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演出クリエイティブの最前線であり総決算 ー紅白歌合戦の舞台美術ができるまで

大塚信広(NHK)× 森内大輔(NHK)× 東市篤憲(A4A)× 小嶋寛郎(STEADY)

日本全国、世代を問わず楽しめる国民的番組「紅白歌合戦」。1951年の放送から数えて68回。現代日本の大晦日は、この一大コンテンツとともにあったと言っても過言ではないだろう。そんな紅白歌合戦、ここ数年はモーショングラフィックスやAR、プロジェクションマッピングなどの技術も大胆に取り入れており、ある意味で日本のエンターテインメント産業の現在地がどこにあるかを示す指針にもなっている。その裏側では、どのような準備が行われていたのだろうか。2017年の紅白歌合戦で総合演出を手がけたNHKの大塚信広さん(写真・中央左)、チーフデザイナーを務めたNHKの森内大輔さん(同・中央右)、そして各アーティストの演出や映像のディレクションを担当したA4Aの東市篤憲さん(同・左)、STEADYの小嶋寛郎さん(同・右)にお集まりいただき、2017年末の出来事を振り返ってもらった。ファンならずとも驚嘆する宝物のような秘話の数々。いかに紅白歌合戦という舞台が、一流のクリエイターたちにとっても特別か。それが自然と浮き彫りになった。

世代や趣味嗜好を越境させる工夫

ーーまず、それぞれが2017年の紅白歌合戦でどのような役割を担ったのかをお伺いできればと思います。

大塚さん:総合演出というプロデューサー業務と演出業務を兼ねる立場で関わっています。噛み砕いて説明すると、コンセプトを立て、大きな幹を作り、枝葉の管理をするのが私の役割です。

森内さん:美術統括という立場で携わっていて、舞台美術の設計や映像デザインの企画を練りました。そこからさらにアーティストごとに異なるシーンを表現するため、どのプロダクションや映像作家に依頼するのが適切かを計画し、実際にそのうちのいくつかをお願いしたのが、こちらにいる東市さんと小嶋さんです。

東市さん:A4Aという制作プロダクションを営んでいる東市です。僕は今回、嵐と三浦大地の映像プロデュース、そしてディレクションを行いました。

小嶋さん:STEADYの小嶋です。僕は、椎名林檎&トータス松本の『目抜き通り』をはじめ、6曲ほど映像のプロデュースをさせていただきました。

東市さんが手がけた映像。リハーサル時には入念なチェックが行われた。
こちらは小嶋さんがプロデュースしたもの。会場全体を使ったダイナミックな演出が魅力。

ーー紅白歌合戦がどのような進行で当日を迎えるのか。これは世間的にあまり知られていないことだと思うので、全体の流れについても教えてください。

大塚さん:舞台美術や総合的な演出をどうしていくのか。そのあたりを秋くらいからNHK局内のスタッフで話を始めて、実際に使用する機材をこの時期に決めていきます。というのも、大晦日はカウントダウンコンサートやスペシャル番組が重なるので、対応が遅れると使えないものが出てくるんですね。今回であれば可動式のLED装置を21枚ほど使う予定でいたのですが、そういうものは早い段階で抑えておく必要があるんです。東市さんや小嶋さんに映像や細い演出に関してお願いするのは、出演者と曲目が決まる12月になってからになります。

ーーだとすると、実質1ヶ月もない期間で各アーティストの演出を決めていくわけですね。現場はかなり急ピッチで動いているのではないでしょうか?

東市さん:そうですね。僕はここ数年ほど紅白歌合戦に携わらせていただいているのですが、連絡が来るのか来ないのかいつもドキドキしています。でも、師走の慌ただしい中で動く緊張感がたまらなく好きです(笑)。

小嶋さん:正直スケジュール的にはかなりタイトなんですが、基本的には森内さんが作ってくださったイメージボードがかなり明確なものだったので、わりとスムーズに進行することができましたね。

 

ーー2017年の紅白歌合戦は、コントを交えたり、ミュージカルタッチな演出があったり、非常にユニークな仕掛けが随所に盛り込まれていたと感じます。大塚さんは、総合演出として関わることが決まってから、どのようなことを念頭に準備をされたのでしょうか?

大塚さん:まず考えたのが、例年以上に一曲一曲、ひとつひとつのシーンを丁寧にやりたいなと。それに昨今の潮流も考え、ミュージカル的な要素を取り入れたいという想いもありました。あと、これまでと大きく異なる点は渋谷をフィーチャーしたことでしょうか。よく考えてみると、NHKが渋谷にあることってあまり意識されていなかったと思うんですよ。でも、紅白歌合戦を世界的なコンテンツとして打ち出していけるものにしたいと考えたときに、もっと地域性を盛り込みたいと考えました。

 

ーー確かにNHKが渋谷にあることってあまりフォーカスされないですよね。そういう2017年の紅白ならではとも言える改革は他にもあったのでしょうか?

