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24時間繋がった時代に、空間デザインが企業に持たらす価値とは?

博展 × ANCR

イベントやエキシビジョン、インスタレーションなど空間をメディアとした体験デザインのクリエイティブディレクションを行う、株式会社博展の南正一郎さん。現役美大生にして株式会社ANCRの代表取締役を務める福島颯人さん。「空間デザイン」というフィールドを軸に、企業のマーケティング、ブランディングに寄与する両者。空間・体験のデザインがどのように企業のブランディングに貢献できるのか? これからのブランディングはどうなっていくのか? 空間とブランドについての議論を交わしてもらった。

「空間デザイン」が企業にできること

今年設立50周年を迎える株式会社博展。イベントの設計・施工から空間の設計へ。そして、空間の中でもたらされる「体験のデザイン」へ。同社は、長い歴史の中で変化を伴いながら、時代にあった価値を提供し続けている。同社のクリエイティブディレクターである南正一郎さんは話す。

南さん:博展は現在、空間の設計、リアルな体験を通じてマーケティングやブランディングの支援を行う「エクスペリエンスマーケティング」を軸にした事業を行っています。空間デザインの中には映像や、グラフィック、人の動きなど、様々な要素が含まれていますが、それら全てを包括するものとして「体験」という言葉にたどり着きました。

一方、株式会社ANCRは空間演出、空間設計などのクライアントワークを軸にRELABELという空きスペースとクリエイターの空間マッチングサービスをローンチし、コミュニティの運営を手がける。現役美大生でありCEOの福島颯人さんは話す。

福島さん:空間を体験するのは人間なので、結局は人間のことを突き詰めていくことになると考えています。良い空間も、コミュニティも、根本的にはそこで人が何を感じるか。そこを訪れた人に残る「記憶」をデザインしていくことだと思っています。

モノ消費からコト消費という言葉があるように、物質的な豊かさから人々の経験が重視される時代になった。消費者との深いエンゲージメントを生む「体験」がマーケティングのバズワードになって久しい。異なるアプローチでリアルな空間を軸とした事業に取組む両者に、話を投げかけた。

左:株式会社博展 クリエイティブディレクター 南正一郎氏 右:株式会社ANCR 福島颯人氏

ブランドはつくれない。すでにあるもの。

ーー博展は「体験」を通じて企業のブランディングに関わっていますが、どのように企業のブランドをつくっていくのでしょうか?

南さん:ブランディングを行う中で、僕らがよく使っているのは「ブランドを動かす」という言葉です。多くのクライアントは、自社に対するブランドイメージが固定されてしまっています。それを解きほぐし、より多くの人に届けるためにブランドを「動かす」お手伝いをする、という意識でブランド支援に携わっています。設計を行う際に必ず行っているのが、クライアント企業がどんなバックグラウンドを持っているのかをコミュニケーションに入れることです。

南さん:以前、化粧品ブランドポーラの商品プロモーションの一環で「SHOT BRIGHT」というイベントを行った際、会場設計を博展が担当させていただきました。ポーラと聞くと訪問販売の印象が強い会社です。なぜ訪問販売を行っていたのかというと、化粧品が高くて買いにくかった時代に化粧品を量り売りで訪問販売をして、少量でもお客様が買い求めやすいようにしていたんですね。つまり、人と人のコミュニケーションを大事にしていて、目の前のお客様のために何ができるかというのを考えてきた会社なんです。そうした相手を思う気持ちが商品の背景にあるので、会場では、接客を抜くことができないと思いました。同じ試供品でも自分で手に取るのと、人から勧めてもらうのでは、体験の質が全く違います。

「SHOT BRIGHT」OMOTESANDO / POLA CREDIT:https://baus.jp/project/20957

福島さん:会場にいるスタッフさんの気配りまで含めて「空間」や「体験」ということですよね。僕たちもUXデザインのような考えで、イベントまで辿り着くプロセス、そこから先の行動までをデザインしたいと思っています。

例えば昨年「煩悩 Born Now」という寺×HIPHOPをテーマとした音楽フェスの空間演出を担当させてもらったのですが、会場はもちろんお寺。若い人に来てもらうため、クラブに近い演出やインスタ映えするスポットをつくり話題化を狙いました。お寺に元々あるものを活かし、タブーに挑戦するような演出をしました。

