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編集という感覚を再定義し、ビジネスに繋げるには

佐渡島庸平 × 草彅洋平

クリエイターエージェンシー「コルク」を通じて、漫画家の育成・輩出を手掛けている佐渡島庸平さん(写真・左)。「東京ピストル」代表で、下北沢・新宿などの場で新たなコミュニティ創成を手掛けている草彅洋平さん(同・右)。お二人の仕掛ける事業は、ベクトルこそ違えど、「編集」という行為と感覚を元にその「編集の先」の領域でビジネスをしているようにみえる。今回は、「人」の編集のプロである佐渡島さんと「場」の編集に強みを持つ草彅さんのお二人に、自身の編集論と未来のあるべき編集者の姿を議論していただいた。2020年の編集像を問われると、佐渡島さんは「情報が氾濫しているときこそ、減らすことに価値がある」と語り、草彅さんは「変わりゆく街に身を置くことが重要だ」と語った。それぞれの「編集」の価値観から、自分たちの考える「編集」感覚の応用と拡張のテクニック、これからのビジネスの作り方・育て方について両者のスタンスを紐解いていく。

編集者の仕事は、畑のコーヒー豆をおしゃれなカフェに届けること

ーーそもそもお二人は面識があるんですか?

佐渡島庸平(以下、佐渡島)さん:年に1−2度あって情報交換をします。僕たちは下の名前が一緒というだけで集う『ヘイペック』という会のメンバーですね。

草彅洋平(以下、草彅)さん:もともと高木新平くんと、ヨウヘイ会とシンペイ会で「どっちかが30人集めたら飲み会をおごる」という遊びをしていたんですよ。それで佐渡島さんをヨウヘイ会に誘ったら『草彅さん。お互い2つとも“平”ってついてるから、例えば“ヘイペック”って名前で統合したらどうかな』っておっしゃられて。佐渡島さんはものすごく頭良い方だなと思って僕は信者になったという(笑)

佐渡島さん:そこからだらだら喋って生産性のないくだらない話をしています。だから情報交換といってもそんな高尚なもんじゃありません。でも編集者にはそういう話好きな人が多いんじゃないかな。

 

ーーなるほど。では、お二人が編集者になったきっかけをお伺いさせてください。

佐渡島さん:僕は単に本が好きだったからです。本以外のことに興味がなく、出版社に入社したことがきっかけになりました。

草彅さん:両親が編集者の“雑誌編集一家”に生まれ、個人でずっと雑誌を作っていたので、いつしか自分から編集者を名乗りましたね。

 

ーーお二人の中で「編集者」とはどのような職業なのでしょうか。

佐渡島さん:ことの大小に関係なく「集めて、削って、並び替えて、補足する」のが編集者だと思っています。このフローを一人で行うと小説や漫画ができる。複数人で行えば雑誌になります。

草彅さん:佐渡島さんは編集者であり、起業家でもある。会社というレイヤーで「集めて、削って、並び替えて、補足する」ことをしていますね。

佐渡島さん:そうですね。僕は何か考え事をするとき、「思考を深めよう」と思ったところで思考が深くなることはないので、あまりゼロベースでは考えません。たとえば会社を経営するのにも、他の経営者の情報を集め、自分に合うものを取捨選択する。その意味で、コルクも僕の生き方にも編集者的な一貫性があり、それが個性になっている気がします。

草彅さん:僕の場合、一歩間違うと「編集者」は“クズでずるい奴”ぐらいに思っていますね。雑誌の編集者も、写真も撮らなければイラストも描かないし文章も書かない。僕自身「何もしてないな」と思うときがあって。では何が仕事なのかというと、世間にあることを再認識させたり、みんなが見てない部分に光を当てることなんです。

佐渡島さん:コーヒー豆は、焙煎されコーヒーになることで価値が上がります。それを雰囲気の良い喫茶店で出したら、もっと価値が上がる。加工を経ると、価値が上がるんですよね。
畑の中からおしゃれなカフェに持っていくことで、素材の価値を世間に気づかせることができる。それが編集の仕事だと思っています。

草彅さん:物事はどのように光を当てるかで、ものの見方は変わるんですよね。
僕は今までに先人がやった編集手法を定期的に真似させてもらったりしています。たとえば、みうらじゅんさんは、言葉を先行させてカルチャーをつくられるんです。行政がマスコットキャラクターを用いた広報活動を行っているのをいち早く察知し、「ゆるキャラ」と名付けたのが代表的な例です。
他にも、24歳で急逝してしまったラッパー「不可思議/wonderboy」くんの作品を世に残したいと考え、映画を制作したことがあります。これは、尾崎豊さんの死後に作品を発表した、幻冬舎の見城徹さんの『編集者という病』からインスパイアされました。僕のやり方は亜流に見えるかもしれないですが、歴代編集者の手法に習ってアウトプットすることも多いんです。

場所そのものを起点にすることから、編集は始まる

ーーお二人の仕掛ける事業を見ていて、草彅さんは「場」の編集、佐渡島さんは「人」の編集を行っているように感じます。いわゆる出版物の編集から離れた経緯を教えていただけますか?