小嶋さん:個人的には審査員席が舞台に上がったのが画期的だなと。舞台袖でMCとアーティストがトークをしていると、背後に審査員の顔が映るというのは、今までにない効果を生んだんじゃないかなと思います。

今年の舞台美術で大きく変化したのが審査員席。壇上に上がったことで、視覚的にも華やかさが増した。

大塚さん:あと、大きく改革したのはMCですね。紅白歌合戦には、この1年間に様々な音楽のジャンルから輝いた方々が集結するじゃないですか。そういう人たちを世代や趣味趣向を超えて紹介していくとしたら、内村光良さん、有村架純さん、二宮和也さんにトークをしっかり回してもらうのが最善だなと考えたんです。紅白歌合戦のステージで生まれた空気感やパフォーマンスの熱量、そういったものを司会の皆さんが感じたままに視聴者のみなさんへ伝えていただこう、と。それを今回の大きな根幹としていました。

森内さん:舞台演出としても、それぞれの人間味をいかに鮮やかに伝えるかをデザインテーマのひとつにしていました。審査員席と司会者の位置を重ね合わせたことによって、アーティストも含めた出演者みなさんの有機的な会話が生まれ、段取り臭くない親しみやすい雰囲気になったのではないかと思います。

ーーそういう意味では、会場の雰囲気をテレビ越しに感じてもらうことも課題のひとつなのかなと思うのですが、そうした演出のディレクションはどのように行ったのでしょうか?

小嶋さん:まずセットのデザインを拝見したときに、映像の役割が今まで以上に大きい印象を受けました。背景として成立するだけでなく、演出によってどこまでも振れるなと。だからこそ、伝える情報量のバランスをどう取っていくかが課題にもなりました。アーティストがいて、歌や音楽があって、照明やセットがある。そのバランスを全体で100%になるように考えながら、映像の情報量を調整しました。例えば、西野カナさんやTWICEはファン層が若いので、ポップで自由度の高い映像をモーショングラフィックスで表現していて。逆に氷川きよしさんは、特大の宝船に乗る演出があらかじめ決まっていたので、映像は主張しすぎないよう控えめにしました。

氷川きよしさんが乗ることになった特大の宝船。その背後の映像演出が舞台をさらに盛り上げた。

東市さん:あとは主役となるアーティストたちの熱量をどう届けていくか僕も小嶋さんもすごく考えたところで。それこそ、嵐はバックダンサーが200人くらいいたんですけど、その一人ひとりが本気で取り組んでいる姿を届けたいと思ったんです。

 

ーー東市さんと小嶋さんは最先端の演出方法に精通していると思うのですが、そういうものを紅白の舞台で披露しようと考えることも多いのでしょうか?

東市さん:それはもうアーティストによりますよね。それぞれにいちばん合った演出をオーダーメイドで作っていくので。今年だと三浦大知さんのダンスにシンクロするように映像を制作したのですが、それはアーティストと演目によっても大きく変わります。

 

紅白の舞台は、普段のインプットの総決算

ーー話を伺っている中で、紅白歌合戦という舞台が普段の仕事やこれまで培ってきたインプットの総量が発揮される場なんだと感じたのですが、アイデアの種はどこから獲得しているのでしょうか?

大塚さん:基本的には音楽番組なので、各アーティストのライブに足を運ぶのはもちろんなんですけれど、それだけだと思考が凝り固まってしまうので、どう視野を広げるかを考えています。例えば、ディレクターは言葉で伝えることも仕事の役割だから、メールを1通送るにしても何をどう書くか考えてみたり。

森内さん:近くばかり見ていると、自分とは違う世代の人たちが普段どういうことに感動して、どういうことが気になって、どういう音楽を聴いて生活しているのかがわからなくなっていくじゃないですか。若い人たちのことは特に。それで無理して若者に寄った番組を制作しても失敗するだけだなと思うので、できる限り幅広く、世代や性別などが異なる属性のコンテンツに触れるようにしています。それこそ、Netflixを観たり、Twitterを眺めてみたり。割とみなさん当たり前かもしれないですけれど(笑)。

