MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

潮目はどこにある? 作って届ける「次の一手」

Quark tokyo × Dictionary Films Tokyo × HATCH

「いま、この時代が面白いんです」。開口一番、こう口を揃えるのは、「HATCH」代表取締役・プロデューサーの本間綾一郎さん(写真・左)、「Quark tokyo」代表取締役の楽々朝光さん(同・中)、「Dictionary Films Tokyo」マネージングディレクターのRyan McGuireさん(同・右)。彼ら3人の共通点は、強みにこそ違いはあれ、映像領域の今昔を知っていること。そして今も、最前線を走り続ける。「広告業界ではクライアントさんが自分たちでマーケティングをやりだす風潮にシフトしていますよね?」。こんな風に楽々さんが話を切りだすと、「完全に同意です」と本間さん。Ryanさんも「今後ますます、この流れは加速するでしょうね」と続く。そう、日々前線で仕事をする中で、奇しくも3人の見解は同じようなのである。インタビュ中は一事が万事、こんな調子。はたして映像業界の潮目はどこにあるのか? スタンスの違う3社に、作って届ける「次の一手」について聞いた。

ーーまずは会社紹介からお願いします。

楽々さん(Quark tokyo):Quark tokyoは、ナカミノ株式会社を母体に、AOI Pro.グループから各領域のスペシャリストが参画して誕生した、動画を中心としたソリューションを展開するデータ&クリエイティブ・カンパニーです。本格始動したのは2016年4月。デジタルを主軸とし、クライアントさんのパートナーという意識をもち、コンサルティングからマーケティング施策、効果測定やそのデータに紐づく改善に至るまでサポートしています。作るだけではなく届けるところまで責任をもつ。マーケティング領域のスペシャリストが集まる会社なので、全体最適につながる戦略をワンストップで展開できるのが強みですね。今年10月からは事業部制にし、動画+配信設計というパッケージをコア業務とするQuark tokyo、若年向けのコミュニケーションを中心に戦略からエグゼキューションまでを請け負うQT by Quark tokyo、データを活用しながらマーケティングコンサル業を中心とするQuark Tokyo Innovationsと役割を分けています。エージェンシーとプロダクションの中間、ポジション的にはこんな表現が近いかもしません。

本間さん(HATCH):マーケティング施策を含め、上流からクライアントさんに寄り添い、ワンストップでプロジェクトの全体設計をできるのは、Quark tokyoさんならではの強みですね。うちの会社もクライアントさんとの距離の近さを大切にしたいので、クライアントさんの外部協力チームみたいなスタンスで進めているプロジェクトが増えています。ブランド事業のコンセプトムービーのお手伝いをしたり、「こういう案件だからこんなサポートをお願いしたい」と相談を受け、適切なスタッフを紹介したり。“人とものづくりを繋げる”プロデューサーズカンパニーを標榜しているので、ジャンルにとらわれないクリエイティブワークを実践中です。テレビCM屋さんとかミュージックビデオの制作会社さんといった風に、ジャンルで仕事をするのではなく、プロデュースという括りの中で広いレンジでプロジェクトを進めている感じです。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):プロジェクトを進める際、環境づくりはすごく大事ですね。素晴らしいアーティストと素晴らしい仕事をするためには、制作会社のプロデュース力が問われますから。

