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クリエイターからの依頼が絶えない技術
#1 |福永紙工株式会社

いいものづくりが仕事を生む。福永紙工の紙の解釈を超えていく前例のない紙仕事。

たくさんのものづくりを支え、クリエイターからの依頼が絶えない“ものづくり”がある。そのものづくりの裏にはまた、つくりあげる“人”がいる。

BAUS MAGAZINEでは、クリエイターの要望に応え、クリエイターと共にものづくりを確かなものにする技術と、その会社、工房に注目する新連載をスタート。 ものづくりへの想いを聞くとともに、ゲストと関係の深いクリエイターの視点から、なぜクリエイターの「御用達」となったのか、その秘密を紐解きます。



第一回目は、創業56年を迎えた印刷加工会社、福永紙工株式会社(以下、福永紙工)。自社プロジェクト「かみの工作所」では、クリエイターとのコラボレーション製品を次々と生み出し続けるなど、同社の“技術”は、紙の枠組みを超え広がりをみせています。同社のものづくりにおける想い、自社プロジェクト「かみの工作所」を行う理由、そして今考える紙の可能性について、福永紙工 代表取締役 山田明良さん、構造設計士 宮田泰地さん、そして印刷営業 京野真也さんに伺いました。


安く簡単にオンラインで印刷が頼める時代に、クリエイターに愛される福永紙工のいいものづくりの秘訣とは。「かみの工作所」から生まれた代表作『空気の器』のデザイナーである、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんから伺った、クリエイターからみた「福永紙工」についてもご紹介します。


従来の領域を超えて始めた「紙×デザイン」

 

ーー元々はお菓子のパッケージなどを製造していたそうですね。どうして紙とデザインを掛け合わせたプロジェクトを始めることになったのですか。


山田さん:
もともとデザインやアートに興味があったんです。僕たちが持っている印刷加工技術とデザインを掛け合わせて、何かできないだろうかと考えるようになって。そんな時、デザインディレクターの萩原修さんと出会ったんです。デザインと地域を結びつける活動をしている彼と意気投合し、紙製の道具の可能性を追求するプロジェクト『かみの工作所』(※)を始めました。持っている設備と、紙を使い、試しにプロダクトを作って発表してみたところ、想像していたよりもいい反応をもらえて。だったら売ってみようとなり、そこから様々なプロジェクトへと展開を続けて、今に至ります。

 

(※)かみの工作所:工場の製造技術、デザイナーの斬新な発想をあわせ、紙の可能性を追求するプロジェクト。
福永紙工株式会社 代表取締役 山田明良さん

ーー福永紙工さんの名が広く知れるきっかけとなったのは『空気の器』だと思います。どういった経緯で、トラフ建築設計事務所さんと組むことになったのでしょうか。


山田さん:
紙で何かを作るというと、グラフィックデザイナーの領域、というイメージを持たれがちです。でも「かみの工作所」では、そこをあえて建築家やプロダクトデザイナー、空間デザイナーなどいろんな領域のクリエイターに参加してもらおうと考え、トラフ建築設計事務所(※)の鈴野さんにお声がけしたんです。

鈴野さんに参加していただいた『トクショクシコウ展』のテーマは、「特色」を活かしたペーパープロダクト。5組のクリエイターにそれぞれ色を割り振り、その色を、紙を使ったプロダクトで表現してもらいました。一緒に試行錯誤し、『空気の器』が生まれました。

 

(※)トラフ建築設計事務所:鈴野浩一〔すずのこういち〕と禿真金〔かむろしんや〕により2004年に設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「テンプレート イン クラスカ」「NIKE 1LOVE」「港北の住宅」「空気の器」「ガリパーテープル」「Big T」など。
空気の器』。表と裏で色や柄が異なり、見る角度によって二色が混じり合い、不思議なグラデーションが生まれるのが特徴。かたちを自由に変えられるので、小物入れとしてはもちろん、使い手次第で様々な使い方ができる。写真は「空気の器× BUAISOU」2019.

