MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

ブレイクスルー・クレジットストーリー
#02|中村勇吾(tha)

クレジットの拡張

「クレジットは財産だ」をステートメントに“クリエイターのためのクレジットデータベースサービス”としてリニューアルしたBAUS。リニューアルに合わせて、これまでオープンに議論される機会が少なかった、クレジットが持つ可能性について業界の様々な人に意見を訊いていく企画「ブレイクスルー・クレジットストーリー」がスタート。第二回目では、tha代表の中村勇吾さんにお話を伺いました。

「何もしない仕事」に新しい肩書きをつくりたい

ーーthaのWEBサイトのクレジットでは社外のクリエイターへのリンクを掲載されていたり、作り手へのリスペクトが感じられます。クレジットの表記に関して、なにか会社としての方針があるのでしょうか?

意識的に力を入れてるわけではないですね。ただ、thaはメンバーがいつか独立する前提の組織なので、いつか離れる社員にとっても名前が出ることは大事なんですよ。クレジットは仕事に直接関わった担当者が書いているのですが、納品した後、実績を公開するまでが仕事だとは伝えていますね。

tha クリエイティブディレクター 中村勇吾さん

ーー中村さん自身もクリエイティブディレクター、デザイナーなど複数の肩書きがありますが、表記の基準はありますか?

それはまだ答えが出ていないところで試行錯誤しているんです。thaは、メンバー全員がクリエイティブの全体と細部を担当している場合が少なくないんですよ。デザインの作業の中で出てきたアイデアが仕事のコアになることもありますし。本当に実情に沿って書こうと思うと、【CD・デザイン・コーディング】のように全員の表記が全く同じものになってしまうんです(笑)。

まずスタッフの名前があって、役割を連ねていくという形の方が実情に合うんですよね。情報としてはうまく機能しないので、ちょっともやっとしながらも「どっちかっていうとディレクターだよね」と合意した上で記載しています。「デザインも入れといたら?」とか。

もう一つ悩みどころなのが、役割をうまく表す言葉がない場合。例えばプロジェクトのきっかけを作った人はクリエイティブディレクターと表記される場合も多いのですが、もっと解像度を上げて名前をつけてあげた方がいいと思うんですよね。実作業をしていなくても広い意味でのクリエイティビティを発揮してプロジェクトに貢献している人って少なくない。の価値観として、手を動かして作っている人が偉いという考えはありますが、「なんとなくそこにいるだけっぽいけど、実はこの仕事自体を生み出した人」のおかげで仕事が成り立っている側面もあるんですよね。

 

ーー現状、どのような表記をしているのでしょうか?

僕自身、そういう立場にいた場合は並び順で表現していますね。映画のエンドロールでも最後の方に名前の出る方っているじゃないですか。それにならって最後に名前をいれてもらい、ふわっと感を出したり。先頭にいると図々しさが出るじゃないですか。「あれおれがやったんだぜ感」というか(笑)。こういう役割の人は大抵年長者になるので、スタッフが持ち上げて前に出てしまうんですが、そういうおじさんにも座りのいいクレジットをつくりたいですよね。

90年代に活躍した「アレステッド デべロップメント(Arrested Development)」というHIPHOPグループがいるんですが、その中に何もしないでステージをうろついているババ・オジェ(Baba Oje)というおじいさんがいて。クレジットを見ると「スピリチュアル・アドバイザー」と書いてある(笑)。 そういうのは良いなと思いますね。

僕も歳をとってきて、クリエイティブディレクターとしてあまり手を動かさない役でプロジェクトに参加している場合もあるのですが、その時は「監修」や「Supervisor」と表記してもらうことが多いですね。名と実があっていると座りがいいんですよね。

NHK教育番組「デザインあ」のクレジット。中村さんはSupervisorを担当している。(画像引用元:http://tha.jp/2089

現在のフォーマットは時代に合っていない? 人を軸にしたクレジットの可能性

ーー中村さんが最初にクレジットを意識したのはいつですか?

中学生の時、プリンス(Prince)のアルバムを手にしてからですね。作詞・作曲・プロデュース、ほとんど全ての楽器の演奏彼一人の名前がずらっと並んでいて「これはどういうことだ?」ってマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)もですが、一人で楽曲のほとんど全てをやっているアーティストがおもしろかったんですよ。それが段々、「ベースにこの人が入っているとこういう音になるんだな」とか、クレジットを参照しながら音楽を聴いて印象を定着させていくようになりましたね。

するとビートルズのようなバンドでも楽曲の聞き方が変わるんですよ。この曲はジョン・レノン(John Lennon)が作曲だろうなと想像したり、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)だとメジャー感あるな、というように個人の色が出ていることがわかる。メンバーがソロでやってる楽曲を聴いて、この人はこんな事をしたかったんだとか。ただ音楽を聴くだけでは見えないものが見えてくるようになりました。

例えば映画監督の庵野秀明さんはタイトルの字だったり、細かい編集だったり、一つの作品の中でいろんな場所に顔を出すんですよ。「監督」だけ職域が広すぎて想像しにくいですけど、どの作業にこだわったのかがわかるので、そこに作家性が見えますよね。

 

ーー仕事を依頼する際、中村さんはクリエイターの仕事のどのような点をチェックしているのでしょうか?

