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戦略と表現が密接になる時代。「関係づくり」にクリエイティビティを発揮するには?

CHERRYの挑戦

今、企業がクリエイターに求める領域の幅が広がってきている。以前のように簡単には課題の解決策が見つからず、もっというと課題の問い直しや発見から始めなければいけなくなっている状況下で、クリエイティブ表現に留まらず、「もっとビジネスの上流から一緒に考えてほしい」というニーズが生まれているのだ。前例のない、正攻法もないこういったクリエイティビティーの発揮の仕方を、社外のクリエイティブブティックとして動くことで模索しているのが、ADKの若手プロデューサーとクリエイター6人による新会社、CHERRYだ。ネーミングには、ブランドの果実を実らせる、ポテンシャルを開花させるといった意味合いに、初心を忘れないという意志が込められている。そのミッションに「表現づくりから、関係づくりへ。」と掲げる同社の考え方、これから目指す働き方について、代表の鈴木聡倫さん(写真・右)、PRディレクターの贄田翔太郎さん(同・左)、アートディレクターの大橋謙譲さん(同・中央)にうかがった。

“総合広告代理店”でできること、難しいこと

ーー始動してまだ3カ月ほどのCHERRYのオフィスにおじゃましました。すっきりとしていて、気持ちのいい空間ですね。

鈴木さん:まだできたばかりで、これからもう少し凝っていければと。内装のディレクションは、アートディレクターの大橋くんが手がけています。

贄田さん:チーフ・オフィス・オフィサー、COOですね。

 

ーーすでに新しい肩書きが生まれているんですね(笑)。さて、今回はADKという総合広告代理店から派生したクリエイティブブティックとして、なぜそうした動きを取るに至ったのか、そうでなければできない仕事や働き方とは何なのかをうかがいたいと思います。代表の鈴木さん、はじめに創業の経緯を教えてもらえますか?

鈴木さん:CHERRYは、営業出身の僕がビジネスサイドを、ほかの5人がクリエイティブを担うというメンバー構成です。僕からの視点で言うと、10年以上ADKでクリエイターと組んで仕事をする中で、この数年は従来のエージェンシーに求められていた期待値に応えるだけではダメなのではと感じるようになっていました。クリエイターの能力は決して「表現」を考えるだけではないので、もっとやるべきことが曖昧な状態からクライアントとタッグを組んでチャレンジする領域を広げていけたら、企業の強みを今以上にさまざまな形で世の中に届けられるのではないかと。
こういった議論はすでにコモディティ化していますが、そこを担うプレイヤーはまだ少なく、解決法も確立していないので、なるべく早くやるべきとは考えていました。そのあたりは、クリエイターはもっと肌感覚で感じていたと思います。

贄田さん: そうですね。たとえば、所属先に依らないチーム編成や、お互いの得意領域を活かしながら影響し合う/させ合うアジャイル開発的な制作プロセスとか…。需要があるのはわかっていましたし、自分たちもトライできそうなのに、なかなか実行に移せない。そのもどかしさは感じていましたし、年々強まってもいました。自分としても何か次のステージへ進みたいなと。

PR Director/Creative Director 贄田翔太郎さん

大橋さん:そんな思いを、去年6月のカンヌ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)で贄田くんが役員のいる場で話したことが、実はいちばん最初のきっかけになっているかもしれませんね。僕はその場にいなかったのですが、同じようにもう少し柔軟なタッグの組み方ができないかと感じていました。そこで昨年後半から今年にかけて何度か打ち合わせを重ねながら構想を固め、会社にプレゼンテーションし、5月に正式に設立が決まりました。

 

「広告会社の仕事=メディアバイイング」の誤解

ーーADKは昨年末に非上場企業となりましたよね。皆さんの思いに、会社の新しい方針が合致したということなのでしょうか?

鈴木さん:そうですね。僕ら現場側の思いと同時に、ADK全体としても改めてドメインの整理とその訴求を行っていくフェーズにありました。会社としての機構改革に関するリリースにも、クリエイティブ戦略の一貫として個性を持ったブティックを順次立ち上げていくと記載がありますが、総合広告代理店として当然クリエイティブにも一層力を入れていくところに、僕らの想いが合致した形です。最初から子会社設立を目指していたわけではなかったのですが、役員と話し合いを重ねる中で、機動性と自由を重視するために、会社の外に出ることが必然であるという結論となりました。

 

ーーリリースからは、CHERRYを皮切りに第二、第三のブティックをローンチして、より柔軟な組み方を実現しながら、クリエイティブ力を多方面へ発揮していく考えが読み取れました。

鈴木さん:そうですね、その意味では僕らが試金石になるので責任重大です。今、クライアントと直接取引させて頂いている案件も進んでいて、今後はそちらを中心にしていくことは経営側とも共有しています。

Business Producer/CEO 鈴木聡倫さん

ーー総合広告代理店で新しいチームをつくる際に社内ユニットを立ち上げることは多くあったと思うのですが、今回、別会社という形をとったのはなぜでしょう?

