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アートアンドサイエンスの組織改革、「コンサルティングとクリエイティブの領域が融解した時代にいま何をするべきか?」

アートアンドサイエンス株式会社

デジタル領域の進化・拡大や、経営者層へのデザイン思考の浸透などを背景に、コンサルティングとクリエイティブの垣根はなくなりつつある。ここ数年、欧米を中心にコンサルティングファームによるクリエイティブエージェンシーの買収が相次いでいるのが、その良い例だろう。それは対岸の出来事ではない。ここ日本でも、変化の波が押し寄せている。そうした時代の流れに対応すべく、いち早く組織改革に取り組んでいるのが、企業や地域のブランディングを専門に手掛けるアートアンドサイエンスだ。同社はいま、戦略とクリエイティブが一体化した集団になるべく大きく舵を切っている。その取り組みについて、同社の岡村忠征さん(写真・右から2人目)と高岸梓さん(同・右から3人目)に伺った。

コンサルティング領域とクリエイティブ領域の融解によって起こる変化とは?

ーー現在、グローバルではコンサルティング領域とクリエイティブ領域の融解が起きています。こうした流れについて、岡村さんはどのように考えているのでしょうか?

岡村さん:僕の見立ては3つあります。まず、広告のデータ・数値の効果測定が、デジタルの発達に伴って精緻化したこと。それによって、数値分析がもともと得意なコンサルティングファームが活躍できるようになったのではないでしょうか。次に考えられるのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)。UberやAirbnbなどに代表される新興IT企業の台頭によって、旧来型の企業にもUIやUXの重要性が認識され始めています。これまでの、業務効率改善などのバックエンドのデジタル変革ではなく、エンドユーザーとのコンタクトポイントでの変革が重要になる。そこでビジネスの設計段階でもクリエイターが求められているのだと思います。そして最後に挙げるのが、デザイン思考への期待。新規事業や新市場創出のために、クリエイティブのプロセスを活用することがビジネスの現場で増えています。しかも、こうした一連の流れは、もはや大企業だけの話だけではなくなってきているのではないでしょうか。

ーーというと?

岡村さん:中小企業の経営層にも、経営戦略と整合性の取れたクリエイティブが重要であることが理解されてきています。大企業に比べて経営資源の乏しい中小企業だからこそ、自社の第4の資源である「情報」をいかにして発信していくかに競争優位を見出しているのだと思います。21世紀の経営資源は、「ヒト」「モノ」「カネ」に「情報」を加えたものになっています。ただ、その「情報」という経営資源を「ヒト」「モノ」「カネ」と同じように扱い、中期経営計画に盛り込めるほど戦略化している企業はまだ少ない。だからこそ、弊社は「言葉とデザインを企業の競争力にする」というステイトメントのもと、「自社の情報という資源について戦略を立てる」ところからお手伝いする社外チーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)のような役割を目指しているのです。

 

ーーだから「紙」も「Web」も手掛けるわけですね。

岡村さん:はい。企業のコーポレートコミュニケーションにおいて、やはり紙媒体とWeb媒体がメディアとして中心になりますから、そのどちらもクオリティの高い制作ができないと、企業の自社コミュニケーションを支援する会社とは言えないと思っています。一般的な小規模のデザイン会社にしては、専門的な知識や技術を持ったスペシャリストたちが豊富なはず。プロジェクト全体をディレクションする人材も必要ですが、もう少し細分化してそれぞれの専門家をディレクションするスペシャリストディレクターみたいな役割の人材も、いまのデザイン会社には必要なんですよね。

 

ーー多様な専門家が集まるとなると、それだけ軸になる思考がより大切になりますね。

岡村さん:だからこそWeb制作会社にも、キーサクセスファクター(KSF)を見極める戦略コンサルタントが必要になるし、それに向かって制作がブレなく進むようにプロジェクトをマネジメントする存在が重要になってきます。しかし、それはなかなか小中規模のWeb制作会社には難しい側面がありますから、最近は一定以上の規模や品質が求められるコーポレートWebサイトを手掛けるのは大手のWeb制作会社に限られて、中小規模のWeb制作会社はデザインだけに特化する方向に向いている気がします。しかし、弊社はその両方を実現しようと動いています。中規模組織でフットワークが軽く、そのためブランディングやグラフィックデザインの領域とも連携が図りやすく、かつ制作以前の最上流でバリューを発揮できる、そういう組織体制の会社です。

ジョブ・ディスクリプションを明確化することで生まれるスペシャリスト集団

ーー具体的には、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

岡村さん:まずWebディレクターやWebデザイナーという曖昧なポジションを廃止しました。今は高岸を中心にジョブ・ディスクリプション(職務内容)の明確化を進めると同時に、スタッフのアサイン基準や制作プロセス、UX設計のフレームワークの再構築をしています。そもそも彼女はWebディレクターという肩書きだったのですが、現在はプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトの達成度、クリエイティブの品質、スタッフの最適化という3つの視点でプロセスを最適化する役割を担っています。

 

ーー高岸さんはなぜWebディレクターからプロジェクトマネージャーになったのでしょうか?

