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ママクリエイターのはなし。vol.02 フォトグラファー 柳詰有香

「子供ができたからこそ、道が開けました」

ママクリエイターのはなし。連載2回目、今回話を聞いたのはフォトグラファーの柳詰有香さん。暮らしのひとコマに少しだけ魔法をかけるような、色彩豊かな作風で知られる彼女は、雑誌や広告など幅広い領域で活躍中。ふたりめを妊娠中のいまも仕事に精力的だ。「例えばフードの撮影。フードスタイリストさんだったり編集さんだったり、みな、食に対する意識が高くて、日々の暮らしに役立つ料理のコツもたくさんも学べる。しかも美味しい手料理を食べながら(笑)。毎回、現場ごとに何かを得て帰れるから仕事が楽しいんです」。彼女の師匠は蜷川実花さん。3年間、アシスタントとして師事し、独立。やがて結婚し、第一子を出産した後、フリーランスとして本格的に始動。現在、3歳8ヵ月の男の子を育てながら、ママとして妻として、仕事と家事を両立する日々だ。聞けば、子供が生まれたことで健康や食への興味が増していき、暮らしをテーマにしたライフスタイル誌やフード関連の仕事が増えていったそう。「子供たちの成長とともにライフスタイルが変わると思うので、そこに自然と合わせていくように仕事をしていけたら、いいですね」。パワフルの源はどこにある? 柳詰さんに「ママクリエイターのはなし」を聞いた。

ーー写真に興味を持ち始めたきっかけから聞かせてください。

柳詰さん:小さい頃からカメラ好きの父の影響で、写真を撮ることも撮ってもらうことも好きだったんです。成長するたびに、自分の小さい頃の写真を見返せるっていうのがすごくいいなと思っていて。中学生の頃は「写ルンです」を常に持ち歩き、スナップ写真をよく撮ってました。自分の中でテーマをもち、初めて写真と向き合ったのは大学生の時ですね。1年間、イギリスのアート系の大学に留学する時、父からアナログのフィルムカメラを貰って。そのカメラを持って2ヵ月ぐらいヨーロッパを旅したんです。テーマは旅、そして子供。ベタですね(笑)。自分がそうだったように、小さい頃って写真を撮ってもらうのって嬉しいじゃないですか。被写体は、旅をしながら出会い、仲良くなった子たち。「わー 表情、可愛い」「この子の表情、おもしろい」。道中はずっと、こんな感じでしたね。ただ、この時点ではまだ、写真を仕事にするとは全く思ってなかったんです。

間もなく、ふたりめが生まれる柳詰さん。「8ヵ月ぐらいまで仕事に邁進していました(笑)」
旬な食材と料理を切り撮り、京都の四季の風景を綴った写真集『CIRCLE』では企画・撮影を担当

ーーフォトグラファーになったきっかけは?

柳詰さん:たぶん、いま仕事をしている人たちは誰も知らないと思うんですが、じつは私、学生時代は理数系でプログラミングとかゴリゴリやる派だったんです。その道を極めたいと思い、大学卒業後、Webの制作会社で働いていて。働きながら、趣味の延長で社会人の仲間と写真展をやったりしてたんです。その頃、当時好きだった蜷川(実花)さんの個展に行ったら〈アシスタント募集〉の張り紙。これが運命でした。アシスタントとして、尊敬する師匠のすぐそばでプロの仕事を目の当たりにしながら、ひとりの人にすべてを捧げられる環境に身を置けたのは、とても貴重な経験の連続で、毎日すごく刺激的でした。3年間お世話になり、卒業が目前となったときにふと頭に浮かんだのが編集者という道。けっこう珍しいキャリアだと思うんですが、作家として写真一枚で勝負するよりも、ストーリーがあって何枚かの写真で世界観を作っていくほうが自分に向いていると思い、編集の経験をしたいと思いました。結局、カメラマンとして独立したのは、子供を産んだことがきっかけですね。

この日はスーパーフードとして注目を集める「Chia Seed」の入ったクッキーの撮影

ーー柳詰さんの現在の家族構成を教えてください。

柳詰さん:夫と、3歳8ヵ月の男の子の三人家族です。間もなく、ふたりめが生まれるんですよ。夫は映像プロデューサーです。私もフリーのカメラマンになる前までそれはもう、不規則な時間軸で仕事をしていましたが、夫はそれに輪をかけて多忙な人。お互いそのリズムが合っていたのですが、子供が生まれてからは意識的に週末休むようにしてくれて。そう、子供が大好きなんです(笑)。私もなるべく週末は仕事を入れないようにしています。仕事を自分でコントロールできるのはフリーの特権ですね。すでに少しお話したように、子供が生まれたタイミングでフリーランスになって。より正確には、子供を産んだことでフリーランスの道が開けたんです。時々、「小さな子がいてフリーって大変ですよね?」と聞かれますが、子供が生まれてからしかフリー経験がないので大変っていう感覚はないかも。子供がいてもできる仕事を選び、自分のペースを大事にしながらカメラマンをやってる感覚が近いですね。

4年間、編集者経験のある柳詰さん。「共作する過程が好きなので、話しながら撮影を進めていきます」

ーー第一子が誕生し、順調にフリーとして仕事をスタートできましたか?

