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「自分のグラフィックを時計に乗せて世界中に配信」FES Watch Uとクリエイターの関係

Sony’s FES Watch U Creative Festivalイベントレポートとデザインのヒント

FESがクリエイターとのコラボレーションを目指して開催する、クリエイター公募プロジェクト「Sony’s FES Watch U Creative Festival」。現在クリエイターからグラフィックデザインをひろく募集中だ。これに際して8月某日、クリエイターを対象に「Sony’s FES Watch U Creative Festival」を紹介するイベントが開催された。イベントに登壇したのは、Fashion Entertainments(以下FES)のプロジェクトリーダーである杉上雄紀さんと、ブランドデザインプラットフォーム ビジネスディベロップメント部 上川衛さん。なぜ、FESは公募という形で広くクリエイティブを募集するのか。ソニー初のファッションブランドが語る、クリエイターと企業の理想の関係性について語られた。記事では、応募に際して気になるFES Watch Uのデザイン上のヒントについても紹介する。

>> Sony’s FES Watch U Creative Festivalの詳細はこちら

 

ソニーが届けたいのは、クリエイターとユーザーの間に生まれる「感動」

「Sony’s FES Watch U Creative Festival」を理解する上で欠かせないのが、ソニーが考えるクリエイターとの関係性だ。

ソニーの事業は、エレクトロニクス(コンシューマー製品からプロフェッショナル機器まで、さまざまなハードウェアやサービス)、エンタテインメント(映画や音楽など)、金融(銀行や保険などのサービス)、の3つの大きな事業ポートフォリオを持つ。それらの事業を包括するソニー全体のミッションのキーワードは「感動」。いかに人々に「感動」を届け、人々の好奇心を刺激する会社であり続けられるかを追及しているのが、ソニーの各事業であるという。

ブランドデザインプラットフォーム ビジネスディベロップメント部 上川衛さん

上川さん:カメラやオーディオ機器などのハードウェア、映画や音楽といったコンテンツ、ゲーム&ネットワークサービスのプラットフォームであるプレイステーションなど、幅広い事業分野において、それぞれの形で「感動」を届けるのがソニーのアイデンティティなんです。その「感動」を創っているのが誰かというと、クリエイターなんですよね。ゲームも音楽も、クリエイターとユーザーとの間で感動が生まれています。

 

ソニーでは、「感動」を共有するクリエイターとユーザーの共同体を、“Community of Interest”と呼んで大事にしている。

例えば、2018年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では、ソニーの“Interactive CUBE”とクリエイティブ集団SIXの “Lyric Speaker”のふたつを掛け合わせたプロジェクトを展開した。
ソニーの展開する“Interactive CUBE”は、人の動きに合わせてインタラクティブに変化する映像と音による体験型エンタテインメントステージだ。世の中に新しい体験を提案するために開発され、デパートに設置されたりイベントで活用されたり、進化し続ける遊びのプラットフォームとして楽しまれている。一方、SIXが開発したスピーカー“Lyric Speaker”は、音楽に合わせて透明なスクリーンに歌詞情報をモーショングラフィックで映し出すことができる次世代スピーカーだ。

SXSW2018では、“Interactive CUBE”を2台繋げた展示を行い、それを巨大な“Lyric Speaker”として使い、その中でDJがプレイ、音楽に合わせてスクリーンに歌詞やグラフィックを投影した。ソニーとクリエイター集団SIXとのコラボレーションしたDJライブは、会場を熱狂させたという。ソニーのデザイナー・エンジニアが、外部のクリエイターとコラボレーションした“Community of Interest”のひとつの事例だ。

>> ソニー“Interactive CUBE”

上川さん:このように、ソニーが作り上げるデバイスやコンテンツ、サービスそれぞれが色々なクリエイターとコラボレーションをしています。FES Watch Uは、ディスプレイデバイスであり、ファッションデバイスでもあり、また、クリエイター表現のプラットフォームにもなり得る、非常にユニークなソニーのチャレンジです。今回もこのような新しいコラボレーションで、ソニーはユーザーとクリエイターの間を取り持ち、新しいコミュニティを作っていきたいと考えています。

 

ソニーはファッションを進化させられるか?

