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世界で活躍するビジュアルアーティストへ。
イラストレーター・福田愛子のクリエイティブが向かう先

Adobe Creative Residency 日本人初選抜クリエイターの素顔

世界各国のクリエイターを支援するプロジェクトとして2015年に始動したAdobe Creative Residency。同プロジェクトの参加者は一年に渡りAdobeから支援を受けながら作品の制作に臨むことができる。5年目となった2019年、世界4ヵ国から9名のクリエイターが選出された。BAUSでは日本からAdobe Creative Residencyに参加する2名のクリエイターを追っていく。

今回話を伺ったのは雑誌「BRUTUS」「GINZA」「ELLE」といったメディアから、資生堂、三越伊勢丹の広告など、幅広い舞台でイラストレーションを軸に活躍する、ビジュアルアーティストの福田愛子さん。フリーランスのイラストレーターとしてキャリアを重ねてきた彼女は、アナログとデジタルを掛け合わせた作品制作を更に追求していくために、このプログラムに参加を決めたという。福田さんのアトリエにて日頃の制作プロセス、キャリアの築き方、作家性の磨き方について話を聞いた。

海外での経験を元に磨き上げた、イラストレーションのタッチ

スタイリッシュなファッションアイテム、リアリティのある人物画、まるで動きの見えるようなファッションイラストの数々。繊細な線での表現と奥行きのある色使いで多くのファッションブランドやメディアからの支持を得ているのが、イラストレーションを中心にビジュアルアーティストとして活動する福田愛子さんだ。アートディレクター/デザイナーとして働いた後、フリーランスのイラストレーターとしてのキャリアを歩み始めた彼女だが、その作風はラグジュアリーブランドやファッション誌の仕事を重ねる中で獲得していったのだという。現在、福田さんは点描画、色鉛筆で着色をほどこした線画、デジタルでの線画という3つのスタイルで制作を行っている。

点描画(Bearfoot, 2018)

色鉛筆画(Bird Watching, 2018 )

デジタル線画(GRAF VONG FABER-CASTELL, 2018)

「イラストを表現する上では、一本のペンでどんな世界が描けるかを意識しています。最初はボールペンの点描画で描き始めたのですが、制作に膨大な時間がかかるため締切があるクライアントワークのことを考えると、このスタイルだけで描き続けるのは難しい。私のイラストの核にある手描きの風合いを維持しながらクライアントの要望にも柔軟に答えられる新しいスタイルを模索していました。その結果、色鉛筆で着色を行う線画に辿りついたんです。クライアントワークの面白いところは、自分の表現の可能性を広げてくれるところです。仕事をする中で、よりシンプルでスタイリッシュな表現が求められたこともあり、線画をベースにデジタル着色を施すこともあります」

イラストレーター福田愛子さん

彼女の作風である3つのスタイルにはそれぞれ特徴があるものの、一貫しているのは人の手でちゃんと作られた手描き感を大事にしながらデジタルツールを取り入れた制作方法をとっていることだ。

「色鉛筆の重厚感ある質感はアナログでしか出せないものなんです。着色の際は複数の色を重ねて油絵のように色の深みを出しています。ただ、近年はデジタルでもアナログのペン画のような繊細なタッチを表現できるようになっているので、手描きのアナログさは大事にしながら新しいツールを取り入れた、表現を行っています」

5年というキャリアの中で独自のタッチを確立させた福田さんだが、自分の表現を見つけるまでは多くの壁があったと話す。その転機となったのは、仕事の幅を広げていくために訪れた海外でのワークショップだった。

「イラストレーターとして世界を舞台に活動したいという思いは、独立直後からずっと持っていたので、定期的に海外のメディアにブックを見せにいくことを続けています。2年前にニューヨークで行われたAdobe “Make it on Mobile”というワークショップに招待されたのですが、そこでは海外のクリエイターたちが自分の世界を強く表現していました。彼らの表現を見て、私はクライアントワークを続ける中で自分の表現を無意識のうちに抑制していたことに気づいたんです。その経験から自分の表現を改めて見つめ直し、方向性をシャープにしていきました」

