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会社は足下から変えられる。ビーコンコミュニケーションズで始まった社内変革

「Publicis100」「PUBLICIS S/ash」

“働き方改革”というワードは、今やすっかり聞き慣れたものとなった。だが、ワードの浸透に具体的な改革が追いついているかというと、まだまだ遠く及ばず、号令に終始しているところも多いだろう。そんな中、ピュブリシスグループの広告会社、ビーコンコミュニケーションズでは、一人のクリエイティブディレクターの発案によって“会社を変えていく”新たな挑戦が始まっている。今回お話をうかがったメンバーの名刺には、広告会社のスタッフとしての職種の後にスラッシュでつなぐ形で「校長」「ブックコーディネーター」「保育士」の肩書きが。発案者である田中大地さん(写真・中央)は、「クライアントに相対して広告を含めたいろいろな解決策を提案している僕らですが、実は足下を見ると、社内にこそ解決すべきいろいろな課題がありました」と、ボトムアップでの変革に目を向けた理由を振り返る。社内を変えていくためのプラットフォーム「Publicis100」と、そのひとつ目となる活動「PUBLICIS S/ash」の意義、そしてどのような価値を生み出しているのか、ビーコンコミュニケーションズの田中さん、塚野翼さん(同・右)、近藤まり子さん(同・左)にお話を伺った。

「ピュブリシス・ワン」として一致団結を目指す流れ

ーー今回は、御社内にボトムアップで生まれたというユニークな社内制度「Publicis100」と「PUBLICIS S/ash」についてうかがいます。早速、いまいただいた名刺に、広告会社の仕事とはかなりかけ離れた肩書きが‥‥?

田中さん:僕が“校長”です(笑)。塚野さんは、読書家なところを活かしてブックコーディネーター。こちらの近藤さんは、新卒でうちに入って5年目に、勉強して保育士の資格を取ったんですよ。びっくりしましたね。

「PUBLICIS S/ash」オリジナルの肩書きが入った名刺。提供:ビーコンコミュニケーションズ

ーーいろいろと聞きたいことがあるんですが、まずはビーコンコミュニケーションズという会社について、教えていただけますか?

田中さん:ビーコンは外資系の広告会社で、世界3位の広告代理店ネットワークのピュブリシスグループの一員です。この数年、よりグループとしての連携を強めていく方針が打ち出されていて、その一貫で日本でも2016年、グループ内のエージェンシーであるビーコン、サーチアンドサーチ、MSLの3社がひとつに合流し、「ピュブリシス・ワン」という枠組みの中で協力しながら働いています。以前はオフィスも別々だったんですが、今はこの目黒のビルにほかの関連会社と一緒に入っていて、全部で400人くらいの体制ですね。

 

ーービーコンでは、どういったクライアントのお仕事をされているんでしょうか?

田中さん:僕はCDとしてずっと日本マクドナルドさんを担当させてもらっていたり、塚野さんはフィリップ・モリス・ジャパンさんの「マールボロ」や「IQOS」など、近藤さんはP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)さんなどのコミュニケーションに携わったりしていて。ありがたいことに、素晴らしいクライアントさんのお仕事ばかりさせてもらっています。

Associate Creative Director / 校長 / Slash Director 田中大地さん

ーーでは、改めて「Publicis100」と「PUBLICIS S/ash」についてですが、ピュブリシスとなっているということは、ビーコンに留まらないグループ全体の活動なんでしょうか?

田中さん:そうですね、そうしていきたいなと。今はまだ、ビーコンのメンバーが中心になっていますが、サーチやMSLからの参加者も徐々に増えています。ピュブリシス・ワンの全員に公開しているので、これからどんどん入ってきてもらえるようにするつもりです。

 

ーー編集部がたまたま御社の方からこの制度のことを聞いて、最初は“2つ目の肩書き”というところにまず興味を持ったんです。今、会社員の働き方は副業解禁だとか、どんどん外へ開いていく流れがありますが、社内でやるのは新しいな、と。

田中さん:うち、現時点で副業は禁止なんですよね。なので、そのルールを変えるためにグローバルと交渉し続けるくらいなら、さっさとそのルールの中で最大限できることをやってみようと思って。スラッシュでつないだ2つ目の肩書きは「PUBLICIS S/ash」のほうで、簡単にいうと「Publicis100」が“会社を変えていく活動を100個やろう”と掲げたプラットフォーム。「PUBLICIS S/ash」は、そのひとつ目の企画なんです。100のアイデアは誰でも投稿できて、5月ごろにイントラサイトを公開してグループの皆にリリースしたんですが、すでに大小60個くらいは集まっていますね。そのうちすでに10個以上、社長からGOサインをいただきました。今、実施に向けて準備中です。