Fashion Entertainments(以下FES)のプロジェクトリーダーである杉上雄紀さん

今回クリエイターとのコラボレーションが期待されているプロジェクト「FES」は、「ファッションのデジタル化」がキーワード。好きな時に好きなデザインを楽しむという、新しいライフスタイルを提供するデジタルファッションブランドだ。

杉上さん:エレクトロニクス商品を作っているイメージが強いソニーの中で「FES」は、自分たちをファッションブランドと定義しているところがちょっと変わったところですね。また、それをいわゆる大企業ソニーでやっているというよりは、少人数のメンバーでスタートアップ的にやっている、というところもひとつの大きな特徴です。

「スタートアップ的」と語られた通り、このプロジェクトの成り立ちは通常の新規事業とすこし違っている。テレビのソフトウェアエンジニアだった杉上さんがファッションのデジタル化に可能性を感じて個人でプロジェクトをスタート。業務外の活動として始め、仲間を集め、社長にプレゼンし、ソニーの社内スタートアップ育成プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」に採択されるかたちで立ち上がった。

杉上さん:FESが生まれたきっかけは、2012年。東京ゲームショウ(TGS)と東京ガールズコレクション(TGC)というふたつのイベントがきっかけになりました。その年のTGSは、スマホのゲームアプリが本格的に参加した年ですごく盛り上がっていたのですが、一区画だけカードゲームのエリアがあったんです。それが逆に印象的でした。考えてみたら、ひと昔前はカードゲームやボードゲームがゲーム業界の主流だったんだろうと。ゲームのデジタル化が、この数十年でこれだけ人々を盛り上げて楽しませているんだ、と気づいたんです。
帰り道、同じように人が集まって熱気がありながら、まだデジタル化が進んでいない領域がないかと考えました。そんなとき、たまたま翌日の朝ニュースでTGCを見て、ピンとくるものがあったんです。ファッションの領域には人が集まって盛り上がっているけれど、当時はまだプロダクトにはテクノロジーの要素があまりない。ファッションとデジタルで何かできるんじゃないかと考えました。

そんな杉上さんが「ファッション×デジタル」に着目し、そしてメインの業務を超えて実現に向けて取り組んできたのが、このFESであり、FES Watch Uなのだ。

FES Watch U、デザイン上のヒント

そんなFES Watch Uのデザイン募集と聞いて、FES Watch Uのデザインにチャレンジしてみようと考えている読者も多いだろう。そこで、ここからはFES Watch Uで、技術的にどのような表現が可能なのか、デザイン上のポイントを紹介したい。

①デザインの切り替え
FES Watch Uは、盤面左にあるボタンを押すだけで、文字盤とベルトの柄を変えることができる。本体に保存しておけるデザインは最大24デザイン。スマートフォンの専用アプリを使って、クリエイターが作ったデザインをダウンロードしたり、自分の写真を読み込んで自らグラフィックを作ったり、不要な柄を削除したりすることができる。様々なブランドやクリエイターとのコラボレーションにより、ユーザーがダウンロードできるデザインは毎月追加されていっている。

選んだデザインはBluetoothを使ってスマートフォンから送信する。最大24デザインを保存しておくことができる。

②4階調の電子ペーパーディスプレイ
FES Watch Uは、文字盤もベルトも黒・白・2色のグレーの4階調と、透明色(電子ペーパーの素材色)の色が使える電子ペーパーディスプレイだ。解像度は72dpi。スマホなどと比べると解像度や階調が低いが、フレキシブルさを実現するために最先端の技術で作られているという。顔を近づけて見ると、粒子が目で判別できる程度の細かさで、斜めの直線や円形の表現は多少ギザギザと目に見える。FES Watch U上の表現における苦手分野とも言えるポイントかもしれない。デザインの時にはぜひ考慮したい。

