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another life.と日本仕事百貨の担当者が語る、「働き方の伝え方」

another life. × 日本仕事百貨

かつて目にした仕事や働き方に関する情報は、無機質で退屈なものばかりだった。だが最近では、仕事や働き方に関するものでも、思わず最後まで読み込んでしまうような記事を目にすることが多くなったように思う。そうした「仕事や働き方の話なのに面白い」メディアの先駆けとなったのが、「日本仕事百貨」と「another life.」だ。日本仕事百貨は、「生きるように働く人の仕事探し」をコンセプトに、職場を訪ねて取材し、給与や勤務地などの条件だけではなく、現場の温度感や働く人の人柄までも伝える求人メディアである。一方another life.は、「一日だけ、他の誰かの人生を」をコンセプトに、情熱を持って活動する人たちの人生を深く掘り下げたインタビュー記事を通して、読者が誰かの人生を体験できるメディアだ。日本仕事百貨とanother life.の面白さの背景には、どんなビジョンや工夫があるのだろうか。また、2つのメディアの担当者が感じている、働き方のトレンドとはなんだろうか。another life.を立ち上げた新條隼人さん(写真・左)、日本仕事百貨の編集者である中川晃輔さん(同・右)に聞いた。

どんな人の人生も、掘り下げてみると面白い

ーー昨今では働き方やキャリアに関するサービスは非常に多くなっているなかでも、「日本仕事百貨」と「another life.」はユニークな立ち位置を築いているように思います。それぞれのサービスのビジョンとは?

中川さん:日本仕事百貨には、「生きるように働く人の仕事探し」というコンセプトがあります。その言葉にあるように「生きるように働く」人がもっと増えたらいいな、と思いながらサービスを運営しているんです。

 

ーー「生きるように働く」とは?

中川さん:仕事の時間もそれ以外の時間も、自分らしくいられるような生き方・働き方ですね。仕事とプライベートの境界をつくらないことが正しいという意味ではなくて、その形は人それぞれだと思います。求人記事を通して多様な仕事と人のあり方を紹介することで、読む人が「こんな生き方・働き方があるんだ」と背中を押されるようなメディアを目指しています。

 

ーーなるほど。another life.はいかがでしょう?

新條さん:another life.は、「やりたいことをやる人生を、あたりまえに」というミッションで運営をしています。大きいことを言えば、「人生経験のシェアリング」を通じて、いろんな人が自分にとっての幸せな生き方ができるようにするのがanother life.です。今は、選択肢が増えたが故に自分の生き方に悩む人たちがすごく増えていますよね。だからこそ、人生の比較対象を得ることが一歩踏み出すきっかけにつながるんじゃないかなと思い、another life.を始めたんです。

中川さん:以前新條さんとお話した時も思ったんですが、本当にanother life.さんと日本仕事百貨って近いところがあると思うんです。

 

ーーどんなところが似ていると感じますか?

中川さん:たとえば、「どんな人の人生も面白い」という価値観を読んでいて感じるところかな。有名な方だけではなくて、一般的にはほとんど知られていない方の話も取り上げているんですよね。他のメディアではそういう方の話はあまり見ませんけど、みなさんの話が面白くないかといったら、そんなことはない。むしろ情報が出回ってないからこその新鮮さがあったり、定型的な語り口じゃない言葉が出てきたりとか、そういう面白さがあるんですよね。だから、読者が自分と地続きの存在として取材対象に実感を持てるという感じがある。

新條さん:企業ではなく、個人にフォーカスを当てているところが似ているんですよね。あとは、その人たちを最初から褒めようとしていないという点も近いかもしれません。あくまでも第三者としての視点で取材し、「読者がどう判断するかは委ねますよ」というスタンスをとっているんです。

 

個人にフォーカスを当てる意味

ーー「企業ではなく、個人にフォーカスを当てる」のには、なにか理由があるのでしょうか?