塚野さん:ちなみに2つ目のアイデアももう実現していて、仕事上の上司と部下の間だと“お前のケツは俺が拭いてやる”っていう言い回し、あるじゃないですか。あれを具現化しました。「上司としてケツは拭くから、思いっきりあばれろ!」というメッセージを込めて、社内の重鎮ディレクターを募り、似顔絵をプリントしたんです、トイレットペーパーに。すでに社内で使い始めています(笑)。

“Your Ass, I wipe it.”トイレットペーパー。提供:ビーコンコミュニケーションズ

「人生、100年に伸びてよかったね」と言える未来を迎えられるか

ーー楽しそうです(笑)。ではまず「Publicis100」がなぜ生まれたのか、田中さんが発案した背景をうかがえますか?

田中さん:そうですね、そうはいっても僕らのいる広告業界は、そもそも時間で区切るのが難しい仕事なので、残業問題や会議時間が長いといった働く上での課題が昔から多いんです。この多様化している時代に、企業のコミュニケーションをお手伝いする僕ら自身が、ダイバーシティを体現していないといけないのに、そういうところにも課題がある。僕は元々営業職からコピーライターになって、今はCDとしてチームの若いメンバーとも接していますが、果たしてこれから社会人になる人たちにこの業界を勧められるのか? すごくおもしろいから入って来なよ!って言えるのかな、っていうことをここ数年、考えていて。

 

ーーそうなんですね。端から見ると、華々しい業界というイメージを持っている人が多いと思います。

田中さん:表に出る広告はもちろん完成形として仕上げていますし、アワード(広告賞)とかを獲るとなおさら華々しく見えますよね。でも実際はすごく地味な作業が多いし、クリエイティブアイデアを生み出すところは本当に考え抜いているから、つらいときもある。それは僕らの仕事の本質なので、いいんですが、それでも労働時間やその他の問題は解決していかないといけないという危機感がまずありました。同時に、個人や会社の稼ぎ方自体も、変えていかないと生き残れないんじゃないかという思いもあって。

ーー生き残れない、というのは?

田中さん:まず個人でいうと、今“人生100年時代”といわれていますよね。100歳まで生きるかもしれない、仕事も70や80歳まで続けるかもしれない。なのに、たとえ大御所コピーライターと言われる人でも、その歳で現役の人って本当に一人くらいしか思いつかない。僕がコピーライターになった8年前は“この職で一生食ってける感” がまだありましたが、今はもう全然ないですね(笑)。個人として手元のカードを増やしたり、スキルの活かし方を変えたり、変化そのものを楽しんだり。「人生100年に伸びてよかったよね」と言えるような準備を始めないといけないなと。

 

ーーひとつの職を極めるだけで、一生仕事が来つづける‥‥、とはいかなくなっている。

田中さん:そうですね。グローバルを見渡しても、広告業界のビジネスモデルは決して盤石ではないので、会社としても、あの手この手で稼ぎ方を変えていかないといけない。で、僕らの売り物はアイデアなので、稼ぐ根幹にいるのは人なんです。一人ひとりが個性を伸ばしながら、バラエティ豊かに動くことで、会社の幅は広がるし、ずっと勤め続けたい会社になれる。それはキレイゴトではなく、これからの時代に対応した「柔軟で強い広告会社」になるために必要なことだと考えました。それで、まず「会社を変えていく原動力になるプラットフォームを立ち上げたい」と、社長に自主プレゼンをしたんです。

 

ーーそうなんですね。ちなみに社長とは、日ごろから割と関係性が近い感じなんですか?

