MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

ブレイクスルー・クレジットストーリー
#03 |水口哲也(エンハンス)

最高の体験をつくるためのチームのあり方

「クレジットは財産だ」をステートメントに“クリエイターのためのクレジットデータベースサービス”としてリニューアルしたBAUS。リニューアルに合わせて、これまでオープンに議論される機会が少なかった、クレジットが持つ可能性について業界の様々な人に意見を訊いていく企画「ブレイクスルー・クレジットストーリー」がスタート。第三回目のインタビューはクリエイターの水口哲也さん。代表を務めるエンハンスが入居する渋谷「EDGEof」内の茶室、神南庵でお話を伺いました。

「シナスタジア X1」の制作過程

ーー今回は2019年2月に発表された「シナスタジア X1」の制作背景について伺えればと思います。このプロジェクトはどのような制作チームで取り組んでいたのですか?

水口さん:「シナスタジア X1」は共感覚体験装置といって、かつてない知覚体験を得ることのできるインスタレーション作品です。X1の上に身を置くことで全身が音楽と振動に同期するのですが、そうした超越的な体験を生み出すためにライゾマティクスとサウンドアーティストのevalaさんにご協力いただきました。エンハンスとライゾマティクスがコンセプト立案からアーキテクチャをおこない、evalaさんにサウンドデザインを依頼しました。

エンハンス代表 水口哲也さん

ーー「シナスタジア X1」はチェアのような形のデバイスが特徴的ですが、この形状はどのように決められていったのでしょうか?

水口さん:グランドコンセプトは僕が提示しましたが、形をイメージする段階ではライゾマティクスの佐藤文彦さん、清水啓太郎さんに相談しました。他のメンバーも含めスケッチのレベルから、このデバイスはどうあるべきかをいろんな角度から検証しています。

触覚、デバイスの実験はエンハンスの花光くん(花光 宣尚)がどう振動させるかなどを実験しながら進めていきました。ベニヤでモックアップをつくり、インスピレーションを膨らませながら彫刻のように形にしていましたね。ある程度方向性が見えた段階で、精度の高いプロトタイプを神奈川にある栄作工房の佐藤栄作さんに作ってもらいました。

>>シナスタジア X1のクレジット:https://baus.jp/project/11274

 

ーー栄作工房の存在は元々ご存知だったのでしょうか?

水口さん:いえ、大阪のmono conception productsというデザイン会社からの紹介で初めてご一緒しました。佐藤さんは情熱的な方で、会ってすぐに間違いなくいい物になると直感しました。事実、出来上がったプロトタイプの完成度が高くて、本当はもう一回試作を行う予定だったのを変更し、そのままの形で「Media Ambition Tokyo(MAT)」で発表することにしました。

evalaさんが参加したのはプロトタイプ制作が終わって振動や音のデザインを開始するタイミングでした。ここまでいいものが出来ていたら、evalaさん以外は考えられないなと。彼に相談する際、“ケチャのような…”と話したら全体のイメージが伝わって、すごいなと思いましたね。「つくってみます」と回答をいただけて、すぐに制作に入っていただけました。

最初の実装の時にも、やはり完璧なチューニングに仕上げてくれて、プロフェッショナルの仕事でしたね。納得するまでやり続けて、本当にいいものをつくってくれた。プロジェクトメンバーの思想、オーラ、目指そうとしているものがお互いを刺激していいものが出来上がっていく感覚でした。そして出来たプロトタイプに対して、ライゾマティクスが光や空間という視点から、さらに作品を豊かにしていく。そんな制作過程でしたね。

 

エンハンスが実践するユニオン型のチーム編成

ーー以前のインタビューではハリウッドのユニオンのような「独立した個人の集合体」が理想のチームだという話を伺いましたが、エンハンスにおいてプロジェクトのスタッフィングはどのように行っているのですか?

