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印刷の可能性はどう広がっていく? 紙起点のコミュニケーションを設計する、プリンティングコーディネーターの仕事

株式会社レーエ

デジタル表現が標準化した現在、プリンティングメディアの役割が改めて問われています。そんな時代の変化を受け、「デザイナーのための印刷会社」からリブランディングを行った会社があります。創業23年、台東区にオフィスを構える株式会社レーエ。 「Printing Solution Company」というビジョンを掲げ、チャレンジングなものづくりへの姿勢を持った日本各地の企業や職人とパートナーシップを結び、高いクオリティのプロダクトを生み出し、クライアントのブランディングに貢献する。この立場をより明確にするため、印刷のプロフェッショナルである「プリンティングコーディネーター」という新しい肩書きを生み出し、顧客に寄り添ったディレクションを行う。そうしたあり方が強い支持を受け、レーエの仕事の幅はますます広がっています。 プリンティングコーディネーターとはどのような仕事なのか? そして、その背景にはどのような考えがあるのか? これまで手がけたWORKSを振り返りながら、同社のプリンティングコーディネーター 松下豊さんと中川裕太さんに、今後のレーエが目指す「Printing Solution Company」としてのあり方について、展望を伺いました。

印刷を通じたブランディングを提供する「Printing Solution Company」レーエ

ーーレーエは、自社に生産設備を持っていないと伺いました。印刷業界の中では珍しい形態の企業だと思いますが、具体的にはどんなお仕事をされているのでしょうか?

松下さん:レーエは印刷会社ではなく、印刷物にまつわるソリューションやクライアントのブランディングに貢献する会社と説明してます。印刷、製本、箔押しなど、印刷物はさまざまな技術によって生み出されるのですが、質の高いプロダクトを生み出すためにあらゆる企業と連携し、一連の工程のディレクションを行っています。

 

ーー2018年、企業としてのビジョンを明確にするリブランディングを行ったと伺いましたが、具体的にどのような変更があったのですか?

松下さん:これまでは「デザイナーのための印刷会社」として、自社を位置付けていたのですが、より広い顧客層に寄り添った企業であるために「Printing Solution company」という表現に変更しました。というのも、出版や広告など、限定したお取引先と仕事をするという形が業界としても一般的だったのですが、ネット印刷などの普及により、段々とお客さまの幅が広がってきてました。中には印刷物を制作するのが初めてというクライアントも少なくない。そうしたお客さまに目線を合わせていくために、「プリンティングコーディネーター」という肩書きをつくり、より広い視点からディレクションができるようリブランディングを行いました。

株式会社レーエ プリンティングコーディネーター 松下豊さん

ーー「プリンティングコーディネーター」とは初めて聞く職業です。どのような仕事でしょうか?

中川さん:基本的には、これまで通りクライアントから要件を伺い、印刷にまつわるディレクションを行うというものです。それこそ「プリンティングディレクター」と呼ばれる肩書きもあったのですが、技術的なディレクションをするという意味合いが強いものでした。なので、もう少しクライアントに寄り添った立場であることを明確にするため、肩書きを変更したんです。職能や業態の変更ではなく、マインドを変えていくという私たちの意思表示と言ってもいいかもしれません。

 

ーー印刷物に求められる役割の変化や、クライアントの幅が広がる中、印刷に対する間口を広げたいということですね。

中川さん:そうですね。私は印刷会社のコーディネーターはクライアントからの話を聞くだけでなく、うまく質問を投げかけられるような存在であるべきだと考えているんです。「こういう印刷技法はいかがですか?こういうを使ってみたらどうですか?」という風に。どういうものをつくりたいのか、漠然としたイメージしかない状態でも相談してもらえるような、理想のものを生み出すことができるパートナー。そうした思いを「コーディネート」という言葉に込めています。お互いが 受発注の関係ではなく、同じ方向を向いてものづくりに寄り添っていく感じですね。例えば、以前つくったのが、この箱です。

クリエイティブカンパニー「PANORAMA」からの依頼により制作した贈答用のボックス。

ーー紙や冊子だけでなく、箱もつくれるのですね。

中川さん:印刷物ということであれば形態は問いませんよ。過去には木箱やアクリルのボックスなどにもチャレンジさせてもらっています。これはクライアントのPANORAMAさんがお中元を送るために制作したボックスなんですが、彼らは当初贈答用にサンダルを包むためのキラキラっとした箱をつくりたいというイメージだけを持っていた。では、それをどのように実現したらいいかというコーディネートから生産までを担当させていただきました。

 

ーー具体的にはどのようなコーディネートをしたのでしょうか?

