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「SXSW2018」から読み解くテクノロジー×クリエイティブの最前線。エージェンシー目線の報告会レポート

臨場感たっぷり!4者4様のSXSW2018現地報告プレゼンテーション

テキサス州・オースティンで毎年3月に開催される「SXSW」(サウス・バイ・サウスウエスト)。SXSWとは、グーグルやマイクロソフトといった一流企業から、新進気鋭のアーティストまでがこぞって参加する、音楽・フィルム・テクノロジーの世界最大級のフェスティバルです。今回、世界中から注目を集めるこのイベントについてエージェンシー目線からディスカッションする「エージェンシーから視たSXSW2018報告会」にBAUS編集部が潜入。臨場感たっぷりの現地報告からヨーロッパのスタートアップ事情まで、濃いトピックスが満載の2時間をレポートします。

クリエイティブエージェンシー・kiCkのメンバーが見たSXSW

今回のイベントでは、4者それぞれからSXSW報告プレゼンテーションが用意されていました。

まずは、クリエイティブエージェンシー・kiCkの岡本侑子さんによる現地報告のプレゼンテーションからスタートです。

SXSWには今年が初参加だったという岡本さん。現地で撮影した写真をふんだんに参照しながら、注目のセッションやカンファレンスを紹介してくださいました。岡本さんのおすすめは、産業用ロボットにディスプレイを取り付け、滑らかに躍らせるプロトタイプを出展した、ドイツのKUKA社のトレードショーブース。

岡本さん:個人的なSXSWの感想としては、モノづくりは「VR、AR、AI、MRのスタンダード化」の時代を迎えるであろう、ということ。AIを搭載したテクノロジーが人類の思想を超える「体験を創り出す日」が来ることを予感させるプロダクトを目の当たりにしました。

続いてのセッションは、kiCkのメンバー長沼宏介さん。ゲーム会社のモバイル事業、広告グループのデジタルエージェンシーなど、デジタルを中心にキャリアを積んできた長沼さんならではの視点で、SXSWを語ります。

長沼さん:SXSWは、もともと答えがないイベントだと言われています。「これから世に出てくるモノ」のはるか前、アイデアレベルのプロダクトやコンテンツが集結し、それに興味のある人が来る。その中でお互いにコミュニケーションを取りあって、お互いの技術を売り買いしています。
SXSWの2018年のトレンドワードは、「Globally Connected」でした。その言葉通り、オースティンでは初めて会った人同士のディスカッションがあったり、街のあちこちでいきなりライブがはじまったり……。街全体に、そういった雰囲気が流れていました。

長沼さん:今回のSXSWでは、5社を訪問してお話を伺いました。その5社すべてで聞いたのが、「クリエイティブは、心地よいBOXから出ろ!」という言葉でした。クリエイティブに携わる人間は、常に挑戦的で、自分らしい仕事をすることが重要だといいます。
僕がSXSWで感じたのは、広告は広告を超えてエンターテインメント、あるいはアートへと変わってきているということ。消費者はもはやブランドストーリーなんかには興味がなく、本当のエンターテインメントに広告を乗せていかないと、誰も見てくれない時代です。オースティンのクリエイティブ企業はいずれも、クライアントではなく消費者と徹底的に向き合うことを目指していました。かつて私たちは、「商業クリエイティブはアートではない」と言っていましたが、SXSWで出会った彼らは「We make art, not ads.(私たちが作っているのは広告ではない、アートだ)」と語っていたことが印象的です。
また、多様性を捉えるエージェンシーの新しいスタイルが確立されつつあることを肌で感じることができました。世代や国籍、性別などの多様性に目を向けたクリエイティブは、これからの時代にますます必要になってくるでしょう。日本も例外はありません。日本にももっと多様なエージェンシーがあっていいのではないでしょうか。

 

ミレニアル世代がオースティンで得た、私たちの「未来」を変えるキーワード。

続いて登壇したのは、ミレニアル世代のメンバーで構成されたイノベーションプロジェクト・マッキャンミレニアルズから、折茂彰弘さんと中沢渉さん。おふたりは、公式に発表されたトレンドワード「Globally Connected」を「Melting, Blending(溶け合う世界)」と再解釈し、プレゼンテーションを行ってくださいました。

