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「暮らしの中にもっとアートを」LIFULL発のアートサブスクリプションサービスArtmoreに迫る

坂本浩章 × 小山登美夫 × オカダミカ/micca × 井崎英典 × 川嵜鋼平

「あらゆるLIFEを、FULLに。」をビジョンに掲げる株式会社LIFULLが、アーティストとアートファンをつなぐアート作品レンタルサービス「Artmore」※を2018年2月にリリースした。今回BAUS編集部は2月25日に行ったArtmoreリリース記念パーティーに参加。公募で募られたレンタルアート作品と当日発表になった受賞作品について、審査員の5名、彫刻の森芸術文化財団の坂本浩章さん、小山登美夫ギャラリーの小山登美夫さん、オカダミカ/miccaさん、LIFULLのCCO・川嵜鋼平さん、ワールドバリスタチャンピオンの井崎英典さんにお話を伺った。

338人の公募から厳選された50名の審査通過アーティストの作品が会場を囲むようにずらりと並ぶ、その様子は壮観の一言。今回参加した出展者は、それぞれが緊張した面持ちで自分の作品と別の作家が展示する作品を交互に見合っていた。

定刻を少し過ぎた頃、主催するLIFULL事業開発グループ、西田啓紀さんがサービスについての概要を説明した。

Artmoreは、気に入ったアート作品を気分に合わせてお部屋やオフィスにレンタルできる、アート作品の月額レンタルサービス。気に入った作品は購入も可能だという。さらに、Artmoreではトライアルとして販売価格の全額がアーティストに振り込まれるというシステムを採用しており、作家自身を応援する仕組みとなっているのが特徴的だ。

時間が経過するにつれ、参加者の緊張も徐々に解れてきたのか、会話が弾み始める。そんな矢先、いよいよ受賞作品が発表される時間がやってきた。一同が固唾を呑んでスクリーンを見つめるなか、賞が発表され寸評が明らかにされていった。

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大賞
井上奈奈《Tyche》

狼と女性の契りを描いたという《Tyche》。女性と狼が同化していくような物語性を伺わせる今作について坂本さんは「本人と狼が同化しているような印象。日常のなかで作品と対話を重ねていくことで、より理解が深まる部分があると感じることができた」と語った。

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準大賞
笹目舞《いないいないばぁ1》

365日休まず、誰かを「見て描くこと」「見ないで描くこと」を実践している本作。「見ないで描く絵」を「いないいない」とし、「見て描く絵」を「ばあ」と定義づけることによって、コミュニケーションを通しドローイングで映し取る制作方法。小山さんが「空間の中でどのような役割を果たしてくれるかが見所」と語った。

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micca賞
上田よう《Naked wolf》

狼と人が、枝や血管のように重なり合っているこちらの作品。単純に思いついたビジュアルをそのまま絵にしたという。「家に飾るものと意識したときに、日々見るのが面白いと感じられる。近づいてみたり、遠くから見てみたり、常に新しい発見がある気がしました」とmiccaさん。

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川嵜賞
古屋郁《Mog》

可愛らしい猫のイラストを描いた、古屋郁さんの作品《Mog》。川嵜さんから「好きなものを自由に描いている。風通しの良さが気持ちがいい」との講評。

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井崎賞
新宅睦仁《みんなで食べよう(37人で)》

「現代社会における富の再分配の可能性を、ケーキを切り分けるという行為に象徴させて問う試みである。みんなでケーキを分け合って食べよう。2人で、4人で、あるいは100人、1,000人で。富は、どこまで平等に分け合うことができるのだろうか」という、キャッチーなイラストに込められたメッセージ性が評価のポイント。井崎さんは「この作品を見ているとコーヒーを呑みたくなる」と、バリスタならではの視点をのぞかせてくれた。

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上田よう《Naked wolf》
新宅睦仁《みんなで食べよう(37人で)》

前半が終了したところで、彫刻の森芸術文化財団の坂本浩章さん、小山登美夫ギャラリーの小山登美夫さん、オカダミカ/miccaさん、LIFULLのCCO・川嵜鋼平さん、ワールドバリスタチャンピオンの井崎英典さんの5人へBAUS編集部が公開インタビューをさせてもらった。

 

居住空間にとけ込んだ作品との対話が、暮らしそのものを豊かにする

ーー今回の企画が立ち上がった経緯を教えていただけますか?

