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MAN WITH A MISSION × Surface ー感情に訴えかける映像ができるまで

MAN WITH A MISISONとMicrosoft Surfaceが新大学生を応援するプロジェクトとしてMVとWebCMのコラボレーションを果たした「MISSION with Surface」。今回制作を手がけたのは、欅坂46の『サイレントマジョリティー』のMVなどで知られる池田一真監督(写真・右)。また今回のディレクションを引き受けられたプランナーである電通の塩田佳明さん(同・左)とともに企業広告作品を作る上で、どのように今回の案件を手がけられたのか、映像作品を作る上で心がけていることについてお伺いした。まずは、MVWebCMを合わせて確認した上で記事を楽しんでもらえたらと思う。

『広告』ではなく、メッセージを届ける

ーーこのクリエイティブを作り上げる中でどのようなお話があったのでしょうか?

塩田さん事前のオリエンテーションで、「Surfaceが、新生活をむかえる学生の不安を払拭することができるような存在でありたい、どんな学生も様々な可能性を秘めていて、そのあらゆる可能性に挑戦する皆様のサポートをしたい」とMicrosoft様からの想いを受けて、制作を開始する前に学生へのヒアリングもしながら考えや方向性をまとめていきました。他にも、キーワードが自分のなかで浮かんで。それをチームのメンバーに伝えるようにしました。

ーーそこで生まれたコピーが、『きっと、ナニモノにだってなれるんだ。』というものなんですね。

塩田さん:はい。実はそのコピーができる前に、実際に自分でもいくつか書いてみて、それを予めコピーライターに共有したんです。毎回制作をするときは、自分がクライアントからヒアリングしたことは自分で一度、簡単でもいいので形にするようにしているんです。なぜならそのほうが確実にいいものができるし、クライアントさんに提出する素材を作る上で、大きくずれていないかどうかを理解できるから。そういうコピーができてから、池田さんに依頼することにしました。

ーー依頼を受けて、どのように制作に入って行きましたか。

池田さん:予めよく話し合いましたね。

塩田さん:そうですね。今回事前のMicrosoft様との話し合いの中で、「広告を作るのではなくて、若者に届けるメッセージを作りたい」という話をされたことを受けて、池田さんには、感情に訴えかけるものを作ろう、不器用ながらも前を向く真剣さを肯定するメッセージを伝える映像を作りたいとお伝えしました。

池田さんお話を受けて絵コンテを制作したのですが、登場する若者たちが自分自身の殻を破るきっかけや気持ちを説明的にしないで描こうと思っていました。なぜだか理由がわからないけど、スっと気持ちが晴れたり、テンションがあがったりする、ささいなきっかけは誰しもあるじゃないですか。そういうニュアンスに言葉に置き換えて説明すると意味が伝わりづらくなってしまうので、映像では描かない人物のキャラクターやバックストーリーを細かく設定してまとめていきました。

ーー瞬間的に差し込まれた映像についてひとつひとつ意図を言語化するのは憚られてしまいますよね。

池田さん説明的なわかりやすさはなくても、ふとした1シーンに共感できたり、作り手が正解を提示せず見た人が自分なりの解釈をしたり想像できる余白を残しておくのは、個人的なトライアルでした。感情が変わる瞬間の集積の作品ではあるのですけど、何かが変わる瞬間って意外とおおげさなものじゃなくて、小さなことに宿ると思っていたので、そのメッセージが成立するものをイメージ的に差し込みました。

塩田さんWebCMでよく言われている「冒頭5秒でインパクトを与えること」を狙うより、全体の読後感を大事にしたいという話はずっとしていましたよね。

 

作品のなかにひとしずくの真実を混ぜ込ませる

ーーキャスティングはどのように考えられましたか?

池田さん無限の可能性をもった20代前半で自分の殻を破って活動している人、例えば服飾デザイナーや、イラストレーターの中でも常識に囚われずアウトサイダー的に自分の生き様を表現している人たちを選びました。というのは、今回のWebCMのなかでキャスト本人達の人生からにじみでたものを大事にしたいと思っていたからです。例えば、今回トリッキングという身体表現をやっている人たちを起用したんですけど、その人たちが躍動する様子、「ナニモノかになろうとしている様子」は素に近い演技をやってもらっている。映像のなかのどこかに本当が混ざりこんでいる、それが訴えかける表現になるのではと思いました。その思惑が功を奏して、彼らの表情を見ていて、現場で何度も鳥肌がたちましたね。

ーーそういう何かが変わる瞬間やきっかけに光を当てた集合体になっていますね。MAN WITH A MISSIONの未発表曲「The Anthem」のMVも手がけられていますが、MVとWebCMをどのようにリンクさせようと意識したのでしょうか?

