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古市憲寿の「チョコレートとジレンマ。」

#5 人生100年時代

政治やビジネスの世界では、「人生100年時代」が流行語のようになっている。きっかけはイギリスの経済学者リンダ・グラットンの『ライフ・シフト』という本だ。
同書で一番注目を浴びたデータは平均寿命の伸び。UCバークレーの人口学者の計算によると、2007年に生まれた日本の子どもの二人に一人は何と107歳まで生きるのだという。アメリカやイギリス、フランスなどでも二人に一人が104歳まで生きると推測されている。
このように、誰もが当たり前に100歳まで生きる時代が目前なのだから、それに合わせた人生プランや社会制度を考えましょう、というのが『ライフ・シフト』の主張だ。

長寿は人類の悲願だった。その意味で、平均寿命の伸びは、喜ぶべきことだろう。2017年の日本でも、女性の2人に1人は90歳まで生きている。「人生90年時代」はすでに到来しているのだ。

しかし、この「人生90年時代」でさえ、社会に様々な影を落としている。まず社会保障や年金問題だ。高齢化による医療や介護予算の増大は、国の財政に深刻な影響を与えている。
ただし、これは所詮、お金の話。増税や、医療制度の適正化によって、切り抜けられる問題ではある。たとえば今の日本では、年間720億円分もの抗がん剤が使い切れずに廃棄されているという。残った抗がん剤をリサイクルする仕組みがあれば、医療費削減につながる。これは一例だが、お金の問題は政治によって何とかできる可能性がある。
より深刻なのは病気の問題だ。特に認知症患者の増大は国を揺るがしかねない。日本の認知症患者数は現在のところ約500万人。それが2025年までには約700万人に達するとみられている。
さらに認知症予備群とされる軽度認知障害(MCI)を含めたらその数は1300万人になるという。国民の10人に1人が何らかの記憶障害を持つことになる。すごい時代だ。しかも現在のところ、人類は認知症を根治するすべを持たない。

そんな問題が頻発するだろう「人生100年時代」は、本当に幸せなのだろうか。
こうした疑問を、去年仕事で会ったリンダ・グラットンにぶつけたことがある。彼女は終始、非常に前向きな人物だった。彼女によれば、これまでの高齢化の議論は最後の10年ばかりが注目されていた。しかし健康寿命は伸びているし、次々と新技術も開発されている。だから未来は明るいのではないか、というのだ。

確かに彼女の話も一理ある。というか、厳密な意味で、未来がどうなるかなんてわかりようがない。楽観論も悲観論も、共に根拠は薄弱なのだ。だとすれば、個人としては、どちらを信じるか、どちらに賭けるか、という話になる。
そもそも100年生きるための準備を万端にしていた人が、明日死んでしまうこともあるのが、この世界。そんな中、明るい未来と暗い未来、どちらを信じてみますか。

PROFILE

古市憲寿

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。最新刊は、東京が「大都会」ならぬ「大田舎」であることを都バスを使って明らかにした『大田舎・東京』。NHK「ニッポンのジレンマ」MCを務める。好きな食べ物はチョコレート。

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