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人の幸せを基準に。住民の声が届く、行政とのまちづくりシステム

NPO FLAG

誰のためにまちはあるのか。行政主導のまちづくり事業は、プロポーザル方式で選定された会社の手によって、企画や制作が進む。必ずしもまちに活動拠点を置く団体が担当するわけではない。すると、住民の声は多少なりとも遠くなる。どうすれば住民の声を反映したまちづくりを行政が進めていけるのだろう。その答えを持つというNPO法人が東京都福生市にある。FLAG(フラッグ)だ。福生市に関係が深いデザイナーやクリエイティブディレクター、フォトグラファーにディベロッパーなどがチームを組むNPO法人FLAG(以下FLAG)は、まちの文化に光をあて、まちの人自身がライフスタイルを育むまちづくりを展開し、各地に仲間を増やしている。そんなFLAGによる人の幸せをベースにしたまちづくり手法は、これまでの行政主導のまちづくりに対する新しい提言だという。

ハッピーな状況こそが、成果を生むクリエイティビティを長く保つ

ーーNPO法人FLAGは、副代表理事を務める佐藤竜馬さんと田中克海さんがバーベキューをきっかけに知り合い、お互いの取り組みたいことで会話が弾んだ結果、設立に至ったチームだ。カジュアルにアイデアを出し合って、プロジェクトを企画していく現在のフローは、チーム設立時のストーリーと重なる。

佐藤(竜馬)さん:NPO法人FLAGは10名のクリエイターが理事を務める、まちづくりのチームです。理事には、クリエイティブディレクターやアートディレクター、デザイナーなどが含まれています。これまでグラフィックデザインのような見た目の部分だけでなく、住民や住民になるみなさんに共感してもらえるシステムを備えたまちづくりに努めてきました。例えば、米軍ハウスや旧アメリカンヴィレッジのランドスケープデザインを研究する事業「Dependents Housing ENGINEER SECTION」や米軍ハウスをリノベーションしたレストランで開催するバーベキューパーティー「BACKYARD BBQ Milking Party!」などを企画運営しています。

ぼく自身はふだんデザイン会社に勤務して、顧客企業のブランディングなどをしています。その一方で、FLAGの活動を2011年からスタートしました。そもそもFLAGを始めたのは、福生で米軍ハウス(以下ハウス)の空き物件を探していたことがきっかけです。ある日、地元のハウス仲間とのバーベキューに参加したところ、福生に長く住んでいる人たちから田中の住むハウスの横に空きが出ると聞いて、その足で向かったんです。そこで当時隣に住んでいた田中と出会って、お互いの仕事に臨むスタンスが似ていたことから意気投合し、FLAGを一緒にはじめることを決めました。そのハウスも即決して、今のFLAGの事務所として契約することにしたんです。

佐藤(志織)さん:私たちのまちづくり事業は大きく2つあります。1つは、定住支援です。例えば、地域の魅力に共感していける価値観をどうつくりあげるのかという視点で、「エリアマネジメント」「エリアプロデュース」などを軸に米軍ハウスのレプリカをプロデュースしています。このプロジェクトでは、市内の公共スペースや事業主の所有する遊休土地を活用した「Dependents Housing Engineer Section」という、アメリカのFLAT HOUSEを研究したり調査するチームが動いています。

理事長 佐藤志織さん

2つ目は産業支援です。例えば、ファーマーズマーケット「GO TO LOCAL MARKETS」を運営しています。会場設営の資材や備品、野菜などを運びながら、持っているアイデアをチームに共有し、事業のアイデアを生み出すことがFLAGの新規事業開発に繋がっています。つまり、日常会話の延長線で、アイデアを磨き、プロジェクトを企画から実行まで実践していくんです。言わば、日常会話的なノリ(笑)。会議室で膝をつきあわせるミーティングでは、おもしろいアイデアは生まれないと考えています。

 