新條さん:コンテンツを通じて、読者の人が思いを馳せるのは対企業じゃなくて、対個人なんですよ。そもそもanother life.を始めたきっかけとして「人生の選択肢に触れることは、生き方に悩んでいる人が一歩を踏み出すきっかけになるのではないか」という仮説から始めています。だからこそ、企業紹介ではなく、自分が感情移入できる個人の人生を追体験できるサービス、というものをウェブで実現したかったんです。

ーーそのためには、個人にフォーカスを当てるのは不可欠ですね。日本仕事百貨でもやはり、個人にフォーカスを当てるということは意識していますか?

中川さん:そうですね。特に、個人は個人でも社長の“すごさ”だけを伝えるんじゃなくて、現場で働いている人、たとえばアルバイトの人の話を記事に入れたりもするんですよ。取材する際に、役職とか肩書で相手を選ぶことはまったくないです。

 

ーーそれはどうしてでしょう?

中川さん:求人は必ずしも大勢に読んでもらう必要はなくて、一人の求めている人に届けばいいと考えているからです。理念やビジョンへの共感は大切な要素ですが、それとともに現場で日々起こっている具体的なエピソードを重点的に伝えるようにしています。

新條さん:ただ、個人にフォーカスを当てるうえですごく難しいのは、削っていい部分とそうじゃない部分があることですよね。例えば、another life.では「私は18歳のときに上京しました」みたいな話は、事象だけを伝えてコンパクトな文章にまとめますが、「学校でいじめを受けて、頭の中が真っ白になって、帰る道では手が震えてました」という話は、なるべく感情移入できるよう、「いじめに遭ってショックを受けました」といったようにまとめないようにしています。出来事よりも、感情や解釈の方が読者に刺さると考えているからです。

中川さん:まさにそうで、その人の見ていた風景や、取材の時の温度感をちゃんと伝える難しさはありますよね。たとえば方言もそう。地方に取材に行くと、最初はこちらに気を遣って標準語でしゃべってくれてるんだけど、だんだん方言が出てきて、「あ、気持ちを開いてくれてるな」と感じる、みたいなことってあるじゃないですか。だから記事でも、最初は標準語で話していたなかで、ぽろっと方言が出る……みたいな描写を落とさず書いた方が、読者はグッときたり。その話し方に何かが込められているな、と思ったときは、それを丁寧に伝えたいですよね。

 

ーー一方で、お互いのサービスで異なると感じることは何かありますか?

中川さん:日本仕事百貨の場合は、記事にライターの言葉が入るんですが、another life.さんはひとり語り。そこが違うところな気がします。読者に追体験してほしい、という点は一緒なんですけど、読者が追体験する対象が違うんですかね。つまり「取材対象」の追体験をするのがanother life.さんで、日本仕事百貨は「取材者」の追体験をするのかもしれない。

新條さん:わかります。求人情報サービスである日本仕事百貨さんで掲載しているのは、取材先に読者が関わるようになることを目指したコンテンツじゃないですか。だから「取材者」の追体験をすることで、ある程度客観的な視点を持つことが必要なのかもしれない。一方でanother life.の場合は、求人情報サービスではなく、読者が人生の選択肢を増やしてくれることが目的なので、「取材対象」の追体験をしてもらうことが必要です。その違いが、語り口の違いになっているのかもしれないですね。

曖昧な領域に仕事が生まれている

ーーおふたりが働き方に関するメディアを運営する中で感じている「働き方」の変化はありますか?

新條さん:個人が人生の岐路に立ったときに取り得る選択肢の幅は、以前より広がっていますよね。制度や周りの理解があることに加えて、手前味噌ですがanother life.のようなメディアがあることで、いろいろな人生のロールモデルを知ることができるようになったことも背景にあるだろうなと思います。

中川さん:ぼくも選択肢が広がっていることは感じます。取材をしていて感じるのは、いろいろなことがパキッと割り切れない、ごちゃっと混ざり合った領域に、仕事が生まれ始めているということです。

 

ーーごちゃっとした領域で仕事が生まれている、とは?