池田さん基本的に、MVは楽曲の意図やコンセプトを伝えるものだと思うので、それをいつもやっているのですが、<いつか自分だけの信念と大事なものがみつかるはず それを世界に知らせてやるんだ(和訳)>とか、自分の殻をやぶろうとする人の背中を押すような言葉が散りばめられていて、歌詞の内容がびっくりするくらい広告のコンセプトとマッチしていていたので自然とリンクしていきました。MVではより歌が響くように極力シンプルに演出しました。

ーーいつも制作スタイルというのは一貫しているものなのですか? 共通する意識みたいなものがあれば教えていただきたいです。

池田さん自分の色や作家性みたいなものに囚われずに毎回、ゼロベースで考えるようにしています。そういう意味で共通するやり方があるとすれば、毎回MVであれば楽曲、CM企画であればコンセプトや求められることを丁寧に読解してから自分のフィルターにかけて納得いくアイデアを考えています。

 

ーー具体的に過去作から事例を教えてもらえますか?

池田さん例えば、『サイレントマジョリティー』は欅坂46がまだはじまったばかりで彼女達は右も左もわからないようなところがあって、このSurfaceでいうところのまだ自分の殻を打ち破っていないところをそのまま見せていくのが良いなと思って、あえて苦悩してる様子をつかってみたり。開発途中の渋谷をバックというのもメタ的で、それが見た人の心に引っかかるのかもしれないですね。

 

ーーそれでは、塩田さんがプランナーとして心がけていることがあれば教えてもらえますでしょうか?

塩田さん:できるだけチームを組成する上で、人数が多くなり過ぎないようにしているんです。電通のなかにはいろんな才能を持っている人たちがいて、いっぱいの人と仕事を一緒にしたくなっちゃうのですが、僕の場合はAD、コピーライター、プランナーとできるだけ少人数のアサインにします。毎回意思疎通がしやすいですし、最小限の方がひとりひとりが「自分の仕事」という意識で良いものを作る意識を高く持って仕事ができると考えています。毎回コピーライターやデザイナー、映像監督に自分の企画や意図を伝えるにしても、全部一度は手を動かして画を作ってみたりします。だから毎回PhotoshopやPremiereを触っているんです。それを下地に作家さんは必ずいいものを仕上げてくれるし、方向性がぶれるリスクが減るんです。表には見えないところですが、僕はクリエイターというよりは企画屋なので、そうしたところでクライアントさんと作家さんの間に立ってできることをいつも考えるようにしています。

池田さん:MAN WITH A MISSONさん側からも自由にやってOKと一任されていましたし、塩田さんと意見の擦り合わせをできていたので、やりやすさを感じながら制作に没入することができましたね。

 

ーーこれからお二人はナニモノになりたいか、最後にお伺いできますか?

池田さん:これまでの人生で何かを続けられたことがないのですが、映像だけは続いているのが自分でも不思議で。苦痛に思ったこともないし、今も熱中できているので、こんなにありがたい話はないなと。毎回、過去にやったことに縛られないで新しい映像を作っていけたら嬉しいですね。

塩田さん:僕は昔音楽をやっていて、途中で音楽を生み出すことに挫折した人間なんです。そういう意味で、ゼロからイチを生み出すクリエイターに対するコンプレックスと尊敬の念を今も抱えてます。だからこそ、この仕事を続けていて、企業が目指すゴールに到達できる広告をクリエイターと一緒に作って、クリエイターとクライアントさんに寄与していきたいという気持ちがあるんです。そういう思いを形にしつづけていければと思いますね。

 

ーーこの作品の熱量が高い理由がわかりました。ありがとうございました。

PROFILE

塩田佳明

1984年東京生まれ、立教大学心理学部卒業。プランナー。2009年に電通に入社。デジタルを中心としたPR視点のプランニングを得意としている。最近の主な仕事は、バンダイナムコエンターテインメント「人工知能少女育成プロジェクト」、「e-sports TEKKEN BAR」、日本マイクロソフト「クリエイティブ・ディレクター エビス・ヨシカズ」など。spikes、adfest、広告電通賞など国内外でいくつか受賞。超インドア派。

PROFILE

池田一真

1979年生まれ。映像ディレクター。番組ID、オープニング等のモーショングラフィックス制作からキャリアをスタート。 現在ではその経歴を活かし、実写、CG、アニメーションなど手法にとらわれない柔軟な制作スタイルを得手としている。

写真・豊永拓万 編集/文・冨手公嘉

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