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東京からソウルへ──TWDWが「アジア」からつくり出す働き方の未来

出張版TWDW in Seoul Work Design Week

2018年で6年目を迎えた働き方の祭典、「Tokyo Work Design Week(TWDW)」が今年は海を超え韓国・ソウルに進出した。韓国で行なわれた「Seoul Work Design Week」では東京から3人のゲストを招いた「出張版TWDW」も実施され、大盛況のうちに終了した。なかでも会場に集まった老若男女を熱狂させ、アジアからオルタナティブな社会が生まれる可能性さえ感じられた「出張版TWDW」の一部始終をレポートする。

「働き方の祭典」が韓国・ソウルへ

社会や経済、文化が変わるにつれてますます多様化している「働き方」の未来を考えるべく2013年に始動した働き方の祭典、「Tokyo Work Design Week」(以下、TWDW)。新しい働き方や会社の未来を模索するためにさまざまな領域から多数のゲストを迎えて行なわれるこのイベントは、オルタナティブな「仕事」のあり方を考える一大ムーブメントをつくり出している。

かねてから東京のみならず横浜、大阪など全国各地に広がりつつあったTWDWが、今年は11月8日〜10日に「Seoul Work Design Week」として韓国・ソウルでも開催された。ザハ・ハディッドが設計したソウルのランドマーク「東大門デザインプラザ」を舞台に、SAMSUNGやSMエンタテインメント、LINEなど韓国企業から豪華ゲストが登場。しかしとりわけ注目すべきプログラムは、東京からゲストを迎えて行なわれた「出張版TWDW」だろう。

東京から韓国へと向かったのは、BAUSで編集長を務める、TWDWオーガナイザー・横石崇、コクヨクリエイティブセンター主幹研究員・山下正太郎さん、黒鳥社コンテンツディレクター・若林恵さんの3名。韓国ではまず会えない3人がプレゼンを行なうこともあり、会場には老若男女を問わず数多くの人々が集まった。

働き方の未来へ向かって

TWDWオーガナイザーである横石によるプレゼンテーション、「Are you ready for the future of work?」からイベントは始まる。横石はまずTWDWの取り組みを紹介し、GAFAのような大手プラットフォーム企業の覇権による雇用の減少や人工知能(AI)の進化に伴う仕事のあり方の変化など、「働き方」の未来がどこへ向かおうとしているのか解説していく。稟議を通す際の判子の押し方など海外から見ると滑稽に思える日本の事例を横石が苦笑しながら紹介すると、会場からは笑い声も上がる。

プレゼンの最後に横石が実施したのは、日本でも行なっていた「ハッシュタグ」で自分を表現するワークショップ。仕事のあり方も働き方も多様化してゆく現在、もはやひとつの「肩書き」だけで個人を表現することは難しくなりつつある。横石によるワークショップは、自身にハッシュタグを振ることで自分の存在を可視化しようとするものだ。会場の人々は真剣な表情で自分のハッシュタグを考え、普段は意識していなかった「自分」と向き合いながらそれぞれの仕事のあり方を考えていった。

オフィスが秘める無限の可能性

続いて行なわれたのは、コクヨクリエイティブセンター主幹研究員・山下正太郎さんによるプレゼン「Global workplace trend」。ワークスタイル戦略情報メディア『WORKSIGHT』の編集長でもある山下さんは、常に世界中を飛び回りながら各国のオフィス事例を追いかけてきた。

そんな山下さんによるプレゼンは縦横無尽に各国のオフィスを紹介しながら働き方の多様化にともなって働く「空間」も多様化していることを明らかにする。韓国も近年コワーキングスペースが増加しておりオフィスのあり方は変わってきているが、現代のオフィスは「第4世代」にあたるのだと山下さんは語る。単なる仕事のための空間だった第1世代から豊かな環境を報酬とする第2世代、バーチャルとリアルを融合させる第3世代に続き、競争力を生み出すための空間となるのが第4世代のオフィスなのだという。

