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グローバルと接続する映像プロデューサーが描く、「国境を越えてクリエイターがつながる未来」

藤保修一(CROSSTERIA LLC.代表)

「日本のクリエイターと海外のクリエイターが次に繋がるきっかけを、何かしら仲介するのが楽しいんですよ」。そう語るのは、合同会社クロステリア代表の藤保修一さん。テレビの黄金時代からインターネット文化の創成期まで、数々の番組や動画制作に携わってきた経験やネットワークをもとに、ありとあらゆる地域のクリエイターとオンライン上で協働し、新たな制作スタイルを生み出している。国内外を問わず、誰に対してもフランクにコミュニケーションをとって仕事に巻き込んでしまう制作スタイルが生まれた原点、そして藤保さんが考える新たなネットワークの仕組みづくりについて話を聞いた。

ーー“動画プロデュースカンパニー”である、クロステリアの制作スタイルについて教えてください。

藤保さん:私が映像業界に25年くらいいたので、これまでの経験とコネクションを生かして、国内外に点在するおよそ100組のクリエイターさんたちにお手伝いいただきながら、WEB動画を中心とした動画制作のプロデュースを行なっています。お客様とクリエイターさんの間を調整しながら、LP用の動画や、イベント用の動画、WEB広告用の動画、アプリ紹介など、いろんな動画を作っています。

 

ーー国内だけでなく国外にも、仲間のクリエイターさんがたくさんいらっしゃるんですね。藤保さん自身も、実際に現地に行くんですか。

藤保さん時には現地に向かうこともありますが基本はその地域の方にお任せしています。元から繋がっている人に頼むこともあれば、知らない人でも、YouTubeやVimeoを見てコンタクトをとってお願いしています。その際は、作品の好きな部分を見つけ、どこがどう好きか自分の意見を伝えコミュニケーションを取るよう努めています。まずは「あなたの作品は素晴らしいから、力を貸して欲しい」とメッセージを送って、いざ仕事をお願いすることになったら、一回スカイプで互いに最近作った作品や仕事の話をします。そこでウマが合えば大丈夫。写真コンテを送って、SkypeやMessenger上で指示を出します。

ーー絵コンテを描くのも、基本的にロケハンしないと分からないと思うんですけれど、どうやってディレクションされていますか?

藤保さん:最初はその地域のいろんな映像や画像を見ながら、なんとなくこういうのが撮れればいいなという骨組みだけ固めて、あとは相談しながら進めています。見つけてきたイメージをサンプルとして現地のディレクターと共有して、でも私は現地に行ってないから、より良い場所があれば、彼らにアジャストしてもらう。こちらからは基本的に、撮影の意図を伝えています。今回この映像で伝えたいのは、街並みの人の雑踏でとか、こんなところでこういうレポートをしたいとか。

 

ーーこの映像じゃない…というものが送られてきてしまって、うまくいかなかったことはありませんか。

藤保さん:まず伝える際は言葉だけだと大変なので、iPhoneで自撮りしています。自分でポーズをとったり、こういうリアクションが欲しいっていうのを実演したりして。例えば、とあるプロダクトのプロモーション動画をボリビアのウユニ塩湖で撮った時は、現地のディレクターに、服はここを見せて、指はこうやって差して、ジッパーはここまで上げ、タイトとルーズが一応両方欲しい、みたいに、カメラを置いて自撮りしながら指示する。大体それで伝わりますね。

あと一応、撮影中もギリギリまでチャットはしています。ロケハンの写真も送ってきてくれるし、なんなら今はFaceTimeで指示までできちゃうので。出来上がったものは全て、僕の想像をはるかに超えて、いいものばかりですよ。

 

ーー初対面でいきなり海外のクリエイターにコンタクトして、すぐ実際に制作するというスタイルは、失敗した時のリスクを考えると珍しいなと思いました。

藤保さん:初対面の人は、そりゃハラハラドキドキしますよ。でも、だから、しょっちゅうチャットしています。「どう、状況?楽しみなんだけど」って。そうすると向こうからもこういうものを作っているとか、今はこんな感じだとか段々チャットで教えてくれるようになる。

「この時間は子供のサッカーの教室に行かなきゃいけないから、君とは連絡取れない。作業もできないよ、ごめんね」という風に、プライベートを話すこともあります。そういう場合は家族を優先してもらって、その代わりに別の時間をちょうだい、ここまでにクライアントに見せたいからってお願いすると、みんな絶対守ってくれますね。