中川さん:まずは何パターンか箱のサンプルをつくって、完成品のイメージを擦り合わせていくところからでしたね。今回は靴箱(N式)のような形状に決まり、手作業せずに抜き加工だけで作成しました。この工法は形に制限はありますが、短納期でコストがかからず個体差が少ないというメリットがあります中には銀色の緩衝材を詰めたいと考えていたのですが、実際にシュレッダーで刻んでつくってみたら綺麗に膨らまず、また、コストもかかる。一緒に試行錯誤して、最終的には銀色の包装紙を巻いて、より贈り物らしい佇まいを演出してはどうかと提案をしました。

株式会社レーエ プリンティングコーディネーター 中川裕太さん

ーー過去に経験のない作り方をされたんですね。

中川さん:銀色の緩衝材というのはこれまでなかったものですから、自然と作り方から考えることになりましたね。難しいとわかったので、経験値は溜まりました(笑)。こうした実験的なことに挑ませてもらったこともあり、個人的にはかなり思い入れの強いプロジェクトになりました

 

ーー難しい相談に応える中で、良い関係性が生まれていったと。こうした通常の印刷物ではないような依頼が多いのでしょうか?

中川さん:印刷物の経験値が少ないWEB系のデザイナーさんが増えていて、それに伴ってチャレンジングな仕様は増えてますね。この他にもデニム生地にプリントしたいという依頼や、コーヒーの瓶に貼るラベルのシールをつくりたいというお話をいただいてます。

松下さん:もともとレーエでは多様なジャンル、テイストの印刷を担当していたんです。ですが、私たちの持つ技術の幅をうまく伝えてこれていなかったのかもしれません。リブランディングを機に、ウェブサイトをリニューアルし、私たちの考えを強く打ち出したことで、ありがたいことに期待値も高い依頼が増えてきていますね。

工業用のミシンで一冊一冊を手縫い。雑誌『Subsequence』に込められた技術とこだわり

ーー最近ではキュビズムの発行する『Subsequence』という雑誌の印刷を担当されていましたね。これはどのようにプロジェクトがスタートしたのでしょうか?

松下さん:『Subsequence』はかねてよりお付き合いのあったアートディレクターの仁木順平さんからの依頼で、印刷、製本のディレクションを担当しました。仁木さんの中でアウトプットのイメージが固まっていたのですが、印刷、製本の工程で技術的に実現が難しい部分があったので、当社が印刷のディレクションを取り仕切りました。

ーー技術的に難しいというのは、どういった部分でしょうか?

松下さん:依頼元のキュビズムという会社はvisvimというアパレルブランドを展開しているんですが、とにかくものづくりへの熱量が凄いんですよ。その姿勢を示す象徴的なプロダクトということもあり、この冊子も細部へかなりこだわっていて。まず、製本に使用する糸を先方から支給されたんですよ。天然染料による染色が施されたオリジナルのミシン糸なのですが、こちらを使用して欲しいと。また、この厚さの冊子は普通の中ミシン綴じの製本機では難しいので、工業用ミシンで1部ずつ縫って、中綴じの製本を行っているんですね。

 

ーーこの、赤い糸を使いたいと指定があったんですね。

『Subsequence』のセンターページ。クライアントの希望を高い技術力で実現した

松下さん:この厚さで中ミシン綴じをすると、ページが膨らんでレイアウトがずれていってしまうんですよ。もちろんそのズレ具合は最初に計算してたんですけど、普通の製本ではありえないような条件なので、ミリ単位での調整を何度も繰り返しながら精度を上げていきました。また、中ミシン綴じでは、全部のページのデータが揃っていないと試し刷りをすることが出来ないので、スケジュール的にもシビアな中で高いクオリティの印刷を行うのは、簡単ではありませんでした。(※一般的な製本方法では16ページを一単位として試し刷りを行う)

 

ーー細部へのこだわりが凄いですね。印刷や製本などの依頼先はどのように決めているのでしょうか?

松下さん:この仕事をいただいた時、改めてvisvimというブランドのことを調べて、相当大変な仕事だと覚悟しました。今回に関しては篠原紙工さんしかできる企業がないだろうと、すぐにお話を持ち掛けましたね。篠原さんは技術力もすごく高いですし、企業としても様々なチャレンジをされていて、当社の考え方ともかなりマッチしているので。

また、アパレルの企業とだけあって色へのこだわりが強く、印刷についてもかなり高いハードルがありました。ブランドの世界観を表現するために、ファインペーパーではなくあえてラフな質感の紙を使っているので、色を再現するのが難しいんですよ。カメラマンさんもこの色見せたいというイメージを明確に持っていたので、時間がない中、ほぼ全てのページの色修正をしましたこうした紙ではビビットな色を出すのが難しく沈んでぼんやりした印象になってしまいがちなのですが、かなり綺麗に発色していると思います。レーエのレタッチャーが印刷に立会い、厳しいクオリティチェックを行いました。依頼した印刷会社は高度な技術を持った職人さんを抱える企業なのですが、ものづくりに対する姿勢はキュビズムさんにも通じるものがあります。

 

ーークオリティだけでなく、その背景にあるものづくりの思想が一致しているということですね。技術的な理解だけでなく、そうした視点からのディレクションが出来るというのはレーエの強みですね。

松下さん:レタッチやデザインの部分は当社にもプロフェッショナルなスタッフがいるのですが、替えの効かない技術を持ってものづくりを行う職人さんが、この業界にはいるんですよね。もちろん、企業と企業の取引にはなりますが、こうした高い技術は個々の職人さんに依存している部分もあるので、指名で依頼することもあります。

 

ーーどんな技術を持っているのかを知っていなければいけないし、信頼関係があってこそできる仕事だと思います。それ相応にコストも高くなるのではないですか?