田中さん:そうですね、すごくフラットですし、社員からの積極的な提案を喜んでくれる人です。社長はピュブリシス・ワン設立時に新しく就任したフランス系イタリア人の女性なんですが、社長も就任時から“transformation”をキーワードに掲げていました。グローバルの潮流、業界の変化にスピーディに対応して、自分たちを変化させていかないといけない、と。そうした制度や施策も動き始めましたが、トップダウンの利点がある一方、やはり限界もありますよね。むしろ個人に近いことはボトムアップのほうが速いこともある。だから僕の考えていることは社長の方向性と同じで、「サステナブルにトランスフォームし続ける仕組み」であり、それをボトムアップでやりたいと言ったんですよね。個人も会社も変わること、まず100個。そうしたら、「ダイチ、1000個じゃダメなの?」って(笑)。

“社内を変えたい”という一人ひとりの思いを行動へ焚き付けた

ーーどんどんやれ、と。心強いですね。

田中さん:そうですね。いつか社長が替わっても、僕がこの取り組みから離れても皆が使える装置のようなものをつくりたいと思ったので、数に上限はないんですけどね。えっと、僕ばっかりしゃべってるんで、二人にも‥‥(笑)。社長に即GOサインをもらってから、まずはこの話にすぐ賛同してくれそうな周囲の人に声をかけていきました。近藤さんはその一人です。

Strategist / 保育士 近藤まり子さん

近藤さん:大地さんの思いの話、もう100回くらい聞きました(笑)。大地さんが自主プレしたのが今年の春くらいで、それからメンバーが増えて、取り組み自体をグループ社内にオープンしたのが7月です。今は、塚野さん含めて全部で7人がコアメンバーとして動いています。

田中さん:塚野さんは、ちょっと違った方向からジョインしたんです。彼は彼で、同じような思いをもって社長に提案していたんですよね。で、一緒にやろうということになった。

塚野さん:僕はデザイナーとして主にUI/UXに携わっているので、僕が最初に思っていたのは、社長がトランスフォーメーションを掲げていろいろな提案をウェルカムだというなら、言いやすい仕組みをつくらないといけないよね、ということでした。目安箱みたいな感じの。大した発明ではないですけど、あるとないとじゃ全然意識が違うと思うんです。それから先ほどの、外に開くのではなく社内に注目したのは、もうひとつ大地さんとも話していた背景があります。ここ数年で海外のアワードを中心に、社会問題をクリエイティブの力で解決しよう、というムーブメントが起こっていたんですね。

 

ーーソーシャルグッド、みたいな?

塚野さん:そうです。もちろんそれはいいことですが、でもクライアントに“ソーシャルグッド”な企画を提案する僕らの社内がハッピーじゃなかったら、それって不健全じゃないの?って。だから、やっぱりまずは社内からなんじゃないか、うちの社長に社内を良くする企画をプレゼンするほうがよっぽどグッドなんじゃないか、とも話していました。

Senior Interactive Designer / Book Coordinator 塚野 翼さん

田中さん:実際、さっきのベテランに絶え間なく仕事が集まるわけじゃないという話と同じで、もうアワード獲ったから新規クライアントがつく、なんてこともないんですよ。それより、僕らが健全なチームであって、またクライアントと僕らもいいチームになれたら結果が出て、そのつながりで次の仕事が決まることのほうがずっと多い。社内があって、それから外へというムーブメントにしたいなという思いもありました。

近藤さん:コアメンバーが割とすぐ集まったのも、一人ひとりがどこか同じような思いを持っていたからなんですよね。私も大地さんから聞いて、すぐ参加しましたし。

田中さん:ぶっちゃけ、これまでは思いはあってもそれ本当にやるのって「アリなの? ナシじゃないの?」という戸惑いも同時にあったと思います。そもそも、本業がすごく忙しいし。でもそこに、僕が「いいよやっちゃおうぜ! 大丈夫だよ!」と焚き付けた。

塚野さん:そう、焚き付けた。

近藤さん:「そういうことやっていいんだ!」って思いましたね。

 

ーーマネジメントから現場まで、変えよう、変えていいという宣言にもなっていますよね。

田中さん:制度でも、備品でも、この会議室の椅子をもっとクリエイティブなのにしよう、とかでもいい。制度に関するアイデアも動いているので、改めて就業規則を読み込んだりもしました。もちろんクリエイターだけじゃなくて、バックオフィスの皆にも提案してほしいんです。日本人って、上司の立場とか色んな事情を忖度しちゃって、自発的な発案をあんまりしなかったりします。でも、アイデアを上にぶつけることに、何のリスクもないんだから。実は経営者は、現場からの意見を待っていたりしますから。

「Publicis100」のコアメンバー7人。一緒に映画を観に行くなどプライベートでも仲が良いそう。
提供:ビーコンコミュニケーションズ

“2つ目の肩書き”が個人の隠れたタレントを発掘していく

ーー「Publicis100」には、そんな深い背景があったんですね。ではそのひとつ目としてすでに動いている「PUBLICIS S/ash」についてうかがいたいと思います。この2つ目の肩書き、振り幅が広くてびっくりしました。