本間さん(HATCH):HATCHの場合、BAUSさんの「MAKE TEAM」の考え方に近く、プロジェクトを始動するにあたり、案件ごとにさまざまな領域のプロを集め、最適なプロジェクトチームを作ります。Ryanさんがおっしゃるとおり、専門性の高いプロデュース力が問われるので、HATCHの社内には「Creative Hub Swimmy」という企画制作をする部署、「SPEC」というクリエイターのマネジメントを専門にする部署、「Do it Theater」という“シアター体験に特化した場づくりをする”イベント部署、最近では海外から来る制作チームのコーディネートやサポートをする「BENTO LABS」という部署を発足させました。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):今日、取材で来ているココもHATCHさんが新たに創設した“クリエイターが自由に集まれる”クリエイティブスペース(THE THIRDMAN STUDIO)なんですよね? 人と人との距離感を物理的に縮めるという発想はいいですね。Cutters Studiosの制作部門を担うDictionary Films Tokyoの場合、同じく傘下にあるポスプロ部門のCuttersと密接に連携し、制作プロセスの無駄をできるだけ排除できるよう、常に気を配ってます。そして何よりも、クライアント、エージェンシー、ポストプロダクション、そして僕らプロダクションが課題に対して同じ方向を向けるように最善を尽くします。日本のクリエイティブって、例えばクライアントは「商品を売りたい」、エージェンシーは「アワードを獲りたい」、プロダクションは「格好いい映像を作りたい」という風に、それぞれ立場によって目的が違うことが多いですよね? 7年前に初めて日本に来た時、まずここに驚いて。この考え方をできるだけ正したいという思いから、僕の場合、マネージングディレクターとして各人とのコミュニケーションに尽力します。ブランド広告の場合、オブジェクティブとしてターゲットに対して効果的なクリエイティブを作ることが重要。だから、プロダクション側の人間がクリエイティブの上流に関わるべき。Dictionary Filmsの場合、最後の納品まで責任をとるスタンスで仕事に臨むことがほとんどです。

楽々さん(Quark tokyo):Ryanさんの話はまさにその通りだと思いますね。元来、広告制作の商流として、エージェンシーの営業がいて、その話がクリエイティブに降りてきて、プロダクションが関わるという図式が主でした。でも今は、複合的なマーケティングをクリエイティブが捉えにいかないといけない時代。この何年かでデジタルが主流になったけれど、それを含めてどういう風に届けていくか、今まで以上にエグゼキューションする側とマーケティングする側をつなぐ存在が重要になってきます。プロデューサーという言葉が的確かなと思うんですが、上流から下流に降りてくるのはけっこう難しくて、逆に下流から上がっていくほうが、デジタルを中心に考える僕らとしては仕事がしやすい。なぜなら、何が得意でどんな提案ができるか、分相応に熟知しているので。

本間さん(HATCH):完全に同意ですね。経験値からこんなことができると分かっているので、土台を持った提案ができるから。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):企画の指揮段階からダイレクトにコミュニケーションするからには、最後まで責任をもつ。今後、クライアントがそういう会社、パートナーをこれまで以上に求めるのは明らかですね。

 

ーー実際に手がけたプロジェクトを例に、自社の強みについてお聞かせください。

楽々さん(Quark tokyo):うちの会社のターニングポイントのひとつになったのはロッテのガム「Fit’s」のプロモーション施策ですね。「若者のガム離れを食い止めたい」。こんなクライアントさんからの要望を受け、ターゲットを中高生に絞り、「Fit’s組」という10代のアイドルを中心にした架空のクラスを作り、ドラマ仕立てでガムを効果的に使ったキャンペーンを立ち上げました。10代の生活の中心にSNSがあることから、TVCMを出稿せずにすべてデジタルに切り替えるという、ロッテさんとしてもチャレンジブルなものでした。いくつかの仮想クラスターを決め、そこに合わせたコンテンツと配信を細かに設定しています。全体最適につながる戦略をワンストップで展開できたところにこの仕事の面白さはありましたね。

本間さん(HATCH):数字の面を気にしながら、クリエイティブから配信設計までをやりきる。純粋にすごいと思ってました!