松下さん:もちろん、クオリティを追求すればそれなりの予算は必要になりますが、コストも含めてディレクションをしていくのが当社の方針です。クオリティを考えたら決して高くないとは思いますよ。反対に限られた予算の中で最高のアウトプットを目指していくということも、もちろんあります。様々な意向や条件に合うよう、数多くの選択肢を提示してあげるというのが私たちの仕事の本分ですね。

変われなけば衰退していくだけ。レーエが考える印刷業のこれから

ーーそのようなクライアント層の広がりに伴い、印刷業界に求められるものも変わってきていると想像します。その変化の真っ只中にあって、レーエは印刷業界の変化をどのように受け止めていますか?

松下さん:印刷業界って、僕の若い頃はいわゆる「職人の世界」だったんですよ。でもネット印刷のようにオートメーションが進んだり、出版不況が続くなかで変化をせざるを得ない状態にあります。多くの企業は旧態依然としたままですが、自社のプロダクトをつくったり、新しいことにチャレンジする企業は確実に増えていっている印象です。それこそ篠原紙工さんは製本という最終の工程でありながら、積極的に新しい機械を導入したり面白い試みをされている。女性のスタッフが増えてきているともおっしゃっていたのですが、それも職人色の強い今までは考えられなかったことです。印刷業界全体としては右肩下がりかもしれませんが、私としては全く悲観していませんね。

ーー多くの企業さんと一緒に仕事をしている松下さんが仰ると、説得力があります。

松下さん:私は現場を一番知っている目利きになりたいと思ってるんですよね。僕はスタッフにも現場をなるべく見るように言っています。作業場が綺麗になっているか、適切な動線が確保されているか、どんな機械を導入しているか。そして、どんな技術を持っているか。いい仕事をする企業さんは、仕事場を見ればわかるんですよね。そして、そこには製造業の全てがあるんですよ。数字を見て不況と言われても、現場にはこれだけ質の高いものづくりをしている人たちがいる。経営陣が代替わりしたり、若い社長が就任したりして、これから新たなチャレンジに乗り出そうとしている企業もあるので、彼らと一緒に刺激し合いながらやっていきたいと思っています。

 

ーー最後に、お二人が今後どのような仕事をしていきたいと考えているのかを伺えますか?

松下さん:レーエとしては、印刷に限らず、おもしろいことをやっている人の受け皿になりたいと思っています。パノラマさんとの事例のように、既成概念にとらわれない人たちと仕事をすることで、これまでになかったおもしろいものがつくれる。そのためには、どんな依頼にもなるべくNOとは言わないようにしています。まずは相談をしてもらえる存在になることが大事ですから。一度やったことは「出来ること」になって私たちの技術も広がっていくので、初めてのことにもどんどんチャレンジしていきたいですね。新しいことも、高いクオリティを求めることも全てそれをお客さんと予算あってのことなので、広い視点から提案できるような体制を、パートナーの会社さんとともに作っていきたいと思います。

中川さん:僕はクライアントとの受託の関係ではなく、チームとして一緒につくっていけるような仕事を一つでも多く生み出していきたいです。難しければ難しいほど、期待されれば期待されるほど、お互いにそのプロジェクトに対する思いが強くなり、それに比例して質も上がっていくはずですから。そのためには「プリンティングコーディネーター」という肩書きに込めた想いと同様、距離感が大事なんだと思います。なので、間違ってもいいから勇気を持って踏み込んだ提案をしていきたいですね。

 

ーー厳しいボールだからこそ、答えていくことに意義を感じると。

松下さん:印刷は受注産業ではありますが、どんどん提案をしていきたいですね。中川の言う通り、そういう部分に期待してもらっていると思うので。特にクライアントにはお節介なぐらいコミュニケーションを取っていきますし、印刷の事を不安と思う方には、しっかりと最後までサポートしていきますよ。今後は自分の考えを伝えていくことに印刷会社としての価値が出てくるだろうなと思います。

 



Recruit Information
レーエでは、プリンティングコーディネーターを募集しております。募集内容については下記よりご確認ください。

レーエ採用ページ
>>https://ree.co.jp/recruit.html

 



CREDIT

<re-e>
Printing Cordinator(Interviwee):Yutaka Matsushita(re-e co., ltd.) , Yuta Nakagawa(re-e co., ltd.)
Branding Advisor:Tomohiro togawa(TUESDAY)
<BAUS>
Editor / Writer :Naoki Takahashi
Photographer :Shunsuke Imai
Interviewer :Naoki Takahashi
Producer / Account Executive:Yuki Yoshida (BAUS)
Director :Koujirou Ichimura (BAUS)

 

PROFILE

株式会社レーエ

「印刷のチカラで、お客様のブランディングに貢献します」をコピーに掲げるプリンティングソリューションカンパニー。良い品質の印刷を仕上げるだけでなく、どのような仕様が最適なのか、なぜその印刷方法や加工が必要なのかなど、顧客が進めているブランディングのコンセプトを共有することによって、最適なプリンティングソリューションを提供している。

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