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クリエイターの働き方を考える。山形・仙台・東京の今とこれから

クリエイターは、働き方も自分でつくることができるはず

地方の山形、地方中枢都市の仙台、都市の東京。それぞれに人との関わりも、生活のリズムも、制作の方法も、ちがうように見える。この秋BAUSは、東北・仙台にて、クリエイターの働き方を考えるトークイベントを開催。各地域を代表して、全国的にファンの多い山形のデザイン事務所アカオニデザイン代表の小板橋基希さん、仙台に事務所を構えながら大学でも教鞭をとっているアイハラケンジさん、東京でアートやカルチャーを通して場所に付加価値を与え続けているモーフィングのプロデューサー酒井博基の3人、そしてBAUS発起人の加藤晃央がファシリテーターを務め、「仕事」「環境」「人」のキーワードに沿って、働き方について語り合った。

山形、仙台、東京の各地を代表しクリエイター3人が集結

小板橋基希(以下小板橋):こんにちは、アカオニデザインの小板橋と言います。事務所の机に向かってデザイン制作しているだけでなく、漁船に乗ったり、森を散策したり、子守をしながら撮影に行ったりしています。先日は猟師さんのところに行ったら剥いだばかりの鹿の皮があって驚いたりと、刺激的な現場が多いです。ちょっと誇張してる感じはありますが、バラエティー豊かなお客さんと仕事をしています。
仕事のほとんどは直受けで、半分くらいが個人事業の方です。若くて経営判断できる意欲的な方が多く、話していく中で「よろしくお願いします」と仕事が決まります。一方、中小企業の経営者は年齢層が高いせいもあって、私たちのような規模のデザイン会社に仕事を依頼してくれるケースはあまり多くありませんでした。ただ最近、若くてデザインに理解ある広報担当の方々が増え、地方の中小企業もしっかりデザインを活用していこうという流れになってきたと感じます。

イベント前半は、それぞれの仕事の事例をたっぷりと紹介いただいた

アイハラケンジさん(以下アイケン):こんにちは、アイハラです。仙台で個人事務所(株式会社アイケン)を経営しながら、山形にある東北芸術工科大学のグラフィックデザイン学科の教員をやったり、ハルケンLLPやイヌックマLLPという会社もやっています。一つの会社・組織ではなく、複数の組織に属しながら生きていくということを違和感なくやっている人間です。もしかしたらこのどれかが終わるかもしれませんし、さらに増えるかもしれませんが、そういう形で動いています。
芸工大では、教育研究、産学連携を。アイケンでは、個人事務所としてクライアントワークを他のクリエイターさんなどと一緒にプロジェクトベースで請け負っています。ハルケンでは、アート関連の仕事、展覧会のキュレーション、出版物を作ったりしています。イヌックマは、プロジェクトベースの仕事とは別に、固定したチームで何か仕事をしていきたいと思い今年新たにつくった会社です。僕のアイケンという会社と、仙台の「クマノテキカク」という会社で合同でやっています。

酒井博基(以下酒井):僕は今、モーフィングで美大生やクリエイターと一緒にまちづくりや企業のプロモーションの仕事をしています。たとえば、東京の中央線の高架下空間を、地域の人を巻き込みながら自分たちの場所に自分たちで賑わいをつくっていける仕組みをつくりました。
最近は、ナチュラルローソンさんと店頭の看板を手書きで描いてくれるイラストレーターをBAUSで募集しました。5人の枠に対して全国から40人くらいの応募があって、中には福岡からいらっしゃったイラストレーターさんもいました。ナチュラルローソンの担当者さんが、「大企業も、本当はクリエイターに直接注文したりコミュニケーションしたい。ところが代理店を介すなど、いつしか当たり前のことができない仕組みになっていたんです。だからBAUSを使いたい」とおっしゃっていて非常に印象的でした。

仙台の会場THE6に、東北各地からクリエイターや学生が集まった

“仕事”
人づきあいみたいなところから仕事が生まれる


加藤
:どうやってそもそも仕事が来るのか、クライアントや発注者との関係をお聞きできたらと思います。

小板橋:パッケージデザインした商品が流通しているので、それらを見て頼まれる方が多いです。また、会社のウェブサイトもポートフォリオサイトを意識してをつくっています。

加藤:山形の仕事しかしていないというわけではないですよね。

小板橋:山形、東北、その他がそれぞれ3分の1ずつという割合ですね。山形県内でも車で2時間かかる場所もあるので、県内、県外ということはあまり関係ありません。遠方の場合は、最初の一回は直接会い、キックオフミーティングをして、あとはSkypeでミーティング‥‥、なんていうこともあります。

加藤:アイハラさんはどうでしょうか。

アイケン:僕は営業をしていません。尚且つ、ポートフォリオサイトもないんで僕の名前を知らない人の方が多いと思います。仕事の実績が他の人に伝わって、人づきあいみたいなところで仕事に繋がっています。自分で言うのもなんですが、すごく恵まれている方だと思います。デザイナーの評価は成果物がメインだと思いますが、それ以外の対応や顧客満足度、「ちゃんとやってくれている」という信頼感も大切だと思っています。

小板橋:アイケンは東北の仕事、どうやって見積もりを作っているの?