東市さん:僕は1年のうち何回か海外に足を運んでライブを鑑賞するようにしています。2017年はコールドプレイやリアーナなど、スタジアム級のアーティストたちのパフォーマンスを体感しました。そうすると、なんとなく機材や演出のトレンドがわかってくるんです。レーザーはこういうふうに打ってるんだとか。そういう情報を先回りして得ておくことで、いろんなものに還元できるんですよ。

小嶋さん僕はこれまでのキャリアがすごく中途半端で。本を作っていた時期もあれば、テレビ番組を作っていた時期もあるし、いろんなものに手を出していたんです。でも、そうやって器用貧乏にやっていたことが今になってやっと結実している感覚があります。今回だと、椎名林檎さんとトータス松本さんの『目抜き通り』の映像演出で「ラストに幕を上げて銀座の街を見せたい」という監督のプランがあって。昔シアターコクーンで観た蜷川幸雄さんの舞台で、ステージ奥の扉が開くと渋谷の街がそのまま見えるという演出があったんですが、それをNHKホールでできたらいいなと思ったんです。いろいろとハードルは高かったんですが、今回の紅白歌合戦で実現できてよかったです。

国民的行事は、一流の作り手にとっても特別

ーー少し気が早いのですが、もし2018年の紅白歌合戦を担当するとしたら、どのような演出を施したいですか?

大塚さん:実際に担当できるかは別としても、できたら2年連続はやりたくないです(笑)。とはいえ、それはネガティブな意味ではなくて。紅白歌合戦は1年の集大成なので、一度演出に携わると頭の中が空っぽになるくらい自分の引き出しを開けきるんですね。だから、今は考えられないです。

森内さん:今は制作スタッフに若いメンバーが増えてきていて、会議とかになると私のようなおじさんがポツンといるような感じになっているんですよ(笑)。紅白は1年に一度しかない貴重な機会なので、できるだけ次世代にバトンを回していきたいなと思っています。それで新しいチームが生まれて、さらに進化した表現を打ち出せるようになったらいいなと。挑戦の積み重ねによって伝統を作ってきたのが、紅白歌合戦という番組なので。

 

ーー東市さんと小嶋さんはいかがですか?

東市さん:紅白歌合戦の現場は、みんなで良いものを作ろうという空気感が素晴らしいんですよね。紅白の本番が終わって、家に帰ってからオンエアの録画を観たんですけれど、その熱量に自分で感動することもあって。だから、準備中はすごく大変なのですが、「ああ、またやりたいな」と思ってしまう。それはもう制作に携わる者の性なのかもしれないですね。

小嶋さん:今回紅白に携わったことがきっかけで、世界で活躍している元Prologue Filmsの佐藤隆之さんや、映像業界のレジェンドである児玉裕一さんなど、今までご一緒する機会のなかった方々と仕事できたことが自分にとって大きかったですね。そういうことができるのも、国民的歌番組の制作に携わる醍醐味だなと思います。また話をいただいたら、ぜひ参加したいですね。

PROFILE

大塚信広

大学卒業後NHKへ入局。音楽番組を中心にディレクターとして番組制作に携わる。代表作として「新垣結衣 一歩ずつ少しずつ」「Perfume × Technology」など。 近年はプロデューサーとして「渡辺直美 世界のポップアイコンへ」 「ONE OKE ROCK 18祭」「 WANIMA18祭」を制作。 現在は同局エンターテインメント番組部チーフ・プロデューサーとして 「シブヤノオト」「RADWIMPS 18祭」などの番組を担当している。

PROFILE

森内大輔

大学卒業後NHKへ入局。「紅白歌合戦」を中心に舞台美術やCGのデザインに携わる。2012年からプロデューサーとして東京駅や会津若松の鶴ヶ城など複数のプロジェクションマッピングを企画制作。現在は、同局デザインセンター映像デザイン部のチーフプロデューサーとして、番組やコンテンツのデザインマネジメントに従事している。

PROFILE

東市篤憲(A4A)

クリエイティブプロダクション・A4A代表。メディアアートやテクノロジーを駆使した演出を得意とする。BUMP OF CHICKEN、ぼくのりりっくのぼうよみ、My Hair is Bad、坂道AKBなど、さまざまなアーティストのMVを手がける。また、TOKYO KABUKI GIRLS「TGC歌舞伎」では総合演出を務めた。

PROFILE

小嶋寛郎(STEADY)

STEADY Inc.代表。モーショングラフィックスやアニメーションから実写・VFXまで、ジャンルや手法を問わず、ビジュアルオリエンテッドな映像制作を展開。 TV、web、イベント、映画など、メディアの枠を越えて、ニュートラルに活動中。気鋭のイベント「花いけバトル」の企画・運営にも携わっている。

写真・玉村敬太 文・冨手公嘉 編集・村上広大

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