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ケネディーズとして過ごした7ヶ月、そこで得たW+K流の仕事術

ケネディーズ(塚本亮太、宇井百合子、杉若國太郎、村田遥人、佐奈木敦)

1982年にダン・ワイデンとデビッド・ケネディの2人によって創業されたクリエイティブエージェンシー「W+K(ワイデン アンド ケネディ)」は、どんな仕事でも遊び心を忘れない。だから、クリエイティブを学ぶ手法もちょっと変わっている。「ケネディーズ」と名付けられた次世代クリエイティブ増強プログラムでは、実際にW+Kのオフィスで7ヶ月を過ごしながら、有給でW+K流の仕事術を学んでいく。このプログラムがW+K Tokyoでもスタートした際には、その斬新な課題「10の質問」に約80名が応募。そして狭き登竜門をくぐり抜けることができた5名のメンバーが、2017年9月から本格的に活動を始めることになった。それから7ヶ月後の2018年4月末、メンバーは予定通りケネディーズを卒業し、新たな地へと巣立つ。長いようで短い期間を共に過ごした5名は、何を学び、どのようなアウトプットを生み出したのだろうか。メンバーはもちろん、担当ディレクターである田中賢治さんや、クライアントとしてケネディーズと共に2人3脚でキャンペーンを手がけたトラベル・ポートランドの担当者・古川陽子さんにも話を聞いた。

まず、ケネディーズ1期生となった5名をあらためて紹介したい。

塚本亮太さん(写真・左)
現代美術家。ケネディーズ参加前は大阪の船舶設備製造業者で部品の調達などを担当。「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2017」でグランプリを受賞。G/P galleryやW+K+でも個展を開催。

杉若國太郎さん(同・中央左)
映像作家、お笑いアニメーター。京都精華大学プロダクトデザイン学部卒業。2017年BOVA一般公募部門の準グランプリ受賞。

村田遥人さん(同・中央)
慶應義塾大学の大学院生。身体性メディアに関する研究に従事。メディアテクノロジスト。

佐奈木敦さん(同・中央右)
1993年生まれ、ケネディーズ最年少。東京造形大学のグラフィックデザイン専攻4年生。

宇井百合子さん(同・右)
アートディレクター、デザイナー。デザイン会社で3 年間デザインとアートディレクションを経験。ラフォーレ原宿で展示。朝日広告賞、GOOD DESIGN AWARD、東北パッケージデザインアワード受賞。

 

この5名が選ばれた理由について、担当ディレクターの田中さんは次のように話す。

田中さん(ケネディーズ ディレクター):W+K Tokyoでケネディーズの募集を行う直前に、プログラムの生みの親で、アムステルダムオフィスのクリエイティブディレクターであるアルヴァロ・ソトマヨールに相談も兼ねて電話をしたんです。それでけっこう長い時間話したんですけれど、各オフィスの取り組みや制作過程の話はまったく出なくて。代わりになぜケネディーズを始めたか、その理由について語られました。かい摘んで説明すると、想像力が豊富なのに社会的に不利な状態にいる人たちをフックアップしたいということだったんです。だから、今回5名を選ぶ際も、年齢や学歴、職歴などはまったく気にせず、募集課題である10の質問への答えだけで決めることにしました。

 

 

体当たりで「トラベル・ポートランド」のキャンペーンに挑戦

そうしてケネディーズの一員となった5名は、実際にいくつかのプロジェクトを任されることになった。そのひとつが「トラベル・ポートランド」のキャンペーンだ。

 

田中さん(ケネディーズ ディレクター):トラベル・ポートランドは、もともとW+K Tokyoのクリエイティブチームが担当していたプロジェクトだったんです。それをマネージャーがケネディーズにやらせてほしいと、トラベル・ポートランドに推薦してくれて。

古川さん(トラベル・ポートランド): W+K Tokyoとは3年目の付き合いになるので、とにかく任せればOKという信頼感が最初からありました。それに他国で実施されているケネディーズのことも知っていたので「お任せします」と。

 

ケネディーズの初仕事として、夢のようなクライアント。だが、決して順調な滑り出しではなかったという。

 

