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ノイズこそが表現を強くする。博報堂アイ・スタジオの人の心に「ひっかかる」デジタルクリエイティブのつくり方

博報堂アイ・スタジオ

国内屈指の広告代理店・博報堂DYグループのデジタル分野のプロダクション、博報堂アイ・スタジオ。あらゆる分野のクリエイターが所属し、プランニングから実制作までを行う同社はクリエイティブの“ゼネコン”のような存在だ。 近年では日本最大級のデジタルマーケティングアワード「コードアワード」を受賞した「Yahoo! JAPANアプリ 全国統一防災模試」や、ラスベガスで行われるデジタルプロダクトの祭典「CES」で話題を呼んだ音声認識機能「MBUX」を搭載したメルセデス・ベンツ「新型A-Class」のスペシャルサイトの制作を行っている。なぜ同社は高いレベルで表現とビジネスを両立させることが出来るのであろうか? その組織のありかた、アイデンティティの築き方、今後のデジタルクリエイティブの潮流を伺った。[sponsored by 博報堂アイ・スタジオ]

「クリエイティブのゼネコン」だからできる表現の探求。プランニングから制作を行う専門家集団

ーー近年の博報堂アイ・スタジオさんのお仕事を拝見した中で印象深かったのが「全国統一防災模試」です。SNSで大きな話題を呼び、コードアワードも受賞されましたね。近年は広告の役割が変わっているという論調もありますが、それを示すような事例だなと。商品を売るためのいわゆる「広告」ではないですよね。

河野洋輔さん(以下、河野さん):クライアントのYahoo! JAPANは東日本大震災の記憶、経験を風化させないという想いのもと様々なプロジェクトを行っています。その一環で、日本国民の防災意識をアップデートさせることを目的としたクイズ形式で防災知識を問うアプリを制作したのですが、本当に社会的意義の大きなプロジェクトだったと思います。

Yahoo! JAPANアプリ「全国統一防災模試」
スマートフォン用アプリ「Yahoo! JAPAN」内にて、防災に必要な知識や能力を問う「全国統一防災模試」。第一弾は2018年、第二弾は2019年3月1日から31日までの期間限定で実施された。

ーープロジェクトの中で、河野さんは具体的にどのようなことを担当されたのですか?

河野さん:この案件ではインタラクティブディレクターとして参加しました。博報堂ケトルのプランナーさんがベースとなる全体の企画や、出題される25問の設問内容を考えたのですが、それをもとにアプリインターフェイス設計とUXデザインを担当しました。具体的にはジャイロ機能、360°閲覧できるパノラマ画像など、スマホならではの機能を実装しています。

博報堂アイ・スタジオ インタラクティブディレクター 河野洋輔さん

ーーインタラクティブディレクターとははじめて聞く役職ですが、どのような役割なのでしょうか?

河野さん:明確な定義付けはないのですが、クリエイティブディレクターとアートディレクターの中間に位置するポジションと捉えています。デジタルの視点からクリエイティブを統括する役割ですね。デザインのクオリティはもちろんですが、もう一歩踏み込んで、体験にどんな付加価値をつけられるかを意識しています。

「全国統一防災模試」ではストーリーに沿ってユーザーが震災を疑似体験できるようなインターフェースデザインに注力しました。僕がプロジェクトに入った段階で、課題としてあったのが、どうしたらユーザーの離脱を防げるかということでした。全ての問題を解くには15分以上の時間がかかり、アプリの拘束時間としてはかなり長いものになってしまいます。

そこでユーザーに自分ごとにしてもらうにはどうしたらいいか?没入できるか?と考え、自分の家からはじまり避難所までたどり着く、というストーリーの中でクイズが出題されるという設定にたどり着きました。アプリの冒頭に発生する地震発生アラート演出、自分視点で見ているような錯覚になるフォトディレクションなどでそれを表現しています。全体の構想が固まりきってない段階で参加できたからこそ、自分のアイデアを提案し、実現できたと思います。

 

ーー総合広告会社との距離が近く、大きなプロジェクトの初期段階から関われることはアイ・スタジオのメリットですよね。

加賀谷淳さん(以下、加賀谷さん):一般的なデジタルクリエイティブの制作会社だと、商流的に戦略やプランニングの領域に入っていくことは簡単ではないと思います。様々なレイヤーでの案件があるので、アイ・スタジオにはプロダクションだけでなく、プランニング、を担う部署もあるんです。研究開発を行っているチームがあるのも特徴的かもしれません。こうした多機能な側面を自分たちでは「ゼネコン」と表現しているんですけど。

博報堂アイ・スタジオ デザイン部デザイン統括 加賀谷淳さん

ーーゼネコン、というと大規模なプロジェクトを請け負うというイメージでしょうか。

加賀谷さん:そうですね。いわゆるゼネコン企業には設計、施工、研究など沢山の部門がありますよね。建設分野の仕事のどの領域もカバーできるし、プロジェクトを推進するリーダーの立場を担える。要は専門家の集まりなんですよね。弊社も専門分野に特化したメンバーの混成からなるチームなんですよ。プランニング、アートディレクション、デザイン、エンジニアリングという、プロダクション機能に加え、R&D(研究開発)などデジタル領域のものづくりに関しては全てカバーしているので大小関わらず、デジタルを起点としたプロジェクトは全て請け負うことができます。

 

ーーR&Dチームはどんなことをしているのでしょうか?

