アニメ、TV、映画など、あらゆるジャンルのCG映像制作のディレクション、プロデュースまでを手掛けるクリエイティブカンパニー、MORIE Inc.。近年ではNHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』オープニング映像の制作ディレクションや、日清カップヌードルの『HUNGRY DAYS』シリーズなど多くの話題作に携わってます。同社は高い制作技術とディレクション・演出力を活かし、あらゆるジャンルの作品を生み出してきました。その背景には「CGクリエイティブの領域を広げていきたい」という代表・森江康太さんの思いがありました。
国内外で高い評価を生み出す作品はどのように生まれてきたのでしょうか? 「ディレクション」の重要性、クリエイティブを最大化する組織の作り方など、MORIE Inc.の制作体制にフォーカスして話を聞きました。
ミニチュアの世界はどのようにして動き出した? 『ひよっこ』タイトルバック制作秘話
ーー昨年話題を呼んだNHK朝の連続テレビ小説『ひよっこ』。MORIE Inc.で制作ディレクションを行ったタイトルバックの映像は、美術家の奈良美智さんも「愛を感じる」とツイートし、Twitterでも話題となっていました。ミニチュア写真家の田中達也さんとのコラボレーションによる作品ですが、どのように生まれたのでしょうか?
『ひよっこ』の映像は初めて田中さんと組んで制作した仕事でした。田中さんの作品の魅力は、身近な小道具などを風景に見立てて作り込む作品のディティールにあります。普段は静止画である彼の作風を、映像の中でいかに魅力的に見せるかを考えながら、3DCGを用いたモーション実制作、演出のディレクションをしていました。
ーーどこからどこまでがCGによるものなのか、一見しただけではわかりませんでした。
今回は田中さんの描いた豊潤な世界を壊さないよう、CGを使っていることに気づかれないくらいの表現が正解だと思ったんです。実は企画をいただいた段階では、ミニチュアキャラクターの視点からの主観的なカットや、大胆なカメラモーションが想定されていたのですが、あくまで俯瞰からの視点で、ミニチュアの世界を覗き込むような演出を提案しました。
ーー先日放送された、続編『ひよっこ2』のタイトルバックも制作されたそうですね。
3月25〜28日に放送された『ひよっこ2』はドラマ放映時の二年後という設定なので、タイトルバックにも時代の変化を反映させたものを作ろうというお話をいただきました。
例えば、『ひよっこ』のタイトルバックでは団地に見立てたそろばんが計算機に置き換えられていたり、1人だった女の子のキャラクターも結婚して、夫婦2人で登場しているんですよ。細かい部分ですが、ドラマのストーリーに沿った演出をしているので、ファンの方はすぐに気づいてくれると思います。間違い探しのようにも楽しんでもらえたら嬉しいですね。
『ひよっこ2』新タイトルバック!主題歌・桑田佳祐「若い広場」
舞台設定は1970年の秋。前年に実現した月面着陸や翌々年のジャイアントパンダ来園などの史実が映像に反映されている。
https://www.youtube.com/watch?v=yhJk6R-hQcA
閉じたCG業界を変えるためには、技術を翻訳するディレクターが不可欠
ーー森江さん自身は3DCGクリエイターでもありますが、肩書きは「ディレクター」とされてますよね。『ひよっこ』での仕事も、映像全体のディレクションを行った一例かと思います。なぜ「ディレクション」を重要視しているのでしょうか?
これは他の業界の方と働いていて痛感するのですが、CGは技術的に複雑なこともあり、具体的な制作内容がブラックボックスになってしまいがちです。写真や映像ならば、ある程度制作過程が想像できると思いますが、CG制作は知らない人にはおそらく魔法のように見えていると思います。なんで消せるの?なんでこんなにリアルに動いてるの?と。また、CG業界は業界の性質上、閉鎖的になりがちです。職人気質な人が多いこともありますが、他業種の方と垣根を越えて交わることが難しい立ち位置でもありました。それでもこれまではやってこれたのですが、これからの時代は、その垣根を越えて来てくれるCGクリエイターが求められると感じています。更に言えば、CGクリエイター以上に、CG業界出身の映像ディレクターの存在が重要だと思っているんです。
ーー閉じた業界にいてはいけないと。
それが一概に悪いとは全く思っていなくて、むしろ閉じた業界だからこそ職人的な技術研鑽が発展してきたという背景もあります。しかし、最近は映像にCGが求められる機会がすごく増えてきていますよね。需要が高まっている中で求められる存在は、「頼りになるCG屋さん」だと思います。そういう存在が増えれば、結果的にCG業界にとってもプラスになるはずです。ただ、そのためにはクライアントや代理店、監督に対して、演出と技術の双方から説得力のある発言が出来ないといけないですし、総括的にプロジェクトを進めていく経験値が必要になります。そのためにまずは、ディレクターを経験しておくことは必須項目でした。ディレクター経験があるか無いかで、他業種の方からの評価は大きく変わってきます。
ーー技術を言葉にして伝え、間に立つ人がいないとタコツボ化していく。それはあらゆる業界に通じる話ですね。
仕事の領域を広げるという点でももちろんですが、同時に、制作をスムーズに進めるためにもディレクションは重要なんですよ。例えば日清カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」のシリーズは、アニメプロダクションのタツノコプロさんと制作したのですが、この映像はCGとアニメーションを組み合わせてつくられています。
例えばアニメでは簡単に修正できるところがCGでは技術的に難しいということもありますし、その逆ももちろんあります。ディレクションをする人間がその線引きをわかっていないと、どういった方法で修正をするのがベストかという判断は難しいでしょうし、結果、制作もスムーズに進まなくなります。技術を駆使する左脳的要素と、演出を理解する右脳的要素はどちらも兼ね備えておくべきだと感じます。「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」の時は、これら両輪を上手く操作して最終的なアウトプットまで持っていけるCGクリエイターとして、まずは立ち回ってみようと思いました。
また、こうした大きなプロジェクトの中で自分達の発言力を高めるためには、制作の上流に入っていく必要があるとも感じました。広告業界には優秀なプランナー、ディレクターの方が多くいらっしゃるので、そういった方々の経験や知識を自分たちのフィールドに持ってこれたら、仕事の幅はより広がっていくと感じています。
CGクリエイターとしてではなく、映像作家としての活動も広げていきたい
ーーディレクターの必要性や、組織の話など、森江さんはCG業界やチームといった幅広い視点からチャレンジしているように感じます。MORIE Inc.を立ち上げたのも、そうした業界への問題意識が働いてのことでしょうか?
