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「インタ〜ネットポップ道場」わいがちゃんよねや(KAI-YOU)

#3 インディペンデントとしてのインターネット

思うことがあって、2ちゃんねるの創始者・ひろゆきさんの記事を読み返していた。

「ニコニコは自らテレビより下だと認めてしまった」 元2ch管理人ひろゆきが現在のドワンゴを痛烈批判

これは2016年(もう2年も前だ……)の大晦日に、東浩紀さん、津田大介さん、夏野剛、そしてひろゆきさんの4者で行われた「ゆく年逝ってよし@増上寺 年越しの瞬間まで言いたい事を言う生放送」という生放送企画から抜粋された文字起こしだ。どんな企画かは、タイトルそのまま。

記事はひろゆきさんが、凋落の兆しを見せていたニコニコ動画に対してのスタンスを明示する内容。凋落と決めつけてしまうのは短絡的かもしれないが、2018年2月に発表された決算資料によると、ピーク時には256万人だった有料会員数が、昨年12月末時点で214万人まで減少している(これは単純に経年変化によってサービスの魅力を維持できなくなったというのもあるが、「けもフレ」騒動による退会祭りなどの余波も含んでいる)。

まずは記事を読んでほしいが、ひろゆきさんの主張は「なぜニコニコ動画(や多くのWebサービス)は、自分たちをテレビ(や大企業)よりも下のものだと決めつけてしまうのか」というものだ。

これについて、インターネットを軸に事業を展開している身として考えることがあった。というか共感しかなかった。インターネットの人たちは、自覚のあるなしに関わらず、いつからかテレビには勝てないと思ってしまっている。

 

新しい地図とHIKAKIN

そう思った発端は、SMAPが解散して、「新しい地図」のプロジェクトがはじまったときのネットや業界の風潮だった。最初の主だった発表は、草なぎ剛がYouTuberに、香取慎吾がインスタグラマーに、稲垣吾郎がブロガーになるというものだった。

当初の盛り上がりとしては、「草なぎ剛がネットに降りてくる! 身近になって嬉しい!」「テレビの人がネットに入ってくればさらに盛り上がるな」というものが大半を占めていたと思う。

ネットでいちばんの影響力を持つ有名人──例えばHIKAKINさんも、草なぎ剛さんとコラボ配信することになった際、たじたじだった。

 

ヒカキン vs 草なぎ剛!コーラ一気飲みバトルしたらまさかの結果に!【負けたらデスソース】

これは僕にとって象徴的な出来事のように映った。腰の低いHIKAKINさんのキャラクターもあったと思うが、ネットで最も影響力を持っている人でも、所詮、事務所を辞めた中年のアイドルにも勝てないのか、と。「そんなことないんだけど、お前のほうがすごいよ!」と僕はスマホを見ながらエールを送った。

ネット文化というのは、元来、数多の有象無象の名を持たない素人たちによってつくりあげられてきた。TwitterでもInstagramでも、ニコニコ動画でもpixivでもいいけれど、これまで世間から発見されていなかった知られざる才能によって、人気を集め、また文化として発展していった。多くの素人が、情報を発信することができる、メディアのような振る舞いを行えるようになった。

 

テレビのほうが「上」なのか?

それは情報だけでなく、個々人の立場という面からも革命だと言える。そして新しい。

しかし、そんな影響力を持ちながらも、YouTuberをはじめとするインフルエンサーたちは、その多くがテレビに出たがるのだ。自分たちの主戦場よりも、より格式の高い場所として、テレビを捉えている。

あらためて言うと、インターネットはテレビの下位互換ではないし、そういったメディア論に関係なく、みんなもう少しでいいから、自分たちのやっている仕事や自分の影響力なりに誇りを持っていい。そうじゃないと、HIKAKINさんを観て小学生でYouTuberになったキッズだとか、ニコニコ動画で有名になった音楽プロデューサーだとかが報われないんじゃないかなと思う。

 

VTuberにみるネット文化の変化

そういった意識は根強く、もはやネットカルチャー自体にも変容をきたしている。例えば昨年末より強い盛り上がりを見せているバーチャルYouTuber(VTuber)のムーブメントがそうだ。

VTuber文化は、これまでの素人的、趣味的、ストリート的、インディペンデント的だと形容されていたネットカルチャーとは一線を画し、最初から企業が事業プランありきで進行している企画が多い。「けもみみおーこく国営放送」のバーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんを筆頭に、個人的にVTuberを運営しているユーザーも存在してはいるが、登録者数上位のいわゆるランカーにおいては、むしろその例は稀で、あらかじめ法人格を持っていたり、プロフェッショナルのチームを組んで運営していることのほうが多い。

バーチャル狐娘Youtuberおじさん。はじまります。【001】

 

これは3Dモデリングの技術がまだ一般には浸透していないこと(制作にお金や技術習得のコストがかかること)が大きな理由だが、ユーザーたちはそんなこと御構いなしに盛り上がっている。いわゆる企業色が濃いコンテンツというのは、インターネットにおいて長い間敬遠されてきたが、VTuberにおいてはあまり問題にされない。むしろ、個人で運営されているVTuberは「個人VTuber」「VTuber個人勢」などとして、本流へのカウンターにさえなっている。

あらためてここで振りかえってほしい。

「ネット文化というのは、元来、数多の有象無象の名を持たない素人たちによってつくりあげられてきた」

それがいつのまにか、プロが、才能をそもそも認められていた人たちが、さらに活躍する場になりつつある。これからもどんどんテレビの有名人たちや、大きな企業がこぞって、ネットユーザー向けのコンテンツを発信していくだろう。

しかし、そんな趨勢は置いておいて、冒頭のひろゆきさんの記事は立ち返るべきものがある。結局どっちが上とか誰が上だとか、自分たちが思ってるうちはどうにもならないということだ。自分たちが信じたプロダクトや事業について、誰よりも上だと思って取り組むこと。それがまた次の文化をつくっていく。

この5年は、インディペンデントとしてのインターネットが、メジャーの波に覆された時代だったように思う。そのなかで、あくまで「ベンチャー」として振る舞うネット企業や、個人のクリエイターたちがどのように変化していくのか。楽しみでならない。

PROFILE

米村 智水

株式会社カイユウ 代表取締役社長 1986年生まれ。学生時より新見直・武田俊らと雑誌『界遊』を刊行。大学卒業後、出版社で書籍編集に従事した後、イラスト系CGM企業でWebサービスのディレクションを担当。2011年にKAI-YOU,LLC.として法人化。2013年3月15日にポップポータルメディア「KAI-YOU.net」をリリース。2014年に株式会社化。

文・米村智水 編集・村上広大

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