加賀谷さん:デジタルテクノロジーの広告表現への活用ですね。最近は人口知能をピアノに搭載し、新たな演奏体験を提供する体験型インスタレーション『Duet with YOO』をクライアントのヤマハと制作し、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出品しました。AIの開発自体はエンジニアリングの領域ですが、それをどうつなぎ合わせ表現に落としこむかを研究しています。

『Duet with YOO』

インタラクティブに特化したディレクターがいたり、デジタル表現の研究を行う部署がある。こうした組織のあり方自体が、他社との差別化となっています。いわゆるデジタルの制作会社だとエンジニアリングや演出に特化するという生存戦略がありますが、うちはどの分野においても高いレベルの専門家がいるので、あらゆる要件に対応していくことができます。

 

作品の中に忍ばせた「ノイズ」にこそ個性が宿る

ーー研究機関、技術力があることによってデジタルの表現の幅が広がるということですね。足守さんがアートディレクションを担当されたメルセデス・ベンツ「新型A-Class」のスペシャルサイトも、ブラウザ上で音声認識が働くインタラクティブなウェブサイトですね。

足守新吾さん(以下、足守さん):メルセデス・ベンツが「MBUX」という従来の車内インフォテイメントシステムに音声認識機能を搭載した新しい車種を開発したのですが、これは他社に先駆けた画期的な事例だったんです。ビジュアルで紹介するだけではその魅力が伝わらないので、デモをつくって「MBUXのようなインタラクティブな体験を提供したい」とクライアントに提案しました。

メルセデス・ベンツ「新型A-Class」スペシャルサイト
https://www.mercedes-a.jp/

ーーMBUXを疑似体験できるというコンセプトですね。

足守さんクルマとコミュニケーションする未来がどういうものかを体験してもらうことを目指しました。アイデアはシンプルですが、技術面では複雑なロジックが働いているんですよ。音声認識の機能自体はスマートフォンにも搭載され一般化していますが、WEBブラウザ上で行うのは簡単ではありません。その時に使えるテクノロジーを活かし、ブランドや商品を魅力的に訴求できる表現に落とし込むということをデジタル分野のアートディレクターとして考え続けていますね。

博報堂アイ・スタジオ アートディレクター 足守新吾さん

ーー表現方法は常に更新されていますよね。それに伴いアートディレクターやデザイナーが担う領域も広がっていると思います。技術と表現とビジネス的な成果、どんなことを意識して制作しているのでしょうか?

足守さんビジュアルを切り口に考えることが多いですね。どうすればウェブサイトに訪れたユーザーの心が動く表現になるのかをビジュアルから想像して、企画全体のアウトラインをつくっています。

河野さん:高いユーザビリティは大前提で、ノイズというか違和感を感じてもらうのは意識していますね。ポイントの置き方は案件によって違いますが、単に綺麗なだけでは人の心には残りません。そこを上手く崩していくのがアートディレクターとして重要なスキルだと思います。

 

ーーノイズに個性が現れると。

河野さん:そうですね。ただ、なぜそれが必要なのかを理解していただくことは難しい。だからこそ、クライアントと近い距離で議論ができることは表現の強度を高めるためには必要ですね。制作のフローが階層化し、間に入る人が増えるとノイズが排除されてしまいなぜそれに意義があるのか、やる必要があるのかが理解してもらいにくいですから。ビッグクライアントでも直接話ができるのはうちのメリットですね。

最近では誰でも一定レベルのデザインが簡単に出来るサービスやツールが整備されてきています。それらを使ってWebデザインを行えば効率良く成果は得られるかもしれませんが、表現としては似通ったものばかりが生まれてしまう。
一時期は効率重視のデザインばかりでしたが、最近はクライアントからもひと工夫施した表現をつくりたいという要望も増えています。世の中全体が、ユーザビリティに比重をおいたシンプルなデザインに見慣れたというのも一因かもしれません。

足守さん:ガイドラインに沿って制作していけば、一定レベルのデザインには到達します。しかしそれは裏を返せばロゴさえ変えれば、どのウェブサイトにも転用できてしまう設計です。そこにはブランドのアイデンティティは宿りませんよね。ユーザビリティを担保しつつ、ブランドのアイデンティティを表現するのは簡単ではないですが、今はその力が求められていると思います。

 

技術・表現が進化する世の中でデジタルクリエイターに求められること

ーーこれまでのお話にもあった通り今もなお変化の真っ最中にあると思いますが、今後のデジタルクリエイティブのトレンドはどう変わっていくと考えていますか?

