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暮らしとメディア・アート。豊かさとは何か?【後編】

Qosmo × Takram

1997年、まだ日本においてメディア・アートに対する認知が広まっていない時代から、国内外のメディア・アートシーンを牽引してきたNTTインターコミュニケーション・センター「ICC」。開館準備から同館に携わり、数々の企画を手がける主任学芸員の畠中実さんは、「ICCはオープン当初から、“豊かな未来社会を構想する”ということを活動理念として掲げてきたんです」と話す。今回で12回目となるオープン・スペース展のテーマは「未来の再創造」。先人たちが想像した未来が現実となったいま、従来の“未来”に対するイメージをリブートしたいという。このテーマに対して、AIを使い、現実には未だないニュースを自動的に生成する「The Latent Future—潜在する未来」を制作したQosmo徳井直生さん(写真・右)、そして「見る」より先に「聞く」ことで、改めて知覚を意識し直す「Oto-megane」を出展中のTakramの緒方壽人さん(同・左)。このお二人と、畠中さんを交えた座談会の後編では、クリエイティブワークのプロセスとその本質について聞いた。

チームで制作する際の、作品づくりの極意

緒方さん(Takram):僕の場合、使い道のよく分からない技術のタネが入った引き出しが頭の中にあって、制作プロセス中にそれらを組み合わせながら作品づくりをすることが多いですね。毎回チームも違うので、その時々の人との出会いからインスピレーションを得て、共創していきます。自分の専門分野でない領域に関しては、例えば「Oto-megane」の音楽だったら松井敬治さんにお願いするというように、相手から未知のものが出てくることを期待することもあるので、ディレクターとしてデザインエンジニアとして、プロジェクトの方向性を示すことに軸足を置くことも多いですね。

徳井さん(Qosmo):分かります。ケースバイケースですよね。

緒方さん:難しいなって思うのは、どこまでディレクションするか。クライアントワークでもそうなんですが、途中を見せてくれって言われることが少なくない。でもその段階で見せると、伝わらない(笑)。その弊害をいろいろと経験しているので、逆に自分がコラボレーターにお願いする時はある程度任せて、きちんと向こうが納得する形で提示をしてもらうまでなるべく待つようにしています。

徳井さん:ICCに展示中の今回の作品では、システムは僕が作っていて、映像は主に堂園(翔矢)が、ビジュアルのクオリティを上げるための作業は梶原(侑馬)とロビン(ジャンガス)がやっています。音楽は澤井妙治という長い付き合いのサウンドアーティストが担当しています。作る過程で気をつけたのは、僕のチームはメンバーが若手中心なので、僕の方から細かく言うと必要以上に縛られやすいだろうなと思い、あえてあまり注文をつけていません。作品のアイデアを固める前にシンプルな技術デモを僕が簡単に作って、イメージだけ決める。進む方向と、着地点のフェアグラウンドの幅が決まったら、どうやるかは他のメンバーに任せています。

畠中さん(ICC):それはお二人とも、最終的に作品の見えがどうなるかということは曖昧なままに作っておいて、あとはコラボレーターが何を出してくるかによって自分も変わっていくような、相手を受け入れる部分を持っていないと難しいですよね。出てきたものに対して、それを受け入れるような姿勢で作っているっていうことですか?

徳井さん:そもそも僕の場合だとやっぱり言語のモデルを作っていて、学習が終わるまで、システム的にどう動くか全然分からないっていうところがあるので、当然アウトプットがどうなるかっていうのもやってみないと分からないし、そもそも作品として成り立つのかという不安も抱えつつ見切り発車で始めていて(笑)。だから、最初から着地点までの地図を共有していたというよりは、なんとなくこっちの方向というコンパスだけ持ってスタートした感じですね。

緒方さん:そういうチームマネジメントはすごく大事ですよね。あと、他のメンバーも言われたままにやると単にアシスタントになってしまうので。会社としてメンバーみんなで成長していくことや、それぞれが名前を出していくことを目指しているので、決めすぎないということを大事にしています。

 

クライアントワークとアートとの境界線

緒方さん:クライアントワークも最近変わってきているなと思います。ビジネスの世界でも、何か新しい体験や価値をみんな探しているので、スペキュラティヴ・デザインのような考え方が出てきたということも含めて、アート思考のようなものがビジネスの場面でも求められてきている気がします。

徳井さん:特にAIみたいなものの場合、テクノロジーに関するリテラシーがまだ定まっていないし、クライアント側もぼんやりとしかわかっていない状態なので、僕らから提案しないと良いものにならないということが、最近本当に多いんです。Takramさんの場合も、自社発信で提案する方が多いんじゃないですか?

