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領域違いのPM対談「作り手ではなく、繋ぎ手だからできること」

GEEK PICTURES × THINKR × 1→10design

良質なコンテンツは、さまざまなクリエイターの掛け算によって生まれる。だが、そこにはもうひとつ欠かせない要素が。いわゆる、繋ぎ手の存在だ。そこでまず思い浮かぶのはプロデューサーだろう。だが今回は、影の功労者であるプロジェクトマネージャー・プロダクションマネージャーにスポットを当てたい。彼らの職務内容は、企画の立案から予算や進行の管理に至るまで多岐にわたる。しかし、特にここ日本では、その労力に比べて、実際に太陽の光を浴びる瞬間は少ない。それでも彼らは仕事を続ける。そのやりがいを知るべく、GEEK PICTURESの谷口雄紀さん(写真・左)、THINKRの渡辺想介さん(同・右)、1→10designの重原幸子さん(同・中央)という、映像、デジタル、デザインと、それぞれに専門領域が異なる3人のPMにお集まりいただいた。

作り手ではなくて繋ぎ手という選択

ーーまずは自己紹介からお願いします。

谷口さん:谷口です。GEEK PICTURESでプロダクションマネージャーをやっています。テレビコマーシャルの企画から撮影、編集、お金の管理までを行うのが僕の役割です。ここ2年間はソフトバンクの仕事を中心に活動しています。大きい仕事なのでやりとりする相手も多いし、大物の方ばかりなのですごく刺激になっています。

重原さん:1-10designの重原です。元々はAOI.Proのデジタルコンテンツ制作部門で制作管理等を行うデスクとしてキャリアをスタートし、現在で3社目。最近ロンチした仕事だと、オムロンソーシャルソリューションズ様の「LINK→SYNC」というプロジェクトがあります。

LINK→SYNC コンセプトムービー(重原さんご実績)

渡辺さん:渡辺です。THINKRにはプロジェクトマネージャーとして2年半ほど在籍しています。僕のチームは、制作業務の他、所属作家のマネジメント業務もするので、彼らが関わるCDジャケットやMVの制作が中心です。クリエイターとアーティストの橋渡しをする役割を担っています。

音楽アプリnanaプロモーションムービー【音楽って、たのしい】本編(渡辺さんご実績)

 

ーー谷口さんと渡辺さんの自己紹介の中で「プロダクションマネージャー」という話がありました。重原さんは「プロジェクトマネージャー」という肩書きですが、その言葉の違いについて教えていただけませんか。

谷口さん:制作会社のなかには各部にそれぞれ制作進行をする人がいるんです。そういう意味でプロダクションの制作進行という意味なのかなと思っています。

重原さん:1-10の場合は内制のプロジェクトが多いので、プロジェクトマネージャーと名付けているのだと思います。CM制作会社の場合は「プロダクションマネージャー」を指していることが多い気がしますね。

 

ーーそうすると、予算と進行と人の管理を行う点では共通なんですね。

渡辺さん:そうですね。

 

ーーわかりました。では、役割は同じということなので、今回の鼎談では便宜的に“PM”で統一させてください。早速ですが、みなさんがPMになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

谷口さん:自分は、大学生の頃までプロサッカー選手を目指していたんです。でも、それがどうやら難しいと気づきまして。次の道を模索しているときに『ルーキーズ』という映画を観て「映像制作っていいかも」とふと思って。それだけの理由で就職活動をして、いちばん早く採用してくれたのが今の会社だったんです。

重原さん:私は大学時代からグラフィックやCMを見るのが好きで、ぼんやりと広告業界っていいなと。それで広告系の会社を中心に就職活動をして、AOI.Proに入りました。

渡辺さん:僕は今の会社が2社目なんですが、前職では営業をしていました。ただ自分の理想とは違う仕事内容だったのでやめよう、と。それで転職活動をしていたんですけど、タイミング良くTHINKRにいた知り合いから「PMのアシスタントのポジションが空いているからどう?」って誘いを受けて。もともとポップカルチャーがすごく好きだったので即決でしたね。

ーー仕事をするうえで大事にされていることはなんでしょうか?