加賀谷さん:以前はデジタルとリアルの対比で考えることが一般的でしたが、人々がデジタルに触れている時間が長くなってきている今、もはやデジタルとリアルを区別すべきではないと考えています。デジタル起点での戦略立案というのはこれからのスタンダードになっていくと思います。

河野さん:これまでは全体のコミュニケーション・ビジュアル設計が決まった後にウェブサイトのデザインを考える流れだったのですが、現在はサイトデザインを印刷物に踏襲するという流れが増えてますね。つまり、制作の流れが逆転してきているんです。

例えば私が昨年担当した三井住友銀行の新卒採用サイトも、ウェブサイトを起点にポスター・新聞広告などの制作を行いました。

サイト内の全てのビジュアルがムービーになっているのですが、このデザインを踏襲してパンフレットをつくるため、全てのムービーが静止画でのキャプチャカットを逆算したものになっているんです。

三井住友銀行 新卒採用サイト
「かつては、銀行と呼ばれていた」というコピーで銀行の役割が大きく変化することを表現した。
https://www.smbc-freshers.com/

河野さん:アートディレクションに加えコピーワークも担当させていただいたのですが、あえて強めの、ノイズ感のあるワードを提案しました。表面的なコピーだけではなく、その背景についても丁寧に説明することでクライアントからも好意的に受け止めていただき、結果的にSNSでも話題を呼ぶことができました。印刷物が起点となるキャンペーンであればまた違った意図でコンセプト、コピーを設計していたと思いますし、デジタルだからこその表現が出来たと思います。

 

ーーデジタルが起点になることで、商流、表現ともに変化していくということですね。

足守さん最近リブランディングしたあらゆる企業のブランドガイドラインの中に、「モーション」が規定されることが当たり前になってきました。ロゴはもちろん、デジタル上のアイコンひとつとっても、ブランドらしさが考えられたモーションがデザインされております。今後さらに「モーション」はブランディングにおいてとても大切な表現のひとつになっていくと思います。

河野さん:僕もモーションを用いた表現をいろいろとつくっているのですが、やはり表現の幅は広がりますね。速度、やわらかさだったりとか、クライアントのガイドラインには定義されていなかった部分を新たに定義づけようとしています。人々のブランド認知に「動き」という要素が入るのはおもしろい変化ですね。

 

ーー求められるスキルの幅も広がると思いますが、デザイナー、アートディレクターに求められるのはどんなことでしょうか?

河野さん:技術やツールの変化はますます加速していきます。それを学んでいくは大前提として、手法を問わずアイデンティティをつくろうというマインドがある人。これに尽きるのではないでしょうか。

加賀谷さん:整頓されたデザインは容易につくれるようになっていると思うので、それ以上の表現を目指したとき、これだけはという得意分野がある人は強いだろうと思いますね。自分のポジションを確立出来るので。

足守さん:領域が広がり学ぶべきものも増えますが、同時に課題を解決する手段やチャンスが増えたと考えることができますよね。デザイン、モーション、テクノロジー、マーケティングデータなどのあらゆる視点から表現を考えること出来る。手に取る武器を増やし、どう使い分けるのか。それを追求していけば、クライアント、ユーザー、クリエイターそれぞれにとって良いものづくりができるんじゃないかと思います。

 



<Recruit Information>

博報堂アイ・スタジオでは現在下記の職種を募集しています。
・デザイナー
・アートディレクター
・クリエイティブディレクター

詳細や応募については下記ページをご覧ください。
>>https://js01.jposting.net/i-studio/u/job.phtml#job_category2

 



<CREDIT>

Interviwee:Jun Kagaya, Yosuke Kouno, Shingo Ashimori(Hakuhodo i-studio)
Edtior / Writer:Naoki Takahashi
Photographer:Keta Tamamura
Account Exective / Producer:Yuki Yoshida(BAUS)
Project Manager:Koujirou Ichimura(BAUS)


 

PROFILE

博報堂アイ・スタジオ

「ブランド創造」と「顧客創造」を強みとした国内屈指のデジタルクリエイティブカンパニー。異なる専門性を持った300名以上のメンバーが在籍しており、広範囲のジャンルにおいてプランニングから実制作までを一貫して行なっている。

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