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D&DEPARTMENT、UDS、WATが目指す「食の場」と「職の場」

大盛況のイベント「ショクバ!」をレポート!

11月末日、清澄白河のFlaming Houseで開催されたイベント「ショクバ!〜3社のつくる食の場と、これから。〜」には、平日の夜にも関わらず約70名が詰めかけた。このイベントを仕掛けたのは、「飲食空間」をつくる異業種の3社。その土地らしいデザインを見直し、全国に向けて紹介するD&DEPARTMENT PROJECTの代表取締役社長 相馬夕輝さん(写真・左)、「世界がワクワクするまちづくり」をビジョンに、企画・設計・運営を一貫して手がけるUDSの執行役員 黒田哲二さん(同・右)、長い目で見てその街の価値になり、いい変化をもたらす飲食店・スペースづくりを目指すWATの代表取締役社長 石渡康嗣さん(同・中)が登壇、各々の手がける「食の場」と、その「職の場」で働く人について語った。

飲食空間に関わる3社自慢の食事が並ぶ「食の場」

WATが運営するThe Flaming House(江東区三好2-6-10)にはこの日、トークイベントだけでなく各社こだわりの食事が用意された。WATからコーヒー(Coffee Wrights)とワイン・ビール、D&DEPARTMENTから東京産かぶのポタージュ(D&DEPARTMENT DINING TOKYO)、ご当地おむすび(d47食堂)、UDSからブリトー(burriTOKYO)など。スペシャルゲストとして、学芸大学にお店を構えるHIGUMA doughnutsのドーナツも並んだ。イベント名の通り賑やかで美味しい「食の場」となった。

D&DEPARTMENT DINING TOKYO 東京産かぶのポタージュ、d47食堂 ご当地おむすび
WAT ワインとビール
HIGUMA doughnuts ドーナツ
burriTOKYO ブリトー

会場は、用意していた椅子が全て埋まるほどの超満員に。お気に入りの食事を片手に着席すると、D&DEPARTMENT PROJECT 相馬夕輝さん、UDS 黒田哲二さん、WAT 石渡康嗣さんのトークイベントが始まった。

地域に根ざしコミュニティを生み出す3社の取り組み

——まずは3社のこれまでのお仕事について紹介をお願いします。

相馬さん(D&DEPARTMENT PROJECT):D&DEPARTMENTはこれまで20年、「ロングライフデザイン」をテーマに、47都道府県に1か所ずつ拠点をつくりながら、物販・飲食・出版・観光などを通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、全国に向けて紹介するという活動をしてきました。最近では、各地で培ってきた関係が発展し、「長く続いていく商品」の開発にも取り組んでいます。

また、各地の「個性」を見直すトラベルガイドを、1県に1冊ずつ制作・発行しています。編集部は2ヶ月現地に暮らし、まず一観光客としてお店で飲んだり体験してから取材先を選んでつくっています。今年はそのトラベルガイドをベースにした、現地の魅力を実際に感じてもらうためのツアー企画も始まりました。

黒田さん(UDS):UDSは、25年前に創業しました。「コーポラティブハウス」という集合住宅をつくる事業からスタートしています。建売マンションのように建ててから住む人を集めるのではなく、建てる前に住む人を集め、自分たちの住む場所を自由に設計する仕組みです。建物ができ上がる前から共用部の使い方を相談するなど、隣人同士が関わりをもち、隣近所にどんな方が住んでいるのかがわかる、ひとつの小さな「コミュニティ」が生まれました。

6年前には、京都の九条にアート&カルチャーをテーマにした「ホテル アンテルーム京都」を開業し、京都のアートコミュニティの中心になりつつあります。僕らが目指す「プロジェクトを通してコミュニティをつくり、まちづくりにどう貢献するか」の、ひとつの実現事例となりました。僕らは企画・設計・運営を一貫して事業展開し、いい空間をつくり、事業性を確保し、そして社会のためになにか良い影響を生むことを目指しています。

