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異分野のデザイン、異なるキャリア。デザインに化学反応は起きるのか。

CREATIVE X #2レポート

2018年10月21日(日)、第二回目となる「CREATIVE X」が開催された。デザイナーたち自身が交流を求めて出発した本イベント、今回設定されたテーマは「デザインに化学反応は起きるのか。」だ。登壇者には、朝日新聞社メディアラボ デザイナー宮下洋輔さん、アーキテクトの川口貴仁さんとリクルートテクノロジーズ UXデザイナー 反中望さん、アートディレクターの菊地あかねさんとDPDC 玉木穣太さん、サントリーコミュニケーションズ デザイン部 古庄章子さんとT&T TOKYO コピーライタータカハシトモヨシさん、日本デザインセンター アートディレクター 北本浩之さんとモリサワ ディレクター 富田哲良さん、第一線で活躍する様々な職種のクリエイティブ関係者計9名が名を連ねた。8時間に及ぶイベントの内容を、今回は最も盛り上がりを見せた局面をダイジェストでお届けする。

会場には300名以上が来場。「デザイナーとして、異業種のデザイナーの知見を得たい」「デザイナーと仕事をする者として、彼らの思考を理解しておきたい」など、参加者自身の立場で他のデザイナーたちを理解し、日々の取り組みにつなげていくことを求めた参加者が多かったようだ。まずは、メインセッションである登壇者たち同士の化学反応を紹介する。

 

「デザインをデザイナーだけのものにしない」

Session 1 [Creative×新規事業]|朝日新聞社メディアラボ デザイナー宮下洋輔

最初に登壇したのは朝日新聞社メディアラボの宮下洋輔さん。宮下さんは、朝日新聞の報道局デザイン部にデザイナーとして入社後、新聞のグラフィックデザインを担当。
2013年に同社がスタートした社内公募制の組織「メディアラボ」に応募し、異動。以後、このメディアラボに、唯一のデザイナーとして参加し、新規事業コンテストに自ら応募、動画コンテンツサイト「moovoo」も実現した。

グラフィックデザイナーとして手を動かしていた宮下さん、バックグラウンド様々なチームメンバーと新規事業に携わるなかで、デザイナーにとっての新規事業の仕事と既存事業の仕事の違いが見えてきたという。

「新規事業には、企画・立ち上げ・運用・改善のすべてにクリエイティブの立場で関わっています。戦略に携われることで、プロダクトに対しての責任感も生まれてくるんですよね。一方で、既存事業はどうしても組織の上から仕事が降ってきがち。発注と受注関係になり、発注側も『つくってればいいよ』といったスタンスでそれ以上の役割を求めないことが多く、事業について話をする機会はなかなか持てません」

また、異なるバックグラウンドの専門家が集まるからこそ、デザイナーと非デザイナーの理想の関係性、コミュニケーションのあり方についても考える機会が多いという。

「組織には全社から記者や営業、デザイナーが集まっています。だけど記者も営業も、実はそもそもデザイナーと一緒に働いたことがない人も多い。だから、デザインのプロセスも知ってもらうことから始める必要がありました。デザインはデザイナーだけがするものじゃない、デザイナーじゃない人もデザインに関わっているのだということを伝えるようにしたんです。加えて、デザイナーもいろんな分野を行き来できるデザイナーであることが大事だと思います。『デザインをデザイナーだけのものにしない』、いろんな分野の人と力を合わせてデザインをすることが、僕の心がけていることです」

デザイナー自らが「デザインをデザイナーだけのものにしない」こと、そして自ら、デザインのプロセスや意図を言葉で伝えること。宮下さんが新規事業に関わるうえでの心がけは、表面的なデザインを超えた本質的なプロダクト開発に関わるための、すべてのデザイナーにとって秘訣と言えそうだ。

 

「失敗を失敗にしない、失敗と言わせないための進め方」

Session 2 [Creative×体験]|アーキテクト 川口貴仁×リクルートテクノロジーズ UXデザイナー 反中望

建築とUXデザイン、異分野ながら共通点が多い二つの分野。UXデザイナーの反中望さんは、学生時代から技術が人の行動・心理・社会をどう変えるのかに興味を持ち、UXにおける戦略やリサーチ、デザイン、マネジメントまで幅広く手掛けている。一方対談相手のアーキテクトの川口貴仁さんは、建築家として1つの建築デザインから、被災地の再生プロジェクトといったまちづくりのデザインにまで関わってきた。