近藤さん:私自身、ストラテジストで保育士っていうギャップが割と好きです(笑)。何をつなげても自由なんです、世の中にない肩書きをつけてもいい。この3人以外だと、「JIMOTO Producer」「Art Mixer」「ファスティング・アドバイザー」「トラベル・プランナー」なんて独創的な肩書きを名乗っている人もいます。

塚野さん:他にも「スナックのママ」「B級映画研究家」「内装工」「落語脚本家」など、みんな本当に個性的な肩書きをつけてるんです(笑)。「PUBLICIS S/ash」のお陰で、ずっと一緒に仕事してたのに、えっ、そんな一面があったんだ!と初めて知ることも多いですね。ビーコンではCDはクライアントごとに固定ですが、ほかのメンバーは割と流動的なので、変わった人が集まっているほうがアイデアが出やすい。その点にも、皆の知られざるタレントを知るのは意義があると思います。今は僕ら含め20人くらいが新しい名刺で、それぞれのプロジェクトを始動しています。さらに、次の10人の名刺も準備中です。肩書きが見えていなくても応募してもらって、メンバーと1対1で「こんな肩書きだったらもっと幅が広がるんじゃないか」と話しながらつくっています。

ーーそうなんですね。では、塚野さんの「ブックコーディネーター」、近藤さんの「保育士」のことを教えてもらえますか?

塚野さん:僕は元々、週に1冊くらいは本を読むようにしていて、役立つ内容は皆にシェアしたりしてきたんです。自分にどういう新しい肩書きがつくかと考えたとき、“社内ライブラリー”のような本棚をつくったら、知識もシェアできるし、家で本を眠らせたままにしないで済むなって思って。僕以外の人も、そこに最近読んだいい本を置いてもらえたらいい。テーマを決めて選書したり、情報発信ももう少しメルマガのような形にしたりと、いろいろ準備中です。

田中さん:塚野さんは社外のセミナーとかワークショップにも頻繁に出ているし、社外に顔も広いんです。インプットの量が半端じゃないので、ぜひそれを皆のために活かしてほしいなと。インプットしてない広告会社のプレーヤーなんて勝てるわけない、でもつい忙しくて後回ししてしまうので“インプット革命が必要だ”とずっと考えていたんです。そうしたら、生粋のインプッター、いるじゃん!と。

塚野さん:革命って大きすぎですけど(笑)。でも、これを機会にみんなに「僕が本業以外で貢献できること」を気付かせてもらえましたね。で、近藤さんの保育士はまた異色で。

近藤さん:元々教育系に興味があって、学生時代も学童保育のアルバイトをしたりしていたんです。この業界にも興味を持ってこちらに入りましたが、どこかで教育に携わりたいという気持ちがあって、でも現状で当社には教育系のクライアントはいなくて。それで、何か動いてみようと思って、会社を辞めずに独学で取れる保育士の資格を取ったんです。そうしたら、このスラッシュの話が持ち上がりました。

田中さん:もう早速、社内で役割を見つけて活かしているんです。8月末に初めて、社員の家族を会社に招く「ファミリーデイ」のイベントがありまして、これはまた別のグループが企画していたんですが、子どもの対応どうする?という話から、そういえば社内に保育士資格を持っている人がいるらしい‥‥ということで彼女に声がかかった。彼女を中心に、ものづくりのワークショップを企画して、実現しました。

一人ひとりが自分の能力を活かしたプロジェクトリーダーに

ーーそうなんですね! そんな形で保育士の知識が活きるとは。

近藤さん:当日は1歳から14歳まで、50人くらい子どもが来てわちゃわちゃしましたが(笑)、とっても楽しかったです!「たべてみたいバーガーのポスターをつくろう!」ということで、紙で切ったパーツや毛糸、モールなどを組み合わせて夢のバーガーをつくってもらいネーミングもしてもらったのですが、どれも発想が自由すぎて大成功でした。当社にはワーキングファザー、マザーはたくさんいるので、イコール身近に子どもがいる人は多いんです。なのでいずれの案として社内保育園も考えていますが、もしそうするにしても普通じゃおもしろくない。せっかくクリエイティブな会社なんだから、子どもならではの発想力をのびのび発揮しながら実現力や発信力をつけていける、“あずける保育園”じゃなくて“つくれる保育園”ができたらな、と。その第一歩として、ファミリーデイでやってみました。

