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コンセントのメンバーが語る、「会社員が社内外を越境しクリエイティブに働くためのヒント」

株式会社コンセント

企業と伴走し活動を支えるデザイン会社のコンセント。同社は、組織体制の進化を重ねながら45年以上という長きにわたり、紙媒体とデジタルの両領域で日本のクリエイティブを支えてきた。しかし最近、その仕事領域や社内外のボーダーを超えて、ユニークな活動をする社員を続々と輩出している。ロングセラーの書籍『なるほどデザイン』の著者筒井美希さん(写真・右)と、全天球映像制作の社内ラボチーム「渡邊課」を主宰する渡邊徹さん(同・左)のふたりは、そんな会社のカルチャーを体現するような存在だ。会社員として軸足をコンセントに置きながら、会社の冠だけに頼らず社内外で活動をする理由について聞いた。

社内外を越境し、書籍制作や映像制作を行うユニークなメンバー

ーー新卒で入社後10年以上コンセントに勤めてきた、アートディレクターの筒井さんと渡邊さん。おふたりは最近、それぞれ書籍『なるほどデザイン』の出版、ラボチーム「渡邊課」での全天球映像の制作と、ユニークな活動をされていますね。コンセントとはどのような会社なのでしょうか。

筒井さん:コンセントは制作会社ではなく「デザイン会社」です。エディトリアル・インタラクティブの両領域の制作にとどまらず、サービスそのもののデザインも手がけるようになりました。2016年頃からは「越境」をキーワードに、それらに当てはまらない領域を担当する「Communication Design Division. 3」という部署を設立。私たちは現在その「CD3」に所属しています。

 

ーー「渡邊課」は、「CD3に所属する課」という意味でしょうか。

渡邊さん:いえ。「渡邊課」というのはチームの名前なんです。ぼくは平社員ですが、「渡邊課」のチームリーダーなので「課長」と言っています。平社員なのに「課長」を名乗っているので、ややこしいですね(笑)。

オフィスフロアの一角に、無数のガジェットが並ぶ異空間がある。ここが渡邊さん率いる「渡邊課」だ。

ーー『なるほどデザイン』の出版までの経緯を教えてください。

筒井さん:私は新卒で入社してから数年に渡って、クライアントである出版社の編集部に常駐するという環境で雑誌のデザインをしていました。編集者やライター、カメラマンさんたちとの距離が近く、デザイナー側からもどんどん積極的に構成を提案することができる、非常に恵まれた環境だったんです。そのため常駐が終わり自分で書籍のデザインを手がけるようになってからも、依頼された業務範囲を超えるような内容であったとしても、良くなると思ったことは積極的に提案をしていました。

また、常駐だった頃と違って編集者さんと物理的に離れているため、デザイン提案の資料化や、メールでも意図が伝わるような文章を工夫していました。それをみたMdNの担当編集さんが、「この人はデザインだけじゃなくて、著者側でものを作れるんじゃないか」と思ってくれたそうなんです。

筒井美希さん著『なるほどデザイン』

ーー渡邊さんも、もともと入社初期は雑誌や書籍などのエディトリアルデザインを中心に担当されていたそうですね。また『フリカケ素材集MAXX』(2012)、『Sweets素材集』(2009)では企画そのものから考え、素材だけでなく作例ページもある画期的な素材集としてヒットしました。ところが、いまの「渡邊課」ではまったく異なる映像領域を手がけられています。どうして映像のお仕事をはじめたのでしょうか。

渡邊さん:エディトリアルデザインを中心にやっていたころから、紙のものを作っているんだけど、書店だけで完結してたりとかするのってどうなんだろうって考えて。この素材集はカルチャーを作るものだ!と思ってTumblrやPinterest、果てはイベントを主催するまで、いまでは当たり前ですけど、オムニチャネルで素材集の世界観を伝えていったりしてたんですね。

渡邊徹さんがアートディレクションを手がけた『フリカケ素材集MAXX』(2012)