鈴木さん:大きな理由としては、スモールスタートで案件を受けられるようにしたかったからです。例えば、スタートアップ企業だと、課題がはっきりしていない段階でADKに発注いただくのは難しい側面があったり、メディアが絡まないと相談できないと思われているケースも多くありました。CHERRYでは、クライアントの中に新しいチャレンジやプロジェクトを起こしたい方がいらっしゃれば、そのタイミングからお声がけいただきたいと思っています。今、知り合いの知り合いからとか、以前メンバーがお付き合いしていた制作会社からとか、本当にひとつひとつのお声がけから進めている状況なので、まずはこういったつながりを大事にしていこうと思っています。

贄田さん: PRの仕事をしていると、戦略PRやインターナルコミュニケーションのようなメディアバイイングが発生しない案件でも、ブランドと世間の関係構築の部分でクリエイティブの力が求められていると実感することがありました。一方、クライアントやPR会社の方は、そんな関係構築のためのクリエイティブを誰にどんな形で相談すればいいかわからず悩んでいるという話も多く聞いています。そのパートナーの選択肢に、総合広告代理店が挙がることがほとんどないので、自分たちがそこに少しでもフィットするといいなという考えがありました。

トライ&エラーの繰り返しが必要な時代に求められる機動力

ーークリエイティブ業界全体で、いわゆるプロモーションや表現の部分だけでなく、もっと上流の商品企画やコミュニケーション戦略立案からクリエイターが関われるはずだという発想が生まれていますよね。今のお話は、それにすごく合致します。

鈴木さん:もちろん総合広告代理店に発注するメリットや、そこの営業を介することのメリットは今もありますが、特に課題が混沌としている場合だと、もっと初期段階からタッグを組めないか、内部の視点では見えないことをずばり言ってほしい、というクライアントの要望は以前からありました。でも、企業の仕組みや商習慣的な部分でどうしても難しくて。それをうまく突破していくことが、CHERRYの発想の根本にあります。

 

ーークライアントともっと柔軟な形で組んで、クリエイティビティーを発揮できないか、ということですよね。それが、ミッションに掲げている「表現づくりから、関係づくりへ。」の内容に表れている。

鈴木さん:そうですね、そういう考えを込めました。ただ表現をつくるのではなく、クライアントともっと柔軟に関係を築いて、その上でブランドと顧客や生活者とのよりよい関係づくりに貢献したいと思っています。同時に別会社化は自分たちに対する表明でもあって、子会社とはいえ別会社で事業をするからには、やはりクライアントの事業に対するコミットメントや責任感が変わってくると思っています。

PHOTOGRAPHY COURTESY OF CHERRY

ーーなるほど。始動してまだ間もないですが、現在の手応えや実感をうかがえますか?

鈴木さん:事業の課題をすぐに解決することは甘くないと認識はしてますが、以前よりクライアントの経営に直結する仕事は増えている感覚です。この先、自分たちのオリジナル商材やサービスを生み出せたら、直接的に世の中とつながる知見にもなって、クライアントワークにも活かせそうだなとも感じていますね。個人的にはこれまでのクライアントワークでも、その企業の強みやリソースやIPをうまくコンセプトに編集するところから関わって喜ばれたことが糧になっているので、そういう仕事にもっと踏み込んでいきたいと思っています。

大橋さん:そうですね。僕も「より質の高いものや、よりワークするものをクライアントや世の中に提供したい」という想いはADKにいたころから変わっていませんが、やはり環境の変化は感じています。仕事の受け方や案件における自分の役割みたいなものが、どうしても画一的になっていたところはあったので。そうしたところが多様化してきた今、以前の自分ではできなかった挑戦や成長があるなと感じています。一方で、役割が多様化しても、アートディレクションという自分の肩書きをうやむやにするようなことはしたくないので、クラフトやデザインのスキルはもっと高めていきたいと思っています。

