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勇気とは? 広告とメディア、トップランナーの確信

砥川直大(GO) × 竹下隆一郎(ハフポスト日本版)

ここ数年で、メディアやクリエイティブに関するビジネスのルールが変わるスピードが加速している。前線にいるクリエイターたちはこの変化をどのように感じ、どのように対応しているのか。“クリエイティブの力で社会をよくすることを自らの使命”と語るThe Breakthrough Company GO のクリエイティブディレクター 砥川直大さん(写真・右)と、メディアを通じて社会のあちこちで会話を生み出し、そのあるべき姿を問いかけ続ける『ハフポスト 日本版』編集長の竹下隆一郎さん(同・左)。二人は広告とメディアのあり方が問われる今日的な状況と向き合い、自らの決断で大企業からスタートアップへ。竹下さんは新聞社からネットメディアへと、働く環境を変えた。変化し続ける時代のクリエイター、メディアの役割に迫った。 

ーー砥川さんは広告を中心としたクリエイティブディレクター、竹下さんはメディア(『ハフポスト 日本版』)のエディター(編集長)兼ジャーナリスト。お二人とも、広告やメディアのあり方が問われる今の状況の中で、大企業からスタートアップへ転身されています。はじめに、お二人の現在に至るキャリアについてお聞かせください。

砥川さん(GO):ADKに14年在籍し、最初の3年弱は営業、その後は転局試験を受けてクリエイティブ局に移り、CMプランナーとしてキャリアをスタートさせました。大手ゲームメーカーにはじまり、外資系クライアント業務を中心に担当。クライアントと密な関係を築き、1ヵ月半で4本のCM制作を任されたこともありましたね。入社12年目にはこれまで手がけた広告が評価され、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストもいただけました。戦略を含め、コミュニケーションの設計すべてを考える仕事は楽しかったし、やりがいもひとしお。キャリアを重ねていく中で仲間たちからも信頼され、仕事がしやすい環境ではありました。でも他方、「このまま、今までの延長線でやっているのはマズい」という気持ちも芽生えていって。

竹下さん(ハフポスト 日本版):危機感というべきか、僕も朝日新聞社にいた頃は、報道の新しい形を模索していました。

砥川さん(GO):それぞれの分野で似たような危機感を持っていたんですね。僕の場合、自分のスキルを、社会をよくするためにもっと活用したいという想いから、休日になるとNPO活動やプロボノ活動に参加するようになっていきました。3.11や娘の誕生もこの行動の後押しになったと思います。「クリエイティブの力で社会をポジティブに変えていきたい」という思いがどんどん強くなっていました。広告の表現を作るというよりは、広告する前の事業そのものや、NPOのプロジェクトをプロデュースすることで、世の中のお金がきちんと必要なところに回る仕組みを作ってみたい、作るべきだっていう風に考え始めました。

竹下さん(ハフポスト 日本版):その視点、とても大切ですよね。共感します。

砥川さん(GO):プロボノ活動をとおし、広告で培った、伝える・広める技術が世の中の役に立つ瞬間と多く出合いました。またそれ以上に、自分の仕事によって、目の色を変えるように喜んでくれる人と多く出会えたことが嬉しかった。ADKでの広告の仕事でも、もっとチャレンジできないかという気持ちが日増しに強くなっていた時、自分と同じような問題意識をもち、変化と挑戦をテーマにしているクリエイティブチーム「GO」と出会い、ジョインしました。不安ですか? まったくなかったです(笑)

竹下さん(ハフポスト日本版):キャリアの話を聞き、似てる部分が多くあるように感じました。自分の話をすると、私の現在の職業は『ハフポスト 日本版』(以下『ハフポスト』)編集長。朝日新聞社に14年在籍し、記者として地方取材を経験、東京では経済部に所属してTwitterを使った選挙の世論分析プロジェクト、新規事業の開発、Facebookを使った記者の生中継レポートなど、報道の新しい形を模索してきました。
朝日新聞にいた時も、今も、ずっと根底にあるのは、伝えるためならありとあらゆる手段を尽くすべきという想い。それは文字でも良いし、動画でも良いし、イベントで直接読者に訴えることでも良い。「本当に伝えたいことがあるのに紙にしかこだわらないのはなぜですか?」。思い返すと入社の時、面接官にこんな質問をしたほどです。

砥川さん(GO):入社する前から野心家だったんですね(笑)

竹下さん(ハフポスト 日本版):私と砥川さんは年齢でいうと、1歳違い。新聞と広告、表現する手法に違いはありますが、インターネットが生活者に寄り添い、スマートフォンの登場によってコミュニケーションの仕方そのものが様変わりしてきた社会変化を、送り手として同時代的に経験してきたことは共通点かもしれませんね。