石渡さん(WAT):WATは「ワッと!なるようなことを創る会社」を目指し、4年前に創業。有名なものでは、ブルーボトルコーヒーの立ち上げなど、カフェやバーをはじめとする「食」に関する場を様々に仕掛けてきました。再開発でできた街に地域交流施設として誕生した「CAFÉ&HALL ours」(大崎)や、鉄道高架下を期間限定で有効活用するプロジェクトの一環「ロンヴァクアン」(下北沢)、コーヒーをつくる職人たちが集まる「Coffee Wrights」(蔵前・三軒茶屋)など。いずれの仕事でも「本質的なこと」をしたいと取り組んでいます。

そんなWATがゴール・最優先においているのが、場を運営をしている人、関わる人が健全な人として成長すること。「職の場」にこだわっています。だから僕らの運営する店舗は、「Organic Groth(有機的な成長)」成長の優先順位が高いのではなく結果として成長するくらいの規模感であること、「楽しいこと × 持続可能なこと」この両方満たしていること、「ケ>ハレ」、1年に1度のパーティーよりも日々の生活に身近な定食やコーヒー、お酒など、「ケ」を大事にしています。
さらに、働く社員には「トライアンドエラー」を求めます。やったことについて文句は言わないけど、やらないことには文句を言う、それくらいトライすることを尊重しています。

「人に向き合うこと」

——早速、石渡さんから「職の場」についてのお話が出ましたね。御三方にマイクをお譲りして、「ショクバ」についてお話いただきたいと思います。

相馬さん:僕たちD&DEPARTMENTの場合、お客さんや地域の人とコミュニケーションをするときに、なにより先に「D&DEPARTMENT」というブランド名やロゴが出てくるんです。でも本当は、「だれと一緒に、どうやってやっているのか」が大事ですよね。その重要さを、社員みんな、各地で仕事をしながらひしひしと感じているんです。だから、僕は、もう少し社名よりも社員個人が表に出ていくような会社を目指したいと思っています。

石渡さん:僕らも「人に向き合うこと」を大事にしています。たとえば、一般的な飲食店の費用構造を見てみると、「原価」「人件費」「賃料」「減価償却費」、と費用が嵩み、うまくいっている飲食店でも「利益」は10%程度です。僕らは、この費用構造を工夫しています。「原価」と「人件費」は同じですが、「賃料」と「減価償却費」を思い切り減らしているんです。依頼主である店舗スペースの提供者を巻き込み、「我々WATはいいお店づくりに尽力しますよ、その代わりみなさんも頑張ってください」というコミュニケーションを必ず初めの段階で取らせてもらう。そうやっていろんな努力を積み重ねて費用を減らしています。そうやって生み出した予算を「Something WAT」と題して、WATらしいことに使おうとしています。人に向き合うことや、地域に自ら出ていってコミュニティをつくることなど、お金の使い方を工夫しています。

WATの費用構造の工夫と、「Something WAT」

黒田さん:「Something WAT」、素敵ですね。

石渡さん:実は、ネーミングは1時間前に考えついたんですけどね(笑)。

相馬さん:原価率や費用構造の考え方は、D&DEPARTMENTもWATに似ています。僕らも、利益を少なくしてでも「SomethingWAT」にお金をかけてしまう。UDSが言う「事業として成立させることも大事だよね」という考え方からすると、僕らの会社はダメな会社ですね(笑)。
みなさんのプレゼン聞いて思ったんですが、それ以外にも、3社がやっていることは近いようで意外と違いますね。例えば、「事業の起こし方」は、D&DEPARTMENTとUDSとではアプローチが逆ですね。僕らは、何かを支援するため、いわば「ミッション最優先型」でプロジェクトをはじめるんです。

黒田さん:UDSの場合は、社員本人が「やりたい」と思えるものからはじめています。だからプロジェクトの担当者は、自身が本当にやりたいかどうかを常に振り返るように意識しています。

石渡さん:社員の方から上がってきたものを、黒田さんが「やるべき」と思えない場合は?

