MENU

クリエイターのためのクレジット・データベース

MENU
CLOSE © COPYRIGHT BAUS, ALL RIGHTS RESERVED

クリエイティブ企業におけるバックオフィスの価値ってなんだ

「クリエイティブ企業の仕組みづくり」イベントレポート

1月某日、東京・代官山で開催されたイベント「“企業を支える”バックオフィスが語る『クリエイティブ企業の仕組みづくり』」には、30人以上のバックオフィス担当者が詰め掛けた。登壇したのは、クリエイティブ企業4社のバックオフィス担当者4名、左からCEKAI 今井浩平さん、NEWPEACE 廣瀬彩さん、dot by dot 小野里夏さん、kiCk 佐藤かすりさん。イベントでは、「売上を生まないバックオフィスの仕事、私たちがもらっている給与は何に対して得ているものなのかもやもやして…」など、バックオフィスならではの悩みが交わされる場面も。「攻めるバックオフィス」実現のために取り組んでいる各社の施策など、バックオフィスという役割に求められること、その価値について語られた。

他のキャリアからバックオフィスに転身

廣瀬さん(NEWPEACE):私たちNEWPEACEは、「VISIONING COMPANY」と名乗り、クリエイティブの力で20世紀的な古い価値観を壊していこうと取り組んでいます。そのほか、ONFAddというプロダクトブランドや、6curryという新しいカレーのブランドも始めています。
私自身は新卒で投資銀行に入社、M&Aなどをやっていました。その後、縁があってベンチャーの資金調達にかかわるようになり、バックオフィスの仕事をするようになりました。NEWPEACEでは、人事、財務、総務などのバックオフィス業務のほか、新規事業の立ち上げなどもやっています。

今井さん(CEKAI):今回はCEKAIのメンバーとして登壇させていただいていますが、実際にはCEKAIとモーフィングの親会社にあたるC株式会社に所属し、両社の管理部門を担当しています。クリエイティブアソシエーションであるCEKAIは、業はプロダクション業ですが、所属クリエイターは正確には全員個人事業クリエイターなんです。個人事業クリエイターたちとプロデューサー・プロジェクトマネージャーが連携をとってクリエイティブ制作をしています。一方、モーフィングは、BAUSを中心に活動している会社です。

僕自身は、モーフィングを立ち上げたメンバーの1人で、当時学生だったこともあり、その後一般の会社に入り、約8年、SIerの仕事やコンサルとして企業の業務改善を行いました。その後、モーフィングに戻り、新規事業の立ち上げ等を経て、CEKAIとモーフィングの経営統合のタイミングで、バックオフィスを担当することになりました。

小野さん(dot by dot):私は、20代半ばまで飲食店で働いていましたが、広告制作会社「BASE」のバックオフィスにキャリアチェンジ、総務経理を担当しました。入社半年ほど経ったころから、オウンドメディア「街角のクリエイティブ」の立ち上げと編集部業務、オンラインサロンの運営も担当しました。昨年7月、dot by dotにバックオフィスとして入社し、現在は主に総務、広報活動を行っています。
dot by dotは、2014年創業、現在13名のクリエイターとバックオフィスの私、14名が在籍しています。製品開発や空間演出、ソフトウェア、ハードウェア、インスタレーション、ミュージックビデオにいたるまで、商業クリエイターの集団として幅広く活動しています。

佐藤さん(kiCk):kiCkは、現在5期目のクリエイティブエージェンシーです。私はその会社でバックオフィス、総務と広報をやっています。
私自身は、新卒で総合卸商社に入社し化粧品販売をしていました。その後、広告代理店に転職、その後、現在所属しているkiCk inc.に参画し、コーポレートチームとして業務を担当しています。

廣瀬さん(NEWPEACE):ずっとバックオフィスにいたという人はひとりもいないんですね(笑)。

 