アメリカの大学で学んだ彼女だが、イラストレーターとして仕事をするために訪れた時の景色は大きく違っていた。作品のアイディアで評価を受けられていた学生時代とは違い、仕事においては自身の作品はどういったものなのか、数多くあるイラストレーション表現とどう差別化しているのかに加え、作品制作のプロセスなどバックストーリーを言語化することが求められたのだ。

昨年1年間は、クライアントワークを制限し、自身の作品制作に時間を費やした。独立して5年、イラストレーターとしてのキャリアを積み重ねてきた彼女がさらにステップアップを目指すにあたり、自身の表現と向き合い、対話をする時間が必要だったのだという。

彼女がAdobe Creative Residencyの存在を知ったのはそんな時だった。

「昨年は自分の作品づくりに集中しました。ニューヨークで展示をさせてもらう機会を得て、とても充実した一年でした。2019年以降は、テクノロジーとイラストを合わせたポップアップブックの制作に取り組もうと考えていた時に、Adobe Creative Residencyの存在を知ったんです。

このプログラムには私の求めていたものが全部詰まっていると思いました。応募締め切りは目前だったのですが、迷わず応募しました。海外のメンバーとの交流の中で、自分に足りていないものを探求できると思いましたし、なにより制作に集中できる環境を得られるのは願っても無いことでした」

2019年4月よりスタートしているAdobe Creative Residency第5期には、世界各国から9名のメンバーが選出された。日本からは二人のクリエイターが参加している。参加者はキャリアをステップアップすることを目的に参加し、1年間の生活費、クリエイティブに必要なツールやリソース、メンターシップなどの支援を受けながら一年の活動を行っていくというもの。公式ページには、以下のような言葉が並んでいる。

“Adobe Creative Residencyでは、才能豊かなクリエイターを1年間にわたり、個人の制作プロジェクトに注力できるようサポートしています。また、クリエイターはそこで得た体験やプロセスをクリエイターのコミュニティに共有することで社会に還元していきます。”

2019年度、Adobe Creative Residency選抜メンバー。 提供:Adobe Creative Residency

滞在制作を行う作家を支援する「アーティストインレジデンス」が行政や自治体の主導で行われているが、Adobe Creative ResidencyはAdobeという企業が制作時間の確保や、制作環境の援助を行い、クリエイターのキャリア面でのステップアップを支援するというものだ。福田さんは、募集時期とキャリアの転換期、プログラムのコンセプトと今後の作品作りの方向性など、あらゆるピースが組み合わさり、Adobe Creative Residencyへの参加を決めたという。彼女はこの1年間をどのように過ごしていくのだろうか。

雑誌や広告の第一線で活躍する彼女が参加した動機は2つ。作家として新しい表現を追求すること、海外へと活躍の場を広げることだ。そしてそれを実現するためには作品について自ら伝える力を養っていかねばならない。これらの課題を克服し、作品を表現する言葉を獲得していくために、Adobe Creative Residencyでは制作のプロセスを積極的にシェアしていくという。また、イラストレーターとしてのキャリアの築き方というのは、一般にはあまり開かれていないのが現状だ。彼女が築きあげてきた仕事のプロセスやキャリアを伝えていくことで、社会に還元していきたいと話す。

「私自身はアメリカの大学を卒業した後、日本のファッション・IT企業でアートディレクター、グラフィックデザイナーとして働いていました。仕事を辞めてイラストレーターとして活動を始めた当初は何もツテがなかったので、まず半年かけてポートフォリオを作りこみました。数ヶ月にわたって営業を続けて、初めて仕事をいただいたのが雑誌「BRUTUS」のイラストレーションでした。その誌面のイラストを見たアートディレクターの方が声をかけてくださって、少しずつ仕事が広がっていきました。自身を知ってもらうための営業活動は必要ですが、クリエイターの仕事は、自分がこれまでにつくった作品が呼んでくるものではないでしょうか。