川嵜さん:LIFULLという企業は「人のあらゆる暮らし、人生を満たしていく」ブランドです。主力事業はLIFULL HOME’Sという住生活に関わるサービスですが、暮らしや人生に関連する事業展開も行なっております。例えば、今回の取り組み以外にもLIFULL FLOWERという水換え不要、届いた瞬間に花瓶になるパッケージで、毎月市場直送で季節感あふれるお花が届くサービスも展開しています。
今回弊社が取り組んだアート作品のレンタルサービスは、“暮らし” や “人生” に直接関連しているので、私たちが取り組むべき領域だと思ってはじめました。アートは作り方もコンセプトも自由なので、鑑賞の仕方についても、ギャラリーや美術館みたいな特別な場所で見るという鑑賞の仕方だけでなく、“レンタル” という形でそれぞれの生活や日常の中にインテリアとして浸透しながらアートを楽しむ方法もあったら面白いのではないかと考えました。生活のなかでアートを楽しめることは私たちの暮らしそのものをより豊かなものにできるのではないかと思ったんです。だから分かりやすく「Artmore」という名称にして。

ーーより身近にアートが生活にとけ込むことを啓蒙していくということでしょうか?

川嵜さん:そうですね。荒川修作+マドリン・ギンズさんの「三鷹天命反転住宅」と呼ばれる作品があるのですが、端的に言うとわざと住みにくい家をデザインしているんです。「そこに適応することで人は成長できる」というコンセプトの作品で。実際、その住宅で子どものうちから生活をしてアーティストになった人もいる。そういうアートのある暮らしをすることで、クリエイティビティが高まることがあるのだなと知りました。教育という観点から、アートを生活に取り入れた方がいいということですね。

 

ーー今回、冒頭に小山さんは携わってくれた作家さんに対して、「作品を作る際に平面的にひとつの絵で完結する世界でなくて空間を意識したほうがいい」というお話をされていました。その視点の持ち方について改めて説明してもらえますか?

小山さん:絵を描いている作家さんの中には、意外と家に絵を飾ったことがない人や、絵を買ったことがない人、生活の中に絵を飾るスペースがないという人もいるかもしれないなと思ったんです。自分にもし絵を飾った経験があれば、自分の作品がどこかの空間に置かれる時、どんな風なものになるのかをおのずと意識できるようになると思うんですよ。それは美術館やギャラリー、誰かの邸宅の空間を想豫するのにも役立つ。絵画と二次元的に向き合うのではなくて、そういったことを絵画自体と向き合って制作をするとよいと思っていて。
実はMIT(マサチューセッツ工科大学)は、レンタル用の絵画を所有していて寮生に向けて貸し出している。理系の大学ですが、それでも絵画というものが生活において、重大な役割をもつということを既に理解しているということなんですね。日本でいうならば、オフィス用に植物をレンタルしているような感覚かもしれない。こうした価値観がもっと国内でも浸透するといいなと思っていたんです。なので、今回審査の依頼をお引き受けすることに決めました。皆さんも家に絵を飾るような空間がなくても、とりあえず別の場所に絵画を飾ってみることで自分の作品を客観的に見たり、自分の作品以外でも飾ってみることで、角度を変えて考えることができるようになると思うんです。

自分が偏愛しうる作品を側において飾ること 

ーー今回大賞作品は、見るたびに解釈が変わる余地を残している、日常の連続性によって解釈が深化していく意味合いで選んだというお話をされていました。

坂本さん:私たちは美術の世界に身を置いてるので、アートの世界は特別なものではないことを肌で理解しているじゃないですか。でも、ふとアートの世界に触れていない人達と話すと、「アーティストはどういう人か」、「アートは何を基準にして考えれば良いのか」と聞かれることが多くて。そんなとき私はいつも「今日身につけているネクタイを選んだのは、どんな理由からですか?」と問いかけるんです。ネクタイのデザインをその日の気分によって選ぶ行為は日常的にどんな人でもやっているはずで、そういう好き・嫌いの審美眼を生活者は持ち合わせている。その感覚で自分の好きなアート作品を選択できれば良いとお話していて。そうすると美術展でも、カフェで置かれている絵画でも、見方が変わると思うんです。

ーーそういう態度は作り手にも鑑賞者にも必要かもしれませんね。

坂本さん:そうなんです。作り手も、作品と対峙したときにどんな風に見られるのか、そのことを意識して作るという行為がとても大事になってくる。ともすれば、難しく捉えられてしまいがちなものを作家の皆さんの力で解放して欲しいなと思うんです。
審査では、その作品が日常の中に置かれると、どんな気持ちになれるのかを語り合いました。大賞の作品は、色彩や色のトーンも含めて、時間や季節、光の加減によって見え方が変わってくるように意識が行き届いた構成をされていますし、額装も鑑賞されることを吟味して選ばれている印象でした。構成も、その対象物は我々のほうを向いているんだけれども、この人たちは我々と何を語ってくれるのだろう、何をコミュニケーションしてくれるんだろうって。作品が日常と向き合っていきながら、何かこうコミュニケーションできる楽しさが実はあるんじゃないかと思うんですよね。

