MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

東北新社のフリーランス集団「OND°」のクリエイターと、これからのキャリアのつくり方を考える

OND°

1960年代より、映画、ドラマ、テレビCMの制作や映画配給などを手掛け、日本の映像業界を牽引してきた、東北新社。中島信也を筆頭に実力派のクリエイターが多数所属する同社内に、2018年7月、新組織「OND°」が誕生した。ディレクター、プランナー、エディター15 人の計50人を超える映像クリエイターが所属するこの組織は、東北新社に所属しながら、指名のあった案件においては外部チームの仕事を請け負うことができる仕組みだ。社内のプロジェクトのみを専属で担当するこれまでの仕組みから、大きく舵を切ったことになる。

「クリエイターの育成に力を注ぐため」に立ち上げられたというOND°は、同時に、映像業界のクリエイターにとっての新しいキャリアの歩み方を提示している。今回はOND°のチームを率いる東北新社 執行役員 / Production2プレジデント/クリエイティブセンター長 河西正勝さんに加え、OND°に所属する小栗洋平さん、高島夏来さん、中村裕子さん3名とともに、今後の映像業界のクリエイターのキャリアについて意見を交わした。

フリーランスでの経験は個人にも会社にもメリットがある

——OND°は東北新社内のクリエイターが、社外のクリエイターと協業することを可能にする仕組みですね。どういった経緯で、この制度を立ち上げるに至ったのでしょうか?

河西さん:元々東北新社の制作チームはグループ内での仕事をやるための組織でした。しかし、フリーランスのクリエイターが増えている時代において、このままでいいのだろうかという思いがありました。そこで、2年ぐらい前から外部にも開いていくために動きはじめて、2018年の7月OND°を設立しました。東北新社の名前がついていると、社外の人がアクセスしづらいんじゃないかってこともあって、OND°という名前をつけました。

東北新社 執行役員 / Production2プレジデント/クリエイティブセンター長 河西正勝さん

——OND°という名前にはどういう意図があるのでしょうか?

小栗さん:「温度」と「音頭」の二つの意味が込められていますね。ディレクターというのは撮影現場を仕切ったり、映像の編集をしたりするんですが、いわゆる制作チームの音頭をとっていく立場なんですよね。あと企画の人間として温度感ある企画を、熱いものも、クールなものもどちらも作れるような組織だといいねって意味をこめて「OND°」なんです。

東北新社 ディレクター小栗洋平さん

——OND°を設立することによって、所属する社員にはどんなメリットがあるのでしょう?

小栗さん:「育成機関」と表現しているのですが、やっぱり仕事の幅が広がって、個人の成長に繋がるっていうのが一番のメリットですよね。東北新社という会社もそれなりの規模があり、仕事はたくさんあるんですが、正直なところ若干くすぶってる人間もいるんです。同じ環境にいると、どうしても慣れが生じますからね。なので会社が外に開くことで世界が広がりますし、新たに刺激を受けて個人の能力がより伸ばせるんじゃないかと。

高島さん:個人的には仕事をしたいと言ってくれる人と仕事ができるのが嬉しいです。たとえば飲み会の席で社外のクリエイターと意気投合しても、東北新社に発注しないと仕事ができないという壁がありました。いいものができる可能性をそういった壁で潰してしまうのは勿体無いし、あらゆる出会いを仕事に繋げられたらな、という思いはありました。

東北新社高島夏来さん

人材流出を恐れるのではなく、「人材輩出」をする

——なるほど、制作において自由なチームがつくれると。映像制作という職種であれば、フリーランスで活動する方も多いと思いますが、反対に会社に所属して働く意味はどういったところにあるのでしょうか?

小栗さん:弊社を例に挙げると、企画から制作までワンストップで仕事ができるのは大きな理由になると思います。優秀な制作部門からポスプロまで連携が取りやすく、規模の大きい仕事をうまくコントロールしやすいのは強みですよね。

高島さん:そうですね。その反面、共同体意識や連帯が強い分、緊張感が足りなくなるケースはあるかもしれないですが。

小栗さん:制作はチームでやるものですが、作業レベルでは基本的には個人プレーが重要な職種でもあるんです。OND°を通じて外部の仕事を受ける事により「失敗したら次の仕事は無い」という緊張感を持つことは大事だと思いますね。責任感と緊張感は人を成長させますから。そして、その経験は社内の仕事でも必ずプラスに働きます。

 

——社外での個人の活躍が、会社にも還元されるということですね。

小栗さん:そうですね。あと、業界を活性化していきたい思いもあります。手前味噌ですけど、それなりに高いハードルをクリアして現場で経験を積んだスタッフですから、業界に対してもいい影響を及ぼすことが出来るんじゃないのかなと。

河西さん:優秀なディレクターやプランナーを育てられる体力があるプロダクションというのは、今の時代業界大手の数社だけだと思うんです。実際、多くの会社はプロデューサーだけがいて、演出や制作を外注するところも少なくない。でも広告、映像業界全体を俯瞰すると、ディレクターやプランナーを育てていかないと業界そのものがシュリンクしてしまう。いくら才能のある人でも、打席に立つ回数が少ないと成長はしません。なので、我々としては外に開くことで、打席そのものを増やしたいなと。
個人的には、力がついた人は辞めてもいいとすら思ってるんですよ。そして個人のクリエイティビティをのばして行ければいい。会社としてではなく、あくまで個人の意見ですが(笑)。東北新社としては新しい若い才能を育ててどんどん業界に還元して行けば業界全体が活性化されると思うんです。「人材流出」を心配されることもあるのですが、私たちがやりたいのは「人材輩出」なんです。東北新社から力のある卒業生を送り出していきたいんです。