水口さん:エンハンスの事業には3つの柱があります。一つはゲームを含む未来のエンターテイメントのチーム。二つ目は「シナスタジアラボ」という共感覚的な体験や実験を追求していくラボラトリ。三つ目が、VR/AR/MRを含めた「XR(=xReality)」に関する体験を、グローバルに拡張していくプロジェクト。XRはクリエイターとアライアンスを組んでいろいろなテーマを深掘りしているところです。プロジェクトに関しては僕がイニチアシブを持つこともあるし、スタッフからチャレンジしたいと出てくるのもある。どんな場合にも能動的に動けるようにその都度ビルディングしています。

ーーメンバーの自発的な行動を促すチームのあり方は、多くの方が悩んでいる部分だと思います。エンハンスで具体的に取り組んでいることはありますか?

水口さん:会社という枠組みが先にあるのではなくて、中心にある「プロジェクト」に対して人が集い、そのコンセプトを実現していくというのが理想の形ですね。プロジェクトメンバーはみんな妥協しない人たちなので、限りある時間のなかでクオリティを追求し続けている。その過程の中で、ここはやり直そう、もっと突き詰めようといろんな議論を行う。そして最後にどんなアウトプットにするかを探り合いながら形にしていく。その過程はすごくクリエイティブです。もちろんそれぞれの領域ではこだわりが強いけど、最終的な調和もわかっている人が多い。マネジメントしようとしなくても、大抵は自然とできあがっていくんですよ。

 

ーープロジェクトを円滑に進めるために必要なものとは何でしょうか?

水口さん:プロジェクトの経験を振り返ると、よかったのは関わったスタッフみんなが「これおれやったんだよ」と言いたがるものですね。上手くいかなかったものは、みんな口を閉ざします(笑)。大きなプロジェクトのいちパートだとしても、「この部分は自分がやった」と誇れることに鍵があるんじゃないかと思うんです。だからこそ、いいプロジェクトは人じゃなくてモノが中心にあるんです。作り手のエゴや思想が入り組んだ中で、このプロダクトをどうやったらもっとよくできるのか、享受する人がどんな気分になるのかをイメージできるか。クリエイティブディレクターはそれをまとめる役割です。

ただ、綺麗な化学反応が起こると「調整」のような作業はほとんど必要ないんですよ。自発的にコトが起こり始める場をどうつくるか。プロジェクトの温度の低い段階から一人の力で引っ張っていく人もいますが、それだとメンバーがどうしても隷属する形になってしまう。そうじゃないやり方の方が、個人的には楽しいし好きですね。自分の想像以上のものが生まれてくるので。

ーーエンハンスの目指す「会社」でも「個人」でもない「ユニオン」的な組織のあり方は、そうしたものづくりを進めていくために考えられたものでしょうか?

水口さん:どうやったらスタッフがクリエイティブを維持できるかを考えた結果ですね。人によっては社員がいいという人もいますし、社員制を否定するわけではありません。

ただ、日本ではクリエイターがサラリーマン化するとエネルギーを失っていく場面を何度も目にしてきました。それに対して、ハリウッド映画とか音楽業界とか、漫画や作家、みんな会社員ではない。組合的に横で繋がって常に情報を捉えながら先のプロジェクトを考えている。そこにヒントがあるかなと。どういう雇用の形式が望ましいのか、僕は常に考えてます。今実践しているのは、重要な役割をしたディレクターや新しいサービスを生み出す原動力になった人に、印税やロイヤリティをつける仕組みをつくることです。ブロックチェーンのようなもので早く実装したいのですが。

 

ーー新しい試みですね。

水口さん:ライフタイムでロイヤリティをもらい続ける仕組みは映画や音楽では当たり前ですからね。ただ、日本の会社員制度だとそれが難しいじゃないですか。会社辞めたらもう払いません、とか。やはり今のルールは会社にとって都合のいいもので、極端な話、最終的にはクリエイターを殺すものだと思います。

 

ーー日本の音楽業界では事務所から独立して自身でマネジメントを行うアーティストも増えてきていますよね。お金の他に、クリエイターに還元されるべき対価や権利としてどのようなものがあると考えていますか?