③1分おきに表示が変わる
年月日・曜日・時・分といった時刻表記部分は、ベルトを含めたディスプレイの好きな部分にレイアウトが可能。数字の配置や時間の表示方法もアイデア次第で自由にデザインできる。1分おきあるいはボタンを押した時に読み込み直され、文字盤とベルトを合わせた時計全体のデザインが切り替わる仕組みだ。

年月日・曜日・時間の表記は、文字盤だけでなくベルトにも配置が可能。ユニークなデザインが可能となる。

④イベント表示機能
さらに、時間に連動してグラフィックを切り替える「イベント機能」も活用したい。イベント機能では、指定したある時刻にディスプレイ上の表示画像を変更することができる。午前/午後で表示を変える、朝から夜にかけて数段階で表示を変える、毎時決まった分数に特定の画像を表示するなど、指定した時間ごとに最大5パターンの画像を表示させることができる。アイデア次第でユニークな使い方が生み出せる。

Designed by StudioKanna
Designed by GASIUS

ユニークな時間表現事例

イベントでは、過去のデザイン例のなかから、凝ったギミックものが紹介された。FES Watch Uで実際にどんなデザインできるのか、参考にしてほしい。

紹介されたのは、昨年期間限定で配信されたタツノコプロダクションとのコラボレーションモデル。タツノコプロは、ガッチャマンやヤッターマンなどを世に出し、アニメの創成期を拓いたアニメ制作プロダクションだ。

このモデルは、タツノコプロダクションの55周年を記念して企画されたため、「イベント機能」を活用して毎時55分だけグラフィックが変わるように設定したり、マッハ号が世界の大地を駆け抜ける「マッハGoGoGo」というアニメ作品になぞらえて、車が1時間かけて腕の周りを一周するというデザインも作成された。
また、ガッチャマンのデザインでは、作中の「主人公たちが腕時計型端末に呼びかけると変身する」という設定を活かし、時間が表示されていないスタンバイモード時に時間を確認するボタンを押すと、時間に応じたキャラクターに変身するというデザインを施した。

杉上さん:ぜひ、FES Watch Uならではの楽しみ方として、時間に合わせた表現を色々考えていただければ嬉しいなと思います。ただ、FESはクリエイターが自分の個性を表現するプラットフォームを目指しているので、このプロダクトに合わせすぎるよりは、ご自身の個性を大事にしていただきたいです。

 

FESが描く、ファッションとクリエイターの未来

イベントの最後に、杉上さんから今回の公募プロジェクトへの期待が語られた。

杉上さん:このファッションのデジタル化を実現するためのプロダクトやコンテンツは、やろうと思えばソニーだけでもつくれるかもしれません。けれどもこの技術やアイデアの本質は、「誰でもデザインを作れて、それを世界中に配布できる」ということだと思ったんです。
デジタルなので、流通コストを非常に低くできる。このテクノロジーを普及させることができれば、クリエイターが自分のクリエイティブを今よりもっと広くもっと簡単に世界中のユーザーに身に着けてもらえるような、デザインのプラットフォームにできるのではないかと思っています。いわば、デザインのロングテール化です。これがユーザーとクリエイターと僕ら、みんなでつくっていくというアプローチを取りたいと思った理由です。
構想から何年も経て事業化し、ちょっとずつ進んできていますが、今回ようやくデザインをオープンに募集できるところまできました。ぜひ、FESと一緒に新しいファッションの楽しみ方を作っていきたいという方にご参加いただければ、と思っています。

イベント終了後、参加者は実機を体験。自らのデザインを実現させる上で気になる点をひとつひとつ質問していた。

Sony’s FES Watch U Creative Festival

BAUSにてクリエイター公募プロジェクト「Sony’s FES Watch U Creative Festival」を開催中!MAKE TEAMページから応募が可能だ。

ファッションのデジタル化というFESのチャレンジに共感し、ともに「好きな時に好きなデザインに変えて楽しむ」という新しいカルチャーを作っていきたいというクリエイターのみなさん、この機会にぜひ応募してみてはいかがだろうか。

 

関連記事:「機能価値より感性価値を」Sonyによるファッションブランド「FES」が描く新しいプロダクトの地平

写真・田川優太郎 文・清水雄介 編集・上野なつみ

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