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暮らしとメディア・アート。豊かさとは何か?【前編】

Qosmo × Takram

1997年、まだ日本においてメディア・アートに対する認知が広まっていない時代から、国内外のメディア・アートシーンを牽引してきたNTTインターコミュニケーション・センター「ICC」。開館準備から同館に携わり、数々の企画を手がける主任学芸員の畠中実さんは、「ICCはオープン当初から、“豊かな未来社会を構想する”ということを活動理念として掲げてきたんです」と話す。今回で12回目となるオープン・スペース展のテーマは「未来の再創造」。先人たちが想像した未来が現実となったいま、従来の“未来”に対するイメージをリブートしたいという。このテーマに対して、AIを使い、現実には未だないニュースを自動的に生成する「The Latent Future—潜在する未来」を制作したQosmo徳井直生さん(写真・右)、そして「見る」より先に「聞く」ことで、改めて知覚を意識し直す「Oto-megane」を出展中のTakramの緒方壽人さん(同・左)。このお二人と、畠中さんを交えた座談会の前編では、メディア・アートとテクノロジーの関係について聞いた。

今ある日常を、新しい角度から捉える作品

緒方さん(Takram):徳井さんは、今回の展覧会のために新作を作られたんですよね。

徳井さん(Qosmo):ちょうどテキストを生成するモデルの実験や学習を進めていたところで、今回のお話をいただいて。そのモデル自体が持っている美しさに惹かれていたと同時に、社会をより民主化するという理想を元に作られたはずのインターネットが、逆に利用されることでフェイクニュースやトランプ大統領の誕生につながったという現状を、モデルの力を使って問題提起できればというのがそもそもの発想でした。あと今回の作品を見ていると、だんだん実際のニュースと生成されたニュースの境界が曖昧になっていく感覚になって。市場原理の力が働きやすいフィルターバブルのような仕組みの中では、もしかしたら未来ではAIが個人個人にターゲットを絞って、耳触りの良いニュースを生成するようなことが起こり得るかもしれないですよね。そういうある種、SFのようなフィクションを作品としてまとめてみました。

緒方さん:徳井さんの作品もそうなんですが、僕は当たり前だと思っていたものがそうじゃないって気づくとか、違う視点を得ることにアートの一つの役割があると思っていて。作品について説明すると、まず音だけが先に聞こえてきて、壁に肉眼では真っ白で何も映っていないように見えるディスプレイと、虫眼鏡みたいなものが掛かっています。そして、眼鏡を通して見ると音を生成している映像が見える。いま僕らが当たり前に見ているディスプレイやテクノロジーの仕組みについて、もう一回分解して見てみることで新しい視点をテクノロジーに対して与えているんですね。サイエンスやテクノロジー、デザインやアートとの境界領域の面白さって、こういう気づきにあると思いながら作品を作っています。

畠中さん(ICC):緒方さんの作品にはメディア・アートとかコンセプチュアル・アートとか、同時代のさまざまなアートの要素が凝縮されているように感じました。たとえば、ディスプレイを改造して別の固有の装置を作る、ということはメディア・アートがこれまでもずっとやってきたことなんです。この作品では、音楽から、波形や動き、実際に演奏している映像などが別々のディスプレイに提示されています。最初は音として知覚するんだけど、その音源を探るようにして、同じ音楽がそれぞれ3つの違う様態で見せられているのを順番に見ていく。それらが自分の中で再構築された時に、より大きなイメージを結ぶ。いろいろな要素が端的にまとめられているところが、正にメディア・アートだなと。

 

そもそも、メディア・アートとは何か?

緒方さん:多摩美の久保田晃弘教授が、「メディア・アートはコンテンツ非依存であるべき、だからこそ“メディア・アート”って言う」とお話されていて。いろいろな考え方があるとは思うんですが、確かに僕が作っている作品も、徳井さんが作っている作品も、中身が入れ替え可能で、面白さが中身に依存していない。それがメディア・アートの一つの定義としてあると思います。

徳井さん:コンテンツではなくて、仕組みだったり、体験そのものだったりが面白いっていうことですかね。

畠中さん:自分のメディアとなる固有の装置を作ることで、それにともなって作品自体を内容として見せることができる。「メディア・アートが分からない」って言われるのは、その装置自体のおもしろさではなく、どのようなコンテンツが見られるのかっていうことの方に比重がいってしまうからだと思います。