水口さん:お金や権利のほかに、仕事へのコミットメントに対する証明書としてクレジットもありますよね。そこに責任を持ってやるのがプロデューサーの仕事でもあります。精神的には緊張する仕事の一つです。

 

ーーゲームの制作は関わる人も多いですよね。

水口さん:オートマチックに作成できたらいいですよね。サービスローンチの前と後では変わってきますし、ちょうどいい肩書きがなかったりもしますから。僕も、いつも自分の肩書きに一番困るんですよ(笑)クリエイティブディレクターとしているけれど、しっくりこない場合もある。みんながそうだと思いますよ。「シナスタジア X1」でいうと、例えばevalaさんもサウンドデザインだけじゃないですし。多くの場合、みんながちょっとずついろんなことやってるんですよ。

今は代表的なものだけを記載していますが、本当は名前とクレジットだけで肩書きは必要ないのかもしれませんね。作品を前提に「あれ作った人ですね」というコミュニケーションが一番話が進みやすいですから。

世界中のゲストを迎え入れるために設えられた茶室と庭。茶道具や掛け軸などは「国賓レベルのゲストが来ても恥ずかしくないほど」の本格仕様だという。

ユニオン型の組織は宗教のようなもの?

ーーエンハンスは、組織として今後どのようなことを目指しているのでしょうか?

水口さん:XRのチームにはもっと多くの仲間が必要なので、今年中にあと20人ぐらいは増やしたいと思っています。VR、AR、MRは、体験の送受信ができるような新しい時代に突入しています。なので新しい分野に興味のあるデザイナー、エンジニア、ディレクター、あらゆるクリエイターへの門戸は常に開いていますね。

 

ーー水口さんは、組織の壁を超えてプロジェクトベースでチームを組んでいくスタイルを取られていますが、それでもなおエンハンスという組織の「仲間」を募集するのにはどんな狙いがあるのですか?

水口さん:今XRでやろうとしているのは、ゼロイチのサービスや作品をつくること。ゲームや音楽でもシナスタジアでも、最初は長く細く苦しみながら形にしていくフェーズがあります。その苦しみを一緒に体験することは計画のない山を登るようなものなので。それがエンハンスなのか、プロジェクトなのかはわからないけど、それができる仲間が必要なんですよ。ただ、うちは信頼関係で繋がっているので、逆に会社で縛るよりもエンゲージが強いですよ。

 

ーー宗教のようなものをイメージしました。制度ではなく、信じるもので繋がる、というような。

水口さん:そういう意味ではうちは「最高の体験をつくる教」ですね(笑)。誰もが経験をしたことのない、最高に気持ちが良い体験をつくりたい。そこが好きなら、ゲームや音楽、新しいサービスの形は問いませんから。

 

ーーカンパニーの語源が仲間ということを思い出します。

水口さん:そうかもしれないですね。新しい体験を生み出すのと同時に形骸化した「会社」をピュアな形に還元していく実験をしている真っ最中です。エンハンスに興味がある人がいたら、いつでも声をかけてください。

 



<Join Enhance>

エンハンスでは、一緒に最高の体験をつくる仲間を募集しています。ご興味のある方は、こちらをご覧ください。
https://enhance-experience.com/jobs

 



<CREDIT>

Editor / Writer:Naoki Takahashi
Photographer :Yutaro Tagawa(CEKAI)
Interviewer:Naoki Takahashi, Yuki Yoshida(BAUS)
Interviewee:Tetsuya Mizuguchi(Enhance)
Director:Koujirou Ichimura(BAUS)
Coordinator:Takashi Yokoishi(&Co.)
Public Relations:Mika Ueno(Enhance)

 

関連記事

  1. 「アイデアをテクノロジーでデザインする」アカリが燃やし続けるクリエイティブスピリット

    READ MORE
  2. 茨城県を実験の場にして、持続可能な地域社会の実現を目指す「if design project」

    READ MORE
  3. 勇気とは? 広告とメディア、トップランナーの確信

    READ MORE