緒方さん:そうですね。

畠中さん:実際に実装できるかは置いておいて、ビジョンやコンセプトを先に提示する。それが実現できる社会を想定して、どう展開していくかっていう道筋を予めつけておくということですね。

緒方さん:その一方で、クラウドファウンディングのように、作れる前提で、ある程度実装込みで提示してしまうという流れも、最近はありますよね。

徳井さん:僕はその中間を狙うことが結構ありますね。単にコンセプトを言ったところで「まあそういうのがあるかもね」で終わっちゃうし、逆に今できる技術で作っても、それだけだとそんなに面白いものにはならなくて。その中間のところで、こういう未来があるかもっていうことをある種のプロトタイプとして先ず提示することで、自分たちにとっては実験になるし、クライアントに対しても、よいプレゼンテーションになるんじゃないかなって思います。

緒方さん:僕らも、どこまで先の世界を体験してもらうのかを考えつつ、でも今のテクノロジーを使って作らなきゃいけないという間で、日々せめぎ合いながら作っています。そのためにクライアントワークではない形で作品を作るチャンスがあるのは、今まだ使っていない引き出しを実験するという意味でも重要だなと思いますね。

畠中さん:メディア・アート界隈の人は、作品を「制作」ではなく「開発」っていう言葉を使う人が多いですね。一方で、ある時代までのSFがある役割を果たしたように、これまではイマジネーションが現実を駆動してきたという面もあると思います。J・G・バラードが「人間に残された最後の資源は想像力だ」と言ったように、想像力を開発するというところにもう一つ、それを実現するベクトルもあっていいのかもしれませんね。

 

暮らしとメディア・アート。豊かさとは何か?

緒方さん:最近結構いろいろなところで「環世界」という考え方を聞くんですが、動物は生命維持に必要な入力と出力のフィードバックの中で生きていて、その環から出ることがない。その代わり、特に悩みもしないわけですが、人間はそこからなぜか出ようとする。そうやって今まで当たり前だと思っていた環境から新しい視点を持って飛び出すということがクリエイティブなプロセスだとすると、そこに「豊かさ」みたいなものがあるのかもしれないと思います。先ほど話で出たフィルターバブルもある種の「環世界」みたいなもので、その中にいる限り安心だと思うんですけれども、でも実は外があるんだよっていうことを知ることが大事なんじゃないだろうかと。

徳井さん:一般的にこれまで、技術はより速く、より小さく、そしてより便利にという合理性の原理で動いてきました。でもインターネットやスマートフォンが登場して便利に、いつでもやり取りできるようになった一方で、それが原因になってフィルターバブルや、スマホ中毒が生まれるという現状がある。この技術駆動でずっと動いてきた現状に対して「豊かさとは何か?」ということを技術を使って自己言及的にモノを申すというか、オルタナティブなビジョンを見せていくのがメディア・アートの取り組みなのかなと思っています。答えはないんですが、問いを投げかけることで、見た人に一緒に考えて欲しいですね。

畠中さん:これからも思考し続けてくださいね。期待しています。

PROFILE

Qosmo

2009年設立。創作の過程にアルゴリズムを介在させることで、新しい気づきや視点をもたらす表現を実践する。社名である「コズモ」は「宇宙の秩序」と「純真な花」、両極端の意味を持つ単語「コスモス」に由来する。 近年は「Computational Creativity and Beyond」をモットーに、AIを用いた作品制作、アルゴリズミックデザインなどを手がける。

PROFILE

Takram

2006年設立。デザインとエンジニアリングの両分野に精通するデザインエンジニアを中核に、プロダクトデザイナー・グラフィックデザイナー・ビジネスデザイナー・教育者といった多様なプロフェッショナルが集うデザイン・イノベーション・ファーム。仮説を立て、実験を行いながら、手探りの中で新しいプロセス・アプローチ・ジャンルを生み出し、常に社会に変革を提供し続ける。

写真・三宅祐介 文・井上結貴 編集・紺谷宏之

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