アイケン:グラフィックの業界だと「ページ単価」というような単価計算になることが多いのですがそれは一切していません。人がどれだけ動いたのか?という単価が基本であるべきだと思うので、「僕はこれだけ動くよ」と業務量に応じて、工数単価(人工 [にんく] )で見積もりを出します。でもそれだけでは金額の折り合いがつかない場合が多い。そこでもう一つポイントとしてあるのが「値引き」です。単価を下げるのではなく、値引きをするんです。

加藤:いわゆる、出精値引きの表現ですね。赤字に書いちゃったりして(笑)

アイケン:まさにそれです。クライアントさんとのある種の駆け引きがそこにはあるので、見積もりつくるの、一番好きかもしれません(会場笑)

小板橋:うちはもう真逆ですね。一番苦手です(笑)

アイケン:見積もりをクライアントに褒められたこともあるよ(笑)

加藤:企業か個人によって見積もりの内容を分けたりするんですか?

小板橋:クライアントさんが聞いてたら怒るでしょうが、なんとなくですよね。それ以外に本当に答えようがなくて。逆に予算を言ってもらった方が楽ですよね、これはできません、ここまではできます、と言えるので。

「アカるく、すなオニ」本質を捉えたデザインを目指すアカオニデザインの小板橋さん

加藤:お金の話を出すタイミングが肝だと思っていて、「こういうことがやりたいんです」と言われて「いくらあるんですか?」とは聞けないじゃないですか。テンションを下げてしまいますよね。

アイケン:僕は、まず最初にクライアントさんに相見(あいみつ・相見積もり)を取っていないか聞きます。取っていたら降ります。要するに、金額で勝負しないと決めているんです。

加藤:競合コンペでも同じスタンスですか?

アイケン:はい。見積もりって無料で出してもらえると思っているクライアントさんが多いんですけれど、実は見積もりほど時間がかかるものはない。コンサルティング業界やシステム業界だと、見積もりだけで結構な金額を取るところもある。そういう感覚はクライアントさんに持ってもらわないといけない。だから僕は本気で見積もり作りますし、相見(あいみつ)と言われた段階で降ります。見積もりつくるの大好きなんで(笑)

小板橋:笑って見積もりつくってるんでしょ?(笑)綺麗な見積もりが、良い見積もりですか?それとも高い見積もりが、良い見積もりですか?

アイケン:論理的な整合性がある見積もりが、良い見積もりです!

教育の現場も含め、複数の組織を横断しながら仕事をするアイケンさん

人”
Uターンで帰ってきたクリエイターに会ってみたい


加藤
:みなさんのチーム編成の方法など聞いてみたいです。

小板橋:うちは、自社にライター、デザイナー、カメラマン、ウェブデザイナーが揃っていました。去年カメラマンが独立してしまったんですけど、今も気心知れたカメラマンが近所に2人いるので、近い距離で外注しています。社内で仕事を回した方が、粗利も高いですし、ディスカッションも多くできるので、内製化しています。

アイケン:僕は完全に予算、バジェット次第。自分で全部完結してやる場合ももちろんありますが、他の人に頼んで予期しないものができてくるとか、自分が考えていたものを超えるものがつくれた方が楽しいじゃないですか。

加藤:新しいクリエイションの可能性として、新しい発注先は探していますか。

アイケン:仙台に来てからは積極的に探すことはしていないですが、良い人がいたら一緒に何かしたいですね。

小板橋:僕もあまり探してないですね。でも山形には、都内で良い仕事をしていたという方もUターンで帰られていて、そういう人たちは会ってみたい。近い方がいいんです。

酒井:モーフィングは、クリエイターを巻き込む前提で内製化しない仕組みなので、いかにそのプロジェクトがクリエイターにとってときめくプロジェクトになっているのかというのが生命線になってくる。コストのこともありますが、面白いと思って関わってくれるかどうかにこだわっているところです。

「六本木未来会議」など数々の文化プロジェクトを手がけてきたモーフィングの酒井

環境”
東京は情報の周期が早すぎて、創造性を温めにくい


加藤
:今日のイベントのタイトルに、山形、仙台、東京というエリアごとのキーワードが入っていますが、今そこで仕事をする理由を教えてください。

小板橋:山形にいるのは、明確な理由があってそうしたわけではありません。実家の群馬に帰るという選択肢もあったんですけれど‥‥。東北が漠然と好きなのかもしれません。

アイケン:僕は地元が仙台なんですが、キャリアのスタートは東京からでした。家庭の都合で戻っているという感じで、実際にはあまり場所にこだわりはないんです。実は仙台の仕事はあまり多くなく、東京がほとんどだったりします。東京まで新幹線で1時間半、インターネットを使えればどこでも仕事ができることを考慮すれば、東京にいなくてもいいかもと思い、仙台に戻ってきました。