草彅さん:そもそも雑誌業界は斜陽産業なので、雑誌の仕事に熱が入らなくなったんです。本も制作していましたが、小規模な会社では大ヒット作を作るのが難しい。個人でもカバーできる編集領域が「場」なんじゃないかと考えたんです。前職がインテリア会社だったことも影響しているのだと思います。

佐渡島さん:僕も「場」に興味がありますが、やはり「人」が好きなんですよね。その人のことを研究し尽くしたい、一人の人を見ていたい思いが強くて。一方で、草彅さんはたくさんの人を見ているタイプだと思います。

草彅さん:僕も「人」に興味がありますよ。だからこそ、「場」に行き着いたんです。そこにどれだけ人を呼べるか、そして楽しんでもらえるか。人を刺激する方法を考えて、場所に仕掛けを作るんです。

ーー「場」を編集する上で、どのような仕掛けをするのでしょうか?

草彅さん:最近では、ホストやホステスが書店員を務める「歌舞伎町ブックセンター」をプロデュースしました。キャッチーさはあったと思いますが、やったことといえば、ホストと仲良くなっただけだったり(笑)。

佐渡島さん:そういえば、世の中にグラノーラを流行らせた (*1) のも草彅さんですよね。あれはどうした経緯で?

草彅さん:グラノーラは、女性関係の仕事が一切来なかったので、「俺も意外とできるんだぜ!」ってアピールしたかったので自分でやったという(笑)。

佐渡島さん:ちなみに文学カフェ「BUNDAN COFFEE & BEER」はどういった経緯でできたんですか?

草彅さん:日本近代文学館内の物件を借りることができたので、「公共事業空間を面白くしよう」という考えから入りました。これまでにこうした「場」を作ってみて感じたのは、そもそも現代は考え方が間違っているのではないかということ。
何か場を作ろうとしたときに、やりたいことが先行しすぎていて、場所を疎かにしがちだと思うんです。ピザ屋をやりたくて、物件が赤羽にあったから始めるのではなく、「赤羽だったら何をするか」を考えたほうが、ビジネスとして確度が高い印象があります。

佐渡島さん:現実世界は雑誌と違って、土地や人、景観など違うレイヤーの情報が集まってしまうので、それをどう編集するのかは超重要ですよね。

草彅さん:僕らが飲食店経営者でも書店業でもなく、「編集者」としての視点があるから面白いことができるというのはあるかもしれないですね。ノウハウはないけど、「この場所はこれが重要だな」というのは分かる。だから「歌舞伎町だったら本屋を作りましょう。スタッフはホストで」といった、馬鹿げたような話が結果としてハマるケースはある気がします。
佐渡島さんはコンテンツをたくさん抱えているので、場所に絡めたアプローチも無数にできそうですよね。

佐渡島さん:そうですね。リアルな場にコミュニティが作れると思っているので。ただリアルな店舗を扱ったことがないので、実際のオペレーションのイメージが湧かず、「やりたいな」で思考が止まってたんです。コルクの所属クリエイターでアナログカードゲームが作るのが巧い人がいて、宇宙兄弟のカードゲームを作ってきたんですけど、説明は5分くらい聞かないとわかならいのだけど、やるとめちゃくちゃ面白いんですよ。なので、ゲームを通じてみんなが仲良くなれる場みたいなのを作りたいなと。

草彅さん:ゲームカフェですかね。アナログカードゲームって面白いんですよね。それやったほうがいいですよ。

佐渡島さん:そうそう。もうちょっと的を絞ってもいいと思ってて、宇宙兄弟のゲームだけがどんどん出たり、期間ごとに変えていってもいいんだけど…。

草彅さん:ぜひ、一緒にやりましょう。ビジネス的に旨味はないかもしれませんが、作品のファンを増やしたり、コミュニティを作ることが大事だと思います。

佐渡島さん:草彅さんは「場」の編集のプロだから、オシャレに仕上がりそうです。

*1…2013年グラノーラ専門店『GANORI』を立ち上げる。

「場」を継続運用する「経営×編集」視点とは?

佐渡島さん:草彅さんが場を起点にした編集が得意だけど、2号店を出店しないですよね。何か理由があるんですか?