黒田さん:客観的にみて「デザイン性」「事業性」「社会性」のバランスが取れているかが判断材料になります。UDSは空間をつくる会社なので、事業に責任を持つことが大事だと考えています。

石渡さん:本当よね。D&DEPARTMENTは、慈善事業じゃないけどそれに近いプロジェクトを多くやられていますよね。それを20年やっていること、しかも黒光りしていっているかんじ、本当にすごいと思います。

相馬さん:なんとか続いてるんですよ。時代が変わっていくなかで、やっていることが同じままではダメだと思っています。「息の長いデザイン」と言いながらも、僕らもちょっとずつ変わっていかなくてはならない。その時代にあった事業をやらないと「僕ららしさ」さえも消えていくと思うんです。

来場者:10年後どんなふうになっているか、どんなことをしたいか教えてください。

黒田さん:僕個人としては、「どうやったら飲食業界がよくなるか」を考えています。この業界は離職率がすごく高いのと、働くシェフやサービススタッフの人に「次の道」が用意できていない。僕らのやっている場所で、そういう人たちがどうステップアップしていくかを考えていきたいと思っています。

相馬さん:最近あちこちで、僕らD&DEPARTMENTと同じようなお店が増え、同じ商品も並び始めています。自分たちが扱っているものが世の中に出て、こんなにも扱われるようになってきたら、僕らにとってはミッション達成。発信してきた価値が広まったのなら、卒業して「次」をはじめることも考えてもいいかもしれないと思っています。ものを売らず、体験しか売らないD&DEPARTMENTとかもいいですよね。

石渡さん:僕個人の人生のゴールというのは10年前から変わっていなくて、「よい人間になります」という一心なんですね。「よい人間」を目指すからには、人間と法人とが同一していないと意味がない。法人組織になっても、自分の等身大と思えることをやっていきたいです。

あとは人を育てること。一緒に仕事をしてくれている人たちにとって、僕は厳しめの人間だと思うんです。「トライアンドエラー」とか言って無理難題をなんでもやらせちゃうし、とかく突き放したりしちゃって。でもそれは、僕と付き合っている限り、そのやり方が一番、その人たちの成長に繋がると思っているからなんです。「食」を中心にした仕事ですが、僕の思う「食」の世界を再現するというよりは、社員それぞれが、自分が思う「食」の世界を実現する社会が築ければいいなと思っています。

「食の場」を仕掛ける3社、改めて各社の事業とその想いに耳を傾けてみると、地域でのコミュニティをつくること、長くその地に根付き愛される場づくりをしてきた3社でもあった。そして、3社が魅力的な事業を展開する背景には、そこで働く人や、「職の場」を大事にする前向きな姿勢や工夫があった。

いずれの会社も、共に働く仲間を募集しているそう。あなたの「職の場」として検討してみてはどうだろうか。

PROFILE

相馬 夕輝(あいま ゆうき)

D&DEPARTMENT PROJECT 代表取締役社長 「ロングライフデザイン」をテーマに、47都道府県に1か所ずつ、デザインの道の駅「D&DEPARTMENT」をつくりながら、観光ガイドブック『d design travel』刊行の他、ミュージアム・ストア・食堂を連動させた「d47」を渋谷ヒカリエに展開するなど、物販・飲食・出版・観光を通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、発掘、紹介する活動を行う。’03年に同社に参加。大阪店・東京店店長を経て’09年より現職。

PROFILE

黒田 哲二(くろだ てつじ)

UDS株式会社 戦略プロジェクト室 執行役員 1977年神戸生まれ、東京育ち。東京大学工学部建築学科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所を経て、2005年より株式会社都市デザインシステム(現UDS)にて企画開発業務を担当。2008年より森ビル株式会社にて、虎ノ門ヒルズ開発業務に携わり、新虎通りを中心とした活性化、エリアマネジメントを手がける。2015年10月よりUDS株式会社へ復帰。 現在は企画・設計・運営を強みとする同社の「企画」の柱として、国内外問わず、新規プロジェクトに奔走している。

PROFILE

石渡 康嗣(いしわたり やすつぐ)

WAT inc./ 株式会社ワット 代表取締役社長 1973年京都生まれ。数々の飲食店の企画運営に携わった後に、2013年に株式会社WATを設立。「ブルーボトルコーヒー」、「ダンデライオン・チョコレート」といった日本展開プロデュース・マネジメントや、今月中旬に2号店を蔵前にオープンさせる「Coffee Wrights」や大崎「CAFE & HALL ours」などの、街にとって必要な場としてのカフェの企画・運営を行っている。話題の千葉県大多喜町のボタニカル・ブランデー蒸留所「Mitosaya 大多喜薬草園蒸留所」にも参画。

写真・今井駿介 編集/文・上野なつみ

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