加藤:制作に集中できるとか、自然があった方がいいとか、そういったことではないということですよね。

アイケン:東京と地方の話で言うと、東京は情報が多すぎですね。東京から離れたところで、本質的なところにもう少し注力していける環境は、なんとなくいいなと思います。

酒井:外から入ってくる情報の周期が早すぎて、創造性をじっくり温めにくいというのは感じます。

アイケン:サイクルが早すぎて、全部コンビニエンスな感じで回っていくというのは、東京に限った話ではなくて、時代の話である気もしますね。

酒井:温める時間が足りないと、外からの情報に対して打ち返すクリエイションしかできなくなって、プロジェクトを時間をかけて自分でつくっていく発想が希薄になっていく。昨日、仙台と石巻を巡ってきて、素敵なプロジェクトを自分で持ってる人っていうのが本当に多いなと思いました。

アイケン:打ち返すだけになると、物事が全部、悪い意味で「わかりやすい」方向にだけいってしまうのを危惧しています。もっと「わけのわからないもの」がクリエイティブの本質だと思っているのですが、そういうところを拾っていくのは地方の方がやりやすいのかなと思います。東京も好きで住んでいましたから、面白いところという実感はありますけどね。

酒井:小板橋さんは、地方の方がやりやすいことはありますか?

小板橋:東京は「新しさ」を追いかけますよね。一方で地方にはそういう軸じゃないデザインが生まれる可能性があるかもしれません。頑張ってつくったデザインを、おじいちゃん、おばあちゃんに見せた時にどうリアクションするかとか、そういうものの方がプリミティブに面白い場合があります。東京とはちがうデザインが、地方には多少残っている気がします。それだけでは勝負できないとも思いますが、可能性を磨いていけば光るのではないかと思っています。

PROFILE

小板橋 基希(アカオニデザイン代表/アートディレクター/デザイナー)

1975年群馬県中之条町生まれ。2004年〈アカオニデザイン〉設立。以来、グラフィックデザインからWeb、写真、動画、コピーワークなどあらゆるクリエイティブを駆使するデザインチームのリーダーとして、ブランディングや商品開発や広報さらには私生活の些細な相談事に至るまで、全国津々浦々に点在するクライアントの様々な要望に応えている。2015年にはまちづくりカンパニーである株式会社マルアールの立ち上げに参加し現在は取締役を務める。

PROFILE

アイハラ ケンジ(株式会社アイケン代表/東北芸術工科大学准教授/halken LLP共同主宰/inukkuma! LLP共同主宰)

1974年東京都生まれ、仙台市育ち。東北芸術工科大学卒業、同大学院修了。クリエイティブディレクション・アートディレクションを専門として、様々な企業や団体の活動をクリエイティブの方面からサポートしている。株式会社アレフ・ゼロ(現 株式会社コンセント)、ネットイヤーグループ株式会社を経て、2002年 株式会社コンセントを設立(取締役・アートディレクター)。同社退社後、株式会社アイケンを設立(代表)。武蔵野美術大学(2000~2010年)、専修大学(2006~2009年)等の非常勤講師。AMDアワード ベストディレクター賞、ACM’s Special Interest Group on Computer-Human 選出など。JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)会員。近年は、halken LLP(ハルケン)を共同主宰し、展覧会・展示会のキュレーションからアートブックの企画・出版なども手掛けている。2017年よりクリエイティブブティックinukkuma! LLP(イヌックマ)を共同主宰。また、2014年より東北芸術工科大学にて後進の育成にも従事している。

PROFILE

酒井 博基(BAUS MAGAZINE 編集長/株式会社モーフィング)

1977年、和歌山県生まれ。武蔵野美術大学大学院修士課程修了。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程中退。文化芸術活動を「企業や地域の課題を解決する創造的なコミュニケーションの触媒」ととらえ、企業やブランドマーケティング価値を最大化する、戦略的コミュニティマネジメントを専門領域としている。代表するプロジェクトは「六本木未来会議」「中央線高架下プロジェクト(コミュニティステーション東小金井)」「LUMINE CLASSROOM」などを手がける。グッドデザイン特別賞[地域づくり]をはじめ、受賞歴多数。

PROFILE

加藤 晃央(BAUS発起人/株式会社モーフィング代表/世界株式会社共同代表)

1983年、長野県生まれ。武蔵野美術大学芸術文化学科在学中に起業し、株式会社モーフィングを設立。商品開発や広告企画制作請負の他、美大生のフリーマガジンPARTNERの発行、美大総合展覧会THE SIXを立ち上げる。また、美大生に特化した就職メディア「美ナビ」を運営し、森ビル株式会社と共同で就職展覧会「美ナビ展」を開催し盛況を得る。2013年には、同世代のフリーランスや独立の流れを感じ、井口皓太とクリエイティブアソシエーション世界株式会社を設立。クリエイティブチーム株式会社TYMOTEにもメンバーとして在籍し自身も多様な働き方を摸索し、在籍する組織間を横断活動中。

会場、企画協力・THE6(http://the6.jp/)
写真・後藤壮太 文・高野明子 編集・上野なつみ

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