FLAGの中核を担うメンバーは、お互いに五分五分の関係を築いていて、一緒に潤っていこうと意識し合っています。それは、サンフランシスコをはじめとした欧米的な働き方とすごく似ていると感じるんですよ。欧米では、家族や、仲間、恋人が食べていく為の十分な給与があればいいんじゃないかと。自分の好きな事で仕事をするってとても素敵だし、なかなかできないですよね。

副理事 田中克海さん

田中さん:私は以前からフリーランスのデザイナーとして活動してきました。日頃のクライアントワークでは、地域のメンバーと一緒に民謡をベースにした「民謡クルセーダー」というバンドを組んで音楽活動をしたり、地域のブランドをアートディレクションするような仕事をしています。FLAG設立後の2011年以降も、フリーランスのデザイナーとして活動している私にとって、仕事はクライアントのためにあると思っていました。生活していくために、時に嫌でもやらなければいけない作業が仕事には含まれる。つまり、お金を稼ぐために働いているような気持ちになっていたんですね。

そういった状況にいるなかで、FLAGでは「イノベーティブなコトづくり」というコンセプトを軸に活動してきました。つまり、今まで誰もやらなかったことをやるということ。おもしろいアイデアを事業としてスケールする段階までカタチにしていく、という初めてのトライ。すると、私自身予期していなかった感覚を得ていくことができたんです。とにかく「コンセプトに合わない仕事」はせずに、いいと思えることだけに取り組んでいるので、ブレーンストーミングにしても、クリエイティブワークにしても、楽しい気持ちにしかなりませんでした。
結果的に、非営利団体にしたのも、「コンセプトに合わない仕事」で稼いで収益をつくらないといけないという呪縛から解き放つことにつながりました。今では利益という結果が現れてくるまでの期間も、とても能動的に活動していくことができています。

副理事 佐藤竜馬さん

佐藤(竜馬)さん:メンバーそれぞれが大好きな仕事を自由に持ちつつ、プロジェクトごとに設けるコンセプトをシェアして、FLAGで得られた収益や技術を未来に投資しているんです。そういうチームが集まったときに、ハッピーな気持ちでいることができると、本当の意味で「お金じゃない」別の価値を生んでいけます。そんな働き方は、欧米に見られる、自分の好きなことを自由な仕事にしていくスタイルとも通じていると思っています。

FLAGは住民の声が行政に届く民間主導の審査機関を担える

ーー8年目に入り、FLAGは収益というわかりやすい成果も残し始めた。例えば、米軍ハウスのデザインを取り入れた賃貸事業は、家賃相場より高く貸せる仕組みで、不動産事業として地域資源の利活用といった独自のスキームを確立している。そんなFLAGのまちづくりプロジェクトには、民間や自治体などと協働する例も少なくないが、行政とも共通言語を持って話せる体制は整ってきている。

佐藤(竜馬)さん:例えば、国と仕事をする場合、仮にプロモーションムービーの企画者に選定されたとしても、撮影はまた別の事業者と「入札」を行なうことになります。すると、撮影費の安さで「競う」ことになってしまい、まちとの関係は問われず、より安く提案することができる事業者に制作が任されてしまう。それでは、企画者の思い描いた設計に沿う、まちの人のためになる政策が行なえなくなる可能性は高いですよね。結果、事業期間が終わると別の事業に移るということが繰り返されてしまい、肝心の成果をいつまでも生めないままになります。

あるいは、地方自治体の公共事業に関わりたい場合、国が設けた助成金の枠組みに沿って、地方自治体の各事業は進んでいるため、それに合わせて申請書類を用意しないと採択されることはありません。だから、枠組みに合わない内容では事業がなかなかうまくいかない場合も少なくないんです。本来であれば、地域課題を抽出して、企画を立て、それぞれに合わせて助成金を割り当てることがセオリーだと思っています。同じように思って行動してくれる職員の方にも出会ったことはあるんですが、そういう人は珍しいのが実態です。