折茂さん:私たちがオースティンの現地で見たものは、何かが「つながる」というよりもさらに一歩進んだ、何かと何かが「溶け合う」ことでした。どちらがどちらなのか分からなくなっている状況が、「未来」として感じられたのです。「溶け合う世界」、何と何が融合するのか、そしてその結果として何が生まれてくるのかについてお話いたします。

中沢さん:まず、1つ目は「デジタルとフィジカル」。今回のSXSWでは、VRを応用したプロダクトがどんどん増えていました。子どもが手慣れた様子でVRのゲームに熱中している姿を見ていると、「彼にとっては現実とAIが生み出す仮想現実、どっちがリアルなんだろう?」と思いました。ものごとの境界が溶け合うことによって、「リアリティとは何か?」という疑問が沸き上がってきます。

折茂さん:2つ目は、「テクノロジーと物質」。チョコレートを出力する3Dプリンターなど、SXSWにはテクノロジーの力で物質を加工するプロダクトが多数登場しています。私たちがテクノロジーだと気づかない形で、世の中にはいろいろな変化が起こっているのかもしれません。こうしたテクノロジーの進化は、言語が違う人のコミュニケーションのきっかけづくりにも有効であると考えられます。ダイバーシティが高まる世の中で、「エデュケーション領域からのラーニング」を横展開するかたちで、テクノロジーが応用できるかもしれません。

中沢さん:また、3つ目は「AIと人間」です。SXSWでは、AIがどんどん人間社会に溶け込んでいる現実を感じました。これからは、ファッション、ミュージック、テクノロジーなどそれぞれの領域でAIが活躍し、すべてのカテゴリにおける共通点を抽出し、人間の本質をAIが発見するという循環が数年単位で繰り返されることになるでしょう。その結果、ミレニアル世代の次の世代として、「AIネイティブ」とでも言うべき世代が生まれてくることは必至です。私たちは、「AIネイティブとは何か?」という疑問にも立ち向かっていかねばなりません。

折茂さん:4つ目は、「人間と人間」の融合です。私たちは、オースティンに到着後Uberを利用ました。すると、ドライバーが耳の聞こえない人だったんです。耳が聞こえなくても、Uberを使えば発着地をテキストで認識することができ、運転手として働くことができます。Uberは言語と言語の壁を取り払うだけでなく、障がい者に雇用を生むツールでもあるのです。
また、SXSWでは義足・義手技術のセッションにも参加しました。2020年には、テクノロジーが進歩して、義足のほうが早く走れるようになっている、とも言われています。著名なアーティストがデザインした義足など、ファッションの分野でも注目を集めています。もはや、義足は人間の身体を拡張するデバイスとしての機能を持ちつつあります。極端に言えば、「ふつう」の身体の人が、早く走るために義足をつける時代がくることもあり得るかもしれない。これからの時代は、「どっちが/なにがふつうなのか?」という疑問に向き合うタイミングであるといえるでしょう。
私たちミレニアル世代は、これまで「理解できない若者」として認識されてきました。しかし、今後のミレニアル世代は「社会中心的存在」へと成長し、上の世代と次の世代を仲介する「世代と世代の翻訳家」として活躍していくことになるでしょう。今回のSXSWを通じて、さまざまな世代や人種、AI、デジタルとフィジカルが溶け合う未来を少しだけ体感することができました。

 

オーストリアのクリエイティブディレクターが語る「SXSW」の可能性 

イベントの最後を締めくくるセッションは、Advantage Austria(オーストリア貿易促進団体)に所属し、アートや音楽の国際化を目指して活動するクリエイティブディレクター・Reanne Leuningさんによるプレゼンテーションです。今回は、Skypeを利用しオーストリアからのLIVE配信を行いました。当日の逐次翻訳は、今年のSXSWトレードショーにも出展されていたMiletos株式会社の朝賀拓視さんが担当されました。

Reanneさん:私は普段、オーストリアのウィーンに住んでいます。さまざまな国でのイベントで、クリエイティブやアートに携わる会社が世界に出ていくためのサポートを行っています。また、展示やマッチングイベントのサポートを行うこともあります。そのなかでもSXSWは私たちが特に力を入れているイベントの1つです。
2017年と2018年のSXSWでは、オーストリアの音楽や文化を、テクノロジーの力を用いて発信するプロジェクトを発表しました。昨年はサウンドオブミュージック、今年はウィーンコーヒーハウスをテーマにしています。オーストリアにおける音楽の文化は世界的にもたいへん有名です。我が国の伝統的な音楽をうまく活用することで、2017年には25社、2018年は45社の団体に協賛していただき、結果はとても好評でした。