高岸さん:私自身がある意味で“何でも屋さん”みたいな働き方になっていたんです。現在のようにスケジューリングや予算の管理を行うのはもちろんですが、それ以外にもコンテンツの設計や提案をしたり、コーディングの発注をしたり。でも、そうするとさまざまな役職の仕事を兼務することになるので、いろんなことが片手間になってしまい、結果としてクオリティの高いものが制作できないジレンマに陥っていました。

ーーWebサイトの設計が高度化しているからこそ、その意識は強くなるのかもしれませんね。

高岸さん:だからこそ、WebディレクターやWebデザイナーがなんとなく担っていた役割をきちんとジョブ・ディスクリプションして明確化し、専門性のある役職として再定義しているんです。Webディレクターであればプロジェクトの立ち上げやスケジューリング、予算の管理などを行う「プロジェクトマネージャー」と、コンテンツを設計・提案する「コンテンツストラテジスト」。Webデザイナーであれば Webのビジュアルを制作する「ビジュアルデザイナー」とWebサイトの情報設計を行う「UIデザイナー」など。

岡村さん:そういう意味では、弊社にはグラフィックデザイナーもUIデザイナーもいますが、グラフィックデザイナーはWebのクリエイティブに直接手を動かす立場にならないように極力しています。それもジョブ・ディスクリプションを明確化した結果です。専門性を持ったクリエイターが、それぞれに得意な領域で力を発揮していけるようにしたいんです。

 

ーーしかし、そうやってジョブ・ディスクリプションを明確化することで、チームワークやセレンディピティが弱まる懸念はありませんか?

岡村さん:その点を補うために、弊社では3ヵ月に1度、金曜日を完全休業にしてオフサイトミーティングを実施しています。最近も外部からストレングス・ファインダーに精通したビジネスコーチを招いて研修を行ったのですが、そういった取り組みを通じて、一人ひとりの専門性を高めるとともにチームワークも強化しています。

 

ーー制作プロセスの再構築も行っているとのことですが、こちらはどのように変化しているのでしょうか?

高岸さん:現在は、ウォーターフォール型開発からアジャイル型開発へとシフトしている段階です。弊社はコーポレートサイトの制作が中心ですが、最近はシステムやコードが複雑化しているので、従来のウォーターフォール型だと十分に対応できなくなっている実感があります。そこで現在は、Asana(アサナ)というツールを使ってプロジェクトの進行管理を行うとともに、実装前にInVIsion(インビジョン)などでプロトタイプを制作し、そこで操作感やユーザビリティを試してからデザインをコーディングするなどして、より完成度を高められるようにしています。この分野のアプリケーションは、いままさに劇的に革新が起こっているので、そういった最新ツールの情報収集も重要なタスクのひとつですね。

 

戦略とクリエイティブが一体化したデファクトスタンダードの構築を目指して

ーー現在、アートアンドサイエンスは変革の真っ只中かと思うのですが、どのようなビジョンを持っているのでしょうか?

岡村さん:これまで話した戦略とクリエイティブの一体化やジョブ・ディスクリプションの明確化、そしてアジャイル型開発へのシフトも、すべては「核心を突く」ことにこだわっていきたいから。それが実現すれば、クライアントもクリエイターももっとクリエイティブの恩恵を受けられると思っています。

ーーどういうことでしょうか?

岡村さん:僕たちはよく「分散と集約」どちらの思考をしているのか認識することが重要だと言っているのですが、その段階で必要なプロセスと矛盾する思考を求め合うのは双方にとって不幸なことだと思うんです。

 

ーー「分散と集約」とはどのようなことでしょうか?

岡村さん:「分散」は課題を発見したり、アイデアのヒントを導くためにとにかく多角的に量をたくさん出すフェーズです。ブレインストーミングなどはこれにあたりますね。「集約」はキーサクセスファクターを見極め、メッセージを尖らせていくフェーズです。例えば、本来最終決定するためのデザイン提案のフェーズで「バリエーションをたくさん出して下さい」と言われたら、それは「集約」フェーズで「分散」を求めていて不合理だし、尖らせるパフォーマンスを制限することになり凄く効率が悪い。特に一般企業の担当者は、クリエイターのことを「分散させる人」だと考えがちです。しかし、優れたクリエイターほど「分散」もですが「集約」に長けています。結局、「集約」して尖らせること、つまり「核心を突く」ことをしないと、厳しい環境下で言葉とデザインが企業の競争力になることなんてできない。僕たちの仕事は、研ぎ澄まされた最高の1案を出すことだし、それに向かって全精力を傾けることだと思うんですよね。

 

ーー確かにそうですね。

岡村さん:そのためには戦略立案の段階からきちんした分析を行い、課題解決のためには何が必要で、どのような手法(クリエイティブ)を選択するのが最適なのかをクライアントと一緒になって突き詰めていく必要があります。弊社では代理店を通じた案件は基本的に受けず、ダイレクトにやり取りができるクライアントとしか仕事をしないので、より一層その上流のプロセスが重要なんです。最終的には、戦略とクリエイティブが一体化したデザイン制作プロセスのデファクトスタンダードを作りたいと思っています。そうすることで、我々のクライアントだけでなく、日本全体のブランディングコミュニケーションのアプローチが高度化していけばいいなと。こんな中小規模の会社がそれを実現できたら、最高にカッコイイですよね。

PROFILE

アートアンドサイエンス株式会社

企業や地域のコミュニケーション戦略立案、サービスデザインから手掛ける、独立系クリエイティブコンサルティング&ブランディングデザイン会社。戦略とコアコンセプトを重視し、ゴールに向かって先鋭化するクリエイティブを心掛けている。

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