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話題の銭湯に聞く、「仕掛けるデザインの沸かせ方」

東京銭湯 - TOKYO SENTO -

「やっぱり、いいね」。秋風が心地いいこの季節、好きな人には至福の時が流れるけれど、一度行かなくなってしまうとご無沙汰してしまうもの。そう、銭湯である。今回取材で訪れたのは「喜楽湯」(埼玉・川口市)。運営しているのは「東京銭湯 - TOKYO SENTO -」、東京を中心とした銭湯情報を届ける銭湯メディアだ。「好きが高じて代表取締役番頭になりました(笑)。喜楽湯の運営を引き継いだのは2016年。地域のコミュニティスペースになればという想いもありました」。こう話すのは日野祥太郎さん。「東京銭湯」と「喜楽湯」、この2つに加え、デザイン会社「Superposition Inc.」の代表を務めるアートディレクターでもある。忙しい合間を縫って、時々番頭にも立つ。聞けば近年、銭湯業界は厳しい立場に置かれ、その数は下降線。週に1軒のペースで減少しているそう。「僕らの活動によって、少しでも業界内外を変えていくキッカケになれば嬉しい」と日野さん。今年、その活動が評価されてグッドデザイン賞も受賞。なぜいま、銭湯なのか? 仕掛けるデザインの沸かせ方について聞いた。

ーーまず、銭湯メディア「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」 の立ち上げの経緯からお聞かせください。

日野さん:東京銭湯をスタートさせたのは2015年3月です。その前年、30歳から31歳になるタイミングで、「何か社会貢献につながるようなことをしたい」と思い始めていて。デザイン業界に身を置き、お陰さまで仕事は順調なほうだったんですが、デザイナーという職種柄、基本的に手がける仕事は受注が主。いろいろなプロジェクトに踏み込むことができ、面白いと思っていた反面、物足りなさも感じていたんです。「自分たち発信で何か面白いことはできないか?」「社会貢献につながるなら、なお良し」。こんな思いを実現するためにできることを友人たちと考えていた時、「メディアを作って何かやるのはどうかな?」というアイデアが出て、銭湯特化型のウェブメディアを作ってみようという話になったんです。なぜ、銭湯にしたのか。この理由についていろいろな人に聞かれるんですが、銭湯好きの仲間が多かったことがまず第一にあって、「銭湯に行きがてらブログ感覚で記事をアップする?」といった風に、ほんの軽い気持ちでした。当初はきちんと事業展開するところまでは考えてなく、運用のハードルを下げ、「皆で楽しみながらやろう」というモチベーションでした。個人的にも、仕事が終わった夜遅くにひとりで気分転換できる銭湯が好きで。近隣に4軒ほど銭湯があったんですが、それぞれ設備や構造に個性があり、その「しずる感」がなんともいえず好きでしたね。

ーー銭湯をリデザインする。こんなコンセプトを掲げ、「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」を運営中です。どんなプロセスを経て、ローンチに至りましたか?

日野さん:メディアとしてスタートした当初は、有志による10人ほどの仲間と「取材させていただけますか?」といった感じで、気になる銭湯に行き、記事化していきました。最初の1年は、取材を重ねていく過程で、銭湯業界の厳しい現状を知る期間でもありました。他方、僕ら自身は、実際に現場で働く人たちの声を聞くにつれ、これまで銭湯が果たしてきた文化的な役割を銭湯に興味のあるユーザーだけでなく、むしろそれ以上に「若者層に伝えていくべきでは?」という気持ちになっていきました。既存の銭湯まとめサイトとの差別化を図ることはもちろん、ターゲットを若者層に絞り込むことで、銭湯に馴染みの薄い彼ら彼女たちに向けた記事コンテンツを増やしていったわけです。