バックオフィスの仕事を選んだ訳

廣瀬さん(NEWPEACE):「なんでバックオフィスになったの?」「バックオフィスは楽しい?」というふたつについて伺えたらと思います。

佐藤さん(kiCk):私は総合卸商社からの転職後、この業界のことに詳しくなりたいと思ったときに、いきなりプレーヤーとしてクリエイティブに携わるのではなく、バックオフィスの仕事を通じて会社のことをよく分かってから飛び込もうと思って今の仕事を始めました。

今井さん(CEKAI):僕がバックオフィスになったのは、たまたまですね。担当していた事業が別の会社に譲渡するタイミングとCEKAI・モーフィングが経営統合するタイミングが重なり、自分がこのポジションを担うことが会社のためになると思ったので、手を挙げました。

小野さん(dot by dot):私は、高校では商業科に通っていて簿記の知識もあったので、将来的には、事務の仕事を選ぼうと考えていたんですが、せっかくなら興味のある分野がいいと思って。元々私はCMやグラフィック、広告コピーに興味があったので、広告業界のバックオフィスを選びました。

廣瀬さん(NEWPEACE):dot by dotのバックオフィスは楽しいですか?

小野さん(dot by dot):すごく楽しいです。今の会社が、バックオフィスにもいろんなことを期待してくれるからだと思います。事務という概念に捉われず、手広くいろいろな仕事を任せてくれるので、自分のキャリアにも繋げることができる会社だと思っています。

廣瀬さん(NEWPEACE):クリエイティブ企業って、バックオフィスの領域にもクリエイティブ力が求められますよね。ご挨拶メールひとつでも、写真の使い方、改行やフォントにこだわる。最初はなんでもいいよって言っていても、全然なんでもよくはなくて(笑)。入社した頃は、けっこう衝撃を受けました。会社として出すものには、小さなことでも気を配るのが、クリエイティブ企業なんだなと。

小野さん(dot by dot):そうですね。私も、会社の人に今回のイベントのバナー画像を見せたときに、開口一番「小野さんの写真、解像度低くない?」って言われて(笑)。

佐藤さん(kiCk):クリエイティブあるあるですね。私は静電気用のシールにもセンスを求められたことがありました。私が選んだシールを見せたら、「ちょっとそれかっこよくないから、もうちょっとかっこいいの探して」って(笑)。

廣瀬さん(NEWPEACE):わかります!備品ひとつ買うのも気を遣いますよね。でも、よく考えたらそれって当然。オフィスに置いてあるものってクライアントの目にも止まるし、クリエイターの日々のモチベーションにもつながる。会社として出すものは、メールでも贈り物でも、その会社の印象を決めてしまう。クリエイティブ企業で働いている一員として、バックオフィスもこだわりをもたないといけないですよね。

クリエイティブ企業だからこそ求められる柔軟でユニークな施策

廣瀬さん(NEWPEACE):続いては、みなさんが導入してみてよかった、という施策を教えてください。

小野さん(dot by dot):「リモートワーク制度」でしょうか。Hangoutでの会議参加もOK、コミュニケーションもSlack等でOKなので、どこでも仕事ができるんです。加えて、弊社は勤務形態がフルフレックスで。常々、代表の富永は「クリエイティブは管理するのではなく自由にしたほうが飛躍していく」と言っていて。これからの社会では、こういった働き方が珍しいものではなくなっていくのではないかと思っています。

廣瀬さん(NEWPEACE):CEKAIって社員さんがオフィスにいることはあるんですか?