重原さん:クライアントと制作スタッフの目標点を一緒にすることでしょうか。あとはとにかく聞き耳を立てること。制作スタッフが見つけてきた新しい技術や表現を活かせる仕事はないか、どんな案件をしたがっているのか常に把握できるようにしています。モチベーション高く取り組んでもらえた方が、スタッフも楽しめるし、結果的にクライアントも喜ぶので。

渡辺さん:僕は、クライアントの意向を汲み取りながらも、仕事に携わっているクリエイターたちの良さを最大限に引き出すためにはどうすればいいのかをすごく考えますね。彼らの能力を活かすも殺すもPM次第なのかなと。

谷口さん:おっしゃる通りです。

 

ーーとはいえ、谷口さんのように大規模案件だと関わるスタッフの数も多くなるので、なかなか思い通りにならないこともあるのではないでしょうか?

谷口さん:そうですね。スケジュール調整だけでもけっこう大変です。でも、例えば提案の段階で先々を見越して「このパターンならこうできます」「別のバターンではこうなります」と事前に示して、関係者が決めやすくする。そういうことを心がけて少しずつできるようになってきたかなと思っています。

 

PMの担当領域はどこまでも果てしない

ーー今の話にもつながるかもしれませんが、PMの担当領域って実はすごく曖昧ですよね。一般的には予算や進行の管理、メンバー選定などをするポジションというイメージが強いと思いますが、人によってはデータの整理やカラー・コレクションといった普通ならアシスタントがやるようなことまでやっていたり。

重原さん:「これ、誰の仕事だっけ?」ってアバウトになりがちなものほど、あえて拾ってやるきめ細かさは必要かもしれないですね。制作スタッフが忙しい場合、簡単な作業は自分で済ましてしまうことも多いです。解像度別にエンコードしたり、音楽ソフトを触ったり、サイトの画像や文字を直したり。

谷口さん:僕自身は、本当にまだまだホスピタリティが足りないと思っているんですけれど、資料なんかは色分けしたりして言葉で補足がいらないくらい、誰が見てもわかる状態にまでしたいなと考えていて。それが100%できているかと言われたら、まだ全然なんですけれど(笑)。

渡辺さん:確かに。だからかもしれませんが、この仕事を始めてからスタッフクレジットがすごく気になるようになりました。基本的にPMって注目を集める仕事じゃないし、場合によっては名前が出ない場合もあるんですよね。だからこそ、完成度や難易度が高い制作物ほど、PMさんが頑張ったんだなって思う機会が増えましたね。

 

ーーときには自分の専門領域外のものを任されるケースもあるかと思います。そうした場合はどうしているんですか?

重原さん:私は、とにかくググったり、そのジャンルに詳しそうな人に片っ端から連絡して相談するようにしています。少しでも不安をなくしたいし、自信を持って取り組みたいので。

渡辺さん:それでいうと不安が良い意味で鞭になって、自分を奮い立たせてくれているんじゃないかなと思いますね。僕もやるとなったらとにかく調べるんですが、最初は不安だらけなんです。ただ、仕組みが段々わかるようになってきて、自分が能動的に動けるようになるのがすごく快感で(笑)。

重原さん:わかります。その山越えがたまらないんですよね。制作中は決まった時間の中でいかにクオリティを上げるかを段取っているので、毎日のように胃が痛くなってるんですけど(笑)。「重原さんがいてくれてよかった! マジで助かる!」ってみんなに言われたら、その瞬間に辛いことが一気に吹き飛ぶ。仕事をしている中でいちばんの醍醐味です。

谷口さん:困ったときほどチームがひとつになれる気がしますね。あるとき、監督が撮影の3日前に決まるっていう、けっこう痺れる仕事があって。演出コンテもアングルチェックをやりながら描いたり、CGの処理なんかも後追いで決まっていくっていう。でも、困ったときだからこそ「やれることからやっていこう」とチームが一丸になっていく過程も見ることができて。そうやって大変ながらも完成したものが世に出ていく瞬間はたまらないです。

PMが会社に所属する意義

ーー日本では、まだフリーランスのPMってそこまで多くないですよね。どちらかというと企業に属している人が大半。とはいえ、フリーランスになった方が稼げる仕事でもあると感じる部分もあります。実際、みなさんが企業に属することで受けられる恩恵ってなんだと思いますか?

谷口さん:ひとつはプロデューサーを目指せるところだと思います。今はいろんな人に教えてもらいながら少しずつ自分のできることの幅を広げている最中なんですけれど、いつかは自分で仕事を仕切っていく存在になりたいなと思っています。

渡辺さん:あとは大規模案件に携われることでしょうか。もちろんタレントやプロダクトの魅力があってこそですが、大きければ大きいほど社会的な反響もありますし、そうした仕事に携わることができることが自分の自信にも繋がっている気がします。

重原さん:フリーランスで数をこなして稼ぐこともできなくはないですが、確かにみなさんがおっしゃるように大規模案件に関われることが大きいですね。あと、うちの会社はエンジニアやデザイナーが身近にいるので、彼らと一緒にアイデアを練って形にできるのが今は楽しいです。さらにインタラクティブ界隈は、デザイナーやテクニカルディレクターのフリー化は進んでいますが、PMとしてはまだまだですね。各スタッフがプロフェッショナルとして認められ、フィーも明確になっている撮影班みたいな土壌がインタラクティブ界隈にも根付くと良いですね。

 

ーー今後、社会的変化の中でPMという職種に求められることは変化していくと思いますか?