草彅さん:過去に失敗例があるのと、これまでになかったお店作るのが楽しんですよ。店舗をコピペで広げていくのは、やっぱり飲食店経営者的な手法で「編集者」の店作りではない気がします。『インベスターZ』は、一巻が無料になってて、最終巻まで買ってしまったし。そういう戦略は大事ですよね。コルクだと、最近『漫画 君たちはどう生きるか』が一気に広がっていますよね。岩波文庫はなかなか読まれないですが、アプローチを変えると読まれるという。

佐渡島さん:そうですね。ただ、他の作品を伸ばせているかといえば、そうではなくて。「点」のヒットにすぎないんです。偶然ではなく、戦略的に「点」を「面」にする力の重要性を感じています。

 

ーー「場」を編集することは、ある種“完パケ”を一度つくることだと思います。しかし、草彅さんは編集者的な視点に加え、ビジネス的な視点があるからこそ、継続して「場」運用できていると考えているのですが、何かコツはありますか?

草彅さん:「逃げない」ことに徹しています。辞めるのは簡単ですが、経営者は一度始めた以上、簡単に逃げることはできません。最悪の場合、事業を丸々潰すしかない。撤退するなら早いに越したことはないんでしょうけど、長期的な視点で可能性に賭けるしかありません。
BUNDAN COFFEE & BEER」は最初赤字で、2年かけて黒字になり、公共空間におけるひとつの事例を作ったと評価をいただいております。
経営者である以上、適切な人材を選び、采配して、1年間様子をみて…とトライアル & エラーを繰り返さないといけない。経営が安定するまでの間、体力を維持できなければいつ死んでもおかしくない。そんなゲームをしている感じです。『下北沢ケージ』の場合、そうやって続けているうちに、社員も自然と遊びにくるみたいなグルーヴが生まれ、平日も休日も関係なく人が集まる環境になっていったんですよね。

 

編集の未来は、誰にも分からない。「何を言うか」より、「いつ、誰が言うか」

ーーWeb上に記事が粗製乱造される昨今「編集者」と勝手に名乗る人も増えてきましたが、そういった潮流についてはどうお考えですか?

佐渡島さん:「編集者」とひとくちに言っても、雑誌を作っているのか、作家担当なのかウェブなのか分かりません。多義性があり、雑な言葉だと思います。「編集者」のようにしっかりと定義されていない職業は、技術化されずノウハウが蓄積されていかないんです。暗黙知のまま、「人間力がすごい」みたいなフワッとした表現でまとめられてしまう。そこはしっかりと言語化していかないといけないと思います。

 

ーー2020年以降「編集者」はどんな職業になっていくと思いますか?

佐渡島さん:ここ最近本当に変化が大きく、2020年の想像までできないですよね。2〜3年後の未来だって分からない。個人的には「変化し続けられる組織をどう作るか」がテーマですが、コンテンツを作る便利なツールが続々と登場し、チームより個人のほうがいいと考えてしまうこともあるので、まったく予想がつかないです。

草彅さん:私も予感していることは何もないです。ただ、2020年に向けて特に渋谷では大規模な再開発が進められてますよね。何かに向けて街が発展していくときに、新しいものを肌で味わうのはすごく大事だと思います。だからこそ僕は渋谷に引越しをしたのですが、そういった何かが起きている場所に身を置き、肌で感じてみるというのはおすすめです。今なら電子通貨系の企業に身を置くのもアリでしょうね。

 

ーー変化の激しい現代ですが、これからお二人が「編集者」として変わらずに持ち続けていくものはあるのでしょうか。

佐渡島さん:世間が価値を認めていないものに対し、価値を認知させたいです。形を変えると、急に価値が生まれることも多いので。みんな情報に目がいきがちですが、ほとんどは「いつ」「誰が」言うかのほうが重要なんです。

草彅さん:たしかに、タイミングは大切です。たとえばトランプを取材した記事を、今なら誰でも見る。しかし10年前だったら、今ほど読まれてないででしょう。メディア全般、タイミングは本当に重要です。
僕は長谷川伸という大衆作家が残した「紙碑」(しひ)という言葉が編集のテーマなんです。無名で消えていった人に対して長谷川伸が一生懸命、筆で石碑を作っていったから「紙碑」な訳ですが、僕も色々な人の言葉を残していきたいです。

PROFILE

佐渡島庸平

1979年生まれ。2012年、コルクを創業。講談社時代、週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当。2012年、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

PROFILE

草彅洋平

1976年生まれ。株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。あらゆるネタに対応、きわめて高い打率で人の会話に出塁することからついたあだ名は「トークのイチロー」。インテリア会社である株式会社イデー退社後、2006年株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、紙からウェブ媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表として、広告から書籍まで幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。

写真・豊永拓万 文・長谷川リョー 編集・冨手公嘉

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