ーーどういう経緯で、今の制作スタイルに至ったんでしょうか。

藤保さん:大学卒業後に、まずテレビの番組制作会社に入ったんです。そこではバラエティや音楽番組、ドラマ、ドキュメンタリーなど、いろんなテレビの番組に携わって。海外ロケにもよく行っていたので、その時に現地のコーディネーターの方と知り合って、案内してもらったり、現地のカメラマンに撮影を手伝ってもらったりしていたので、その流れで今も各拠点の仲間に助けてもらっています。

TV業界にいた14年の間で色々一通りやった後は、何かディレクターとして作品っぽいものが作りたいと思って、中野裕之監督のところにジョインしました。ショートフィルムの助監督をさせてもらったんですけれど、すぐに自分はそこまで職人気質でないことに気づきました。14年もやっていて初めて(笑)。

でも、中野監督の元に飛び込んだことは、結果的に新しいチャレンジをするきっかけになりました。というのも、2006年、中野監督の紹介でデジタルガレージ提供 “世界のインターネット最新情報を伝える情報生番組BlogTV” をTokyo MXでやるから、やらないかと誘われ演出することになったんです。

 

ーーWEBに関する情報番組…当時は珍しかったでしょうね。

藤保さん:そうですね、番組の中で、Twitterの情報をコンテンツとして流していましたからね。個人的には最初は興味なかったんですけれど、視聴率じゃなくてview数でダイレクトに反応が伝わってくるのが分かって、すぐに夢中になりました。2007年に“Twitter Night”っていう、一晩でTwitterだけでどれだけ人が来るかっていう実験をしたところ、いきなり200人も集まって、中にはアルファーブロガーのようなインフルエンサーもいたので、さらにブログで拡散されて、これは凄いぞと。

そのアルファブロガーのうちの一人に、Jimmy Chooの息子であるDanny Chooという人がいて、色々話をするうちに、彼は日本のオタク情報を世界に発信するパイオニアで、海外のオタクは大体彼のサイトを見て日本のオタク事情を知るという、大きいハブのような存在だと知りました。その後、彼から番組をやりたいというオファーがきたので、BlogTVでお世話になったTokyoMXで今度は、オタク寄りである彼の目線で日本を紹介するという番組を、1クールやりました。



ーーどういう内容の番組だったんですか?

藤保さん:海外のオタクが見たいこと中心でしたね。当時は『けいおん』が流行っていたので、高校にお邪魔して、軽音部の高校生が楽器を背負って登校してくる“リアルけいおん”や、他にも屋上や野球部、掃除するところを撮りました。アニメだと屋上や野球のシーンがよく出てくる、雑巾がけは海外にないから珍しい、面白いって言うんです。

そういう意味で驚いたのが、品川の駐輪場。自転車置き場なんかどこにでもあるので、何が面白いの?って聞いたら、品川の港南口の自転車置き場は地下に自転車を入れると、そのまま下に行って、くるくる回って降りていくところがトランスフォーマーだ!とDannyがいうので、色んなところにカメラを入れて、バラエティ風に見せて放送しました。

放送1時間後には番組をYouTubeにもアップしていて、駐輪場の動画は最初1万viewくらいだったのが、10万viewになったあたりから、徐々に話題になってきました。さらにどこからか情報を得たCNNに取り上げられたらすぐ100万viewになって。後日談で聞いたんですけれど、中東方面の会社から直接、取引先の会社に問い合わせがあって、なんと駐輪場が売れたらしいんですよ。実体験として、あっという間に拡散される様子を目の当たりにしたのは面白かったですね。

ーーその体験が、いまのプロデューサー業に繋がっているんですね。人によっては独立した後も番組制作の下請けをプロダクションとしてやる、という形もあると思うんですが、藤保さんは海外とのネットワークを駆使して、あくまでご自身はプロデュースする、という立場に徹されています。

藤保さんDannyとやっているときも、彼の情報発信、彼の感覚が一番大切でした。それがTVフォーマットであろうがなかろうが、彼の情報をみんなは知りたい。だから、私はその周りをサポートするのが正解だと思うんです。

