セイタロウデザインは、経営コンサルティング・ブランディング・幅広いチャネルのデザイン・アートワークの発表・ラジオパーソナリティーなど、多岐に渡って活躍する山崎晴太郎さんが代表を務めるデザイン事務所。だが、セイタロウデザインは決して山崎さんのワンマンチームではない。プロジェクトの関係者が全員フラットなコミュニケーションを築くチームワークは、クライアントから好評だ。そんなセイタロウデザインは、世の中にどんな価値を提供しているのだろう?
経営のその先をデザインする
2018年11月、セイタロウデザインには、代表兼アートディレクターの山崎さんのもと、プロデューサー、クリエイティブディレクター、コピーライター、4名のデザイナーと、ディレクター、一級建築士が所属する。また、主に建築・インテリアデザインに取り組む「セイタロウデザイン金沢」というグループ会社も存在する。経営コンサルティングをはじめ、企業・サービス・商品という3領域のブランディングを事業の軸に、理念・ビジョン・ネーミング・ロゴ・グラフィック・ウェブ・ムービー・プロダクト・インテリア・建築など幅広いチャネルの設計・デザインを手がけている。このように多くのクリエイティブ領域をまたぐ背景には、クライアントの課題を本質的に解決したいという想いが横たわっていると話す。
山崎さん:例えば、最初のオーダーとしてウェブサイトの制作を依頼された場合に、クライアントはただウェブサイトを作りたいのではなく、ウェブサイトを通して成し遂げたい何かがあるわけです。サービスの訴求という目的ひとつをとっても、ウェブサイトで顧客単価が高まるように育てていくこともできますし、もしかしたらウェブサイトではなくブランドブックを作って顧客の満足度を高めることができるかもしれない。手段は無数にあるので、弊社はクライアントの課題に立ち返り、その解決のための最適な手段を提案したい。だからデザインするのは、アウトプットではなくアウトカム。クライアントの経営のその先に関わっています。
主な契約形態は、リテナー(中長期的なコンサルティング契約)とスポット(制作物毎の単発契約)の併用。どちらの場合もクライアントと複数年に渡ってプロジェクトに取り組むことが多い。深く、そして長く。クライアントと丁寧に関係を築き、成果の飛距離を遠くまで見据えている。
原田剛志さん(コピーライター):長く付き合うことでクライアントの次の課題を予測できます。ソラーレさんとのプロジェクトでは、既存のホテルブランドを整理して、新規ホテルブランドとの住み分けを考えることからブランディングを始めました。
山崎さん:一棟ずつホテルのブランド価値を立てていけばエッジは効きます。でも、宣伝・広告を考えると、コスト過多に陥ってしまう。だから戦略の効率性も踏まえて整理していきました。
その結果、2017年12月に石川県でオープンした「雨庵 金沢」のようにハイブランドなホテルも生まれている。
山崎さん:ホテルの新しい概念として、ホテルが立つ土地のネガティブな要素を魅力に変えていくようなコンセプトを開発しました。「雨庵 金沢」の場合、地域の人々は雨天が多い金沢の日常を暮らしています。その雨天の多さは、地域にあるカフェチェーン店が傘の貸し出しサービスを実施しているほど。雨上がりの金沢には、水に濡れた石畳に反射する陽の光の輝きが人々を迎えるような光景が待っています。そのような日常を暮らす人たちだけが知っている金沢の魅力を観光客に楽しんでもらいたい。それで、“雨庵”と名付けました。
セイタロウデザインの仕事は、「雨庵 金沢」のように、まだ世間一般に知られていない魅力をデザインに落とし込み、気づく機会を産み出していくことだ。
山崎さん:私たちが考えるデザインとは、雨上がりの金沢と宿泊体験を結びつけたように、世の中に確実に存在しているけれど、まだ広まっていない魅力と既に広まっている魅力との境界線上にたゆたうものに、言葉と意匠を与えて概念を産むことなんです。
経営とデザインの架け橋を築く
クライアントとプロジェクトに取り組む際、セイタロウデザインはプロセスを重んじている。主に「思想の設計」「コンセプトとキービジュアルの開発」「クリエイティブワーク」という3ステップを踏む。「思想の設計」とは、クライアントの経営戦略や経営方針をデザイン・コミュニケーションの視点から見定める工程だ。