 


【 クリエイターの声 】 鈴野浩一さん(トラフ建築設計事務所)

2009年秋の『トクショクシコウ展』で制作した『空気の器』は、ありがたいことに今でもOEMで販売の形が広がったり、スイスで開催された『Designers’ Saturday 2018』のインスタレーション作品や、最近設計したHirotaka 丸の内店の店舗ディスプレイにも使わせてもらっています。『空気の器』を通じて福永紙工さんとは長いお付き合いをしています。

 


 

マニュアルよりも頼りにされる。作り手の“知識と経験”


ーー前例がないものを作るとなると、現場で作業される各部門のオペレーター(※)の方々への依頼はとても難しいものになると思いますが、どのような反応がありましたか?


※オペレーター:各加工工程の機械の操作を行う。業務は多岐に渡り、印刷作業から、製版、抜きや箔押しなども請け負うこともある。


京野さん:初めの頃は、「そんなことできないよ」という会話から始まることもしばしばありました。でも、その都度、しっかりと話をしているうちに「これはできないけど、こういうやり方ならできるかもしれないね」と前向きなやりとりが生まれるようになってきたんです。正直なところ、今でも「また難しい仕事を持ってきたな」ということもありますが、経験も積んで「やってやるぞ」と職人魂のような気持ちを持ってチャレンジしてくれているように感じています。

構造設計士 宮田さん(左)、印刷営業 京野さん(右)

ーー印刷オペレーターの方々にも経験が蓄積されているんですね。

宮田さん:営業担当や構造設計担当には、実際の印刷加工作業に関しては、わからない部分もたくさんあるんです。これからやろうとしていることが、実現できるのかどうか、その都度現場に相談しています。


山田さん:
業界内では、印刷加工に伴う作業はマニュアル化するのが一般的な流れですが、僕たちは、マニュアル化しすぎないようにと考えていて。職人のように、その人だからこそ持っている知識や出来ることも大切にしたいんです。

一方営業は、受注を取ろうとすると、他社よりもより早くより安く、というところで勝負しがちです。しかし、僕たちが得意としているのは、お客様と一緒になってプロダクトの完成を目指し、印刷加工の話をすること。営業はクリエイティブな発想ができることも重要だと考えています。

 

ーーお取引先との関係には変化はありましたか?


山田さん:
デザインプロジェクトに挑戦し、10年以上経ってやっと少しずつ知ってもらえるようになりました。こんな面白いことやってる会社なんだったら頼んでみようと、日本中、時には海外からも仕事をいただけるようになってきたんです。こうやって様々なクリエイティブな活動を続けてきたことで、取引先との関係性も下請けではなくフラットな信頼関係へと変わってきたと感じています。

 

フラットだからこそ生まれる「ずっと一緒に走り続けている感覚」


ーークリエイターの方々とはどのような関係性なのでしょうか。


山田さん:参加してくれているクリエイターさんは皆さんそうなのですが、特に鈴野さんとは、ずっと一緒に走り続けている感じがしています。美術館の展示を一緒にやろうと声をかけてくださったり、僕たちがいないところでも、営業的なことまでやってくれています。『空気の器』を作った当初は、全国各地への営業にも付き合ってくれました。お店に飛び込みで、鈴野さんが説明してくれたり。

 


 


【 クリエイターの声 】 鈴野浩一さん(トラフ建築設計事務所)

福永紙工さんには、リスクを背負う覚悟を感じました。発表の場を、展示販売の場と捉えているんです。「売っていくぞ」という強い覚悟を感じたことで、僕たちもいい緊張感を持って制作に取り組むことができました。

プロダクトにとても真摯に向き合ってくれるなと感じます。例えば、『空気の器』は、パッケージに入れてしまうと、どんなものか分かりにくくなってしまうんですが、それを解決するためにはどうやって店頭で配置したらいいか、どうやってディスプレイすれば魅力的に見えるのかを、とても丁寧に考えて、工夫してくれました。


 

空気の器』。数々のシリーズ、アーティストコラボ、企業コラボを発表し続けている。写真は「空気の器× 福津宣人」2019.