砥川さん(GO):いまってどういう時代なんだ? こんな気持ちを持ち続けて、今の社会に求められているもの、発信すべきものをアウトプットしようとしていないと、つくり手、送り手としてはダメでしょうね。自戒の念も込めて。逆にいうと、誰もがメッセージを発信できる今、この時代ってすごく面白いと思っていて。竹下さんも僕と似たような感触をもっているような気がします。

竹下さん(ハフポスト日本版):「世間のプロになろう」。いつも編集部員にはこう言葉をかけています。スマートフォンが主流になった今、『ハフポスト』が発信する記事と、個人がソーシャルメディアから発信するメッセージは、ネット上では同列に消費されます。受け手の選択肢が広がるのは、画一化された価値観を押し付けられないのでとてもいいこと。ただ時として、個人が発する”強いメッセージ”にはヒリヒリ感がある。分断やヘイトが生まれる可能性があるんです。

砥川さん(GO):みんなの気持ちを捉えるっていう視点でないことが多いですからね。

竹下さん(ハフポスト日本版):『ハフポスト』が目指しているのは、社会の出来事や共通感覚を“いい感じに収める”記事づくりです。こういう意見もあるし、ああいう意見もあるので世間の感覚としてはこっちに向かっているけど、あなたはどう考えますかっていう。だから、考える材料はできるだけ多く示すようにしています。ただ、バランスばかり重んじると丸まった記事になり、ネット上に埋もれていってしまうジレンマもある。面白い時代だと思う反面、ややこしい時代だなって思います(笑)
『ハフポスト』に強みがあるとすれば、まだ可視化できていない事象や世の中の気分、社会のもやもや感を言語化し、読み手に何かしらの気づきを与えられることかもしれません。私たちの記事を読み、気持ちを整理したり、行動するきっかけになったら嬉しい。

砥川さん(GO):丁寧に言葉を紡ぐメディアの記事と性質は異なるけれど、匿名ブログから社会問題になった「保育園落ちた日本死ね」っていうメッセージも、多くの人の気持ちをすくい上げ、代弁した言葉ですよね。誤解を恐れずに言うと、強いコピーだと思います。演出がないですから。

竹下さん(ハフポスト 日本版):私もそう思います。匿名とはいえ、まったく取り繕ってない。こんなストレートな言葉があったのかっていう。私たちメディア側の人間も広告を作る人たちも、そして企業も、無理矢理に演出して、よく見せたところでバレちゃうっていうことにもっと自覚的になるべきですね。

砥川さん(GO):ブランドや商品をちょっと良く見せようとするのが広告なんですが、そのちょっとだけ良く見せようって作り手の気持ちが「広告が信用できない」っていう認識に繋がっている気がしていて。いまこの時代、大切なのは勇気をもつことですね。企業であれば、自分たちの強みと弱み、いいところとダメなところときちんと向き合う勇気。自分たちのストーリーを自分たちの言葉できちんと話せる企業ほど、評価を受けている気がします。時代の変化を捉え、生活者の視点でメッセージを発信できる企業が増えてほしいし、僕ら発信する側の人間も、勇気を持たないといけない。

竹下さん(ハフポスト 日本版):勇気、ですね。

ーー勇気。いい言葉ですね。砥川さんは広告、竹下さんはメディア。この言葉が意図する本質について、さらに深掘りしてお聞きしたいです。

砥川さん(GO):その話でいうと実は最近、「国際NGOプラン・インターナショナル・ジャパン」(以下「プラン・インターナショナル」)の企業広告のお手伝いをした際、今話した“企業の勇気”を体現できたのではないか、という話があります。
まず、「プラン・インターナショナル」(旧「フォスター・プラン」)についてお話すると、国内では1983年から35年続くNGO団体です。設立以来ずっと、貧困や差別のない社会の実現をテーマに、子供たちの権利を推進するため、寄付を募って世界70ヵ国以上で活動を展開していて。竹下さんはご存じでしたか?