僕らが発足当初、NPO法人設立に向けて定款を出したとき、内閣府の担当者に驚かれたことがあります。それは私たちが、まちづくりにまつわるあらゆることに対して多角的に取り組むチームとして定款を定めていたことでした。多くのNPOは行政の枠組みに合った一つの領域に特化して定款を定めていることが多く、当時の内閣府の担当者の方からは、「今後、内閣府内で参考資料として活用させてほしい」というお声をいただきました。このような例を挙げればキリがないのですが、行政とのまちづくりを経験してきて、私たちなりに、どうすれば成果を残す事業にしていけるのか、わかってきた部分は少なくないんですよ。

田中さん:公共事業はいくつもあるけれど、民間に審査機関を設けて数年単位で事業を評価し、フィードバックをもとに次の展開を考えるような取り組みを見たことはありません。そのため、1度進み出した事業に民間の声が届かない状況が生まれています。行政プロセスも同様で、能動的でシームレスな関係をつくりづらいことから、住民参加が起きにくいんだと思います。

私たちは、行政と住民の間をつなぐシステムを築くことがもっとも重要だと考えています。そのために、福生市では、クリエイティブな公務員を育成する行政向けのプログラムとして「福生未来会議」を開催してきました。今後は、市民のなかから地域プレイヤーを育成する目的の「福生まちづくりデザイン会議(仮称)」という場も設けて、ハブになるシステムをつくろうとトライしているんです。例えば、日本の公園はどれも子供向けにデザインされていて、新しく公園がつくられる時には、子供用の遊具が設置されます。一方で欧米のアーバンデザインでは、大人が瞑想などでも利用できるように、地域に寄り添った公園がつくられています。日常から市民の声を取り入れたモデルケースをつくり、全国に広めていくことが僕らのビジョンとなっています。

佐藤(竜馬)さん:行政の予算を使って取り組む事業ですし、NPO法人の多くは、三年以内に活動がなくなってしまいます。でもFLAGでは、私たち自身がまちで稼ぐ人を増やして、シビックプライドを高めていくことに取り組んでいます。そのようなまちづくりのプレイヤーになるようなクリエイター的発想を持つ市民は、各地に必ずいて、「まちで稼いだお金をまちに還元する仕組み」をデザインするコンサルティングを担うのがFLAGなんです。

だから、私たちはまちづくりを「まち経営」として捉え、定住支援として納税額を増やすことを意識しています。地域で好きなことを仕事にするプレイヤーを育て、積極的に納税する事業団体の先例となれるよう、さらにFLAGの事業を起こしていこうと思っています。

各地に、まちづくりの成功事例は生まれていますが、「ポートランド的まちづくりがしたい」からといって、それを表層的に真似ていくことが、そのまちに合ったまちづくりでは決してありません。地域の課題をしっかりと抽出できず、統合的なまちづくりを前進させることができていない行政や自治体は多いように感じています。私たちであれば、まちの文化に合ったまちづくりのカタチを地域ごとに描いていける。

それは、ポートランド視察を経て、ヒントをたくさん得ているからでもあります。

働く人に幸せをもたらす、まちづくりの担い手を全国に増やす

ーー2018年、FLAGは2度目のポートランド視察に出かけた。1度目とは異なるエリアを散策し、ポートランドの暮らしを疑似体験する。その旅程で、まちの人が仕事に力を入れて、クオリティーの高い働きを見せていくと、その人の幸せにつながっていくシステムが、まちのグランドデザインに導入されていることを実感した。

佐藤(竜馬)さん:近年、雑誌で特集されているような有名なカフェやホテルだけではなく、現地のビジネススタイルもポートランドの魅力の1つだと言えます。

ポートランドでは、「たくさん稼いでロールスロイスに乗りたい」というよりも、家族や仲間、恋人たちが食べていける程度稼げていれば良いとされています。これにより、結果として自分の職業に対してプライドを持つことできる、スモールな多様性が生み出されていると感じました。それはオルタナティブな価値観ですよね。ガレージでジャムをつくる女の子や、自宅でビールを醸造するホームブルーワー、数年先まで予約がいっぱいになっている自転車のフレームビルダーなど、大好きなことで自由にビジネスをする方々がたくさんいて、人が街の魅力につながっていました。