楽々さん(Quark tokyo):ソーシャルでの拡散の仕方だったりPRの仕方だったり、メディアプランニングは今後、ますます重要になってくるでしょうね。とはいえ、デジタル配信がどうだ、設計がどうだといっても、圧倒的なクリエイティブが1個あるとそれらをすべて覆して突破するのでクリエイティブの力は信じています。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):僕もクリエイティブの力を信じるタイプ(笑)。代表作かわからないですけど、Dieselの「MAKE LOVE NOT WALLS」というキャンペーンをAOI Pro.とコラボレーションして作ったことがあって。僕はクリエイティブスーパーバイザーとして参加。この作品が自慢の作品のひとつである理由は、日本のセックス、愛についての壁に真正面からぶつかり、1つのストーリーとして表現できたことですね。そして何よりも理想的なコラボレーションができたこと。競合であるはずの会社と一緒に組み、1つの作品を作れたこともそうですが、クライアントもポストプロダクションもみなで話し合い、最初あった制限をストーリーを作るプロセスの中で外していき、結果的にみなが満足できる作品に仕上がって。本国の作品よりも良いものができたと思います(笑)

Diesel Japan presents The Walls

 

本間さん(HATCH):うちの会社の代表作かぁ。なんだろう。先ほども話しましたが、クライアントさんとの距離の近さを大切にしたいので、その観点で話すと、Soup Stock Tokyoやネクタイ専門店・giraffeなどを展開されているSmilesさんとのお仕事はやりがいがありますね。コンセプトムービーを企画の初期段階からお手伝いさせてもらったり、同社主催のイベントのワークショップの撮影をサポートさせてもらったり。困った時、すぐに相談しに来てくださる関係性なので、今後も長く関係が続いていければと思っていますね。Ryanさんが話すとおり、発注先との関係性ってパーソナルなところにきてる気がします。「あなたたちと仕事をしたい」。こんな風に言われると嬉しいし、モチベーションも上がります。個人的な実感としては、自分たちが手を上げてさえいれば、それを見てくれている人は必ずどこかにいて、いつか繋がっていくんじゃないかな、と。最近、仕事の発注をいただく際、Facebookメッセージからっていうのも意外と多かったりします。当たり前のことかもしれないけれど、人と人との繋がりって大切ですね。今回ご一緒した皆さんともそう。プロダクション同士だから競合してダメっていうのはもはや全然ないように思います。

Soup Stock Tokyo Grand Prix 2017
「世の中の体温をあげるプロジェクト成果発表会」

http://giraffe-tie.com/collection/animal
giraffe Collection 2017AW「ANIMAL」

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):同じくそう思います。フレキシビリティですね。

本間さん(HATCH):もしもRyanさんに仕事をお願いするとなったら、例えば最後の仕上げの編集をキーになると思ったら、「エディターとしてお願いします」というより、企画の段階からお誘いしたほうがイメージしやすいです。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):機会があればぜひ。

 

ーークリエイティブ業界がポジティブな未来を描くために、いま思っていることは? また、そこに紐づけ、自社が求める人材についてもお聞かせください。

楽々さん(Quark tokyo):プロダクションってどうしても、いい意味でも悪い意味でも、受託精神が染み付いていると思うんです。お客さんの言うことを聞かないといけないという気持ちがすごく強いので、何を目標にし、発信していくべきか取り間違えてしまうことが多々あって。自戒の念を込めていうと、もう少しビジネス感覚としてのプロデューサー意識を持たないといけないんじゃないかなぁ。今後ますます、クライアントと近い距離感でプロジェクトを進めるケースが増えてくると思うので、相手に寄り添いながらも、自社の強みを活かした提案をしていくのが正解だと思います。あとは自分たちの、自分の得意な領域を飛び越え、仕事を作っていく力も必要になってくるでしょうね。個人と個人が繋がりやすい時代なので、マルチタスクへの気概がある人は強いと思います。