田中さん(ケネディーズ ディレクター):最初はとにかく生温いアイデアしか上がってこなくて困りました。5人それぞれが”チーム”という安全帯の後ろに隠れていたんです。だから、クリエイティブディレクターたちにビシバシしごいてもらうことにして(笑)。それで次第に議論が進むようになりましたね。

 

5人が真剣になればなるほど、衝突が生じることも。ただ、田中さんはそれを静かに見ていたそう。そうしてしばらく経つと、議論が活発になり、次第にそれぞれの個性や性格が浮き立つように。やがて、キャンペーンの方向性が見えてきた。

ポートランドの旅行会社オドナロトラベルの社長であるオドナロデュードが日本に来日して捕まるというストーリーを設計。さらに、押収品に見立ててプロモーショングッズを展示する「ポートランドに行くなら少しぐらい変じゃないと変だよ」展も開催した。

そして、企画からプロモーショングッズの制作、毎日更新されたインスタグラムのコンテンツ制作に至るまで、そのすべてをケネディーズが担当した。とりわけ力を入れたのが、変わった形状をした3つのスーツケースだ。

 

宇井さん:私たちが抱いているイメージとリアルなポートランドってちょっと違う気がして。だから、リアルなポートランドが少しでも垣間見れるようにしたいなと思ったんです。そこでポートランドの変なカルチャーがふんだんに詰まったスーツケースを制作しました。ポートランドらしく変わった形にして。それらを使ってスタントを仕掛けたり、イベントや展覧会をすることにしたんです。

塚本さん:アイデアを出すまでは良かったんですけれど、実際に作るとなったらいろんな課題が出てきて(笑)。どういう形なら実現できるのかとか、どこに発注をかけたらいいのかとか、予算は合うのかとか。それをひとつずつ解決すること自体に学びがありました。

佐奈木さん:だから、ひと際目を引く変なスーツケースができた時は、とにかくみんなで喜びましたね。可能な限り自分たちで完結させることを意識していたのもありましたし。

今回のキャンペーンのために制作したオリジナルのスーツケース。「ポートランドに行くなら少しぐらい変じゃないと変だよ」展で展示されたグッズ類がすべて収納できるように設計されている。

村田さん:あと、クライアントである古川さんとの距離が本当に近くて。コミュニケーションの取り方はすごく勉強になりました。

古川さん(トラベル・ポートランド):毎週1回、日本は朝、ポートランドは夕方という時間帯に声だけでミーティングしましたね。みんなの声がもう聞けないかと思うと寂しいわ(笑)。

杉若さん:毎週のように電話でチェックをもらっていて、「OK」という言葉を聞くのを楽しみに頑張っていました。ある時にアニメーションを確認してもらうことがあったんですが、電話越しに笑い声が聞こえてきて、すごく安心したのを覚えています。

田中さん(ケネディーズ ディレクター):ケネディーズのメンバーは、膨大な量の納品物をすべて自分たちで手がけました。作って、クライアントにプレゼンして、修正して、何度この行程を行ったかわかりません。でも、その中で少しずつ彼ら自身が自信を持つようになったし、作業時間も徐々に短くなったんです。いろんな局面で苦労していましたが、通らなければならない道をうまく歩くことができたと思います。

ケネディーズ2期生の募集も決定。挑戦者、求む!

ケネディーズは、このトラベル・ポートランドのほかにも、スターバックスのキャンペーンや和太鼓芸能集団・鼓童の PRムービーなども担当。その中でW+K流の仕事の仕方を学んでいった。彼らにとって、この7ヶ月はどのようなものだったのだろうか。

 

塚本さん:ケネディーズに参加するまでは、仕事としてクリエイティブなことに携わる機会ってほとんどなかったんです。だから、こうやってクライアントワークに携われたのが良かったなと。自分のアイデアが採用されることもあったから、自分の作るものをもう少し信じてもいいのかなという気になりました。

杉若さん:僕は、W+Kという会社がどんなことを考えてものづくりをしているのか知りたくて、ケネディーズに応募したんです。それで実際に感じたのは、やっぱり感度の高い人ばかりだなって。それに企画を練る時もここまで考えるのかってくらい悩んでいて。自分は今の段階でそのレベルに達していないので、もっと頑張らないといけないなと戒めるきっかけになりましたね。