オフィスの内と外を切り分けることはもはや容易ではなく、近年はその境界線に働く空間をつくる事例も数多く存在する。「ABW(Activity Based Working)」という新たな概念が示しているように、仕事内容に合わせて働く場所を変えられるようにすることも少なくない。こうした現代の流れに沿って山下さんが紹介した世界各国のオフィスはどれも刺激的な空間ばかりであり、同氏のプレゼンは「オフィス」というものがいかに豊かな可能性を秘めているのか明らかにするものとなった。

「未来は過去に似ている」

最後に黒鳥社コンテンツディレクター・若林恵さんが行なったのが、「Digital Distributism and Future of Work」と題されたプレゼンだ。日本の働き方を概観した横石と世界の最新事例を網羅した山下さんのプレゼンを引き継ぐにふさわしく、若林さんは「デジタル分散主義(Digital Distributism)」というキーワードを軸にこれからの働き方の可能性を提示してゆく。

まず若林さんは「Future represents the past(未来は過去に似ている)」と書かれたスライドを出し、日本の江戸時代における「仕事」や「働き方」が有していた多様性や豊かさを紹介する。若林さんによれば現代でいうところの「スモールビジネス」は実は江戸時代こそ盛んであり、資源が循環する経済のエコシステムもそこには確立されていたのだという。

そこから若林さんはデヴィッド・グレーバーの著作を紹介しながらこれまで近代を形づくってきた「デジタル産業主義(Digital Industrialism)」が崩壊し、これからは「デジタル分散主義(Digital Distributism)」の時代が始まるのではないかと語った。会場中の人々は熱心にメモをとったりスライドの写真を撮ったりしながら若林さんのプレゼンに耳を傾け、自分たちが属する「アジア」にこそオルタナティブな経済や社会の可能性があることに気付かされたのだった。

アジアから始まるデジタル分散主義

プレゼンだけでSWDWは終わらない。その後行なわれたクロストークでは、3人が会場からの質問に答えながら働き方の民主化について議論を深めていく。なかには会場から3人の働き方を問う厳しい質問も飛び出し、トークに真剣に耳を傾ける大学生や若者の姿からは彼ら/彼女らの切実さが感じられた。韓国では就職難が社会問題と化しておりこれからの働き方/生き方に頭を悩ませる若者も少なくない。日本よりもさらに新陳代謝が激しい韓国の社会は、わたしたちが想像している以上に過酷な環境でもあるはずだ。

もちろん国ごとに事情が異なるのは言うまでもないが、若林さんの説いた「デジタル分散主義」へこれからの社会が向かっていくことは間違いないだろう。東京・渋谷から始まったTWDWは海を超え、新たな働き方の「種」を韓国・ソウルへともたらした。種を植えられたソウルの若者は東京とは異なるかたちで韓国に新たな文化をもたらすはずだ。欧米が大手プラットフォーム企業の文化に染まってしまっている現在、もしかしたら新たなデジタル分散主義の動きはアジアから広がっていくのかもしれない。

SWDWを終え、いよいよ東京でも11月17日(土)からTWDWが始まる。あらゆる領域のゲストが集まったプログラムのなかには、SWDWのオーガナイザーを務めたHOONYOUNGNAが登壇するセッションや、若林さんがSWDWにて行ったプレゼンの「凱旋公演」も。今年もTWDWの7日間を通じて、新たな「働き方」や「仕事」のみならず、新たな「社会」や「世界」へとつながる道が切り開かれるはずだ。

PROFILE

TOKYO WORK DESIGN WEEK

毎年11月の「勤労感謝の日」にあわせて、渋谷の街を中心に7日間にわたって開催する国内初の“働き方の祭典”。2013年に初開催し、これまでに全国各地からのべ2万人の動員に成功。ボランティアによる運営メンバーは約150人を突破。20代、30代のこれからの新しい働き方やビジネスの未来をつくる機会を提供している。

写真・伊原正美 編集/文・石神俊大

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