山崎さん:経営者と長い時間議論を重ね、時には会議室を離れて食事などをともにしながら、ONとOFFのふたつのシーンで経営者の想いを引き出していきます。その時に聞ける想いというのは、非常に概念的なものですが、実はそこに課題や目指すべき方向性の本質が隠れていることがあります。だから、その想いを土台にして、そこから着想した考えを整理し、アイデアとして可視化していきます。その時、もうひとつ大切なこととして挙げられるのは、私たちのようなクリエイターが経営の文脈を把握していること。それが理解できていないと、どれだけ突飛なアイデアを発想できたとしても、中長期的な課題の解決には至らないからです。ビジネスホテルを多く手がけてきたソラーレさんの場合ですと、新社長の就任を機に、「ホテルの概念を変えたい」という想いをうかがったことが、すべてのスタート地点となりました。
経営言語を介して重ねる経営者とのコミュニケーションは、想いを概念として受け取り、そこに本質を見つけ、事業創造に寄せていくことを実現している。ソラーレのプロジェクトには、コピーライターの原田さんも参加した。
原田さん:「思想の設計」という初期段階を受け、その思想をコンセプトとして言語化していくのは、私の役目です。言葉にできていると、そのプロジェクトに向かうメンバー全員が、自分自身のやっていることが当初の思想に沿っているのかどうか判断しやすくなります。
クリエイティブの連携が相乗効果を高める
「思想の設計」と「コンセプトとキービジュアルの開発」の両工程の間で、他メンバーもコミュニケーションの輪に加わっていく。「雨庵 金沢」の場合、セイタロウデザイン金沢代表であり、インテリアデザイナーの宮川さんが同席した。
宮川智志さん(インテリアデザイナー):クライアントの中長期的な経営戦略を理解した上で、なぜ新たにホテルブランドをつくりたいのかというイメージを共有していく工程から参加するので、「どうすれば求める空間をつくることができるのか」というクライアントの想いに、より見合った提案ができます。
従来なら、建築物の構造が決定した後にインテリアデザイナーがアサインされることが少なくないため、構造とコンセプトのバランスを取るようにデザインしていくことしかできない場合が多い。しかしセイタロウデザインは例外だ。プランニング以前の工程から参加して、余すことなく知見をクライアントに共有することが、インテリアデザイン以外の領域でも実現されている。
宮川さん:インテリア以外の領域のメンバーもコンセプトメイキングの段階から参加します。すると、各領域がつながりを保ちながらクリエイティブワークに移っていけて、領域が連携する相乗効果をクライアントに提供できるんです。
各領域を担当するメンバーは、言語コミュニケーションに縛られず、クライアントとの合意形成を図っていく。
宮川さん:インテリアデザインの場合なら、CGのように絵的なものを見てもらいつつ、別途、マテリアルも用意して、素材に採用したい理由を説明していきます。
原田さん:「雨庵 金沢」の場合、ネーミングやコンセプト、客室デザインなどを1枚ずつ企画書に落とし込んでいきました。クライアントと1~2週間に1回の定例ミーティングを設けて、次回までに各領域のメンバーがミーティングを踏まえたアップデートを続けていきます。最終的に「雨庵 金沢」がオープンするまでに1冊の企画書も完成しているような進め方を採りました。
クリエイティブが全力で飛ぶ舞台づくり
セイタロウデザインは、クライアントとのプロジェクトに応じて、最適なチームを編成する。社内クリエイター、外部パートナー、他社プロダクションという分け隔てを超えて、クライアントや広告代理店を含めたプロジェクトの全メンバーがデザインの前でフラットな関係を築き、各領域のクリエイターが自走できる環境づくりに徹している。
