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Arts and Lawに聞く、「クリエイティブの契約とお金」

水野祐(弁護士) × 山内真理(公認会計士・税理士)

クリエイティブの契約とお金。フリーランスであれ会社に所属するクリエイターであれ、誰もが気になる深いテーマだけれど、文字にすると、なかなかにムズかしい印象を受けるのも事実。ものづくりやことづくりに日々励むクリエイターにとって、避けては通れないこのテーマを、あらゆる文化活動を支援するNPO「Arts and Law」の、弁護士・水野祐さん(写真・左)と公認会計士・税理士の山内真理さん(同・右)に問うた。開口一番、「クリエイターも権利や契約を自分のポケットに入れておくと“面白い存在になる”」と水野さんが切りだすと、「届けるところまでがクリエイションの時代。さてどうする?」と山内さん。対談は“クリエイターのあり方”を問う、本質的な話へ!

ーークリエイターにはどんな権利があるのか。まずはじめに、この視点で話を聞かせてください。

水野さん:インターネットの誕生以降、そしていまや、誰もが発信者であり、受け手でもあります。そんな前提の上、プロフェッショナルとして自分が作ったものにどんな権利が発生しうるのか、無知ではいられないと思います。クリエイターだからといって特別な権利があるわけではないし、個人的には権利に詳しくなる必要はないとも思っています。ただ、そう思う一方、いま活躍しているクリエイターをみると、いろいろな失敗を肥やしにした結果、法律や契約に勘どころのいい人が多いように感じます。例えば、弁護士などの専門家を上手に使ったほうが面白くクリエイティブを転がせると分かっているような。その感覚を単に“センス”と言ってしまうと、多くの人と共有できないものになってしまうので、今日は、権利や契約を自分のポケットに入れておくと「面白い存在になる」っていう話をできればと思ってます。

山内さん:自分の権利について自覚的になるのは、私も大切だと思う。それと同じように、他人の権利についても自覚的になったほうがいいと思う。権利の裏側には義務があって、クリエイターであれクリエイター以外であれ、例えば組織を作って人を雇うと、雇い主としての責任が発生し、税金を申告したり。取引関係を結べば、約束したことを履行していくことの義務も伴ってきます。ムズかしい話をするつもりはないけれど、権利はビジネスのごく一部にすぎないっていう視点もすごく大事ではないかと。大小あれど、仕事である以上一人で完結することはないので、ビジネスをプロデュースするという思考だったり、異種の人たちとも連携しつつ、信用を積み上げていくという志向だったり。このあたりのバランス感覚を養うのは簡単ではないけど、やっぱり結局、大切だと思っています。

水野さん:仕事の受け方、作り方はいろいろあるけど、クリエイターも経営を面白がれるかは大切な視点だね。権利の話も同じように。好奇心旺盛なクリエイターって、経営も数字も権利や法律も「何これ、面白い」と思える人が多いし、そういう人が活躍してる気がする。アンディ・ウォーホルじゃないけれど、ビジネスもクリエイティブなものとして捉えられるかどうか。その1つの側面として権利や契約があるっていう。

ーー自分がどんな組織に所属しているのか。フリーランス、小規模の制作会社の経営者やそこで働くクリエイターは、お金や権利の問題を自らやるしかない現実があります。その一方で、大きな会社であれば、例えばサービスの利用規約を作るときにクリエイターは「あとは法務の人、やっておいて」といった分業制が中心です。会社に所属するクリエイターの心構えについて、いま一度お話を聞かせてください。

水野さん:おっしゃるとおり、法務部があるような会社で働くクリエイターは、契約や法的な問題について専門職の人に任せていれば足りるという事実はあります。大企業は分業が進んでいますので、会社で働きながらそういうことに詳しくなる必要はないと思っています。なぜなら、会社員であることのメリットを最大限享受していることの証しでもあるから。とはいえ、いまの時代っぽい新しいビジネスの立ち上げ方とか、例えばサービスの利用規約をうまくデザインしてオープンソース的な仕組みをクリエイティブやビジネスに持ち込みたい人は、法務ときちんと協力関係を作り、初期段階で相談するべきだと思いますよ。その先に新しい仕組みができるわけだから。

山内さん:組織によってマネジメントのあり方や役割の与え方は全然違うので、一概には言えないですが、たとえば、事業部に所属したり、新規事業開発に携わりもしつつ、管理系の役割も経験すると、バックもフロントも知れ、足腰とバランス感覚が格段に増すと思ってるんだけど、どうかな?