こうしたステップや自分のクリエイティブのありようを広く伝えていくことは、イラストレーターを目指す方々にとって少なからずヒントになる部分もあると思っています。そして、自身の経験をシェアしていくことは、自分の創作のあり方を言語化することでもあります。私自身の課題である“クリエイティブを言語化する”という点も、同時にクリアしていけたらと考えています」

Adobe Creative Residencyの参加者として初の日本人クリエイターである彼女は、一年後、どのような景色を見ているのだろうか。

「この一年の目標の一つは、大人も楽しめるようなポップアップブックを完成させること。自分を育ててくれたペーパーメディアが衰退していくのは、正直見ていて辛い気持ちもあるんです。業界としては難しい局面ではありますが、イラスト表現そのものが廃れていくわけではありません。アナログ表現の良さを次世代に繋げていくことを考えた時、ポップアップブックとARの技術を組み合わせた表現が出来ないかとアイデアが浮かんできたんです。

この作品を作るためにはペーパーエンジニアリングの知識に加えて3DモデリングやARの技術も必要です。自分一人の力では実現できないので、他の分野のクリエイターと協力していくことで形にしていきたいですね。そのためにはクリエイティブに加えて共同でプロジェクトビルディングをしていかなければなりません。繰り返しになりますが、そのためにも、自身の作品がどういうものなのか、伝えていくことに向き合わなければと思っています」

福田さん自身、「秘密主義なところがあった」とこれまでの活動を省みる。Adobe Creative Residencyに参加したことで、そのマインドを変えていく必要があると気づけたことは、大きな一歩だと笑顔を見せた。ポップアップブックを完成させ、今後はより自分のビジョンを強く提示できるクリエイターとしてのキャリアを築いていきたいという。それを、彼女は新たなスタート地点と表現した。

「これまでは技術面を追求しすぎて、本当に人の心に刺さるものを生み出せていなかった部分があったと、今では思います。独立したばかりのがむしゃらに過ごしたあの時間が、また目の前に訪れた気分です。今までは目標を小さくブレイクダウンしながらキャリアプランを考えてきました。でも、この一年、そしてその先の見通しは、あえて立てないようにしているんです。自分が描いたキャリアプランを一旦壊して、はるか遠くのゴールへ向かって作品作りを進めていきたいですね」

PROFILE

福田愛子

ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。企業でアートディレクター/デザイナーとして働いた後、2014年よりイラストレーターとして活動を本格化。ペン画を軸とした繊細なタッチを特徴とし、どこか懐かしさと時代を超えた美しさを感じさせるそのイラストは、ファッション領域を中心に多くのクライアントから支持を集めている。現在は東京を拠点としつつも、2018年にはニューヨークにて個展を開催、今年からは日本人初となる「Adobe Creative Residency 2019」に選出されるなど、海外へも活動の幅を広げつつある。


Adobe Creative Residency

Adobeが主催する、クリエイターのキャリアステップアップを1年間にわたってサポートする制度。2015年に開始されて以来、アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリスで開催され、2019年から日本にも上陸。クリエイティブツールをはじめとした制作体制や、多方面で活躍するクリエイターからのフィードバック、生活費用や福利厚生など、クリエイターが自身の制作プロジェクトに注力できる環境が提供される。

>>プログラム詳細についてはこちら

>>もう一名の日本人選抜クリエイターインタビューも公開中。
技術だけでなく「表現」で勝負できるテクノロジストへ。リアルタイムグラフィックスデザイナー、中田拓馬

 



CREDIT

Interviewee:Aiko Fukuda
Coordinator:Ryota Kawanishi(Adobe)

Editor / Writer / Interviewer:Naoki Takahashi
Producer / Account Executive:Yuki Yoshida (BAUS)
Project Manager:Koujiro Ichimura(BAUS)
Location:Aiko Fukuda’s atelier

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