そうやって既存の受注仕事だけで終わらないような形というか、やり方に捉われずチャレンジしていたからだと思うのですが、ガジェット好きのコンセントの社長(長谷川敦士氏)が、よく新しいガジェットを買ってきてはぼくの机に置いていったんです。「3Dプリンター買ってきたよ」って(笑)。それまでぼくは3Dのデータなんて触ったことがなかったけど、3Dプリンターの使い方を自分なりに調べてみました。すると、「どうやら写真をいっぱい撮れば3Dモデルができるらしい。とりあえず写真撮ってみるか」と試したり、「3Dのスキャンができる場所があるらしい」ということがわかって。そのまますぐに会いにいったりして、3Dがわからないなりにも、自分のミニチュアを出力して遊んでいました。気がついたら「3Dプリンターをいち早く使っている人」として新聞で紹介されたり、社内の別プロジェクトの中で記事として紹介されたりと、謎の広がりが生まれていました。

3年前のある日、そんな風にして、いつものように社長がTHETA(初代)とOculusRift DK1(Oculus社が開発・発売しているバーチャルリアリティ向けヘッドマウントディスプレイ)を買ってきました。さっそくTHETAの全天球映像をOculusRiftで見てみると、それは今までの映像体験とは全く違うもので。まさに体験だったんですよ。「これはすごく新しいし、きっとみんな感動するはずだ」と思って、全天球映像作家「渡邊課」を発足したんです。最初は英語のなんかかっこいい名前とか名乗ろうかなーとか考えてたんですけど。渡邊がやることをやる課だから、渡邊課でいいかと。なんでもやる課みたいなもんです。

筒井さん:以前コンセントでも、米Google社が行っている「20%ルール」(エンジニアが仕事時間の20%を与えられた仕事以外の好きなプロジェクトに使えるルール。GmailやGoogleマップなどの画期的なアイデアが結果として生まれた)に似た取り組みをしていました。Advanced Designという取り組みで、渡邊くんはうまくその制度を活用していたよね。

渡邊さん:20%どころじゃないですけど、ずーっと調べ物してました。ぼくと筒井さんはある意味、その時の生き残りですよね(笑)。

 

組織にいるからこそ、チャレンジができる

ーーおふたりのユニークなお仕事の背景には、コンセントの社風や制度が影響していそうですね。フリーランスで働くという選択も増えている「クリエイター」ですが、企業に所属して働く魅力ってなんでしょう。

筒井さん:私の場合はマネジメントを経験できたことが大きいですね。マネージャーとして経営者と現場のあいだに立つことを通じて、両方の目線が身につきました。自分からマネジメントをやりたいと思ったことはなかったのですが、今となっては「デザイン会社の組織・仕事・数字」を必死に考えた時間は自分の財産になっています。他のどんな仕事よりも視野が広がりました。

会社にいながら自分のスキルをアップデートできる点も魅力です。未経験だったにも関わらず、デジタル領域のお仕事や、サービスデザインチームと協働するプロジェクトに挑戦できました。実績の有無だけでなく、可能性でも仕事をさせてもらえるという環境ならではかなと。

ただ、決して広げるだけが正しいとは思っていません。私はいまはいろんな領域の仕事をすることを楽しんでいますが、広げれば広げるほど、特定のスキルで突き抜けているエキスパートという存在の重要性を感じます。パッとものを作って、そのクオリティで誰かを感動させるという行為は、どこにいっても変わらない価値だと思うんです。今後は「狭く深いデザイナー」と「広く横断できるデザイナー」の両端が残っていくんじゃないか、と考えていて。いろんな人の働き方や仕事に刺激を受けながら、未来を模索していける環境にいるのは幸せですね。

渡邊さん:ぼくは、ローリスクでチャレンジできることが、企業に所属する大きな魅力だと思います。フリーランスは、リスクを意識するとどうしてもチャレンジがしにくい。その点コンセントは、社長が元研究者のためか(スーパーカミオカンデで素粒子物理の研究をしたり、その後は認知科学でPh.Dを取得)、チャレンジに対して理解があるのがいいなと思っています。「渡邊課」も、発足当時はうまくいかないこと、やっていることが事業に結びつかないということが多々ありました。いまVRでなんとか存続できているのは、「会社に対して、こうしたい!を提案するとやらせてもらえる」環境があったからだという気がします。

筒井さん:そうだね、わたしも「こうしたい!」と提案をして、セミナーや海外カンファレンスへの参加を応援してもらいました。言葉を選ばずに言うと、社員は自分の成長のために会社を利用するくらいの姿勢でいい、と思っています。