いや、会社の立ち上げに関してはほとんど成り行きでしたね(笑)。前職からの退職を決めたとき、創業時のメンバーが一緒にやりたいと言ってくれたので、結果的に独立という形を取りました。
そのメンバーというのが、阿吽の呼吸で仕事ができるかなり成熟したチームだったので、これを解散するのはもったいないと思っていたのですが、結果、一緒に出来ることになり今に至ります。
CG映像制作って一つの映像作品をつくるのに、必要な技術者と作業量がすごく多いんですよ。それぞれのスタッフの持ち味を組み合わせながら一つの映像作品を作っていく。フリーランスの方でもスペシャリストの方は大勢いますが、僕は映像制作のクオリティを高い水準で実現していくためには成熟したチームで作ることが必須だと感じています。あと単純に、チームでものづくりをするほうが楽しいし、好きなんですよ。
僕個人の力で業界を変えていくことは難しいですが、一緒に働いているメンバーや、同じ業界で働くライバル達とリスペクトし合いながら切磋琢磨できる環境があれば、業界を変えることも難しくないという思いはありますね。小さい頃から「CGがやりたい!」という想いがあって、CGアニメーター、ディレクター、経営者と気づいたら色んなことをするようになってしまいました。一つ言えるのは、この業界に僕は育ててもらえたし、尊敬できる人にもたくさん出会えました。小さい頃はCGの話なんかしても誰も食いついてくれませんでしたが、今はCG好きが周りに沢山います。そんな人たちに囲まれている今の状況が楽しくてしょうがないですし、この業界にいる人たちのことが好きなんですよね。
ーー最後に森江さんが今後どんな仕事をしていくのか展望を伺えますでしょうか。
広告×CGでおもしろい作品を生み出していきたいですね。これまでCGプロダクションは制作の下流から加わることも多かったのですが、そこを飛び越えてCGクリエイターが映像のイニシアティブを握っていけるような働き方が出来ればもっと楽しくなると思います。
また一方で、CGは表現を実現するための、数ある手段の中の一つにすぎないと思っています。CGが使われているかどうかと、映像作品の良し悪しは関係ありません。そういう意味で、一人の映像監督として、CGを全く使わない作品でどれだけのディレクションが出来るのか試してみたいです。小学生の頃、最初に書いた将来の夢が「映画監督」でした。いつかこれを実現させたいと思います。
MORIE WORKS
日本橋高島屋S.C. グランドオープニングムービー|2019.03
「ひよっこ」同様、ミニチュア写真家の田中達也さんとのコラボレーションにより制作された「日本橋高島屋S.C. グランドオープニングムービー」。2019年3月にグランドオープンを迎えた日本橋高島屋S.C.と、春の日本橋の街が表現されている。高島屋のアイコンであるバラをモチーフに桜を表現するなどの演出面でも、MORIE Inc.は貢献している。
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション|2017.12
漫画家・浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」のファンムービー。MORIE Inc.がディレクションから制作を担当し、原作の世界観を再現した。
CREDIT
CG Director(Interviwee):Kota Morie(MORIE Inc.)
Editor / Writer :Naoki Takahashi
Photographer :Asami Minami, rakuda
Interviewer :Naoki Takahashi
Producer / Account Executive:Yuki Yoshida (BAUS)
Director :Koujirou Ichimura (BAUS)
Special Thanks:Yosuke Ohno(MORIE Inc.)
PROFILE
MORIE Inc.
森江さんが2016年に設立した、CM、アニメ、TV、映画など、あらゆるジャンルのCG映像制作をディレクションからプロデュースまで手掛けるクリエイティブカンパニー。