Art Director 大橋謙譲さん

贄田さん:CHERRYができた時から、早いうちに「ノーブリーフの仕事も受けられるようになろう」と話していたんです。いわゆる、課題ややりたいことがはっきりしていて、それが落とし込まれたブリーフをもってご相談いただくのではなく、ブリーフにうまく書けないけれどなんとかしたい、もっと良くしたい、と感じている方々と、そのモヤモヤを明らかにするところからご一緒するような仕事ができればと。実際、受けられる仕事の幅が急に広がって、今までとは異なる、入り口段階でご相談いただく仕事が舞い込んでくるようになったので、自分たちが思っていた以上にそういう組み方は求められていたんだな、と実感しています。
一方で、クライアントと直接お話しする機会が増えることで、僕らの腕も試されているなとも感じています。これまでは、営業が間に入って課題やニーズを整理してくれることで、こちらはクリエイティブに集中できた部分もあったので。

大橋さん:それは、すごく思いますね。すでに今クライアントと直接やりとりしている案件もあり、毎日のようにメッセージが飛び交っています。フランクに、かつスピーディーにやりとりできるというメリットがある一方で、ひとつひとつの発言に責任を伴うという緊張感もあります。神経は使いますが「本音を言い合えていい」と思うことも多々あり、今までにできなかった仕事の進め方に手応えは感じています。ゆくゆくは、経営者や宣伝部長クラスのキーマンの方々と対等にやり取りできるクリエイターになれたらと思っています。

鈴木さん:直接のやり取りは諸刃の剣で、厳しい面もすごく多いですが、意思決定のコストは低く抑えられますし、小さく始められるという部分もあります。成果が出ないとか、うまくフィットしなかったときのリスタートの判断も早くつけられる。その機動力も、今の僕らの存在価値だなと感じています。

 

クライアントと世の中との関係構築をゼロから支援する

ーー機動力というのは、テレビCMで一気にとかではなく、今のコミュニケーション環境下で小さなトライ&エラーを繰り返してナレッジを得ていくには、すごくニーズが高いはずですよね。新しい組織を立ち上げて、早くもいろいろな模索と蓄積が一気に進んでいる様子ですが、すでにローンチしている事例をいくつかうかがえますか?

鈴木さん:現状お話しできるものから一例を出すと、11月末に建設業界のある大手企業のオウンドメディアが公開になりました。オウンドメディアといってもリード獲得目的とかではなく、スポンサードの名前も出さずに展開する、業界内コミュニケーションのインターナル施策です。内容としては、「設計士×AI」をテーマに、AIの自動化や効率化の力を使って、設計士がアイディアやクリエイティブに時間を捻出していこう、といったことを提案していきます。

大橋さん:他には、ブラックサンダーと市川海老蔵さんがコラボした『海老蔵サンダー』という新商品の企画・デザインを担当しました。約1年の商品開発を経て、10月に全国のコンビニで発売となりました。また、発売後のPRは贄田が担当しました。歌舞伎とは縁遠い中高生との関係づくりをいかに実現するかを重点的に考え、最適なアプローチでこの新商品を広めることができました。

贄田さん:あとは社内案件ですが、この秋からはじまったADKのインターネットメディア「POSTAD(ポスタド)」のクリエイティブディレクションと、初号の編集長を務めました。今までADKには真の意味でのオウンドメディアがなかったので、非上場化したことをひとつのきっかけに、その時々のコミュニケーション業界が抱える課題の提起や仮説の検証を、自ら発信していきます。このフェイクニュース全盛の時代に、一次情報を自ら得に行く「汗かくインターネットメディア」がコンセプトで、2カ月ごとに特集を組んでいく予定です。

 

ーーそうなんですね。第1号のテーマは?

贄田さん:それがまさに働き方にフォーカスしていて、「ワーキング・アイデンティティ わたしらしい仕事のつくりかた」と題していろいろな職業の方にインタビューしたりしています。ADK社員を編集部員として皆で汗をかきながら(笑)、つくっています。

鈴木さん:また、事例というわけではないんですが、変わったところではメンバーの一人がクライアントに週1で常駐するという関与の仕方を始めています。これまでは、普通に表現の部分でお手伝いしていたのですが、インターナル含めてコミュニケーションで解決していきたい課題が多くなってきたために、インハウスのデザイナーやスタッフとも深く組んで進めてくれないか、という話になったんです。

 

ーーそれも新しい働き方ですね。ちなみにどういう契約形態になっているんですか?

鈴木さん:コンサルティングフィーという形で契約させてもらっています。信頼されているCDなら、「週一でもうちに来て仕事してください」というニーズは多くあると思いますが、それもADK内のいちクリエイターでは難しかったことなので、僕らもこれからやり方を確立できればな、と。

 

立場や視点を超えたチーム構成とマネジメントが重要に

ーーまだまだこれから新しい事例が生まれてくると思いますが、今うかがった限りでも、表現から関係づくりへ、という指針を感じます。ただ表現で解決するのではなく、企業とその先にいるユーザーやお客さんが、いい関係を築けるようにしていく。

鈴木さん:会社と従業員の関係も、昔みたいに盤石というのではなく、少し緊張感のある時代になってきていると思います。その関係性には特に正解はないですが、今自分たちがこういう仕事の仕方を模索しているのは、ひとつのトライアルになるのかなという気がしています。

ーーそうですね。その上で、直近の課題はどんなことだと思いますか?