徳井さん:僕の作品だって、生成されている文章だけ並べてみても多分意味がなくって。生成されている文章そのものよりも、生成されている文章の裏側にある、学習された文章を含めた全体の仕組みに価値があると思うから、そこを見て欲しいですね。

畠中さん:だからその”部分”だけを取りだすと、「なんだこれは?」っていうことになりかねない。

徳井さん:コンテクストが可視化されているっていうことですよね。特にAIに関することをやっていると、どうしても人間に勝つとか、人間よりも正しくとか、人間らしい文章を生成するみたいな、正しいかどうかっていうところにフォーカスが当たりがちです。でも、そうではないAIの使い方も多分あると思うんです。例えば、間違っているかもしれないけれど、今まで人間が思いつかなかったような文章、みたいな表現に行き着くところがAIの面白さだと僕は思っているので、メディア・アートという枠組みを使ってその辺に光を当てられたらなと思いますね。

 

アートとテクノロジーが融合した時、表現は拡張する

畠中さん:例えばアルゴリズミック・コンポジションのように、コンピュテーションという人間の能力を超えるものによって、逆に人間がインスピレーションを受けるということがありますよね。そこから今のAIと人間の協働みたいなものまでに至る、テクノロジーとの付き合い方があると思うんです。お二人はもともと、どういう形でテクノロジーと付き合い始めたのか、またテクノロジーを使うことによって何が表現できるようになって、それが今、自分の手段としてどう適しているかをお聞きしたいです。

緒方さん:僕は工学部出身で、エンジニアリングから入って、その後にIAMASに行くんですけど、そこで印象に残っている授業の中での言葉があって。やっぱり歴史を紐解けば、写真の発明もそうだし、遠近法とか一点透視図法とかそういうものも、その当時はある種の最先端テクノロジーだったと。それをどう使いこなしていくかという意味では、現代のテクノロジーも姿勢としては変わらないかもしれなくて、同じように捉えればいいのかなという風に、個人的には思っています。

徳井さん:僕はたまたま、大学3年の時にカール・シムズのガラパゴスという作品をICCで見て衝撃を受けたのがきっかけで。12個のスクリーンの中にシンプルな数式で表されている仮想的な生命体が映っていて、最初はランダムなんですけれど、その中から親になる2つを選んで次の世代が生まれるということを繰り返していくと、より複雑で美しく面白い動きをする生命体ができるという作品でした。面白いのは、その結果について、システムを作ったカール・シムズ自身も説明できないんです。ちょうどその頃、僕は音楽を作り出していて、どうすれば人と違うことができるかと考えていた時期で。そういうシステムを作って自分の限界を拡張できたらいいなと思ったので、人工生命と人工知能の研究をやっている研究室に進みました。

畠中さん:研究においては有用性という部分で駆動していくと、たとえばそれ自体が持つポテンシャルを発揮しないままになることもあるのではないでしょうか。だから実際に社会に役立つように使われる一方で、そこからスピンオフしていろいろなものが芸術表現に用いられるようになったとも言える。そこから有用性が発見されて、またそれがフィードバックする、みたいなことが起きているのではないでしょうか。

徳井さん:言ってしまえば、今のAIの進歩って、GPUっていうプロセッサが発展したことによって可能になったんです。もともと、より美しいグラフィックスでゲームをしたいからという理由で開発されていたものが、回り回って実は人工知能のアルゴリズムに使われるようになったという歴史もあります。歴史を紐解いたら、そういう例って数えきれないぐらいあるんでしょうね。

 

後編に続きます。

PROFILE

Qosmo

2009年設立。創作の過程にアルゴリズムを介在させることで、新しい気づきや視点をもたらす表現を実践する。社名である「コズモ」は「宇宙の秩序」と「純真な花」、両極端の意味を持つ単語「コスモス」に由来する。 近年は「Computational Creativity and Beyond」をモットーに、AIを用いた作品制作、アルゴリズミックデザインなどを手がける。

PROFILE

Takram

2006年設立。デザインとエンジニアリングの両分野に精通するデザインエンジニアを中核に、プロダクトデザイナー・グラフィックデザイナー・ビジネスデザイナー・教育者といった多様なプロフェッショナルが集うデザイン・イノベーション・ファーム。仮説を立て、実験を行いながら、手探りの中で新しいプロセス・アプローチ・ジャンルを生み出し、常に社会に変革を提供し続ける。

写真・三宅祐介 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

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