今井さん(CEKAI):CEKAIクリエイターは、オフィスとは別で京都と東京に制作場所があります。クリエイターは夜間に集中して仕事をする方も多いですし、完全に自由です。雇用関係のあるプロデューサー・プロジェクトマネージャーは就業規則通り、決められた時間にオフィスで働いていたんですが、クリエイターと同じ時間帯に働いていた方が効率良いこともあり、今月からは裁量労働制を導入しました。

佐藤さん(kiCk):弊社もそうですね。勤怠管理を行なっていないです。グーグルカレンダーに個々人スケジュールは入れていますが、オフィスにいるはずの人がいない、というときだけグーグルカレンダーで見てチェックしている程度です。

小野さん(dot by dot):うちも勤怠はつけておらず、14人中私だけがフルタイムで勤怠管理をしています。

廣瀬さん(NEWPEACE):みなさん自由度の高い働き方を推奨されていますね。ただ、社員みんなで情報共有をする時間がなくなってしまいそうな気もしますが、そこを補う施策はありますか。

小野さん(dot by dot):そういったことでいうと、dotでは週に1度、「朝会」という全員参加の社内会議があります。みんなで顔を合わせて案件の進捗など、情報を共有する場になっています。

佐藤さん(kiCk):うちは、定例会も月に1回しかないですね。

今井さん(CEKAI):うちもグループ全体で月に1回、月次定例はやっています。ただ、「法的には外部だけれど意識としては内部」であるCEKAIクリエイターは、特に出席はしていません。

廣瀬さん(NEWPEACE):「法的には外部だけど意識としては内部」というのは、クリエイティブ企業に多いですよね。法律的な括りは古くて、今の働き方には当てはまらない。もっと広義での「チーム」というか。

今井さん(CEKAI):僕らは、いいクリエイティブをする上で重要な要素なんじゃないかなと捉えています。クリエイティブの表現や領域も時代とともにどんどん変化しているので、雇用関係のある社員だけでつくるのではなく、個人で活躍するクリエイター同士がゆるくつながる形態が一つの答えではないか、と。これは新しい取り組みですが、最近かなり広いオフィスに引っ越しました。そこにはCEKAIクリエイターと社員に加え、一緒に仕事をさせて頂いている取引先にも入ってもらいます。法的に外部内部、社員かどうかはあまり重要ではなく、「同じ空間にいる」ということが大事かなと思っています。

小野さん(dot by dot):dotも「HOLSTER」というクリエイターに特化したシェアオフィスを共同運営しているので、いつでも相談できる距離に外部のクリエイターがいます。

廣瀬さん(NEWPEACE):どの会社も、リモートワーク制度を取り入れ、いつでもどこでも働けるようにしているんですね。一方で、みんなが働ける「場」を提供することで、そこに自然とみんな集まってくるようにしている、と。リモートワークで起こりうるコミュケーション不足の問題を、リアルな場を提供して集まることへのハードルを下げておくことで、解消しているんですね。面白い。

小野さん(dot by dot):うちの「所属クリエイター制度」という取り組みは、“才能のある人ほど、企業という枠に囚われないべき”という理念のもと、導入しています。

今井さん(CEKAI):CEKAIもまさにそうで、そういう働き方を後押ししたいと思っています。

廣瀬さん(NEWPEACE):弊社もONFAddのプロダクト開発に関わってくださっているクリエイターさんは、プロダクト単体で関わってもらったりしています。案件ごとに関われるようにすることで、素晴らしいクリエイターがチームの一員になってくれる可能性が高まりますよね。採用するとなると双方にとってハードルが高いけど、プロジェクト単位での参画ならそのハードルはぐっと下がる。

 

売上を生まないバックオフィスの価値と評価

小野さん(dot by dot):実は、日々悶々としていることがありまして‥‥。私たちバックオフィスって、会社に直接利益が出せる部署ではない。だけど私たちにも毎月給与が出ますよね。このお金はどんな貢献をして得ているものなのか。ぜひみなさんの考えが聞きたいです。

今井さん(CEKAI):僕は、請求や支払いなど業務プロセスに入っており、バックオフィスがないと、会社として成立・継続できないと思いますね。

廣瀬さん(NEWPEACE):会場にも、同じように思っている人はいらっしゃいますか?