例えば芸人が盛り上げないといけないCMの収録で、バラエティ番組のカメラマンを揃えたら、現場入りした瞬間に芸人さんが「なんで居るんですかー!今日企業のCMって聞いてたのに」って急にリラックスした雰囲気になって、やりやすい、良い画が撮れるじゃないですか。そういう、現場によってお願いするチームやスタッフのアサインを考える方が楽しいんですよね。

 

ーーその感覚で、クリエイターに直に連絡して仕事をバンバン進めていくと。

藤保さん:日本の仕事、みんな面白がってやってくれるんですよ。逆に来たらって考えてみればわかると思います。南アフリカからうちの会社に問い合わせきたら、面白いじゃないですか。南アフリカの人から、ここの東京タワー撮ってくれってお願いされたら、頑張って撮っちゃいますよね。それと同じで、海外の人も、日本から問い合わせすると“Amazing!!”って面白がってくれるから。こっちも面白がってやっています。

 

ーーそうやってクリエイター同士が繋がるネットワークを、目に見える形にするサービスもいま考えてらっしゃるとか。

藤保さん:「ビジョンマップ」という名前のサービスで、私の仲間や別の人の仲間など、クリエイターのネットワークがマップ状で俯瞰して一覧できるものを構想しています。Google Earthの上にクリエイターのネットワークが乗っているような感覚ですね。

今は、みんなぞれぞれ自分のコミュニティだけしか見えていないけれど、誰でも見られたら、もしかしたら他の人が困っている案件を手伝えるかもしれない。そうすると横のつながりが勝手にできますよね。

ビジョンマップで人間関係をオープンにしたら、空いている期間に知らないところからお仕事がくるかもしれない。今までなかった経路で、経験したことがないような案件がきたら面白いですよね。

ーーこことここが繋がったら面白いのでは?という勘所が得られるということですね。そのネットワークが公開されたら、新しいものがどんどん生まれそうです。

藤保さん以前Blog TVで、クリエイティブ・コモンズを一回取材した時に、ある人がギターだけの音源を“自由に使ってください”とアップして、それを見た別の人が自分のボーカルを入れてハモって、

それを見たまた別の人がまた違う楽器を入れた…というのを繰り返して一つの音源ができて、それがヒットして結構売れたという話を聞いたんです。

その取材では色んな人が居たので、私もその話に乗ろうと思って、たまたまそこで知り合ったイスラエル人に、映像作るから音楽作ってよとお願いしてみたら、いいよって送ってくれたんです。音源に合わせて番組を編集して、できた映像を送り返したら喜んでくれて、さらに彼が「俺の曲が日本の番組に使われた」ってシェアしてくれて。そういう、セッションみたいな感覚で制作できたら、楽しいと思うんですよね。

友達でオランダに住んでいるカメラマンが居るんですけれど、やっぱりヨーロッパだから、他の国からオファーがくるんですって。こういうのを撮るのは得意でしょって紹介されて、日本の地方に行くような感覚で、他の国に行くらしい。日本では国外に出るのは一仕事という感覚がありますが、デジタルで似たようなことができればいいなと思っています。

 

ーー話を聞いていて、プロデューサーの仕事も、ビジョンマップのアイディアも、藤保さんの中では地続きの感覚なのかな、と感じました。

藤保さん:確かに同じかもしれません、プロデューサーも全体を俯瞰して見ていますから。自分で撮った映像に、海外の人がグラフィック足したら楽しいじゃないですか。大抵の人は身内の知っている仲間に頼むことが多いから、そういうのあんまりないですよね。でも今までやったことのない人とやったらやっぱり感じも違うし、それでよりいいものができて、格好いいってお客さんが満足してくれたら、嬉しいですよ。

 

ーー今、インターンの方も2名いらっしゃるそうですが、その感覚をシェアしてお仕事できたら楽しそうですね。

藤保さん:彼らも動画自体に興味があるというよりは、グローバルに色んな人と繋がっていくのが面白い、ということで来てくれたみたいです。だから自由闊達で、他の人とどんどんシェアしながらどんどん前へ前へと行く方は、楽しめるんじゃないかなと。その人の喜びを見つけられるようなメンバーがもっと増えればと思ってます。

PROFILE

合同会社クロステリア

2017年設立。映像業界歴25年の手腕から、全国に点在するクリエイターや海外クリエイターとのコネクションを生かし、動画制作のプロデュースを行う。

写真・室岡小百合  文・井上結貴 編集協力・吉田裕紀 / 市村光治良

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