 

ーー福永紙工さんのプロジェクトには、多くのクリエイターや、クライアントが参加されています。皆さんとどのように関係を築こうと考えていらっしゃいますか。


山田さん:
できるだけ、フラットでありたい、と思っています。『かみの工作所』に参加していただく方が有名デザイナーだからといって、接し方が変わることはありません。むしろ、僕たちが発注しているから、クライアントになるわけですが、だからといってクライアント然ともしない。価値観を共有できる信頼関係があることで、よりいいものができると考えます。

自主的に発信を続けて、リアルなつながりへ

 

ーー自社プロジェクト以外にも、クリエイターとのコラボレーションや、多くのクライアントワークも手がけられていますね。お仕事の引き合いはどのようなきっかけからですか。


山田さん:
もちろん技術力・現場力の強さというのもお仕事を依頼していただくきっかけのひとつだと思いますが、やはり、会社のことを知ってもらう活動をしている、ということが大きいと思います。工場の中に小さなメーカーを作り、企画販売から広報までをきっちり行うことで、結果として、会社全体を発信する広告塔になっていた。そうやってクリエイターたちとの協働プロジェクトを13年間続けてきた結果、「こんなに面白いことやってるんだったら頼んでみようか」といって、お仕事につながることが増えてきました。

あとは、クライアントと直接お仕事をしていることも要因のひとつかもしれません。直接お仕事をすると、クライアントの意向はもちろんのこと、制作に関わっているクリエイターが考えている細かいニュアンスを理解しやすいんです。そうすると、僕たちもニュアンスを汲み取った上で、考えうる一番適切な製作工程を提案できる。だからこそ、よりいいものづくりできる。そう考えています。


 


【 クリエイターの声 】 鈴野浩一さん(トラフ建築設計事務所)

自社のメディア(紙工通信)や、様々なプロジェクト(かみの工作所紙工視点)を通じて、プロダクトの制作実績や技術について積極的に発信してらっしゃるんですが、とにかく福永紙工さん自身が楽しんでいることが伝わってきます。ただ伝わってくるだけじゃなくて、実際に仕事をしてみると、本当に一緒に楽しんでものづくりができる。だからこそ、クリエイターたちも「面白そうなものを作ってるところだな」、「お願いしてみよう」と集まってきているんだと思います。

仕事における役割分担がしっかりとあるというのも魅力だと思います。僕たちが出したデザインに、決して何も言わないんです。でも、「これをやると、いくらくらいかかりますよ」など、印刷周りのことに関しては、きっちり話してくれる。それだけクリエイターを信頼してくれているということ。それが伝わるからこそ、クリエイターから求められ続けているのかもしれません。


 

13年の経験の先に見る、紙の未来

 

ーー紙業界の未来についてはどのようにお考えでしょうか。

山田さん:僕たちが持っている資源が紙だったというだけで、これまでは、今あるものでクリエイターと何ができるかを突き詰めて考えやってきました。この先、頑固に紙だけ、とこだわり続けていくことでもなく、紙を起点にどのような取組を拡げられるかと考えています。


例えば、最近よくお取引があるのは、LINEさんや、Googleさん、メディアアートWOWさんなど、紙と全く関係ない会社。


以前、ビジュアルインスタレーション「BAKERU」にて、 WOWさんの最新技術と僕たちが紙で作ったアナログなお面が連動する仕組みのお手伝いをさせていただいたのですが、こういった経験を重ね、紙プラス先端技術の掛け合わせに、可能性を感じています。

これまで、紙の未来を考える、と取り組んできましたが、そろそろ次に何をするか考えないといけない時期だと思っています。この13年の経験値を活かして、「こうきたか」と思わせるような展開を打ち出していきたいと考えています。

 

 



▼福永紙工株式会社のWORKSはこちら

ー空気の器

ーBAKERU

ーTOP TO TAIL



CREDIT
interviewer:Sera Nakata(C),Eri Kuramoto(BAUS)
Photographer:Yutaro Tagawa
Editor/Writer:Eri Kuramoto(BAUS)
Interviewee: Akiyoshi Yamada,Shinya Kyono,Taichi Miyata(Fukunaga Print co.,ltd)
Comment:Koichi Suzuno(TORAFU ARCHITECTS)
Director:Akiou Kato(BAUS),Natsumi Ueno(BAUS)

 


 

ーーInformation

BAUS MAGAZINE編集部では、BAUS MAGAZINE内企画『クリエイターからの依頼が絶えない技術』にて取材させていただける方を募集しています。詳しくは、バナーからご確認ください。

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