このセッションでは両者の違いと共通点から、互いに学びを得る。物質的/非物質的、リアル/デジタルなどの対照的な相違点が浮かび上がった。

川口さん:建築教育では、歴史を考えるアプローチが多いんです。その時代の建物と論文がどういったトレンドにあったのかなど歴史的側面を見る。

反中さんWEBとの大きな違いですね。WEBは思想や歴史と連携して考えることがあまりない。それはきっと、もともと20年~30年先を考えてつくられている建築分野と、永続しないと考えられているWEB、それぞれの時間軸の違いによるものかもしれません。

そんな、未来を長期的に見据えてつくられる建築だからこそ、簡単には修正や変更、なかったことにはできないもの。だからこそ、「失敗」についての考え方が両者で違っていることもおもしろい。

反中さん:失敗は存在しないというというのがWEBやデジタルの領域の考えですよね。あえて言うなら学びがないことが失敗です。それに対して建築の場合は、失敗すると大問題なのではないでしょうか。

川口さん:そうですね。だからこそ、失敗と言わせないための進め方として、各フェーズで区切ってその都度デザインを承認してもらったり、やること・やらないことを決めておくよう工夫しています。段階的に合意形成をとっていくんです。

反中さんWEBにおいても大きな予算のプロジェクトの時は、前段で不確実性をどれだけ下げるかは重要です。ABテストができない建築は、さらにシビアそうですね。

リアルのデザインとデジタルのデザイン、異分野同士の交流。それぞれの特徴を理解しておくことで、「失敗」についての考え方の違いが見え、非常に興味深かった。異なるフィールドであっても、互いのアプローチや考え方、その手法を参考にしたい。

 

「差別化は自分たちで意識してつくるものではない。自分たちにしかできない仕事を大切に」

Session 3 [Creative×差別化]AKANE KIKUCHI DESIGN 菊地あかね×DPDC代表ほか 玉木穣太

続いてのセッションは、Akane Kikuchi Designとして独立し、アートディレクターを務める菊地あかねさん。デザインの勉強をしにニューヨークへ留学した後、日本の文化について深く知ろうと思い立ち、芸者に弟子入りしたという異色の経歴の持ち主だ。対するは、
DPDC代表の玉木穣太さん。Fintech、フード、スタートアップなどの多くのクリエイティブディレクションを経験してきた。そんな二人にとって「差別化」とは。

菊地さん:差別化とは、意識的に作られるものではなく、自分の表現したいことを続けることで、自ずと表れるものだと考えています。だから、時代の変化や他人の目線に囚われ過ぎず「自身の使命は何か」を常に志すことが大事。デザインの仕事では伝えるべき優先順位がもちろんありますが、私たちのカラーを用いて表現する、私たちにしかできない仕事は何か?と常に問いてお客さまや世の中に対し、答えを出し続けることを大切にし、伝え続けてきました。

玉木さん僕も、他の人でもできる仕事はやりたくない、好きなことをやりたいという思いがあります。僕はいつも、「自分」と「社会」と「情報」がキーだと考えていて、まさにその「自分」というのがそういった自分の信念のこと。次に社会の他人の目を気にしないということが重要です。ディフェンシブな人は必ずいますが、それを気にしすぎて前に進めないのはもったいない。そして最後に、情報を正しくフラットに見ることも大切です。みんなが良いと言うものに対して、「本当にそうなのかな?」と考え、まず自分がなぜそれがいいと思うのかを理解することが大事です。

誰にも真似できないようなアイデンティティを持っているように見える二人だが、共通するのは差別化しようと他人の目を意識しすぎないという点だった。自分の好きなものや信念を突き詰めることで、自然と差別化は行われていくように感じられた。

 

「どんな媒体で発信してもブレないための『指針』が必須」

Session 4 [Creative×ブランディング]|サントリーコミュニケーションズ デザイン部 クリエイティブディレクター 古庄章子×T&T TOKYO コピーライタータカハシトモヨシ
続いてのセッションで登壇するのは、ウイスキー「響」やコーヒーの「
BOSS」でおなじみのサントリーで、クリエイティブディレクターを務める古庄章子さんと、ナイキ、アディダスなど多くの大手スポーツブランドのコピーを手掛けてきたタカハシトモヨシさん。

