「これからの時代、デザインが経済活力の源泉になる」。こんな信念をもち、1980年代後半から“デザイン・コンサルタント”を名乗り、世界と日本をつなぎ、日本のデザインを世界水準に押し上げてきた長澤忠徳さん。同氏は現在、武蔵野美術大学の学長を務め、次代のデザイン人材育成に尽力中だ。インタビュー後編では、美大生や若手クリエイターが身につけるべき「スキル」について聞いた。
ーーこれからの時代、クリエイターや表現者はどんな「スキル」を身につけるべきだと思いますか?
実績をこれから作っていく若い世代は、自分のデザインポリシーを言語化できるスキルを身につけるべきでしょうね。言葉を変えるなら、営業力。私の経験上、日本のクリエイター、例えばデザイナーは欧米圏のデザイナーに比べ、圧倒的に「仕事をとる」「仕事をつくる」という意識が低いように感じます。
とくに若ければ若いほど、彼ら彼女たちは日本人よりずっとエネルギッシュ。自分を売り込むため、頻繁に見本市や展覧会に行きますし、そこで出合った企業に後日、ポートフォリオや作品を持ってプレゼンしに行くのも日常のワンシーンです。もちろん全ての人に当てはまる話ではありませんが、グローバルを意識するクリエイターであるほど、この傾向は強いように感じます。
ーー営業力のあるクリエイターを目指すには、どうしたら良いですか?
どこかで誰かが自分のクリエイティブを見てくれていて、相手から電話がかかってくる。こういう受け身の仕事観ではなく、コネクティブに「どうつながっていくか」を考えたほうが良いと思います。仕事の受発注は相手に対する期待感によるところが大きいので、きちんと依頼主と対話したうえで、制作物のデザイン意図を言葉だけですべて説明できるぐらいのコミュニケーション力を身につけられると、理想的です。私の世代の仲間でもデザインで頑張っている連中はみな、弁が立ちますね。
話を美大に戻すと、個人的には何か聞いた時に真っ先に手をあげる学生、ちょっとした頼みごとをした時に断らず、まずは受け止め、「検討させてください」と言える学生が好きですね。期待に応えようというスタンスを持っている証拠ですから。学生時代にコネクティブなものを生かしていくノウハウを身につけると、武器になると思います。
ーー最後に、美大生や若手クリエイターに向けてメッセージをお願いします。
世界標準のコミュニケーションツールとして、英語は武器になります。なぜか。作品を見せたり、打ち合わせをする時に対話ができるかできないかで、コネクティブかどうかを判断されてしまうからです。流暢でなくても、説明しようという態度をみせると、シンパシーは生まれるもの。“次”と“続き”、チャンスは世界中に転がっています。
PROFILE
武蔵野美術大学 学長 長澤忠徳
1953年生まれ、富山県出身。1978年、武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業後。1981年、Royal College of Art, London 修士課程修了 MA(RCA)取得。1986年、有限会社長澤忠徳事務所設立、代表取締役就任。1999年、武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科教授に就任。2015年、同学長に就任、現在に至る。2016年、Royal College of Art(英国)より、美術・デザイン教育の国際化を先駆的に推進した功績が認められ、日本人初のシニアフェローの称号を授与。
関連記事:殻を破り、社会とつながろう。【前編】