お寺をフェス会場にクラブに近い演出やインスタ映えするスポットをつくり話題となったイベント。 お寺の鐘をスポットライトに見立て、チルアウトスペースを製作。お寺のタブーに挑戦した。 CREDIT:https://baus.jp/project/21759

福島さん:一方、こちらはモンブランの「インクバー」のケースです。ラグジュアリー層や高齢層をターゲットにしたお店から依頼をしていただきました。もっと若い層にもアプローチをしたいとのことだったので、店頭で行うライブペイントやプロジェクションマッピングでブランドのコンセプトを守りながら拡張できるような演出を行っています。

MONTBLANC インクバー CREDIT:https://baus.jp/project/21760

南さん:モンブランのようにブランドイメージが強い会社だと、クライアントもユーザーもブランドのイメージが固定化してしまっていますよね。ブランドの核がぶれないように見極めつつ、それを広げていくことが僕らのやることだと思っていますね。「ブランドをつくる」なんていうのはおこがましくて、クライアントが元々持っている価値観、受け継がれてきた歴史がブランドの本質なんだと考えています。 

 

社員全員が制作に関わったVIの設計

ーー「ブランドを動かす」。おもしろい表現ですね。とすると一般的に言われている「ブランディング」とは一体どんなものなんでしょうか?

南さん:「ブランディング」という言葉はかなり曖昧に使われていますよね。ブランディングとはブランドそのものをつくっていくことだけでなく、企業の伝えたいモノをどうやって届けていくのかを設計していく役割もあります。「ブランドをつくる」ではなく「ブランドを届ける」という部分。

福島さん:ANCRも南さんと同じようにブランドは既にあるものと考えています。私たちは顧客にアプローチする方法を空間で表現しているだけです。ブランドをつくるのではなく、ブランドをどう表現するか。どういう関係をユーザーとつくっていくのかという視点が「ブランディング」には求められていると思います。

南さん:クライアントとユーザーとの関係が生まれて初めてブランドが動き出す。僕らのやっているような仕事はブランドに対して「ブランドアクティベーション」と「セールスプロモーション」など複数の機能があります。それらの目的と効果をきちんと分けて考え、空間や体験にどんな役割を持たせたいのかを考えるのが大事ですよね。手前味噌ですが、博展も先日リブランディングを行いました。

博展のVI(ヴィジュアルアイデンティティ) CREDIT:https://baus.jp/project/21782

南さん:新しいVIとなったマインドドットというのは、社員全員に円を描いてもらい重ね合わせたものなんです。人を大事にしていく会社として、人の行動をデザインしていく。そうした自分たちのマインドを一人一人が表現し、「円を描く」という体験自体がブランドをつくるという設計になっています。

 

ーーVIの制作に全員が関わっているというのは面白いですね。

南さん:社員が自社のビジョンを意識したり、話したりする場面は少ない。けど、自分が関わったVIが記載されていれば、名刺交換などのきっかけで話すことがあるかもしれない。そういう意識付けをするためのインナーブランディングという意味合いもあります。企業の持っているブランドを日常の中に持っていくことが私たちのやっていくことですし、一緒に日常を過ごすというのがこれからのブランドのあり方だと思っています。

 

ブランドと友達のような関係になる時代

ーーインターネット、SNSが普及して企業とのコミュニケーションが人々の日常の中に入り込んできていますよね。対して「イベント」はどちらかというと非日常のコミュニケーションになると思うのですが、どのように生活の中に入り込んでいくのでしょうか?

南さん:イベントっていうのは波のてっぺんなんですよ。緩やかにのぼっていって、そこが一番の盛り上がりにはなりますが、急に始まったり急に終わるものではない。イベント前後にもブランドを意識してもらい、ユーザーの日常のなかに繋げていく設計が重要です。その際にデジタル上のコミュニケーションというのは強いです。

物理的な空間にいても、意識だけはデジタル上の空間で過ごしている時間も長いですよね。デジタルは24時間繋がり続けることができ、ユーザーの求めるタイミングでコミュニケーションすることが可能です。「化粧品のことならポーラ」というように信頼を獲得することで、その人の記憶の中に居続けることができるんです。

