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横石 崇の「働き方の話の前に、とりあえず皿を洗え」 – Tokyo Work Design Weekオーガナイザー

#3 最終回、そして僕は皿を洗う。

最終回である。3ヶ月ぶりの連載再開をしたと思ったら、3回目にして最終話になってしまった。というのも、なぜかこの連載しているメディア「BAUS MAGAZINE」(以下、BAUS)の編集長を拝命してしまった。「おっぱい」を連呼したエッセイ風な記事を書いてむしろ怒られると思っていたのに、人生とは不思議なものである。

そう、人生とは不思議なものである。このあいだ高校時代につきあっていた女性から突然にメールで連絡をもらった。何十年ぶりの連絡である。

元カノ「突然ですが、こんばんは」
ぼ く「ひさしぶり」
元カノ「実は、スープ屋さんをはじめました」
ぼ く「へー、おめでとう。そういえば、僕はスープ屋さんをやるのが夢だったんだよね」
元カノ「知ってるよ。実はあなたの夢をパクったの。ゴメンね」
ぼ く「○☓○△☓○△!」

まさか自分のロマンを20年経って誰かに叶えられるとは思いもしなかった。これがかの高名な「コネクティング・ザ・ドッツ」なのか。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。スティーブ・ジョブズよろしく、点と点が線になって面になって、スープになっていく。元カノには僕の分まで美味しいスープを作り続けて欲しいと切に願うし、僕はいつかまた元カノとスープ屋でコネクティング・ザ・ドッツしてみたいと切に思う。

全然関係ないけど、僕は学生時代に知念里奈のプロモーションビデオに出演した過去がある。残念ながらどんな曲かも忘れてしまったが、こんな経験もいつか知念里奈とコネクティング・ザ・ドッツする日がくるのだろうか。いや、僕には妻も娘もいるんだからコネクティング・ザ・ドッツできるわけがない。ちなみに知念里奈はスープ作りが趣味だ。

更に全然関係ないけど、ずっと不思議に思っていることがある。女性トイレの行列だ。なぜあの行列はなくならないのか。いつも渋谷の百貨店に行くと必ず渋滞を起こしている。女性たちはなぜ沈黙するのだろう。なぜ女性ばかりが我慢しなければならないのか。AIやソーシャルデザインだという議論が進む中で、足元で起こっているこんな不便なことがなんで解決できないんだっけ。TOTOあたりが画期的なイノベーションを起こしてくれるわけもなく、トイレにこそ#metooを、と思うのだけど、それはそれで見当違いな気もする。

そんな諦めていた矢先、北欧で先鋭的なトイレの取り組みが始まったと聞きつけた。トイレから性差をなくし、男女の区別をやめたという。そう、男女という性差が溶け合って、平等に使えるトイレ。この取組み自体は、そもそもはLGBTなどのマイノリティに対するアプローチであるが、もしかしたら行列待ちを解消する手立てになるかもしれない。敷地面積やサイズ、テクノロジーの力によってではなく、トイレの常識を破り、男女の壁を溶かして根本的な解決に至った話だ。時代が変わるとはそういうことかもしれない。こんなことを書いていたらスープの話っぽくなってきた。これもコネクティング・ザ・ドッツ現象だろうか。

人生は不思議なことだらけである。そんなわけで、僕はBAUSをお手伝いすることになった。これからの時代は、自分たちでルールをつくる時代だ。元カノも知念里奈もスープをつくる時代でもある。昔からの慣習やシガラミといった大きな物語から脱して、自分たちが自治できるための場所を生み出していくべきだ。壁は溶け合っていく。そんな時代においてBAUSは、新しいルールを生み出すための“創造力”を武器にして時代を変えようとする人たちのための味方でありたいと思うし、そんな変革者たちのバイブルであり、プラットフォームだ。もし、新しい時代のクリエイティブに挑戦している人たちがいたら、ぜひ教えて欲しい。僕らはコネクティング・ザ・ドッツできる準備はできている。

最後になるが、この連載タイトル「働き方について話をする前にとりあえず皿を洗え」について。愛娘が生まれた直後、妻に仕事の話をああだこうだとこぼしていた時に言われた名台詞だ。この連載コラムを始める際に、つべこべ言う前に目の前の大事なことを忘れないようにしよう、と自戒を込めて名付けた。そして、それは我が家の家訓にもなっている。

あなたにとっての「皿」とは何だろうか。僕にとっての「皿」は家族であり、一緒に食事をする仲間たちと共にある。いつかみんなでスープとルールをつくることを楽しみに、僕は今日も皿を洗う。

PROFILE

横石 崇

「TOKYO WORK DESIGN WEEK」発起人・オーガナイザー/&Co.Ltd 代表取締役 1978年大阪生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。広告代理店、人材紹介会社の役員を経て、2016年に&Co.Ltd設立。ブランド開発や事業コンサルティング、クリエイティブプロデュースをはじめ、人材教育ワークショップやイベントなど、“場の編集”を手法に様々なプロジェクトを手掛ける。『WIRED』日本版コントリビューターや『六本木未来大学』アフタークラス講師などを務め、著書に「これからの僕らの働き方 〜次世代のスタンダードを創る10人に聞く〜」(早川書房)がある。

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