考え疲れて寝落ちしているケネディーズのメンバー。
変なスーツケースの形を考える際はさまざまな案を付箋に描いていった。

村田さん:僕は、これまでもけっこう自分の立ち位置をコロコロ変えながら生きてきたんですね。ケネディーズに関してもテクノロジーに精通していて、10の質問に答えられる人なんていないだろうっていう目論見もあって応募したんです。それで実際にうまくいったので、そういう意味では自分のやり方が間違っていないという証明ができたのが良かったです。あと、僕はパーティーとか賑やかな雰囲気が得意じゃないし、音楽かけながら仕事をするとか本当に無理だと考えていたんです。でも、W+Kのオフィスで働いていて、そういうのもなんだか悪くないなって。そういう心境の変化も、このプログラムに参加していろんな人に出会えたから起きたのかなと思うので、それはすごく感謝しています。

佐奈木さん:この7ヶ月間はとにかく失敗の日々でした。ケネディーズが始まる前にプロデューサーから「とにかく失敗しなさい」と言われて、「そんな失敗せんわ」と思っていたんですけどね(笑)。そういう変な自信があったから、最初の頃は失敗するとくよくよしていました。でも今は、すぐに対処法を考えるようになっていて、それは進歩したのかなって思います。あとは“なんでも行動すればできる”と学んだので、これからも貪欲にトライしていきたいです。

宇井さん:W+Kはとにかくクリエイティブに妥協しない心構えがすごいなと思いましたね。クライアントとすごくフラットな関係でやりとりできていることに驚きました。ケネディーズを卒業してからもアートディレクターを続けていくのですが、そういう姿勢を見習っていきたいと思います。

トラベル・ポートランドの古川陽子さん(写真・左)と「ポートランドに行くなら少しぐらい変じゃないと変だよ」展の会場で記念撮影。

2018年7月からはケネディーズ2期生の募集がスタートする予定だという。担当ディレクターである田中さんは、どんな人に参加してもらいたいと考えているのだろうか。

 

田中さん(ケネディーズ ディレクター):クリエイティブの肩書きに捉われない人、流行りに流されない人、何らかのカルチャーや趣味をしっかり持っている人。つまり自分の考えや、その理由を言える人が向いているかなと思います。挑戦、お待ちしています。

PROFILE

ケネディーズ

クリエイティブを武器に世の中にインパクトを与える方法を身につける“次世代クリエイティブ増強プログラム”。W+Kのアムステルダムオフィスから始まり、ロンドン、上海、サンパウロと各地で行われる。ケネディーズという名前の由来は、W+Kの創業者の1人、アートディレクターのデビッド・ケネディから。東京オフィスの第1期生として選ばれた5名のメンバーは2017年9月から7ヶ月のプログラムを体験、卒業後は2名がW+Kにジュニアクリエイティブとして残った。

PROFILE

W+K Tokyo

W+Kはオレゴン州ポートランドのほか、アムステルダム、デリー、ロンドン、ニューヨーク、サンパウロ、上海にオフィスを構える独立系クリエイティブエージェンシー。国内外の企業とともに、クリエイティブ主導のもと、卓越した表現の力でインパクトのある広告を制作している。1998年に設立された東京オフィスでは、日本企業、グローバル企業における国内外のキャンペーンを担当。多彩なカルチャーが混じり合ったハイブリッド集団として、メンバーそれぞれのバックグラウンドやスキルを活かした新しい視点とクリエイティビティを提供している。

PROFILE

トラベル・ポートランド(ポートランド観光協会)

旅行者に選ばれる場所を目指し、地域が一体となって観光をマネジメントするために設立された非営利団体で、750以上のパートナー企業を抱える。旅行者のためのインフォメーションセンターを運営し、年間を通じたホスピタリティをサポート、また観光事業によってポートランドやオレゴン州、地域が恩恵を受ける手助けをする役割を果たしている。

写真・嶌村吉祥丸、W+K Tokyo提供 文・井上結貴 編集・村上広大

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