 

ーー世間的に評価されている作品以外にも、自分がどこか「良い」と思える部分があれば、それは偏愛しうるものですものね。

坂本さん:はい。だから大げさに捉えないで、なんだかわからないけど、自分が良いと思える作品を側に置いておくことで、その作品と対話できるし、その積み重ねで鑑賞者としての視点が養われていくと思うんですよね。

 

ーーオカダミカさんは普段micca名義で様々な雑誌などの媒体でイラストを書かれていると思いますが、今回公募作品を見て、審査されてどんなことを感じられましたか?

miccaさん:誌面やWebに展開されるイラストレーションの仕事は、原画ではないですよね。だから私の場合、そういう商業用につくった作品を展示することはほとんどなくて、展示の際には原画を見せるという意識で絵を描くことが多いんです。小山さんも先ほど仰っていましたが、絵は2次元って思われるのですが、作品を買ったり所有したりすることで、正位置以外からいろんな角度から見る機会も増えて、多面的なものになっていくものだと思うんです。
私自身絵を見ること自体も好きだし、作品を所有するのも同じくらい好き。同じ時代に生きている作家さんのものを所有して、その作家さんの活動が見れることも楽しくて絵を目に見える形で飾って体感してみることが一番大切だと思います。たとえば、毎日出勤前にカフェで見ている絵を「今日は違って見えるな」と感じ取ることもアートとの関わり。空間との関わりもすごい大事だと思っているので、絵をレンタルして、絵と暮らしてみることを経験できるこの企画はいいなと思います。

 

ーーレンタル作品を返してから「やっぱりもう一回……」と時間を経てまた借りることもあるかもしれませんよね。

miccaさん:そうそう。模様替えとちがって、絵を1枚掛け替えるだけで空間のイメージはすごい変わります。そういう意味で、レンタルを活用して絵をころころ変えてみるのもいいですよね。

ーー井崎英典さんはバリスタとして、今回の審査ではコーヒーに似合うものなど、ライフスタイルの文脈で作品を選ばれたのかなって。

井崎さん:おっしゃる通り、私はコーヒーというフィルターを通してしか物事との関わりが持てないですからね(笑)。周りの審査員にはアートのプロがいらっしゃるので、僕ができることっていったら、コーヒーとの親和性を見るというか。あとは、実は僕グローバルな仕事をすることがすごい多いんですよ。昨年260日くらい海外に出ていて。様々なバックグラウンドをもつ方に出会いましたが、「芸術的な直感力が今、一番求められている」とその道のプロの方たちが言うんですよ。しかも、世界各地でシンクロニシティ的に語られている。ビジネスやあらゆる領域において、アートで養われる感性が重要視されているんです。実際今日、プロのみなさんと作品を見てアートの見方が変わって。すごく楽しかったです。アートって見るだけじゃなくて、その人自身の内面を鍛えてくれるものなんだなと、今日僕は皆さんの作品から勉強させてもらいました。

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公開インタビュー後、登壇した5人にそれぞれの作家が熱心に講評してもらっている姿が印象的だった。

私たちの生活の中にアート作品が組み込まれた時、鑑賞者の私たちにどのような科学反応が生じるのだろうか。リビングやベッドルーム、玄関にアート作品が足りていないと感じるあなた。「Artmore」でレンタルされている作品群をチェックしてみてはいかがだろうか。生活に新しい彩りをもたらしてくれるに違いない。

 

※Disclaim
なお、Artmoreは現在ベータ版であり、今回のトライアルの結果を踏まえて今後事業化を検討する予定です。

 



<Recruit Information>

LIFULLではシニアデザイナーを募集しています。募集内容については下記よりご確認ください。
>>https://hrmos.co/pages/lifull/jobs/020-1000

PROFILE

Artmore

様々なアート作品を気分に合わせてお部屋やオフィスにレンタルできる、アート作品の月額定額レンタルサービス。 美術業界を代表する方々などにより選出された作品の中から、玄関やリビング、オフィス、お店などを彩る作品を選ぶことができ、すぐ飾れるよう付属品とセットでお届けします。 気に入った作品はそのまま購入も可能。 アートのある生活が月額1,800円から気軽に始められます。 アートで、もっと豊かで楽しい。 あなたの暮らしは、すぐそばに。

写真・豊永拓万 編集/文・冨手公嘉

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