日野さん:一度ホームページを見てもらうと分かりますが、保守的な銭湯のイメージを払拭するために、パステルカラーを基調としたサイトデザインにするなど、見え感についてもアップデートしました。有志によるスタッフが多くを占めるメディアでもあったので、この頃、記事を執筆しているライターさんと閲覧者が繋がれる仕組みを機能として追加したり、新たなコンテンツとして、銭湯とその町の魅力を紹介するコラム「せんとりっぷ」、女子の女子による女子のための取材コンテンツ「銭湯女子部」を作ったりと、機能とコンテンツを拡充させていきました。SNSと連動した拡散機能も充実。日々、サイト設計がアップデートされているのは「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」らしさかもしれませんね。エンターテインメントとして銭湯体験をしてもらいたいという思いから、誰もが知っている企業やアイドルともコラボレーション。認知を広げていく仕掛けとして、人気コンテンツと連携させていただきました。大所帯ではありませんが、記事を執筆するライターさんや実制作チームにも恵まれ、感謝することしきりですね。継続できるよう、今後は収益化にも力を入れていくつもりです。

 

ーー2016年からは、「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」の次の一手として、実際に銭湯の運営をスタートさせましたね。「喜楽湯」への思いをお聞かせください。

日野さん:すでにお話してきたように、「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」は、これまで銭湯が果たしてきた文化的な役割をきちんとデザインし直し、アップデートをすることで、「実は未来へのヒントに満ちたものになるかもしれない」という思いで運営してきました。他方、業界関係者と多く出会い、取材を重ねるほどに、銭湯業界が負のスパイラルに陥らざるえない現状も知ることになります。業界の情報発信力が弱く、新規のお客さんの獲得が難しいこと。家族経営で運営している銭湯がほとんどで、新しい人材の獲得ができていないこと。そして、利用者の減少とともにキャッシュが回らず、設備の向上やリニューアルができないこと。残念ながらこんな現状があったわけです。「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」として何かできないか。こんなことを考えていた折り、縁あって「喜楽湯」と出会いました。

日野さん:1950年代から続いていた喜楽湯は、聞けば川口市の中でも歴史ある銭湯として地域に愛される存在。薪と井戸水を使っている昔ながらの銭湯でした。しかし残念というべきか、前任の借り手が辞めてしまい、一時的にオーナーさんが運営していたのですが、新たな借り手を探している状況で。そんな状況下、取材でつながった縁で、昨年から「東京銭湯 – TOKYO SENTO -」が運営を引き継げることになったんです。一般的に銭湯は代々続く家業で、外部の事業者が運営するのは稀なこと。営業するにあたり、仕込みや締め作業の習得からスタートし、銭湯運営に関する最低限のスキルを得ることも不可欠でした。しかし実際に営業をスタートしてみると、常連客の皆さんを相手にした暗黙のルールにはじまり、売り上げを見込めないアメニティグッズなど、運営すること自体、多くの困難が伴いました。

日野さん:郷に入っては郷に従え。こんなことわざがあるのも事実ですが、多くの課題に対して改善していくことも求められて。「接客しづらい狭いフロントはどうする?」「浴場にペンキ絵がないけど、このままでいいのか?」「人員不足にどう対応する?」「これ以上の集客は本当に見込めないのか?」。ここに挙げたのはほんの一例で、こんな風に多くの課題があり、ひとつひとつアイデアを出し合いながら、改善し続け、現在に至っています。地域の人たちに知ってもらうため、今年からは定期的に銭湯という大きな空間を利用し、イベントも行っているんですよ。今夏は「流しそうめん」や「夏の映像祭」、「子供向けのカメラ教室」などを開催し、新規のお客さんも増えてきています。そのほかにも、喜楽湯オリジナルのリーフレットを作ったり、オリジナルグッズの販売をスタートしたり……地域の人たちが気軽に交流できるよう、さまざまなアクションを起こしている最中にあります。僕たちらしいスピード感で、いまの時代に合った「これからの銭湯の姿」を模索していければと思っています。ぜひ一度、喜楽湯にお越しください。

PROFILE

東京銭湯 - TOKYO SENTO -

2015年3月にスタートした銭湯特化型のウェブメディア。銭湯情報を中心に、銭湯をモチーフにした商品、銭湯でのイベントなど「銭湯」をキーワードにした情報をキュレーション。“地域コミュニティの場”として機能する“知られざる”銭湯の素晴らしさを、バリエーション豊かな記事コンテンツで届けるほか、企業やアイドルとのタイアップなどにも積極的。2016年からは「喜楽湯」(埼玉・川口市)の運営も手がける。

写真・下屋敷和文 編集/文・紺谷宏之

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