まちで働く人のなかには、タトゥーを入れている人たちも少なくありません。日本には、そのような人に対する偏見がまだ残っていますが、彼・彼女らのようなヒップスターがたくさんいることも、多様性を深めています。こういう文化は、米軍ハウスの文化が残る福生にも共通していて、「自分の好きなこと」で生活をするという文脈につながっているんだと再認識しました。

田中さん:かつて福生が注目された理由は、リーマンショック以降の疲弊したアメリカ人が求めたライフスタイルと似ていたからなんだと思うんです。日本の場合なら、FLAGを設立した2011年がアメリカのリーマンショック以降と重なります。みんな、これからの人生を見つめ直すなかで、どうしたら自分がよりハッピーになれる生活を送れるんだろうと模索していました。

佐藤(竜馬)さん:その気持ちに応えるために、地域プレイヤーが少しでもいいからちゃんと稼いで、まちの価値を上げられるような仕組みを整えていきたいなと。とは言いつつライフスタイルが重要で、そこから構築されていくカルチャーが利いてくることを考えると、ハードからソフトへとまちづくりに寄与していくことが大切だと考えます。この共通の価値観を定着させていくことは、今のまちづくりにとって、とても重要です。

働く人、一人ひとりがまちづくりのコンテンツとして、ブラッシュアップしていくプロセスの中で、まちの資源が活かせるシステムをつくっていく。そのシステムになり得る一つは、FLAGのような民間の審査機関として機能するものがあることだと思います。

私たちも数年かけて、コンテンツとして始まり、産業の流れとしてまちづくりに取り入れていけるまで到達しました。だから次は、そのようなコンテンツからまちづくりへつながる流れを、福生(東京)以外の各地47都道府県にも広めていくことを目指しています。

佐藤(竜馬)さん:ポートランドのまち並みには、1ブロックに同じ業態の店舗がひとつとしてありません。例えば、飲食店同士でも、それぞれの特徴を主軸とした特定の時間帯だけオープンするようになっています。その徹底ぶりは、朝、営業していた飲食店の場合、ランチタイムには、カーテンを閉めて存在を消し、元から店舗がなかったかのように見せるほどでした。

それぞれのお店の特徴を住み分けていくから、地域由来のお店が稼いで、そのキャラクター同士がうまく共存し続けていけるサスティナブルなまちになれるんだと思います。まちのグランドデザインに、秩序として組み込まれているからこそですよね。そこまで一気に進めることは、難しいのかもしれませんが、日本でそのようなまちづくりを進めていく機運は高めていくべきです。だからFLAGでは、各地に旗を立てていくプロジェクトが進んでいます。

私たちFLAGでは、全国47都道府県にまちづくりチームのブランチをつくろうというビジョンを掲げています。2019年1月時点で、長野FLAG、沖縄FLAGが設立しました。ブランチ設立にご興味があれば、まずはFLAG公式サイトからお問い合わせください。NPO法人FLAGのビジョンに共感する仲間たちは、すでに各地でチームをつくり始めていますよ。同時にブランチの地域で活躍したいプレイヤー(メンバー)も募集しております。同じビジョンを描く人たちであれば、仲間や戦友はいくらでも増やしていける。その先に、まちの人がハッピーなまちづくりをしていける地域が増えていく未来があるのではないかと思っています。それが2019年以降のNPO法人FLAGが行政と共に手がけていきたい事業です。

東京事務所の前

PROFILE

NPO法人FLAG

時代の求めるライフスタイルを感じとり、迅速かつ柔軟な視点で地域や風土、まちの人々に合ったカルチャーを提供していくまちづくりクルー。まちに関係する誰もが愛着と誇りの持てるシビックプライドをまちの人々と一緒に醸成していく。暮らしたいまちよりも、一歩寄り添い「生まれたいまち」へ向かって。

<PRESS>
米軍ハウス暮らしには、コミュニティづくりのヒントが眠っていた!
“ほしい未来”をつくるためWEBマガジン_2013.03月greenz.jp/2016/02/23/flag_localstandard/

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www.npoflag.com

写真・袴田和彦 編集・文 BAUS編集部

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