 

コンセントの「多様な働き方を認める仕組み」

ーー「働き方」の面ではいかがでしょうか。ご自身のクリエイティビティを生かす上で活用している、社内の制度や取り組みがあれば教えてください。

筒井さん:コンセントは創業45年を越えるデザイン会社。社歴の長い社員がいる一方で、新入社員も毎年入ってくる。必然的に多様な働き方が生まれています。子育てや介護と仕事を両立させるべく頑張っている人がたくさんいますし、育休を取る男性社員もめずらしくありません。上長との間で決めた責任はもちろん果たさなければなりませんが、シェアオフィスや自宅でのリモートワークなど、柔軟な働き方も一部では認められています。

 

ーーおふたりも、「柔軟な働き方」を実践されていますか。

筒井さん:私はいま、会社から1時間以上かかる湘南エリアに住んでいます。以前は会社から徒歩15分ぐらいの距離に住んでいて、何時に終わっても家に帰れて、すぐに出社できる環境でした。それはそれで効率的だったのですが、時間があるだけやるべきことで埋まってしまい、大切なことをじっくり考える時間をとることができなかった。

そこで自分と職場の物理的な距離を離してみようと考え、遠方に引っ越してみたところ、環境が一変したんです。通勤時間があることでメリハリが生まれたし、家が広くなって作業スペースを確保することができた。そのため今は週に1回、家に篭ってじっくり考えたり集中してものを作る日を設定、それ以外の日にミーティングの予定を入れるという「働き方」にチャレンジしています。「誰かと一緒」と「ひとりで静か」、それぞれのいいとこ取りをする働き方を目指して、これからも試行錯誤を続けたいですね。

渡邊さん:ぼくも自分の都合に合わせてリモートで仕事をしていますが、そういった柔軟な働き方をするには、結果を残すことが大事だと思っています。逆に言えば、結果を出せればどんなところでも仕事はできるはず。唐突ですが、いつか仕事をしながら奄美大島に移住したいんです。そのために、例えば1ヶ月会社に行かないで働いてみたりとかチャレンジしようと思っています。どんな不都合が生じるかやってみて、解決して、その先に、奄美移住を実現できたらいいなと思っています。

もうひとつ、働く環境を柔軟にしていこうと考えていて、実は「渡邊課」は、ぼくだけ正社員で、それ以外は全員業務委託契約のスタッフなんです。特殊なスキルを持つスタッフが週3とか週2という形で、特定のプロジェクトに縛られることなくフレキシブルに「渡邊課」に参加しています。みんな個々人でも仕事をしていて、そっちの仕事でも「渡邊課」を巻き込んでもらったりして、仕事の面では広がりがあって今までになかったような思わぬ仕事が舞い込んできたりします。今後は、そういう自由な働き方で活躍できるスタッフが更に増え、外部のクリエイターがフラッときてその場で仕事が生みだせるような場を作っていきたいですね。

ーー最後に、コンセントはどんなクリエイターに合う会社でしょうか。

渡邊さん:会社のスローガンは「伴走するデザイン」。企業や人、社会と寄り添いながらクリエイティブしていくという意味です。だから、コンセントは特定の色をもたない、いい意味で“個性のない会社”だと思うんです。自分色に染めるというよりは、お客さんの色に染まりながら楽しむというイメージですかね。お客さんの力を最大限引き出しながら作るのって自分の力以上の面白い物が作れるので楽しいです。

筒井さん:担当するプロジェクトによって、求められるデザイントーンはもちろん、役割から違うことも少なくありません。わたしも渡邊くんに同感で、その時の状況に合わせてあたらしい引き出しを作っていけるのはとても面白い。毎回そもそもから考えてふさわしいデザインを提案することを楽しめる人に、ぜひご応募いただけたらと思います。

PROFILE

株式会社コンセント

事業開発や組織開発、コミュニケーションデザインの支援、クリエイティブ開発を戦略から実行、分析・改善まで一貫して行い、企業が抱える課題の発見・解決に取り組むデザイン会社。1971年にエディトリアルデザインを生業とするデザイナーチームとして創業、改組・社名変更・合併などを経て、2011年より現在の組織体制に。200名を超える社員を擁する。

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