僕はその人が関わっている仕事を、横断的に見ています。デザイン会社や、クリエイティブチームのクレジットを細かく見比べて、この組み合わせでの仕事が多いから、この人はこういう役回りなんだろうな、とか。

肩書きや役職って、一つだけでは正確に伝えられないんですよ。「クリエイティブディレクター」と書いてあっても、どんな仕事をしているのか想像がつかないじゃないですか。担当領域が広いことに加えて、仕事の仕方にも個人差もあって、細部まで関わって自ら手を動かす人もいれば、スタッフに仕事を振ってクオリティコントロールだけに注力するタイプの人もいるんですよ。

 

ーーそうした違いは名前の並びからは想像がつかない部分も確かにありますね。

現在のクレジットはプロジェクトを軸にして役割と名前、所属する企業のみを表記するのが一般的なルールとして運用されてますが、分業がしっかりした仕事にしかフィットしないんですよ。読む側としては、本当はどんな働きをしているかを知りたいはずなんですが。

なので個人の仕事を横断的に見れるクレジットのデータベースがあれば、それは価値がありますよね。それこそ僕のようないろんな会社のクレジットをチェックしている人間にとっては、すごく便利ですしありがたいですね。

 

ーーBAUSの新しいサービスでも、そうしたクレジットの拡張を目指しています。

情報の追加やインターフェイスの改善によって「クレジット」の持つ機能はもっと拡張していけると思いますよ。例えば、プロジェクトのコアとなったスタッフのフォントのサイズや色を変えてプロジェクトの貢献度を可視化するとか。そんな些細なことでも、情報の捉え方は変わるのではないかと思います。

現在は客観的な事実に基づいた情報が並んでいますけど、そのプロジェクト内のメンバーでそれぞれの評価や感想をコメントし合う場所になっても面白いかもしれませんよね。そこからコミュニケーションにつながるような仕組みがあってもいいと思いますし。クレジットは関係者や同業者以外には読み飛ばされるものですが、プロジェクトの見え方に奥行きが出せれば、もっと多くの人の目に触れるかもしれないですね。

「新しい才能に出会い続けていたい」中村勇吾はクリエイターの何を見ているのか?

ーーthaではどうやってチームのスタッフィングを決めているんですか?

僕は少人数志向なので、まずはどうやったら自分達だけでできるかを考えます。必要なスキルも勉強すれば実現できると思えばそうしますし、特定の分野のスペシャリストが必要であれば、アサインをします。最初は1,2名でイメージして、現実化していく段階で膨らんでいく。

 

ーーチームビルディングから仕事を設計する人もいますが、そうではないのですね。

そうですね。なので外部のクリエイターに協力してもらいたい時はかなり具体的なイメージを持って探し始めます。こういうモーションを作った人ならこういう技術があるな、この感じが欲しいなとか、その人の作品から推理して探していきますね。基本的には過去の仕事を見て、初めての人でも直接アタックしますね。

 

ーー中村さんがどんな基準でクリエイターを探しているのか、気になります。

まだ実力があまり知れ渡っていない人に声をかけるのは好きですね。初めてのチームだったり、新しいことに挑戦する場合、フレッシュでいい仕事になることが多いんですよ。自分自身もそうで、今までやったことのないものにチャレンジしたプロジェクトは後から振り返ってもいい仕事になっている。イラストレーターにアニメーション、スチールのカメラマンに映像の撮影というように、普段やってるものとは微妙に違う仕事をお願いすることで生まれるものは確実にありますね。

それに売れっ子になってしまうと、お願いするの悪いなって遠慮しちゃうんですよね。 何回も一緒にやってると断りにくいだろうし。なので初めての人は、Twitterをチェックしたりして、声の掛け方からかなり作戦を練ってますよ。

 

ーーそこまで見ているんですね(笑)。

Twitterはネットに公開されている履歴書みたいなものなので、もちろんチェックしますよ。過去の投稿をみて、この人はこういうモチベーションで仕事をしているから、この仕事が合うなとか。あまりに調べてすぎて、会ってもいないのに好きになるストーカーの心理が働くんですよ。あの時にこんなことしたいってつぶやいてたこと、ここでやってくださいよ、みたいな。完全に脳内妄想なので、本人には絶対話しませんが(笑)。

ーー中村さんがそうやって新しい才能を探しているというのは、若いクリエイターにとってとても希望のある話だと思います。

自分が最初に声をかけた、ということに小さな満足感を覚えるんですよね。の審査員をさせていただく時も、目立たなくともすごく良い仕事をしている人が沢山います。推薦して賞の結果には繋がらなくても、名前は絶対メモしてますね。

ちゃんと能力がある人が知られていないのは寂しいですよね。「こんなすごい人が居るぞ!」という驚きをみんなに伝えたい気持ちはずっとあります。そうやって新しい才能に驚かされながら、自分自身がチャレンジすることを忘れずに仕事をつくっていきたいですね。

 



CREDIT
Editor/Writer:Naoki Takahashi
Photographer:Yutaro Tagawa
interviewer:Naoki Takahashi, Koujirou Ichimura (BAUS), Akiou Kato (BAUS)
Interviewee:Yugo Nakamura (tha)
Director:Koujirou Ichimura (BAUS)
Special Thanks:Yoko Shiga (tha)

 

関連記事

  1. 『でも、ふりかえれば甘ったるく』をふりかえれば甘ったるく? —エヒラナナエ

    READ MORE
  2. 工場音楽レーベルが実践する、「メッセージの紡ぎ方、届け方」【後編】

    READ MORE
  3. 「Rethink Creator PROJECT」が描く、持続可能な地方活性化の未来

    READ MORE