ーー今後はブランドと人の関係が、人間同士の関係に近づいていくということですね。

南さん:そうですね。SNSの普及により頻繁に合わなくても仲の良い友達が増えたように、ブランドと人の関係性は大きく変わっていくと思います。すると、商品単位ではなく企業のアクション自体に興味を持ってもらうコミュニケーションが効果的になっていくのではないでしょうか。

福島さん:「記憶」というのは僕もずっとテーマとして持っていて。ユーザーの記憶をどうデザインするか、いかに体験を記憶させるか。ということから逆算して空間を設計してるんです。例えば飲食店内のストロー、という些細な存在であっても空間との関連性や、人との関係のなかで一つの意味を見出せれば、お客さんの記憶には必ず残ると思います。 

南さん:「記憶のデザイン」。良い言葉ですね。今度使わせてもらおうかな(笑)。デジタル上のコンテンツって長い時間を使ってもらわないと印象に残らない。リアル体験は短い時間でもすごく印象に残りますよね。ディティールのデザインがやけに記憶に残っていたりするので、それこそストロー1本からその場所を鮮明に想起してもらうことも可能ですよね。

福島さん: 自分たちが作った空間で、新しい情報を得たり、それを基に行動に移してもらえれば体験の設計としては成功なのかなと思いますね。いまはデジタルデバイスとの対話をしている時間が多いので、その時間をいかにオフラインに持っていけるかを考えています。人間はコミュニケーションをとることに支配されていて、空間に目を向けていかない。だから空間自体で豊かな経験ができるような仕事をしていきたいですね。

南さん:人間の気分ってあまり解明されていないんですよ。そこが一番難しいし、おもしろいところですよね。今後は情報要素がさらに増えてお客さんと企業の意識的な距離が近づき、人と人のような関係性になっていく。一対一でなくとも、企業がイベントや空間を通じたコミュニティをつくることができれば、そのコミュニティ自体がブランディングの起点になると思います。

福島さん:ANCRもコミュニティづくりには力を入れていこうと考えているんです。ANCRは「Arising New Chemical Reaction 」の頭文字からとっているのですが、僕らのチームも人と人が出会うことで生まれる化学反応を大事にしていますし、さまざまな出会いを生む空間をどんどん広げていきたいですね。

南さん:楽しみですね。福島さんのような新しい世代の価値観に触れて今日は刺激を受けました。僕らの間でも化学反応を起こしていけたらいいですね。

福島さん:ぜひご一緒しましょう。

PROFILE

南 正一郎

株式会社 博展(https://www.hakuten.co.jp/
コミュニケーションデザイン本部 局長
クリエイティブディレクター

1981年大阪府生まれ。2005年大阪工業大学 工学研究科 建築学専攻 修了。
2005年株式会社博展に空間デザイナーとして入社。2015年より現職。
企業のマーケティング活動やブランディングなど目的にあわせ、
リアルにおける体験価値の提供を軸に、イベントやエキシビジョン、インスタレーションなど
空間をメディアとした体験デザインのクリエイティブディレクションを行う。
東北芸術工科大学 非常勤講師(2012-2015),DSA空間デザインアワード一次審査員。
主な受賞歴に、iF DESIGN AWARD,DESIGN FOR ASIA,GOOD DESIGN AWARDなど

PROFILE

福島 颯人

株式会社ANCR(https://ancr.tokyo/)代表取締役CEO兼アートディレクター。
合同会社PARC(https://parc.design/)Founder兼COO。
1997年生まれ。2019年現在、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科4年に在学中。
MONTBLANCやCartierなどのブランドを抱えるリシュモンジャパンからは指名で依頼され、これまでに多くのプロジェクトを担当。
Red Bullのイベントの空間演出をはじめ、2018年夏のHIP-HOPフェス「煩悩 Born Now」の空間演出や原宿HASSYADAI CAFEの空間設計など空間の領域を幅広く手がける。

<CREDIT>
IntervieweeShoichiro MinamiHAKUTEN), Hayato Fukushima(ANCR)
Editor / Writer / InterviewerNaoki Takahashi
PhotographerKei Ito
Producer / Account ExecutiveYuki Yoshida (BAUS)
Project Manager Yuuka Shimizu (BAUS)

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