今年テーマとして扱った「コーヒーハウス」は、18世紀オーストリアの文化です。当時のコーヒーハウスは、人々が集まってディスカッションをするサロン的な場所でした。世界最古のコワーキングスペースといえるかもしれません。私たちは今回、そのオーストリアの伝統的なコーヒーハウスを、現代的なコーヒーハウスにアレンジしました。テクノロジー、アートなどが交差する領域だったこともあり、協力会社とも強いマッチングがありました。

EU視点でこのイベントについて語るとすれば……。SXSWの価値はどんどん上昇していて、ヨーロッパでも北欧やオランダなど、アメリカ以外の国の出身者もどんどん参加するようになっています。ヨーロッパの新聞やメディアでもSXSWの話題は取り上げられており、今最も注目を集めているイベントだと言えるでしょう。
SXSWに参加することは、近しい業界の優秀な人と知り合う機会でもあります。オースティンにはたくさんのビジネスチャンスがあり、多くのイベントやディスカッションに参加することができます。おそらく、オーストリア国内の小規模なイベントに10回参加するくらいの効果が、SXSWの1日で得られるでしょう。SXSWの規模は、今後もっと大きくなると思います。

SXSW2018について、4者4様のプレゼンテーションを行った登壇者。年齢も、性別も、国籍も違う登壇者全員に共通していたのが、SXSWで目撃した「未来」の可能性に目を輝かせていることでした。このイベントに参加する理由は、参加者同士のリレーションづくり、単に最先端の技術を体感できるということにはとどまりません。クリエイティブに向き合う姿勢や、ミレニアル世代へ続く次世代へのまなざし、チームづくりのアイデアなど、目に見える技術以外のことを吸収できるのがSXSWの魅力だといえるでしょう。

 

PROFILE

kiCk inc.

Hybrid Creative Companyとして、プロデューサー・クリエイターによるフラットなチーム体制で、コミュニケーション戦略からクリエイティブの企画・制作までをシームレスかつワンストップで提供。『GET YOUR KICKS!(=ワクワクしていこう)』の姿勢のもと、会社を生態系と考え、様々なバックグラウンドを持つ40名弱が参画中。

PROFILE

McCANN MILLENNIALS

日本におけるマッキャン・ワールドグループ各社のミレニアル世代(1980–2000年前半生まれ)のメンバーで構成され発足したイノベーションプロジェクト。グローバルネットワークの活用や、大学・他企業等との連携を通して会社や国境を超えて柔軟に繋がり、オープンイノベーションスタイルでプロダクト及びサービスの開発をおこなう。

PROFILE

Miletos株式会社

Distributed Team向けのオンラインコミュニケーションプラットフォーム“Groovin”を開発。超高速でつながる独自開発のビデオ通話のエンジンをベースに、新機能としてミーティングを円滑に設定できる機能、気軽に話しかけることができる機能を提供することで、オフィスで仕事をするのと同じくらいのコミュニケーションの距離を実現し、各人が自由に働く場所を選択できるような世界を目指している。現在はベータ版を提供。新機能の実装状況の最新状況はTwitter(@groovinofficial)、Facebook(@Groovin.Team)をフォロー。

PROFILE

ADVANTAGE AUSTRIA(オーストリア貿易促進団体)

ADVANTAGE AUSTRIAは全世界70を超える国々で、約110ヶ所のオフィスを開設し、オーストリア企業及びオーストリアとのパートナー企業のビジネス活動を幅広く支援しております。約800名のスタッフと35名のコンサルタントが的確なオーストリアのビジネスパートナーをご案内いたします。年間約1,200件もの各種イベントを開催することにより、様々なビジネスコンタクトへのチャンスが提供されています。ADVANTAGE AUSTRIAはインポーター、販売企業、代理店を募集しているオーストリア企業の情報に加え、ビジネス拠点としてのオーストリアやオーストリア市場への進出についての情報提供も行っております。 |ADVANTAGE AUSTRIA TOKYO(東京オフィス)|オーストリア大使館商務部|〒106-0046 東京都港区元麻布3-13-3|+81-(0)3-3403-1777|tokio@advantageaustria.org

写真・石亀広大 文・齋木優城 編集・上野なつみ

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