中川さん:たとえば「issue+design」という、地域の課題をデザインで解決する組織が高知県の佐川町で、地域資源とデジタルファブリケーションとデザインの力を掛け合わせたものづくりの拠点「さかわ発明ラボ」を運営しているんです。佐川町に住むある男性は、パソコンが得意だったものの、そのスキルを発揮できる場所がなかった。その方が、ラボができたことですごく生き生きとしはじめたそうなんですよ。Illustratorやレーザーカッターの使い方を独学で覚えて、実際にコースターなどを作って、近所の飲食店の人に配って自慢して、さらに別の利用者に機器の使い方を教えて…みたいなことが起きてる。こうしたことは、「地域資源」「デジタル」「デザイン」という、それぞれの領域の境界が曖昧で、ごちゃっと混ざり合ったところでこそ起こることだと感じているんです。

新條さん:境界が曖昧になるという意味では、キャリアの選択肢を探すときに「仕事」単体で調べるだけでなく、「仕事」と「生活」、「ライフスタイル」などが重なり合う領域でサーチしたい、というニーズが増えていくのではないかと考えています。だからこそ、点で掘り下げるマッチング情報でなく、線や面で伝えるストーリーが重要になるんです。

 

ーーキャリアを選択するときに、以前はある業界やある職種など、ひとつの領域の範囲内で探していましたが、今では複数の領域が重なり合うところで思わぬ仕事が見つかることがある。さらには仕事だけでなく、自身のライフスタイルのことも踏まえて働き方を選ぶ人が増えているというのは、たしかに最近の実感としてあるように思います。
では最後に、それぞれのサービスの今後の展望を教えてください。

新條さん:サービスとして追いかけるべきなのって、「幅」と「深さ」だと思うんですよ。どれくらいの人にインパクトを与えられるのかと、どの程度インパクトを与えられるかということ。それをanother life.に当てはめて考えてみると、「幅」という意味ではanother life.で伝えている人生のデータベースの量を2次曲線的に増やしていくことはやっていきたいです。たとえば、海外で取材をした英語記事や、離島で取材をした連載などをすでに作っています。さらに「深さ」という意味だと、ユーザーの方が記事を読んで終わりじゃなくて、自分のライフプランの設計までできるようなサービスにしていきたいですね。

中川さん:「幅」と「深さ」は日本仕事百貨でも意識していきたいです。「深さ」の点では、もっと会社として編集のノウハウを蓄積していきたいですし、個人的には生き方も働き方も異なる人たちを目の前にして、どれだけその人の深い部分まで辿っていけるかを突き詰めていきたいです。そんなふうに淡々と磨いていく部分もありつつ、一方で幅を広げていく。「突き詰めながらも遊ぶ」というか。

 

ーーここ(リトルトーキョー)ではしごとバーのような場づくりなど、実験的なこともやっていますよね。

中川さん:はい。でも、まだまだ遊べる余地がある気がしています。もっと遊びたいです(笑)。代表のナカムラケンタは実験的なことに挑戦してる。つまり、遊んでいるんですよね。これからはぼくら他のスタッフも、もっと遊べるようになったら面白いな、と思っています。

PROFILE

中川 晃輔 / 日本仕事百貨

千葉県柏市出身。慶應義塾大学SFC在学中のインターンを経て、求人サイト「日本仕事百貨」の編集者に。全国各地のさまざまな仕事や人を取材し、写真と文章で紹介している。「編集」に関心のある人が集い、お互いに開示したり、何か持ち帰れるような場を東京・清澄白河のスペース「リトルトーキョー」で計画中。

PROFILE

新條 隼人 / ドットライフ

2012年3月に一橋大学商学部卒業後、株式会社ネットプロテクションズ入社。後払い決済事業の営業グループリーダー、新卒採用担当等を経て、2014年1月にドットライフを立ち上げ。様々な人生のストーリーを配信し、オンライン・オフラインで交流ができる人生経験のシェアリングサービス「another life.」を運営。これまで1000人以上の人生を記事として掲載。

写真・岩本良介 文・山中康司 編集・冨手公嘉

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