山崎さん:デザイン事務所の経営は、クリエイターに最適な環境を整えることが仕事です。基本的に、クリエイティブが全力で飛ぶための舞台をつくるため、クライアントとのコミュニケーションを大事にしてきました。クライアントと想いを共有し、その経営戦略のベクトルを定めていければ、「クリエイティブワーク」を経て、最終確認していただく制作物をひとつかふたつに絞り込むことができます。すると、ひとつの制作物に割く力を大きく高めることにつながります。
小林明日香さん(プロデューサー):クライアントやクリエイターには、中長期的にプロジェクトを進める間、設計した思想に沿って「コンセプトとキービジュアルのデザイン」や「クリエイティブワーク」を続けていってもらいたい。そのためクライアントとも対等なパートナー関係を築いていけるようにプロデュースしています。時間やコストの相談はクリエイティブと切り離して、私が担い、クリエイティブが全力で飛べる環境を整えています。
一般的なクライアントワークでは、クライアントの希望を本質的に把握するという行程がまだまだ疎かになりがち。するとプロジェクトの進行過程で、目標を見誤った着想を得る可能性を残し、ディレクションがクリエイティブの幅を闇雲に広げる方針に舵を切ってしまうことも少なくない。結果、クライアントの最終確認に向けて準備する制作物の種類が複数個に増えてしまい、一点あたりに割く時間や労力が減り、クリエイティブワークで高い質を残しにくくなる。それはクライアントへの貢献性を低下させてしまうことにもつながる。セイタロウデザインの場合は、そんなリスクを避けて、クライアントの本質的な課題解決に向けて最大限のクリエイティブに取り組むため、「クリエイティブワーク」の前段にある「思想の設計」や、プロジェクトのプロデュースに力を入れている。
時を超えて残る美しさを求めて
ここまで見てきたようなプロセスを経てプロジェクトに臨んできた結果、セイタロウデザインのクリエイティブワークは数々の評判と実績を積み上げてきた。中には、「山崎晴太郎さんの作品として世に出せるプロダクトにしてほしい」という、クリエイターにとってこれ以上ない依頼が届くこともある。
山崎さん:基本的には、「思想の設計」「コンセプトとキービジュアルのデザイン」「クリエイティブワーク」という各工程のどれか一部分だけに関わるような依頼は少なくなってきています。ただ、「AQUA FAB」の場合は、クライアントが「ご自身の作品として世に出せるプロダクトを」と“信じてくれていた”から引き受けました。
山崎さんによる「AQUA FAB」紹介ムービー
クライアントの思想を信じ、クリエイティブワークを信じてもらうーー。人と人としてクライアントに向き合い、クライアントの想いに応えることができるかどうかを確かめて、セイタロウデザインはプロジェクトへの参加を決めている。そして、プロジェクトに参加する領域を、これからもっと広げていきたいと思っている。
山崎さん:歴史を紐解くと、美容やアパレルのような富裕層に向けた産業が意匠性で差別化を図ることによりデザインを成長させてきたことに気がつきます。けれど、これまでデザインの力を使わずに成長してきた産業はまだまだたくさんあって、そこにデザインが持つコミュニケーションを促進する力が働いたらどれだけ社会が円滑になっていくのだろうと、思うんです。
セイタロウデザインを牽引してきた山崎さんが、新しい領域にデザインを渡していきたい理由も教えてもらった。
山崎さん:それはやはり…これから先の社会をもっと美しくしていきたいからです。広告のような短期的なプロジェクトはもちろんですが、時代を超える美しさを残す取り組みにもっとたずさわっていきたい。広告・プロダクトデザイン・建築など、クリエイティブワークの領域が変わっても、人間が美しさを感じ取ることには何らかの共通性があって、それを探しながら、これからも人に美しさを残していく仕事を続けていきます。
<Recruit Information>
セイタロウデザインでは企画からコンセプトの設計、デザインまで幅広く関わりたい、という意欲のあるクリエイターを募集しています。
募集内容については下記よりご確認ください。
セイタロウデザイン採用ページ
>>https://seitaro-design.com/company/recruit/