水野さん:言うとおり、そういう思考をすればクリエイティブの幅は広がるはず。ただそこまでして会社にい続けたい人がどれだけいるのかは分からないけれど。会社に所属していてもフリーランスで働いていても、権利とか契約、お金のことを面白がれるというか、「なんか楽しいじゃん」と思えた人がこれからの時代には強いのは確かだと思う。

山内さん:公認会計士・税理士という職業柄、さまざまな人にお会いしますが、自ら責任範囲を広げつつ複合的に事業展開し、長期的視野に立った文化的発信・育みもしつつ事業を進めている人って、リスクを取って事業を継続させてきた分、タフな方が多い印象はあるなぁ。すごく考えてるし、試行もしてる。地方や国外で苦労してきた経営者にはそういう人たちが多い気がします。逆に言えばそういう人しか地方などでは生き残りづらいのかもしれない。

水野さん:地方のほうがインフラも安いし、人材も安いから、アイデアさえあればチャレンジしやすい時代になっているよね。“まちづくり”とかは分かりやすいけど、家がタダみたいな値段で転がっているとか、地方のほうがリソースが溢れている時代になっているのは確かだと思う。少し話がズレたけれど、会社員であれフリーランスであれ、東京在住であれ地方を拠点にしている人であれ、クリエイターとして何をしたいか、この点が大切なんだと思う。この前提に立った上で、権利や契約を自分の中で「どう面白い存在にできるか」っていう。著作権やパブリシティ権、意匠権、商標権など、法律の話に踏み込むと、権利ごとにさまざまな解釈ができるけれど、そのひとつひとつにデリケートになるよりも、ケースバイケースに、クリエイティブの種類や現状自分が直面していることをきちんと考え、その上で戦略を立てるべきだと思う。

山内さん:事業体としての主体性を持つことが鍵なのかなと。誰かが自分の仕事の品質や、その適正価格を教えてくれるわけではないし、前者を磨きながら、後者について交渉力を持たないと生き抜けない時代ですよね。会計を通じたアーカイブだってその戦略に役立ち得る材料として生かしていく。例えばクラウドソーシングで提示される依頼額の多くがはたして適正なのか。その答えはきっと「NO!」だけれど、その仕事を受ける人がいる限り、両者間では取引が成立してしまうわけです。どんな相手に対して、どういう価値、クリエイションの価値を提供したいのか、逆に言ったら、どういう相手と付き合いたくないのか、どういう価値では勝負したくないのか、みたいな選択の連続が経営だと思う。私たち士業だってそういう意味では同じですね。

水野さん:誰と付き合いたくないとか、こういう仕事はしたくないという話は、すごく重要だね。この話、クリエイターと権利や契約の話をする時の最初の質問にも入ってるんだけれど、何か主張したり契約の際に文句を言うと、次から仕事が来なくなるんじゃないかって怖がってしまうじゃない? ただ僕は、そういう契約や権利の講座をやる時に、クリエイターの皆さんに対して「自分がどういう仕事をしていきたいか」と、問うようにしています。このご時世、モンスタークレーマーになると嫌がられるけど、きちんと自分にあるべき権利やあるべき姿、あるべき平等な部分を主張できると、長い目でみると「ちゃんとした人だな」という信頼関係に繋がっていくのではないでしょうか。結局仕事って人間関係だから、そういう人と長い時間をかけて仕事をしていきたいと、僕は思っていて。

ーー議論を深めていただき、ありがとうございます! 最後に、これからのクリエイターのあるべき姿について、それぞれ思うところを聞かせてください。

山内さん:一つにはビジョナリーであることと思います。自分の活動領域についても戦略的に絞り込んだり、組み合わせたり。クリエイターが十分に入り込んでいない産業領域はまだまだ意外と多い。スタートアップ段階から経営層として事業に深く食い込むとか、自らリスクを取って事業そのものをハンドリングしてしまう、そういう人が少しずつ増えてきている印象がある。個人的には士業との連携ももっと進んでもよいなと考えていますが、自分の専門性だけでなく、他の専門領域の人、経験や知識を持った人と組むことで、大きな事業を展開していける気がする、みたいな感覚をもつ人たちはじわじわ増えている印象ですね。

水野さん:CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)とか、けっこうデザイナーやエンジニア出身の人がやり始めているよね。スタートアップ文脈では、とくにデザインが経営において重要だから。こういう事象を知るにつけ、面白い時代になってきたなぁと思う。

山内さん:会社に所属しながら副業を始めるクリエイターも増えてきたよね。

水野さん:究極的には、産業領域のすべてがクリエイティブになってほしいと思っているので、クリエイターが外の世界に目を向け、活躍できるフィールドを見つけて飛び込んでいく姿をもっと見たい。そういう経験を積み上げると、自分の活動するフィールドだと思っていたところが、じつは狭いことにも気づけるもの。外に出て、自分の思考や技術、センスを磨くと、仕事は無数に転がっているという感覚を持てるし、これからの時代、この感覚は大切だと思う。