小栗さん:YoutubeやSNSなど、映像を使った表現形態が多様化する中で、CMプランナーという仕事に興味を持つ人をどうやって増やして行けるかが業界全体の課題です。でも、ここに入れば力がつくというような会社があれば、業界の入り口にもなる。人材を輩出することの意義はまちがいなくあると思いますね。

中村さん:すみません、わたし、今になって初めてしゃべるんですけど(笑)。

東北新社 プランナー中村裕子さん

中村さん:わたしはプランナーとして働いているんですが、「いつかはフリーランスになろう」と思って入社したんです。で、会社説明会に参加していた大学生に「いつか独立を考えているんですか?」と聞かれて、正直に答えたら「いい会社ですね」って言われたんですよ。個人の選択が尊重される環境は、やっぱり若い人から見ても魅力的なんだなと思いますね。
私みたいに独立を考えている人間からすると、会社にいながらフリーランスの立場を経験できるのは嬉しいです。ちょっと味見できるというか(笑)。苦いかもしれないし、しょっぱいかもしれない。自分に合わなかったらそのまま会社にいればいいんですし。

高島さん:長くこの仕事を続けるためにも色々なことを知りたいなって気持ちもありますね。会社の仕事だけやっていても視野と経験の広がり方に限界があると思うんです。パイを広げて引き出しを増やすことが長く続けるために必要だと思いますね。

 

「社外でも認めてもらえるか」という緊張感がクリエイターを育てる

——幅広い経験をするために社外の仕事に取り組んでいくとのことですが、社内のプロジェクトではそれぞれの担当の分野、ジャンルなどは決まっているのでしょうか?

中村さん:明確に決まってはないですね。ただ、プロデューサー、プランナー、ディレクターともに作風や得意分野はあり、そのアウトプットを期待してお仕事を頂くことあります。なので自然と方向付けられることはありますね。

高島さん:個性を発揮してればその方向で仕事がくることはあるけど、それも会社内の話です。やはりその意識を社外に向けて仕事の幅を広げていくことで可能性は広がるんじゃないですかね。

 

——そうした意味では社の内外にクリエイター個人の個性を伝えていくことが必要になりますよね。個人の営業力やプロモーション力に関しては重要視していますか?

小栗さん:仕事を得るためにはそれは大事だと思いますね。意識的かどうかに関わらず、自分の見せ方が上手な人にはやっぱり仕事が来ますから。

高島さん:キャラを出していかないと社内のプロデューサーの目にも止めてもらえなくなりますもんね。

中村さん:フリーで活動している人たちの自分をプロモーションする力は凄いと思いますね。作品を一言で説明して伝える力がありますし、とくに若い子はSNS上での見せ方が上手ですよね。

小栗さん:発信する術をいまの子は知ってますよね。Youtuberが顕著だと思いますが、メディア使いのうまい人はこれからどんどん顕在化して行きますよね。

 

「企画力」があれば、映像クリエイターのキャリアは広がっていく

——Web上で発信力があるクリエイターの需要は高まっていますよね。東北新社さんでもWebのお仕事をされていますが、テレビCMの仕事と比較して求められる映像に違いなどはありますか?

小栗さん:Webでもテレビと同じようにどんどん高いクオリティが求められるようになって、違いはなくなってきています。そういう意味では、弊社が持ってるクリエイティビティは活かせるような環境になってきたと思います。クライアントや見る側のリテラシーも高まってきていると感じますね。

高島さん:Webが主流になって企画力を問われるようになった実感がありますね。より能動的に見たくなる工夫や、メディアを横断する企画が求められるようになりました。でも、元々クオリティの高い企画を提供しようっていう土壌が弊社にはあるので、うまく対応していけてるのかなと。

中村さん:社内では若手向けに企画力向上を目指したイベントなどを行ってますし、職種に関わらず「企画力」というのはクリエイターの基礎だと捉えているんです。外部のチームと違うジャンルの仕事をする上でも、企画力は重要だと思いますね。

——最後にお伺いしたいのですが、OND°がスタートを切りましたがみなさんの中にはフリーランスという選択肢はありますか?

中村さん:先ほどもいった通り私はなりたいですね。以前クライアントとの打ち合わせの席で、アイデアをぱっと絵に描いたときにすごく褒めていただいたことがあったんです。美大出身ですし、私としては当たり前のことだったんですけど、社外の人にとっては価値のあるスキルなのかもしれないなと思いました。こうしたことは会社の中にいるだけじゃ分からないので、自分がどんな働きができるかチャレンジしてみたいですね。

小栗さん:ぼくはフリーランスを考えたことはあまりないですね。組織にいた方が生きるタイプだと思うので。それと、会社所属のディレクターってフリーのディレクターよりも地位が低く見られることがあるのですが、それを変えたいという思いもあります。チームだからこそつくれるものはありますし、会社に所属しているディレクターも負けないぐらいのポテンシャルを持っている人はいっぱいいますから。

高島さん:私はせっかくOND°ができたので、「良いとこどり」をしながら様子見てみようかと思っています(笑)いまは東北新社全体に「新しいことをやろう」っていう良い空気も流れているので、まずはOND°でどこまでできるか、チャレンジしたいです。

PROFILE

OND°

映画製作、テレビ番組制作、CM制作、などを行う総合映像プロダクション「東北新社」内に所属する映像クリエイター集団。 現在は、ディレクター、プランナー、エディター計50名以上が所属している。

写真・田川優太郎 編集/文・高橋 直貴 編集協力・市村光治良

関連記事

  1. 山崎亮の「つながりのデザイン。」

    READ MORE
  2. McCANN MILLENNIALSの「世代で区切るのはもう古い」

    READ MORE
  3. デジタルとフィジカルを横断。グラフィックデザイナー3人のアパレルブランド「ALOYE」の挑戦

    READ MORE