渡辺さん:うちの会社だけの話でいうと、所属作家・アーティストに紐づく制作や映像制作も増えているので、そういう意味では新しく覚えることも必要になってくるのかなとは思います。でも、制作物の変化こそあれ、PMの役割自体は変わらない気がします。究極的な話、なんでもできる人が強いので。

重原さん:プラットフォームの変化もめまぐるしいですしね。せっかくキャッチアップしても、すぐに役立たなくなる知識ってざらにありますし。だから、世の中に出した瞬間から「よし次!」って切り替えるようにしています。ある意味でミーハー心が大切な仕事です。

 

ーー話を聞いていて思ったのは、PMは「新しい場所」とか「新しい体験」をアップデートする役割が強いのかなと。それに伴って新しくチャレンジすることにも抵抗がなくなっているような気がします。

谷口さん:そんなかっこいいものじゃないですよ(笑)。上から「やれ」って言われるから動いている部分ももちろん多いですし。

ーー将来像についてはどう考えていますか?

谷口さん:先ほども言いましたけれど、第一目標はプロデューサーになること。でもその前に、まずは指名で仕事がいただけるようになりたいですね。「サッカーのことなら谷口に任せたい!」みたいな。あとは個人的な願望でしかないんですけれど、一度でいいから本田翼さんに会ってみたい(笑)。

渡辺さん:僕はまだ将来像がはっきりしていないし、自分が何に向いているのかもわからない状態なので、とにかくPMとして場数を踏んでいきたいです。そして最終的には、クライアントがTHINKRを選んでくれた際に、僕の名前を出してもらえるようなところまで目指していきたいなと考えています。PMが指名されることはまだ決して多くはありませんが、そうした状況がある中で指名がくるということは、今まで積み重ねてきたことが良いものである証でもあるのかなと思うので。

重原さん:私も案件の制作物に関わらず「この仕事だったら重原さん!」と、自分の名前で仕事がいただけるようになりたいですね。学生時代から楽器を弾いたりするのが好きなので、特に音楽系の仕事に携われたら嬉しいです。

PROFILE

GEEK PICTURES

「映像で世界を変える、未来を変える」この企業理念を強く信じるプロデューサー、プロダクションマネージャー、ディレクター、プランナー、デザイナーの集団。話題のCM、映画やドラマなどを数多く手がけ、国内外で多数の賞を受賞。TV・WEBコマーシャルの企画・制作、エンターテイメントコンテンツの企画・制作・販売及び輸出入、広告プロモーションの企画・制作、グラフィック広告制作、キャラクターの企画・開発及び著作権の管理、クリエイターマネジメント業務など幅広い制作を担う。新たなジャンルの映像制作、コンテンツ開発のニーズにも応えるため、2017年に新しい部署「GEEK CREATIVE STUDIO」設立。

PROFILE

THINKR

2007年にクリエイティブディレクター針谷建二郎により発足したクリエイティブスタジオ「ANSWR」が、関連会社「2.5D」と統合し、2016年4月より新たなコンセプト・組織体制による「THINKR(シンカー)」へと社名変更。「作る人」たちをクリエイティブチーム化し、育て広めていく。戦略的にブランド構築を行うデザインコンサルティングファームの仕事も。既存ブランドの再構築、新規事業を開発するメーカーの方々などシナジーを見込める人達と積極的なコラボレーション、事業提携、R&D事業を生み出す。

PROFILE

1→10design

Branded Contents、Film、Web Site、Mobile App、Music Video、IoT、あらゆる表現ジャンルを飛び越えて、デザイン思考とエンジニア思考を掛け合わせ、IDEA x CREATIVE x TECHNOLOGYの可能性を追求し、ブランドにとっての最適解を導き出すクリエイティブエージェンシー。あらゆるクリエイティブ領域を網羅する制作者達が集う。カンヌライオンズをはじめ、国内外のさまざまなアワードを多数獲得。

写真・下屋敷和文 文・菅間碧 編集・村上広大

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