山内さん:やりたいことが見つかるというのは、逆に、やりたくないこと以外を絞っていくプロセスとも言えますよね。別の職能なり専門性を持っている人とつながりを持っていると、自分の専門領域の仕事でないニーズがあった時、ほかの人につなげられるとか、信頼して頼れる人がいるかとか、そういうところで広がりを持たせることもできる。さっきの話に戻るかもしれないけれど、信用の積み上げみたいなところ。

水野さん:今回のテーマって「クリエイティブの契約とお金」ですよね? 実務レベルの話ではなく、かなり本質的な話になってる気もするけど、良しとしましょう(笑)。さっきの話にもちょっと戻るんですけれど、今日のテーマからすると、今までクリエイターって、何か大きな企業とかレコード会社とか映画製作会社とか出版社とか、広告代理店とか、そういう大きな会社を通じて、コンテンツを届けてきたわけですね。いろんな世界中のファンやユーザーに対して。だけど、インターネットで直接つながれる時代になったみたいな話も他方、あって。直接つながれる時代といういい面、インターネットのいい面ばかりをこれまで見てきたけれど、じつはそこには“責任”もちゃんと生じているんだっていうことが、最近わかってきたことだと思っていて。なぜいま、権利意識がこんなにも高まっているのか? それはやはり、インターネットの存在が大きいと思うんです。結局、間に入ってくれる企業が、今までちゃんと契約も利用条件も、それが適法なものかどうかもチェックしてくれたり、代わりにやってくれたんです。だけれど、インターネットというものが出てきたことで、それを使って何かコンテンツを届けたりクリエイティブをするときに、間に入ってくれる人がいない、または少ないので、その契約とか法律の適法性とか、そういうものをチェックしたり、代わりにやってくれる人がいないわけです。クリエイティブ業界を見渡すと、「直接つながれる。やった!」という声ばかりが聞こえてくるけど、実は責任というものも、権利と義務じゃないですが、両面で発生しているということなんじゃないかな。

山内さん:それってつまり、届けるところまでがクリエイションの時代ってことですよね?  うまく届けるところまでデザインをやれるクリエイターが注目されるっていう。

水野さん:そう。だから、自分が実務でやっている契約のデザインとか、規約のデザインというのは、まさに届け方のデザインの1つの手法だという風に位置付けていて。何が言いたいかというと、インターネットによって届け方のデザイン、届けるところの部分のクリエイティブがやりやすい時代になっているので、そこにはまず責任がある。でも逆に自由度も高いので、その視点を持っていると、ひょっとしたら面白いことができるかもねっていう。そういう視点を持ったクリエイターが増えたら嬉しいし、そういう視点を少しでも多くのクリエイターに持ってもらいたいなと思っています。

山内さん:伴う責任に対しての振る舞いは結局のところ、どれだけ社会的に波及したかで決まる部分も少なくないよね。それこそ、目に見えづらい立場の弱い人に対してもケアできるかという視点は、広がりをデザインするという観点からもすごく大事だと思う。そんなことを考え、さまざまな専門家が緩やかに連携しているのが「Arts and Law」だったりするのかなとも。

水野さん:まとめたね(笑)。公認会計士・税理士の立場から、最後に話せることはある?

山内さん:会計、税務でいうと、まずは会計の民主化ですよね。クラウドが登場し、AIがそこに搭載されて自動化が進んでいく時代になってきて。これまでアウトソーシングしていた分も自動化することで、合理化、効率化が図れ、クリエイションにより集中できる時代になってきつつある。ただ、AI方面の実装はまだ課題もあるので、期待はしすぎない方がいいかも。長期的に見たら、さらなる進化は必至でしょう。税務についていえば、例えば国境を越えた著作物の流通みたいな話。著作権法と税法などがリンクする部分になるので、個人的には興味深い。文化と経済の両輪をどうバランスして豊かさを創造するか、その足かせを排除するかという議論には垣根はいらない。自発的なルールメイキングも大切ですよね……そうした一役を担えればと思い、私も水野も仕事に勤しんでいたりします。

水野さん:お、無事に着地させたね(笑)。ありがとうございました。

PROFILE

Arts and Law

2004年設立。法律家を中心とした専門家による、主に日本国内の芸術・文化を支援するためのNPO(任意団体)。美術や工芸、デザイン、音楽、映像、映画、出版、建築、ファッション、パフォーミングアーツ、漫画など、あらゆる文化活動に携わる人々を対象に、法律問題等の相談をWEB上で受け付ける無料相談窓口、セミナー、専門記事の公表・出版を中心として、法的なアドバイスを提供。弁護士、公認会計士、税理士、行政書士、司法書士など、さまざまな分野の専門家がプロボノ=ボランティア活動として所属中。

写真・池本史彦 編集/文・紺谷宏之

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