本間さん(HATCH):僕も自分で勘違いしないように気をつけようと思うのが、プロデューサーはマルチであってよくて、ただ自分たちは一人では何もできないってことを自責として常に持っておかないといけないと思っていて。だからプロのカメラマンに頼むんだと。あとはプロデューサー視点でいうと、どうやってお金が生み出されているかというのは、与えられたバジェットの話ではなく、バジェットを生みだすクライアントさんがどのようにしてそのお金の金額を捻出し、設定してるのかというところまで想像して考えてみないと、そのお金の価値は分からないという視点は大切だと思いますね。楽々さんがおっしゃるように、実践の中でビジネス感覚を身につけていけたらと自分自身も思っています。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):10年前のいいプロデューサーと今のいいプロデューサーって違うと思いませんか? 予算の組み方だったり、プロジェクトの進め方だったり、チームづくりだったり。おふたりがプロデューサーの重要性について話してるのは、個人的な実感としても頷けます。クリエイターに比べるとその価値が見えづらい職種なので、プロデューサーを志す人が増えてくれればと、僕も思っていますね。求める人材っていう話に戻すと、何よりも目的を理解できる人と仕事はしたいですよね。目的を理解できる人というのは、自分の目の前の仕事だけではなく、もうちょっと全体を見える、次の次のステップまで考えられる人。あとは、夢のみられる人、パッションを持った人。パッションとビジョンがあれば、大体努力をすれば誰でも優れた人間にはなると思います!

楽々さん(Quark tokyo):めっちゃ欲しいですね(笑)

本間さん(HATCH):この話をすると元も子もないんですが、僕は基本的に求人というので来てくださる人は、本当にうまく残っても少ないパーセンテージだと思っていて。だから、紹介だったり、「あの人いいよ」といった人とは1回仕事をしてみるようにしています。恋愛と同じですね(笑)

楽々さん(Quark tokyo):Quark tokyoについていえば、いろんなスキルを持った人がいるので、自分自身の成長は早いと思います。あとは、「自由も与えるから責任も持ってください」っていう感じですね。

本間さん(HATCH):立ち振舞いの違いだからすごい参考になります。面白いですね。HATCHが欲しい人材は、楽々さんの個という話に対して、チームなんですよね。小さなチームでフレキシブルにいろんなことをやっていけるような集団を目指していて。小さいチームだからできることを一緒にやれる人を、すごく求めています。映像制作会社の記事で恐縮なのですが、じつは今弊社は、インタラクティブコンテンツのプロデューサーやイベントのプロデューサーが欲しかったりします。

Ryanさん(Dictionary Films Tokyo):それは面白い!それでいうと僕はフードコートを作りたいです(笑)

PROFILE

HATCH

「人とものづくり」をつなげるプロデューサーズカンパニー。企画立案から制作全般、エンドユーザーに届くその瞬間まで、ジャンルにとらわれずクリエイティブワークを実践。社内に、企画・制作プロダクション業務を行う「Creative Hub Swimmy」、クリエイターのマネジメント業務を行う「SPEC」、イベントの企画・運営業務を行う「Do it Theater」、海外クルーのコーディネートを行う「BENTO LABS」、クリエイティブスタジオの運営業務を行う「THE THIRDMAN STUDIO」を有す。

PROFILE

Quark tokyo

ナカミノ株式会社を母体に、AOI Pro.グループから各領域のスペシャリストが参画して誕生した、動画を中心としたソリューションを展開するデータ&クリエイティブ・カンパニー。デジタル領域を軸に、上流のコンサルティングからマーケティング施策、効果測定、継続的な改善に至るまでをワンストップでサポート。

PROFILE

Dictionary Films Tokyo

東京に拠点を構えるアジアパシフィック最新のフルサービスプロダクション。1980年設立のアメリカ・シカゴのポストプロダクション「Cutters」が、「Cutters Studios」とフルサービスを行うスタジオを作り、その中の制作部門として誕生。2016年から本格始動し、Nike「#身の程知らず」やDiesel「The Walls」等、映像制作を中心に活動中。

写真・下屋敷和文 編集/文・紺谷宏之

関連記事

  1. 古市憲寿の「チョコレートとジレンマ。」

    READ MORE
  2. 体験型コンサート、和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭I:家電雷鳴篇〜の舞台裏に潜入!

    READ MORE
  3. ファッション業界の外側から、世界に挑む。住所不定の新ブランド「ONFAdd」とは。

    READ MORE