竹下さん(ハフポスト日本版):素晴らしい活動ですし、ハフポストの記事でも紹介させていただいていますが、名前とその活動について、残念ながらある程度しか知られていません。

砥川さん(GO):そう、“ある程度”なんです。“プラン” “インターナショナル”という名前からは、何をやっている団体か全く分からず印象にも残らない。活動自体はとても尊いことなのに、名前さえ知らない人が多数派。そんな中、「プラン・インターナショナル」から直接相談を受け、戦略を含め、コミュニケーションの設計すべてを考えるお手伝いをすることになったんです。ブランディングや支援プランの設計も含めて。
“企業の勇気”という視点でお話しすると、僕ら「GO」が提案した「女の子の未来に、投資を。」という新コンセプトを受け入れてくれたのは“勇気”だと思います。

2018年4月より新コンセプト「女性の未来に、投資を。」がスタート。4月4日より阪急、東京メトロの車内広告で展開中。

竹下さん(ハフポスト 日本版):寄付も投資もグラデーション豊かな言葉ですよね。私たちのように取材して記事を書く者の立場からすると、伝えたいこと、伝えるべきことを1つのコピーに込めて世に問う広告のアウトプットって多くの覚悟が必要な気がします。膨大な取材時間を重ねたとしても最終的にはその熱量を“ワンメッセージ”に込める。今まで何十年と続けてきたコンセプトである「寄付」を「投資」と捉え直して提案した砥川さんの熱量もすごいけれど、その提案を受け入れた「プラン・インターナショナル」の方たちこそ、勇気あるアクションだと思いますね。

砥川さん(GO):そう思います。実は担当の皆さんと議論を深める中で「投資」という言葉は会話の中で度々出てきていたんです。海外では寄付を投資として捉えることがスタンダードである、と。ただ、その時点では世の中に打ち出すメッセージにするというイメージは誰も持っていませんでした。そんな中、僕らが着目したのは世の中にある「寄付」のイメージでした。
支援を求める場合、不幸や窮状を前面に見せて「かわいそう」「助けなければ」という人の感情に訴えるアプローチを取るのが一般的です。でも、それでは埋もれてしまうんです。

竹下さん(ハフポスト 日本版):分かります。先人たちの多くは、そうアプローチしてきましたから。

砥川さん(GO):世界が混迷を深める今こそ、もっと効果的に、誰ひとり取り残さない社会を創っていくべきだと思ったんです。世界各地で集めた寄付金を使い、社会にポジティブな変化を生み出してきた「プラン・インターナショナル」のさまざまな活動を聞き、知るにつけ、世界を前に進めるには「寄付」を「投資」と捉え直したほうが相応しいと確信できたんです。

竹下さん(ハフポスト 日本版):そんな確信をもち、提案したわけですね。『ハフポスト』でも最近、自分たちのストーリーをどういう風に発信したらうまくいくか、という相談を企業さんからもらう機会が増えています。私たちも砥川さんと同じように、その企業の良さは企業の活動の中にしかないと思っているので、「実は自社にはこういういいところがありますよ」と語れる企業のほうが、ネイティブアドがうまくいっている印象です。すなわち、嘘や脚色をせずに勝負できるということ。これからの時代に必要なキーワードは真実を伝える「勇気」だと本当に思います。

砥川さん(GO):僕ら作り手はもちろん、誰もがみな、勇気を持って決断する。そういう積み重ねが世界を前に進める一番の近道かもしれませんね。

竹下さん(ハフポスト 日本版):お互い、広告やメディアに向き合い、勇気を持って未知のチャレンジをし続けましょう。

砥川さん(GO)その覚悟はできています。

PROFILE

砥川直大

The Breakthrough Company「GO」クリエイティブディレクター。2003年、筑波大学第三学群国際総合学類卒。同年アサツー ディ・ケイ入社。2017年、「GO」にジョイン。戦略を含めたコミュニケーション全般の設計から、表現までの全てを手がける。近年、クリエイティブの力で社会をポジティブに変えていくことをテーマに、さまざまな活動を実行中。2014年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト、Spikes Asia、PRアワードグランプリ、広告電通賞など。二児の父。調理師。

PROFILE

竹下隆一郎

『ハフポスト日本版』編集長。2002年、慶應義塾大法学部政治学科卒。同年朝日新聞社入社。宮崎支局(当時)、佐賀総局、西部報道センター経済グループ、東京本社経済部などを経て、2013年からメディアラボ所属。2014年~2015年、米スタンフォード大客員研究員(研究テーマ:「人工知能と人間は、どちらがニュースの編集長としてふさわしいか」)。2016年5月1日より現任。
ハフポストは2017年に初めて黒字化し、ローンチ5周年を機に、読者と一緒に、仕事やライフスタイルの時間の使い方を問い直す「#アタラシイ時間」というキャンペーンを始めた。

世界70ヵ国で活動を展開する国際NGOプラン・インターナショナルが新しい寄付のあり方を提案。
新コンセプト「女の子の未来に、投資を。」
〜持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、「寄付」を「投資」と捉え

写真・下屋敷和文 編集/文・紺谷宏之

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