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工場音楽レーベルが実践する、「メッセージの紡ぎ方、届け方」【後編】

INDUSTRIAL JP

現在地は「岩佐歯車製作所」(東京・大田区)。3人の職人で切り盛りするこちらは、たしかな技術と妥協しない製品づくりが認められ、東京都から“東京マイスター”に認定されている町工場だ。当日は日曜ということもあり、工場は稼動していないものの、年季の入った工作機械を間近で見るにつけ、ものづくりの現場の凄みを感じるのだった。「純粋に、圧倒されますよね」。こんな風に話しかけるのは、工場音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」の運営メンバー4人。下浜臨太郎さん(写真・中左)、木村年秀さん/MOODMAN(同・中右)、新谷有幹さん(同・左)、藤岡将史さん(同・右)だ。いま、彼らがはじめた“日本の町工場”を音楽レーベル化するプロジェクトは、多方面から注目を集めている最中にある。「町工場の高い技術力を“自分たちらしい形”で発信してみたかったんです」と下浜さん。なるほど、今回の取材後には「東京ADC賞2017」グランプリ、「カンヌライオンズ2017」ブロンズ、「NY ADC2017」ブロンズを受賞。インタビュー後編では、ワン&オンリーなコンテンツづくり、そのメッセージの届け方に迫った。

ーー前編では、どんな着想を経て、工場音楽レーベルの設立に至ったのかを聞きました。後編では、実際にリリースしたミュージックビデオを例に、「INDUSTRIAL JP」流のコンテンツづくりについて聞かせてください。

下浜さん(アートディレクター):今日、この撮影にご協力いただいた岩佐歯車製作所さんには、僕たちのミュージックビデオの撮影でもお世話になっています。岩佐歯車製作所さんの生業は、歯車の製造。産業機械の中に使用される歯車を単品でも受注している町工場です。ミュージックビデオを観てもらうと分かりますが、工作機械の稼働中は、機械や材料が降り注ぐ機械油に包まれ、動きながらきらめきます。そして、回転しながら削り出されていく金属の歯車。この幻想的な光景を多くの人に観てほしい。そんな思いで「岩佐歯車製作所 × Inner Science」は制作していますね。

岩佐歯車製作所 × Inner Science「IWASA HAGURUMA」

木村さん/MOODMAN(サウンドディレクター):工場内でのフィールドレコーディングでは、ジリジリと戯れる歯車たちが放つ音を、いくつかのパターンに分けて録音。ミュージシャンがどのように音楽に使うのかを想定してレコーディングしていきます。

下浜さん:フィールドレコーディングと同じ日に、工作機械の動きにフォーカスしたムービーも撮影しています。工作機械に機械油が降り注ぐ様子だったり、回転する歯車を少しずつ削っていく様子だったり、歯車に溝を掘っていく様子だったり。岩佐歯車の製造工程は、リズムというよりは「美」ですね。とにかくどれも美しいです。町工場がこんなに美しいんだ……ということを見てくれた人に感じてもらいたいところです。

木村さん:撮影とフィールドレコーディングが終わると、撮影した映像とマッチしそうなミュージシャンをセレクトし、音楽の制作を依頼します。制作を担当していただけることが決まったら、音の素材を渡し、その素材をベースに音楽を作ってもらう工程に入ります。岩佐歯車製作所さんの時は、幻想的な映像になりそうだったので、今回はビート感だけでなく揺らぎが大事かなと思い…「Inner Science」さんにお願いしました。結果、耽美的なアンビエント・トラックに仕上げてもらいました。

下浜さん:いやー、もうほんとドンピシャでしたね……!

新谷さん(ライター):僕の担当はインタビューと執筆。おおよそ作品が完成し、映像を工場の方々に観せられる段階に入ると、改めてお話を伺いにいきます。工場内を回って、「この道具って何ですか?」「あれってどんな作業工程ですか?」といった風に説明してもらいます。その内容をそのまま記事にするというより、話に出てきた内容を掘り下げて聞くイメージが近いかも。ちなみに「INDUSTRIAL JP」のホームページのインタビューを読んでいただくと分かりますが、岩佐歯車製作所さんには、「機械を動かすのにも修練が必要ですか?」とか「熟練してくると音による違いも判別できたりしますか?」といった、普段の生活の中では知り得ないような内容にも言及しています。音楽レーベル的にいえば、ミュージシャンにインタビューする感覚に近いかもしれません(笑)

下浜さん:映像と音楽だけだと、工場でどんなことが行われているか詳しく知ることが難しいので、僕らのミュージックビデオではすべて、撮影に協力してもらった町工場にインタビューし、その内容をホームページに掲載するようにしています。

藤岡将史(プロデューサー):もうひとつ特徴的なのは、YouTubeの字幕をONにすると、ミュージックビデオが流れている時に映像内の作業工程の解説を読みながら楽しめることですね。

木村さん:映像のストーリーに合わせて解説のテロップが入ると、教育番組風になるところも好きなんですよね。 メッセージの届け方っていう話でいうと、この仕掛けは「INDUSTRIAL JP」らしいかもね。このたどたどしい解説が、すごくシズっていると思います(笑)。

下浜さん:素人ながら、解説文を書いてみました……(笑)新谷くんといっしょに工場の従業員のみなさんにインタビューしているときに聞いた情報ですね。

新谷さん:“らしさ”で言ったら、購入してもらった音楽の売り上げをすべてミュージシャンの方にお渡ししていることも挙げられると思います。そもそも、手弁当に近い予算でスタートしているプロジェクトなので、関わってくれている皆さんにはできるだけハッピーになってもらいたんです。

木村さん:国内だけでなく海外で活躍しているミュージシャンの方々がみな、プロジェクト自体を面白がってくれているのはありがたい限りです。あと、音楽レーベルを標榜するということが、見方によってはいま密かに流行っているフェイクレーベル的でもあるという(笑)。この自由度については、いま一度、話しておこう。

ーー「INDUSTRIAL JP」の今後について、伺わせてください。

藤岡さん:メンバーにと話していることなのですが、工場の動画と音を使ってアプリを作りたいです。あと、町工場が盛り上がるようなリアルイベントとかできたら良いと思っています。

木村さん:イベントのオーガナイズはやってみたいです。音楽レーベルなら普通だけど、こういう角度ならまだやってないな…というようなアイデアがあれば。クラブでやると普通なことでも工場で開催するとおもしろい、とか。あとは何だろう。いま公開中の動画が海外の音楽関係者からの反響が大きいので、“日本の町工場”を舞台にした違う切り口の動画や音楽を作って発信するのもありだと思います。例えば、リミックスヴァージョンなど。

下浜さん:それぞれがやりたいことをやっているうちに、それが結果的に町工場を盛り上げる一助になれたら嬉しいなと思います。

PROFILE

INDUSTRIAL JP

工場音楽レーベル。“日本の町工場”を音楽レーベル化するプロジェクトとして、2016年10月に本格スタート。主役は日本のテクノロジーを支える高い技術力をもった町工場。美しく、緻密な製造過程から生み出される音と映像を、気鋭のトラックメーカーがリミックスし、作品化。2017年6月末現在、6作をリリース中。「東京ADC賞2017」グランプリ、「カンヌライオンズ2017」ブロンズ、「NY ADC2017」ブロンズを受賞。

写真・下屋敷和文 編集/文・紺谷宏之

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