ファミリーデイ当日の様子。

提供:ビーコンコミュニケーションズ

田中さん:肩書きって良くも悪くも自分を規定するから、自覚次第で動き方が全然違ってきますよね。僕はちょこちょこ社長に話していますが、基本的に報告義務はないし、失敗してもそこから学べばいい。同時に、これは会社にとっても可能性を広げることなんですね。もし“つくれる保育園”と連携して子どもの柔軟さを活かしたコンテンツづくりができたら、教育系のクライアントとコラボできるかもしれない。開発中の子ども向け商品で遊んで、クライアントにフィードバックする保育園になるかも。つまりこれは、事業のプロトタイプでもあるんです。新しく何かと何かを掛け合わせれば、レッドオーシャンからブルーオーシャンに行ける。

ーー個人のタレントが、事業の芽になるんですね。

塚野さん:同時に、才能の流出を防ぐことにもなっていると思います。今は副業ができないので、もし近藤さんの教育への関心が大きくなったら、新しいチャレンジのために転職してしまったかもしれない。ほかにも、自分の結婚式を手づくりした経験からウェディング事業に興味を持ったコピーライターがいて、何ならその経験を生かして周囲の人のウェディングをプランニングしたいと言うんですが、彼女もそっちの思いが強くなったらうちから出ていくかもしれないですよね。でもビーコンの名刺に「コピーライター / ウェディングプランナー」と入れたら、いつかうちがウェディング事業をする可能性だってある。

ーーこれは、個人的な副業ではできないことでもありますよね。そして、田中さんの2つ目・3つ目の肩書きは校長と、スラッシュのディレクターだと。校長、というのは?

田中さん:これらの取り組みも絡めつつ、自身のキャリアをなぞって、「クリエイティブ部署以外の人間を、クリエイティブ部署の連中よりクリエイティブにする社内スクール」を立ち上げようと、絶賛カリキュラムをつくっているところです。実はスラッシュには僕、個人的にあと2つ裏テーマがあって。ひとつは、皆にプロジェクトリーダーになってほしいということです。2つ目の肩書きはどれも、別に誰に言われたわけでもない、締切もないプロジェクトです。それをただ“挑戦したい”という思いで立ち上げ、まわりを巻き込んで実現して、いい影響を与えていく。それってもう、ほとんど経営者ですよね。

 

ーーそういう見方が!

田中さん:そうしたら、実際に経営者やCMOクラスの方と話すときの内容や提案の質も変わってくるはずです。僕らは基本的に「クライアントの課題を解決する」仕事をしているので、課題を与えられたら燃えるんです。でもそれに慣れすぎたら、受け身の仕事しかできない。これからは自分で“問い”からつくることもできる、そういう人材に一人ひとりがなっていってほしいと思っています。そしてもうひとつのテーマは、ぜひこういう考えと社風に共感する人に、どんどん外から入ってきてほしい。外で経験を積んだ人が、また社内をいい方へ変えてくれると思います。

ーー社内をボトムアップで変えていく、とても奥行きのあるお話をありがとうございました! 最後に、今後の展望をうかがえますか?

田中さん:この、どんどん進むプロジェクトの進行管理でしょうか‥‥年内にまだまだ動くので、やり方を改革するのが直近の課題です! 僕、たくさんしゃべったから‥‥あとは2人に(笑)。

塚野さん:そうですね(笑)。今、大地さんが話した「問いからつくれる人材」の集団になれたら、受け身ではなく自立型のネットワークができると思います。そうすると、個人も豊かになって、会社としてもより強くなる。そうしていきたいと思いますね。

近藤さん:本業以外への関心を受け入れてくれる場ができたことは、私はすごく嬉しいんです。新卒入社した会社が、どんどんいい方に変わっていって、希望があるなあと実感しますね。大地さんが話したように、こういう文化に惹かれて外からまた仲間が増えたらもっと広がりが生まれると思うので、楽しみです。

PROFILE

Publicis100

ピュブリシスグループ傘下の外資系広告代理店、ビーコンコミュニケーションズで2018年5月から始まったボトムアップ型の社内プロジェクト。「業界の古い常識を更新したり、社内の働き方改革を加速させるようなACTを、100個立ち上げよう」をスローガンに、会社を良くするアイディアを全社から募集している。

写真・萩原楽太郎 文・高島知子 編集・市村光治良

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