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超短期チームづくりのススメ

〜コミュニティ・アクセラレーター河原あずが語るチームづくりの秘訣〜

「NHKディレクソン in 旭川」の様子。アイデアソンの精度は、チーム分けで8割は決まる

アイデアにつまると、信頼おける仲間を呼んで、壁うちのミーティングをすることがよくある。

僕は「企業向けのイベントやコミュニティのプロデュース」や「企業のお悩み相談全般」を生業としているのだけど、だいたい僕のところに相談に来るクライアントは「ちょっとユニークな発想」を求めてやってくる。

とは言え、毎度毎度ユニークな発想がやってくるほどの天才でもないから、そういうときには他人に頼るわけだ。いや、頼る、というのは正確ではない。信頼のおける仲間からの刺激をもらいつつしゃべり続けて、発想を膨らませたり、ちょっと頭の枠を外して脳の中の「詰まり」を解消したりする、というほうが言いえている表現かもしれない。

できるだけ短時間で新しい発想をつくろうとするときは、1人より2人くらいで取りかかったほうがいい。状況によっては、2人より、3人の方がいいかもしれない。5~6人くらいが上限のような気もする。これは経験則なので答えはないのだけど、あるお題に対して、何人かフィットしそうな人を集めてディスカッションをすると、思いもよらないアイデアにたどりつくことがある。つまり、即興でチームを組んで、超短期プロジェクト化するわけだ。そのあといっしょに手伝ってくれる関係になることもあるし、実はこの手法はとても効率がいい(あと、やっていて純粋に楽しい)。

実はこのノウハウは、日々のイベント企画にも生きている。僕は「アイデアソン」という形式のイベントのプロデュースを得意としていて、伊藤園さん、NHKさん、いいちこの三和酒類さんなどなど、数多くのクライアントさんといっしょにそれを創っている。アイデアソンというのは、企業といっしょに考えたあるお題をだして、一般参加者のみんなにチームを組んでもらい、数時間かけてお題の解を議論してもらってプレゼンテーションしてもらうイベントのこと。NHKさんとやっているアイデアソン「NHKディレクソン」の場合は、地域を活性化する企画アイデアが、プレゼンで優勝すると全国放送の番組化される。参加する人たちも、それはもう企画を通したくて一生懸命だ。

ただ、参加者全員が全員、この手のグループディスカッションに慣れているわけではないので、成功確率があがるよう、できるだけのお膳立てが必要になる。そのために僕がよくやっているのは「事前にチーム分け」してしまうことだ。世のアイデアソンでは、その場の流れで偶発的なチームわけをしがちだけど、あえてそうしないようにしている。

やることはきわめて単純。まず、参加者のバックグラウンドを調べる。「NHKディレクソン」の場合は、制作会社のディレクターさんが綿密にインタビューして、参加候補者のプロフィールをまとめてくれているので、2時間くらいのミーティングで定性的な情報をシェアしてもらう。そしてプロフィールを見ながら、参加者を4つのタイプに分ける。大体、こんな風に。

タイプA:議論をひっぱったり、まとめられそうなリーダータイプ
タイプB:発想が豊かで、発散が得意そうなクリエイタータイプ
タイプC:議論のテーマに関わるジャンルをこよなく愛する実行者タイプ
タイプD:大人たちとまじわることで覚醒しそうな若い方。

あとはこのA~Dのタイプを、男女比や年齢分布を気にしながら配置していく。知り合い同士と思われる人は極力チームをわけるし、近しいジャンルで働いている人も分ける。まるでパズルを組み立てるような作業。頭の中で、参加者の感情の動きを想像しながらチームを分けていくのはとても楽しくて、1時間くらいはあっという間に過ぎる。結果、チーム分けがはまって、アイデアソンがうまくいったときの快感ったらない。体感でいうと、アイデアソンがうまくいくかは、チームわけが8割方決めるといっても過言ではない。

実はこのタイプ別チーム組成は、自分の日々の壁うちディスカッションに巻き込む人のチョイスが原型になっている。自分がどこの位置をとるかは、議論ジャンルの得意・不得意とか、集まった面子にもよるのだけど、「こういう課題があるときに呼んだほうがいいのは、こういう人だな」っていう勘所が自分の中にあって、即興で日々組み立てている。そのマッチング精度は、手前味噌なのだけど、そこそこ高いと思う。ちなみに、僕は個人的にこの脳内マッチングエンジンのことを、アルゴリズムならぬ「アズゴリズム」と呼んでいる。

僕は、新しいアイデアは、同質性ではなく、異質なものからの刺激や、多様性から生まれると思っていて、アイデアソンのチーム分けはその思想を体現している。けど、チームメンバーの方向性があまりにばらばらでもよろしくなくて、共通の問題意識とか、向かうゴールがあった方がいい。これは会社のチームなどでも同じことが言えるけど、超短期チームの場合は、短い時間でアウトプットを出すために、より精度が求められるとも言える。アイデアソンのファシリテーターとしては、このチームの方向付けと高精度マッチングが腕の見せ所なのだ。

ちなみに、アイデアソン的超短期チームづくりの発想は、結構、日常でも役立つ。誰でもできることは「このジャンルのプロジェクトならこの人に相談する」という、似たような問題意識を抱えて活動している相談相手を、主治医のように決めておくことだ。特に起業家とか経営者は、これが自然にできている人が多いように思う。複数の相談相手を同じジャンルで抱えておくと、セカンドオピニオン的に活用できるから、なおのこといい。あと、「たまにしか会わないけど、大事なときに相談に行く相手」との議論は、枠にはまった頭をこりほぐしたいときや、今考えているプランの穴を探したいときには、とても効果的に働く。

こういうチームづくりのテクニックももしかしたら、テクノロジーが発達すると、人工知能にとって変わられるのかもしれないけど、実用に足りうる精度が出るにはあと3年くらいはかかりそうな気もするので、それまでは地道にトライ・アンド・エラーを繰り返したい。完璧な文章が存在しないのと同様に、完璧なチームづくりも存在しないから、ある意味、気楽な実験でもある。うまくいかなければ、組み合わせを変えればいいし、違う人を混ぜればいい。とりあえず手始めに、信頼できる仲間を呼んで、人工知能が発達した後にも食いっぱぐれないためのアイデアの議論でもはじめてみようと思う。2人くらい、狭い部屋に呼んで。

PROFILE

河原あず

人々の想いを引き出し、想い同士をつなげ、リアルコミュニティづくりを支援する「コミュニティ・アクセラレーター」。2013年より2016年までサンフランシスコに駐在。現地の企業とのコラボイベントを多数実施し、現地コミュニティの活性につとめる。帰国後、NHK、伊藤園、オムロンヘルスケア、楽天証券など、数多くの企業コラボイベントをプロデュース。東急グループのイッツ・コミュニケーションズが運営する渋谷のイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」プロデューサー。イベントプロデュースのみならず、企業のコミュニケーション・デザインや、新領域のコンセプト・メイキングも得意とする。イベントやコミュニティ運営のノウハウを惜しみなく伝えるブログ「イベログ」は不定期更新中。

文・河原あず タイトルデザイン・一ノ瀬雄太

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