間構成を中心にしています。

 

——聞けば、場をつなぐCF(コミュニティファシリテーター)が各拠点にいるそう。彼ら彼女たちはどんな存在ですか?

田中さん:みんなで場をシェアすることを考えると、ただの受付ではなくコミュニティを作る存在が必要でした。初期の頃は僕もco-lab内で仕事をしながらうろついていたんですけれど、その内にゆるやかに促すというか、ファシリテートするというのがしっくりくるなと思ったんです。誤解を恐れずにいえば、“おせっかいなおかん”のような存在かもしれません(笑)。サービスを受けるお客さんと提供する側ではなくて、ある種対等な関係というか。

 

ーー先ほどの「企業とフリーランスとつながり」の話ですが、「co-lab西麻布」や「co-lab二子玉川」では、発注主である企業の方と個人のクリエイターが、フラットな立場で協業されていたそうですね。

田中さん:ビジネスの現場で知り合うと、上下関係ができやすいものです。その関係が必要な状況の場合は良いのですが、クリエイションが必要な分野では向かない面もある。発注する側も、良いアウトプットを求めるなら、対等な関係を持った方が良いはずなんです。ただ、日本のビジネスの現場では中々やりにくい面があるのも確かです。だからこそ、フラットになるようなプラットフォームを作って、切り離してあげることが必要なんです。本当は。

 

ーーなるほど。co-labを介したプロジェクトがうまくいっている秘訣はありますか?

田中さん:普段、場を共有しているだけなので、本当に同じ、いちメンバー同士なんです。そんな中でたまにプロジェクトが発生すると、発注者と受注者という関係性からスタートしないので、フラットな関係を築けていると聞きます。プロジェクトを1から一緒に育てていく。こんなイメージが近いかもしれません。最初の関わり方って大事ですよね。営業に行くとかお伺いを立てに行くところから入ってしまうと、その関係が続いてしまう。仕事を受ける側もきちんと手を動かして働くわけですから、本当は対等な立場のはずなんです。お金出した側が偉いというあの空気って、クリエイティブには向かないと思いませんか? 大切なのは、ゆるやかにつながるフラットな関係性。co-labはそんな場づくりを目指しているんです。

PROFILE

春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役 / co-lab 企画運営代表 田中陽明

1970年生まれ、福井県福井市出身。武蔵野美術大学建築学科を卒業後、大手ゼネコン設計部を経て、慶應義塾大学大学院SFC政策メディア研究家(メディアアート専攻)終了。大学院時代にメディアアートユニットflowを設立。2003年より、デザイナーや建築家、アーティストなど多種多様な領域のクリエイターが入居するシェアード・コラボレーション・スタジオ「co-lab」をスタート。2005年、春蒔プロジェクト株式会社を設立。クリエイティブ・ファシリテーターという立場で、制作環境を整える基盤整備から、クリエイティブ・ディレクターとして、co-labという集合体のポテンシャルを生かした企画、アウトプット監修まで行う。

写真・池本史彦 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

関連記事

  1. 「異物感」に満ちたチームこそが、社会を変える ──TEKOが語る広告クリエイティブの新たな可能性

    READ MORE
  2. コンセントのメンバーが語る、「会社員が社内外を越境しクリエイティブに働くためのヒント」

    READ MORE
  3. McCANN MILLENNIALSの「世代で区切るのはもう古い」

    READ MORE