鈴木さん:まさに今の、仕事の座組みの話で、「クリエイティブチームのマネジメント」が今後大きな課題になってくるなと思っています。以前はADKのメンバーだけでチーム構成を行なっていたのが、今後は僕らとクライアントのインハウスクリエイター、フリーランス、制作会社のスタッフ、場合によってはPR会社やメディアも企画の初期段階からかかわるかもしれない。そのマネジメントは相当ハイレベルになりますよね。
よく、クライアント企業に代理店出身の人やデジタルに長けた人が入ったけど、水が合わなくて結局うまくいかないという話も聞きます。立場や視点や専門性の違いを踏まえて、それを超えて個々のクリエイティビティーを発揮できる、いいチームをつくって結果を出すにはどうしたらいいのか。CHERRYとして、より事業に近いところでコミットする仕事を推進しながら、チームづくりという観点でもいろいろと試して、自分なりのやり方をつかみたいと思っています。

 

ーー立場を超えたチームづくりは、今後たしかに各所で必要になりそうですね。では贄田さん、大橋さんにも、今後の課題や展望をうかがえますか?

贄田さん:まだそんなに先のことを考えられる余裕がないのですが(笑)、クライアントさんと長く一緒に取り組むからこそできるものを、ひとつつくりたいなという想いがあります。それはサービスやプロダクトだったり、もしかしたら社内の制度だったりするかもしれませんが、入口から出口まで長期的に関わりながら、関わる人みんなの気持ちが動く仕組みづくりのプロセスをご一緒できると、広告クリエイターのスキルの活かし方として新しいケースを確立できるんじゃないかと思っています。
チームづくりでも、課題に対応するために必要なスキルセットを分解し、それぞれに対応するスタッフィングを行うことには慣れているので、それをスピーディーにやっていきたいですね。PR領域だと、各企業やブランドが所属するカテゴリのメディアの皆さんとの、タイアップではない柔軟な関わり方にトライしたいです。メディアとしての公平性を担保していただきながら自分たちのチームにも加わってもらうことで、そのカテゴリ自体を発展させていくことができれば嬉しいです。

大橋さん:個人としては、これまでと異なる仕事への関わり方をすることで新たな経験を積みつつ、本職でもあるADスキルを引き続き磨いていきたいです。あともうひとつ、このCHERRYという形になって考えているのは、メンバー6人が一人ひとり幸せになったらいいなあと…(笑)

 

ーー愛ですね(笑)。

鈴木さん:組織愛(笑)?

大橋さん:というか、なんでしょう…。以前は近しいクリエイターの活躍や成功を100%喜べないところがあったんですよね(笑)。よく言えば刺激、悪く言うと嫉妬があった。でもこの体制になってから、そんな気持ちがまったくなくなって。本当に一人ひとりが成長して成果をつかんでほしいし(もちろん僕も)、それがCHERRYに還元されて、もっとスケールの大きい仕事がきたらいいと素直に思えるようになりました。誰かが活躍したら「サンキュー!」って(笑)。

 

ーーCHERRYという場がプラットフォームみたいな感じになって、それぞれが能力を発揮して成果が還元され、それが次を呼んでいくような感じですね。そういう循環ができていくと、これから新しいメンバーやもっと若手が入って組織のサイズが少し大きくなっても、凝り固まらないというか。

大橋さん:そんなイメージですね。長期の関係づくりや、事業にコミュニケーションやクリエイティブの力を還元していくことも進めながら、もともとのドメインである表現づくりを捨てているわけではもちろんないので、各メンバーが能力を発揮しながら組織としても充実する形が実現していくと、その振り幅で世の中の役に立っていけるんじゃないかと。それぞれのこだわりを持ちながら、さらに広い視座を持てるように、両方ちょっとずつ磨きをかけていきたいと思います。

PROFILE

CHERRY

ADKから独立した若手プロデューサーとクリエイター、6人による新会社。ミッションに「表現づくりから、関係づくりへ。」を掲げる同社のネーミングには、ブランドの果実を実らせる、ポテンシャルを開花させるといった意味合いに、初心を忘れないという意志が込められている。CHERRYの近況やおすすめ書籍が紹介されているInstagramのアカウントもぜひチェックしてみて。

写真・今井駿介 文・高島知子 編集・市村光治良

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