会場:私の勤めている会社の場合、プロデューサーなど他の職種は、案件を通じてあげた利益がボーナスに反映されるんですが、バックオフィスの私の場合は担当する案件がないのでボーナスがもらえません。今後、バックオフィスとしてどうすればお給与を上げていくことができるか、「こうやって貢献します」と明確に言えるものがあるといいなと、ちょうど考えているところですね。

廣瀬さん(NEWPEACE):バックオフィスはたしかに売上を生む部署ではありませんが、会社の「利益」を上げるのには、コストを下げるという方法もありますよね。コストを下げるためには、経費削減のほか、社内の各種効率化によっても実現できると思うんです。バックオフィスは社内のコミュニケーションのハブとなって効率化に貢献することもできる。そういったバックオフィスの日々の業務が、評価されるように、努力していかないといけませんね。

佐藤さん(kiCk):そうですよね、ただ実際には仕事の効率化のためのバックオフィスの業務の重要性が、他の職種の方に認識されづらい、共感・評価されにくいようにも感じます。社内全体で効率化への意識や価値が高まり、バックオフィスからのお願いごとにもうすこし協力的になってもらい、逆にバックオフィスはメンバーが相談できる相手であれたらいいなと思いますね。

廣瀬さん(NEWPEACE):そのためには、バックオフィスができることを明示して、こんな風に貢献できますよ、って主張していかないといけないですよね。バックオフィスは他の部署の下にあるわけじゃないから、対等にならないと。

小野さん(dot by dot):ご意見ありがとうございます!実は、最近響いた言葉がありまして。GOの三浦さんがBAUS MAGAZINEのコラムで、「これから世の中は評価経済になっていく」と仰っていたんです。評価経済がなにかというと、目に見えないものに価値や評価をプラスして、それにお金が支払われるという考え方なんです。だとしたら、バックオフィスに対して支払われるのは、私たちバックオフィスの価値や評価の現れなのかな、って。

PROFILE

NEWPEACE Inc.

「社会を更新させるコンセプトの実験と失敗と発明」をビジョンに掲げるクリエイティブ集団。事業や活動の根にある思想をちゃんと描き、関わる人たちが参加できる物語に書き換え、体験を通じて共感の輪を広げていくVISIONINGを行う。最近ではクライアントワークにくわえて、自社事業としてプロダクトブランド「ONFAdd」や新しいカレー「6curry」も始動。

PROFILE

dot by dot inc.

アイデア、テクノロジー、デザインを武器にこれまで培ってきた広告業界での活動に加え、エンターテイメント・IoT・空間演出・ファッション・TV、ゲームなど新たな領域でデジタルの生かし方を探り続ける集団。テクニカルディレクター、クリエイティブディレクター、プログラマー、デザイナー、プランナー、プロデューサーの 13名が所属。それぞれの領域のプロフェッショナル達が、個性をぶつけ合いながら、創作活動を行っている。

PROFILE

kiCk inc.

Hybrid Creative Companyとして、プロデューサー・クリエイターによるフラットなチーム体制で、コミュニケーション戦略からクリエイティブの企画・制作までをシームレスかつワンストップで提供。『GET YOUR KICKS!(=ワクワクしていこう)』の姿勢のもと、会社を生態系と考え、様々なバックグラウンドを持つ30名が参画中。

PROFILE

世界株式会社

会社や所属の枠を越えたクリエイターやマネージャーが共鳴する場を創り、自社発信のデザインワークを行なう。クリエイティブアソシエーションを標榜。グラフィックデザイナーや映像ディレクター、プロダクトデザイナー、プログラマー、ミュージシャンほか、多種多様なクリエイターが在籍。

写真・今井駿介 取材・齋木優城 編集/文・上野なつみ

関連記事

  1. 暮らしとメディア・アート。豊かさとは何か?【前編】

    READ MORE
  2. 表現を言語化することがクリエイティブを強くする。
    映像を起点に仕事を広げるLIGHT THE WAYの制作プロセスとは?


    READ MORE
  3. 面白おかしく、くだらなく。でも徹底的に真面目に。

    READ MORE