柳詰さん:3ヵ月ぐらいから徐々にスタートを切っていった感じです。最初の頃は、要所要所で一時保育に預けたり、幸い遠くない距離に住んでいた親に預けて、仕事の間にお世話してもらったり。週に1回ぐらいのペースで仕事を入れていました。徐々に足場を作っていき、子供が1歳になった頃に保育園が決まったんです。そこからは子供を保育園に預けている間に、仕事をしている感じですね。

 

ーー“ママクリエイター”柳詰さんの1日の過ごし方を教えてください。

柳詰さん:毎朝9時に夫に子供を保育園に送りに行ってもらい、その後、私は家事をこなしたり、仕事の現場に行ったり。子供ができたことで健康や食に対しての興味が自然と増していき、スタジオにこもってのファッション撮影をしている時間よりは、料理家さんのアトリエやキッチンスタジオでフードの撮影してることが多くなっている気がします。BAUSさんでも何度かお仕事させていただきましたね。ポートレイト撮影も好きなんです。フードについて言えば、自然光で撮りたい派なので陽があるうちに撮影を終えるように頑張ります。そのおかげで、撮影のリミット時間を設定できるので、子供をお迎えに行く19時に間に合う理想のペースが作れています。撮影がない日は版元の編集さんやクライアントさんと、打ち合わせすることも多々。こういう日は家事に精を出します(笑)。夫が深夜に帰ってくることが多いので、夕食は早く帰ってきてくれる日に限り、平均して週1回ぐらい全力投球で作ります。それ以外は今のところ、自分と子供一人分の食事を作るくらいなので、楽しめる範囲で力を抜いています。おかげで家事に翻弄される時間はすごく少ないほうだと思います。あとは、子供と自宅に戻ってからは仕事を一切しないようにルール化しました。初めの頃は子供が遊んでいる目の前で仕事をすることもありましたが、効率がよくないですし、何よりも子供にとってストレスになっている気がして。やめました。夜更かしも苦手になり、レタッチ作業や納品に向けての準備は、朝早くにやるようにしています。作業時間を逆算し、タイマーをセットすることで、限られた時間の中でどれだけ仕事に集中できるかの戦いになります。おかげで、最低限の時間でハイクオリティな仕上がりにする術が身についたかもしれませんね。

撮影現場はキッチンスタジオだけにあらず。食関連の仕事では畑に行き、撮影することも

ーー柳詰家のご夫婦のルール、子育てのルールはありますか?

柳詰さん:どんなに夜遅く帰ってきたとしても、朝はできる限り、家族みなで一緒に過ごすようにしています。平日ほぼ夜会えない分、朝は子供と全力で遊んでくれます。家事についても、強制ではなく、お互いに得意なものを自主的にやるような分担が自然とできてきて、ゴミ出しやお風呂掃除、洗濯を率先してやってくれるので助かってますね。毎日、子供を保育園に送りに行くのも、夫の担当だったりします。お互い忙しくしているので、助け合いの精神がないと、今の暮らしは成り立たないので、感謝してます。夫と私の両親が同じく都内在住なので、どうしても撮影が押して保育園にお迎えにいけない時は、お願いすることも。同じように感謝することしきりですね。

 

ーー間もなく、ふたりめが誕生。家族がさらに増えることで、ご自身の中にどんな変化が生まれると思いますか?

柳詰さん:今から楽しみです。もともと仲が良かったクリエイターの友達が同じようにママになって、二児のママになっても働いている人が少なくないので、不安なことはいまのところないかも。いま自分が置かれている状況を受け入れちゃう楽天的な性格なので、子供たちの成長に合わせて変わっていくライフスタイルを楽しめたらと思っています。そこに自然と合わせていくように仕事をしていけたらいいですね。

オーガニック農園体験&保存調理のスクール「Farm Canning」に1年間、密着取材中

ーー最後に柳詰さんが思い描く「これから」について聞かせてください。

柳詰さん:目標設定みたいなものを明確にしないタイプなので、家族の状況に合わせて、今とは全然違うことをしているかもしれません(笑)。例えば、海のほうに移り住んだら、そういうコミュニティでの仕事があるかもしれないし、フード撮影だけじゃなくもっとライフスタイルに寄った仕事をしているかもしれないし、もしかしたら住む環境を大きく変えて、地方や海外でできる仕事が見つかっちゃうかもしれない。「いまこれをやる!」っていうやりたいことが一番にあると、いろいろと固まってきてしまうので、そこはあまり固定しないほうが生きやすいだろうし、楽に生きられるかなと思っています。これからも自分で自分を縛らないように、ゆとりのある気持ちで、子育てと仕事を両立できたら嬉しいですね。

PROFILE

柳詰有香

1983年東京生まれ。慶應義塾大学卒業。2007年よりフォグラファー蜷川実花氏に師事。独立後、出版社にて雑誌や写真集の企画、編集、撮影に携わる。一児の母になったタイミングで、独立。現在、子育てをしながらフリーランスのフォトグラファーとして、フードやファッション、キッズ、ポートレイトなど、暮らしのひとコマに少しだけ魔法をかけるような、色彩豊かな作品を手がける。美味しいパンを毎日1つずつ徹底解剖する「東京パン図鑑」(@tokyopanzukan)メンバー。主な制作歴は、SUNTORY「LEJAY」、大塚製薬「CHiA」「JAVATEA」、Unilever「Lipton」、MASH Holdings「Organic Burger Kitchen」、ELLE CAFÉ、雑誌「ELLE gourmet」「リンネル」「with」ほか。写真集『CIRCLE 〜エンボカ京都 料理と風景〜』。現在、一児の母(男の子&ふたりめを妊娠中)

写真・佐野優典 編集/文・紺谷宏之

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