企業やプロダクトのブランディングを行っていく時、彼らはデザインに何を込めていくのだろうか。

タカハシさん:例えばナイキは、イメージ調査をすると「なんとなく王道」という評価を受けています。このイメージを定着させるってすごいことですよね。ナイキは「JUST DO IT.」という1つの指針と、「挑戦的」「クール」「生意気」というトーンでずっと発信を続けてきたんです。例を挙げると、ナイキの“Yesterday you said tomorrow.”(昨日、お前は明日やるって言ったよな)というコピー。生意気で挑戦的なトーンが分かりやすく盛り込まれていますね。

古庄さん:サントリーのBOSSの開発コンセプトは、「働く人の相棒」です。昭和の時代は、現場で汗水流して働く人たちと永く付き合える相棒をイメージしていました。

コーヒーのパッケージには、コーヒー豆がアイコンとして使われがちですが、BOSSは男の顔一つで表現したところが特徴になっています。人生の苦み甘みを乗り越えてきた頼れる男のイメージです。1つの商品から始まったBOSSは、これまでに300種類以上の商品に展開されました。働く人たちの変化に合わせてきた結果、これだけの数になったのではないかと考えています。

現在で言うと、自由で新しい働き方を応援するBOSSとしてつくられた、クラフトボスのCMに象徴されています。

今の2018年の働き方を表しているように思います。このように、BOSSCMはその時の時代背景を思い浮かべられるようにできていますよね。

ブランディングというと一見、見た目やカラーの一貫性のみを思い浮かべがちだが、実際には1つの指針を一貫させること、またその指針によって時代に応じた多様なデザインを生み出せること。この指摘は、これからブランドを意識したデザインを行う際にも役立つのではないだろうか。

 

「どんな人が(字体)、どんな声の大きさで(サイズ)、どんな気持ちで(文字組)

Session 5 [Creative×文字と構成]|日本デザインセンター アートディレクター 北本浩之×モリサワ ディレクター 富田哲良

最後のセッションでは、日本デザインセンターでアートディレクターを務める北本浩之さんと、書体の開発で有名なモリサワでディレクターを務める富田哲良さんが、文字とデザインについて語った。

北本さん:書体を選ぶときや文字組みを考えるときに、「書体を擬人化する」とイメージしやすいかと思います。どんな人が(書体)、どんな声の大きさで(文字サイズ)、どんな気持ちで言っているのか(文字組)。

例えば、静かにささやくようなコピーが、画面いっぱいに大きくレイアウトされていると、言葉とビジュアルがマッチしないんじゃないかと思います。窮屈な内容を表すのに文字の間隔や行の間隔をぎゅっと詰めてみたりとか、リラックスした印象の文章がつづられるときは間隔を広くとってみたりとか。意図をレイアウトに表現する必要があります。

富田さん:もともと、フォントづくりは手書きで行われていました。新人のタイプデザイナーは文字をデッサンする修行を1年から2年行います。それがデジタルの時代になって、効率的に文字種を拡張できるようになってきました。さらに近い未来のフォントの話をすると、近年“Variable Font”という新しいフォントの技術が発表されました。これは一つのフォントファイルでありながら、自由にウェイトやコントラスト(文字の抑揚)等がシームレスに変えられるんです。フォントメーカーとしては、技術を活かした新しいフォントのデザインを提案していきたいと思っています。

北本さん:このVariable Fontによって、ウェイト、コンデンス、コントラスト、その他組み合わせが増えると、これまで一つのフォントで限られていたバリエーションが、とんでもない数に膨らみますね。それを扱うデザイナーのリテラシーが重要になっていきそうです。スクリーン上の表現も、例えばピンチインで書体の太さが変わったりと、インタラクティブな要素が加わりそうです

富田さん:そうですね、WEBフォントの表現も広がっていきそうで、期待しています。

時代とともにデザインの方法が変わってきたように、今またフォントに変化が訪れようとしている。進化していくフォントの世界に注目をしつつ、それを使いこなすために自身のリテラシーをアップデートしていくことも必要になっていきそうだ。

デザインに化学反応は起きるのか。その問いを掲げて始まった2回目のCREATIVE Xだが、壇上では登壇者も会話の中から新しい発見や気づきを見つけては口に出していた。しかしそれ以上に、登壇者の話を聞く参加者たちの中でも化学反応が起こっていたようである。

「レベルの高いデザイナーの取り組みを知って奮起した」
「エンジニアとして参加したが、普段仕事をしているデザイナーの頭の中を初めて知った」

化学反応は、実は情報を手に入れた私たち自身で起こせるのかもしれない。

文・清水雄介 編集・上野なつみ

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